近年、企業の成長戦略としてM&Aが選ばれる事例が増加しています。
しかし、M&Aについて詳しく知らない人もまだまだ多いのではないでしょうか。
この記事では、M&Aについて詳しく解説します。
目的やどのような流れで行われるのか、メリットとデメリット、そしてそれに伴う料金について、さらにM&A成功事例も紹介します。
目次
M&Aとは
M&Aは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語であり、異なる企業が合併して新しい企業となったり、ある企業が他の企業を買収するプロセスを指します。
ドラマや映画では、中小企業に不利な条件で大企業が強引に買収するといったシーンもあるため、マイナスイメージを抱いている人もいるかもしれません。昭和の時代には「会社を売る」という行為を経営者のプライドが許さなかったり、恥だとする風潮もありました。
しかし近年では主に、双方の企業の成長や事業の強化に向けた手段として、多くの企業に利用されています。成熟した市場での競争力の強化や、新たな事業・分野への進出など、企業にとって重要な経営戦略の一環となっているのです。
2021年6月1日時点で、日本の企業の数は368万企業あり、そのうちの1%以下が上場企業、99%以上が中堅・中小・零細企業で構成される非上場企業です。
その中で、経済界において力のある上場企業だけがM&Aを行っているわけではありません。非上場企業の間で行われている件数の方が圧倒的に多く、その数も年々増加しています。さらに言えば、都市部ではなく、地方の企業の方がM&Aに積極的です。
M&A、すなわち企業の合併や買収は、多くの経営者にとって難しい、または縁遠いものと思われがちです。
しかし会社を買うとはどういうことなのか。一言で言ってしまえば、株式を買って経営権を取得するということです。
確かに難しい手続きも存在しますが、近年はM&A仲介会社も増え、競争が激化する中で、サービスの内容もより親切になり、M&Aを始める前を含め首尾一貫してサポートしてくれる会社が増えてきています。
今まで関心を寄せなかった方も、これを機にM&Aへの理解を深めていきましょう。
M&Aの目的
M&Aは一般的に「時間を買う」取引だと言われています。
通常、企業が新たな事業や市場へ進出しようとしたとき、成熟するまで1年以上かかってしまうのが一般的です。そこまで時間とコストをかけても、失敗に終わるリスクの方が高い場合もあります。
M&Aはそういった負担やリスクを限りなく軽減し、短期間で市場の拡大や新規事業への参入などを達成するのです。
成長戦略の一環として、他社とのM&Aにより生産効率と経営効率を向上させ、コストを削減することが可能です。
また、特定のノウハウを持つ企業を買収することで、自社の競争力を高める手段ともなります。新たな技術や専門知識を持つ人材を獲得することで、新たな市場への進出を目指すなど、事業領域の多角化を目指すのです。
異なる事業分野の企業を統合することで、リスクを分散させたり、企業価値そのものを向上させることもあります。
中堅・中小企業、あるいは零細企業では、多くの経営者が団塊世代とされており、世代交代の時期が迫ってきているため、後継者を確保するためにM&Aを行うケースが増加しています。
地方から都市部の企業へ就職し、長く勤めていると、親の会社を継ぐために帰省するのを嫌がるご子息も多いと考えられます。しかし1から育て上げた会社を自分の引退とともに終わらせたくない。M&Aは、そんな後継者問題を解消するのです。
このように、M&Aは多様な課題に対応し、企業の成長と進化を促進するための重要な戦略なのです。
M&Aの流れ
M&Aを行う企業は年々増加していますが、具体的な流れを知らない人も多いかと思われます。
主な流れとしては下記の10ステップとなります。
- 「M&Aの検討」
- 「準備」
- 「ソーシング」
- 「NDAの締結」
- 「情報の開示と交換」
- 「トップ会談」
- 「M&A基本合意書の締結」
- 「デュー・デリジェンス」
- 「M&A最終契約の締結」
- 「クロージング」
ここでは、それぞれの具体的な流れを解説。さらに買い手側と売り手側、双方の視点から、具体的に掘り下げていきます。
①M&Aの検討
検討の段階では、買い手側と売り手側で目的などに大きな違いがありつつも、似たプロセスを進めます。
どちらにおいても、経営者はなぜ今M&Aを行う必要があるのか、M&Aを行う目的は何かを明確に言語化できるようにしておきましょう。
そうすることでM&A仲介会社などの専門家のサポートを受ける際や、あるいは相手側の経営者とのトップ面談などのプロセスで、確実かつスムーズに話を進められるようになり、破断や失敗のリスクの軽減にもなります。
さらに、この段階でM&A仲介会社などの専門家に相談する際は、担当するアドバイザーについても、適切な人物か検討しましょう。
例え優秀なアドバイザーでも、親身になって聞いてくれない、あるいは人として合わないといった程度のことでも違和感を覚えたなら、他の仲介会社、他の専門家に依頼するべきかもしれません。なぜなら、そうした小さなほころびから、M&Aのプロセスに支障が出てきてしまう可能性があるからです。
買い手側
M&Aを検討するにあたり、買い手側はまず、自社の現状を徹底的に分析するのが一般的です。財務面や法務面などの面から、買収後のリスクや課題を洗い出します。この段階で、自社の強みや弱みを正確に把握するのが重要です。
そうした分析結果を基に、買い手側は買収後の企業のあり方や成長戦略に関するビジョンを明確にします。具体的な目標を設定し、M&Aが自社の長期的な戦略にどのようにフィットするのかを検討するのです。
その際、この段階からM&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーなど、M&Aの専門家のサポートを受けながら行うのが一般的です。
売り手側
売り手側も、まず自社の現状を徹底的に把握します。財務状況や法的な要素、市場でのポジションなどを評価し、M&Aによる影響を予測し算出。そこからM&Aの目的を明確に定めます。企業の将来のビジョンや成長方針を考慮し、どのようなM&Aが最適かを検討するのです。
売り手側の場合は、M&Aを検討するタイミングも課題になってきます。経営がどれくらい悪化したら、経営者が何歳になったら検討するべきかなど。
結論から言えば、経営状況や経営者の体調などが悪化したらすぐに検討するべきです。怪我や病気と同じで、早期にM&Aを行えば、成功率はもちろん、会社が高く売れる可能性も高まります。
その際、売り手側でもM&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーなど、法律や財務の専門家からM&Aに関するアドバイスを受けるのが一般的です。特に売り手側は中小企業の割合も高く、買収か譲渡かを検討したり、専門家の知識をもとにサポートがより必要になってきます。
②準備
M&Aは、慎重で計画的なプロセスを経て成功に導かれます。そのためには、しっかりとした「準備」が必要です。
買い手側
検討し、目的と将来のビジョンを明確にしたら、ノンネームシートを元に、買い手側は慎重な審査を行い、適切な売り手企業を選定します。
ここでいうノンネームシートとは、M&Aにおいて機密保持契約や売り手側が買い手側に詳細情報を提供する前に見せる、売り手側の企業が特定されない程度に、企業の情報を伝える資料です。
選定された売り手側の企業に対して、買い手側は基本情報や事業の評価を行います。財務状況やリスク要因などを的確に評価し、M&Aの成否を判断するのです。
売り手側
売り手側は、企業概要書を作成します。企業概要書とは、会社概要、決算、時価関係、事業内訳、拠点・不動産に関する情報、組織・人事規定、従業員のデータ、その他取引先といった契約関係などをまとめたものです。
そして、買い手側の解説で紹介したノンネームシートを、この段階で作成します。
③ソーシング
M&Aにおけるソーシングとは、ターゲットとする企業を選定することであり、さらに選定した企業と交渉を行うことです。つまり、M&A全体の前半部分が、ソーシングということになります。
ソーシングには、主に紹介型M&Aと仕掛け型M&Aの2種類があります。紹介型M&Aでは、仲介会社を通じて売り手側の企業が紹介されます。仕掛け型M&Aでは、買い手側が積極的に潜在的な売り手にアプローチします。
買い手側
目標を明確にし、M&Aを通じて何を達成したいのかを把握した後、ターゲットとする企業を選定します。主なやり方はロングリスト・ショートリストの作成。
ロングリストはM&A仲介会社などが持っている情報の中から、自社の目的にマッチする企業を最初に抜粋したもので、最大で100社のリストになることもあります。
そのロングリストから、より候補企業を抜粋したのがショートリスト。さらにそこから、1社を選定します。
そうして選ばれた売り手側の企業へアプローチをかけて交渉するのがソーシングの最後のプロセスです。しかし、M&Aのことが外部に漏れてしまうと現状の事業に悪影響が出てしまうため、アプローチの際はノンネームシートを使用します。
売り手側
売り手側にはとっては、ソーシングをしっかり押さえることでM&Aにおいて主導権を握ることも可能となります。
売り手側のソーシングには、受動的なアプローチか能動的なアプローチかの二択が存在します。受動的なアプローチでは、売り手側は案件を紹介されるのを待ち、能動的なアプローチでは、売り手側が積極的に買い手側にアプローチします。
そうして適切な買い手側の企業が見つかればノンネームシートでアプローチ、そうして買い手側が興味を示せば交渉へと進みます。
④NDAの締結
NDAとは、Non-Disclosure Agreementの略で、秘密保持契約のことです。
秘密保持契約とは、交渉や取引の際に入手した顧客情報やノウハウといった機密情報を、目的外で使用したり、情報漏洩をしないことを約束する契約を指します。CA(Confidentiality Agreement)と表現されることもあります。
M&AにおいてNDAの締結は、交渉が本格的に進む前に行われる契約であり、とても重要なプロセスです。
NDAは、M&Aの当事者間で秘密情報を安全に共有するための契約。
交渉においては双方が機密性の高い情報を提供することは避けられません。万が一、秘密情報が漏洩すれば、利益の損失など様々なリスクが生じ、企業の存続にも影響してきます。
そのため、NDAの契約書には、企業同士が開示する情報をどのように扱うのかを定めており、また漏洩した場合の責任の内容と対応方法が明記されているのが一般的です。
具体的には、提供される秘密情報の定義や利用目的、保存期間などを明確に定めます。秘密情報の定義は主に「当事者が開示する情報」「NDAの存在および内容」「取引に関する協議・交渉の存在および内容」とするのが一般的です。
他にも、違反した際の損害賠償の取り決めや、法的処置に関する事項。つまり「損害賠償請求権」と「秘密情報の使用に関する差止請求権」を明記します。
また、保存期間以外に、契約終了後の対応、つまり秘密情報の返還または破棄に関しても明確にするのが一般的です。場合によっては、契約終了後も一定の間、秘密保持義務を発生させる必要がありますので、その期間も定めます。
そうして損害賠償などが発生する可能性を作っておくことで、情報を受け取る側は、より慎重に情報を扱うようになり、漏洩や悪用を防ぐ抑止力にもなります。
たとえ「あそことは長い付き合いだから」と信頼していても、口約束だけで済ませるのはとても危険です。後に取引が成立することになってもならなくても、まず最初にNDAを締結し、安全に機密情報をやり取りすることで、初めて互いの信頼関係を築くことができると言えるでしょう。
M&Aは「秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」のです。
⑤情報の開示と交換
M&Aの進行において買い手側と売り手側が、事業や経営状況、客観的評価を正確に把握するために、情報の開示と交換を行います。
M&Aを検討あるいは交渉中であることは、重要な取引先や幹部社員、M&Aに関わる経理担当などの従業員には、事前に開示していることもありますが、基本的に従業員や取引先には開示しません。
早期にM&Aのことを知らせることで、不安や混乱を招いてしまうおそれがあるからです。それでも関係者へ事前に開示し賛同を得ることが、M&Aを開始するうえでの必要条件となっている企業の場合は、この限りではありません。
買い手側も売り手側も、情報の開示と交換を行う対象としては、主に「従業員」「取引先企業」「関係金融機関」「プレス」。そして上場企業であれば「証券取引所」などです。
従業員や取引先企業への開示は、買い手側と売り手側が揃う場を用意して伝えるのが一般的です。
買い手側
買い手側は売り手側から開示された情報をもとに、M&Aで得られる効果やプロセスを進める妥当性を判断します。
買い手側も売り手側も、基本的にやることは変わりませんが、買い手側が上場企業あるいはその子会社の場合は注意が必要です。
売り手側が外部の第三者に対して発言した内容によっては、インサイダー取引規制違反へと発展する可能性があるからです。そうなると、M&Aが破談となるだけでなく、法的に処罰される可能性も出てきてしまいます。
売り手側
売り手側は、買い手側よりも気をつけなければならない点があります。それはM&Aを行うことを従業員に開示するタイミングです。
買い手側と違い、ある日突然、それも新聞やニュースで、自分が勤めている会社が他社に譲渡されると知ればどう感じるでしょうか。不安や不信感から社内は強く混乱することが予想されます。
特に、会社あるいは経営者を長く支えてきたようなメンバーにM&Aのことを黙っていたとなったら、士気を大きく下げることにもなるでしょう。
そうなると、せっかくM&Aを行っても、肝心の従業員が離散してしまう可能性が発生してしまいます。
そのため、全てM&A仲介会社などの専門家の言う通りに行うのも大事ですが、自社の大切な仲間達にどのタイミングでM&Aのことを伝えるかは、自分の判断を信じた方が良い場合もあるでしょう。
⑥トップ面談
これは、買い手側と売り手側の経営者同士が直接面談し、数字や書類では把握できない相手側の経営者の人間性や経営理念、企業文化、事業内容や従業員のノウハウについてなど、お互いの会社について理解し合うプロセスです。
ここからがM&Aの本番と言っても良いでしょう。
この時、経営難や後継者問題を抱えている売り手側が、就職採用面接を受ける側のように自己アピールに力を入れなければならない場合もあれば、1社の売り手企業に対して複数の企業が買い手として名乗りを上げている場合は、買い手側が自社の魅力をアピールする場ともなります。
就職採用面接との違いは、互いの会社について完璧に理解できていない場合は、1回だけでなく、お互いの会社について理解できるまで、何度も行われることもあることです。
進行手順としては、まず双方の経営者や幹部社員、部門の責任者、株主、そしてM&A仲介会社の担当者などが集まります。この時、売り手側が飲食業や小売業、製造業などの場合は現場視察も兼ねるため、売り手側のオフィスや会議室をトップ面談の会場とするのが一般的です。
M&A仲介会社の担当者がいる場合は、司会進行を務めます。あいさつ、互いの会社を紹介し合い、フリーディスカッションへと進みます。
そうして事業に関する疑問や懸念を解消しつつ、価値観やビジョンが一致するかなど、相互理解を深めます。この時の対話がスムーズに進むようにするために、目的やビジョンを明確にする事前の準備が欠かせないわけです。
現場視察が伴う際は、両社ともM&Aのことを知らない従業員への配慮が必須です。現場の責任者側は、事前に「取引先が視察に来る」といった情報を従業員に伝えたり、見学する側は現場の雰囲気に合わせ、スーツ以外に、作業服や、よりカジュアルな服装にした方が良い場合もあります。
そうして現場視察を終えたら司会が締めて、トップ面談は終了です。
買い手側
トップ面談の成功には、冷静で建設的な議論を行うことが重要となります。
買い手側は、自社の将来のビジョンや、M&Aに何を期待しているか、目的を明確に伝えます。そうしなければ、せっかく設けたトップ面談の場で、質疑応答や議論が的外れな方向に向かってしまう恐れがあるからです。
仮に間違っても、売り手側を下に見てはいけません。確かに、買い手具側の方が会社の規模が大きかったり、市場で有利な立場にいるなどしていて、逆に売り手は小さな老舗の老夫婦なんてこともあるでしょう。
しかし、そこで少しでも相手を見下すような態度・発言をしては、良好な信頼関係は築けません。良好な信頼関係なしにM&Aを進めても、悪い結末を迎える可能性が高まります。M&A仲介会社が司会をしている場合は、トップ面談を中断させることもあるでしょう。
M&Aにおいて買い手と売り手は対等であると心得ることが重要です。
売り手側
売り手側は、買い手側よりも発言しすぎないように気を付ける必要があります。中堅・中小企業の経営者の中には、今日まで会社を経営してきた事実、業界でのスキルに自信がある方も多いと思われます。
しかし、ここで自信過剰にならないよう注意が必要です。売り手側が自慢ばかりしたり、傲慢な態度をとったりすれば、買い手側は離れてしまうかもしれません。これもまた就職採用面接と同じで、延々と一方的に話して、場を独占しては悪い印象を与えてしまうのです。
また、何か質問された際は、否定したり、後ろ向きな返答をするのではなく、前向きな返答をするよう心がけます。一番安全な方法は、M&A仲介会社の担当者などの専門家を通しながら質疑応答をすることです。
対等な面談・取引とはいえ、やはり売り手側の方が、後ろ暗いものを抱えていることが多いのは事実です。だからといって、隠し事をしてはいけません。
変に隠しても、後からデュー・デリジェンスで発覚する可能性は高く、そうして後から発覚する方が信頼を失うリスクは高まり、M&Aそのものが破断してしまう可能性すら出てきます。
⑦M&A基本合意書の締結
トップ面談で問題がなければ、M&A基本合意書の締結へと進みます。基本合意書は、双方の意見をまとめ、取引の条件を明確にした後、いくつかの基本事項について合意するための書面です。M&Aのプロセスにおいては、当事者間の合意を確定し、交渉の基盤を築くために作成される重要な文書となります。
ここから、デュー・デリジェンスや価格交渉へと進行するため、基本合意書は法的な拘束力を持たせることが一般的。特に「独占交渉権」と「秘密保持義務」の2つが重要です。
独占交渉権がなければ、売り手側が1度に複数の企業とM&A交渉を進め、買い手側に無駄な時間と費用をかけさせる結果となってしまいます。
秘密保持義務のためのNDAは基本合意より前に締結していますが、取引を進めるうちに内容に変更が必要な場合も出てくるため、その時は改めて契約し直す必要があるのです。
⑧デュー・ディリジェンス
デュー・ディリジェンス(Due Diligence)とは、企業が他の企業を買収または合併する前に行う、詳細な調査および分析の手続きを指します。
主な目的は、投資先企業の財務状況、抱えている法的問題、職場環境などを確認し、潜在的なリスクを明らかにすることです。
デュー・ディリジェンスには、調査の対象と目的によってさまざまな種類があり、財務デュー・ディリジェンス、法務デュー・ディリジェンス、人事デュー・ディリジェンスなど多岐にわたります。
資料による分析以外に、聞き取り調査も実施する場合もあります。そして、より多くのデータと細かい調査を希望する場合は、外部の監査法人や法律事務所に依頼するのが一般的です。見落としをなくすためにも、基本的に依頼することを前提とした方が良いでしょう。
しかし、あまりに多くの方面のデュー・ディリジェンスを行っては、逆に社内で、対象の企業とM&Aを行う必要性に疑問が生じ始めてしまいます。
そうしたトラブルを回避し、費用と時間の節約するためにも、デュー・ディリジェンスの優先順位と期間を設けるのが良いでしょう。
関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?進め方や注意点、費用感について徹底解説
⑨M&A最終契約の締結
最終契約書(Definitive Agreement)、通称「DA」は、取引の最終的な合意事項をまとめた契約書です。
主にデュー・ディリジェンスを基に作られた取引条件や誓約事項、表明保証条項などが含まれた書面となります。
だた、最終契約書というタイトルの契約書があるわけではなく、株式譲渡なら株式譲渡契約書など、M&Aのプロセスにおいて最後の契約段階で締結されるものを最終契約書と呼んでるわけです。
基本合意書と違い、非常に細かく複雑で、文量の多い契約書になりがちですが、このプロセスをしっかり進めることで、M&Aの成功に向かうことができます。M&A仲介会社が間に入っている場合は、しっかりとサポートしてもらうと良いでしょう。
⑩クロージング
M&Aにおけるクロージングは、最後のプロセスであり、M&Aの実行ボタンともいえます。
これにより、売り手から買い手へ経営権などが正式に引き渡され、取得対価が支払われるのです。
クロージングは、最終契約書の締結後に実行されます。例えば、譲渡条件が履行され、株券や事業が正式に引き渡され、対価が支払われることで、経営権が買主に完全に移転して、クロージングとなるわけです。
クロージング以外に、プレクロージングとポストクロージングとがあります。
プレクロージングは、実際のクロージングまでの準備のことで、クロージング条件が満たされているか確認する作業を指します。
ポストクロージングは、クロージング後に実施を義務付けられる手続きのことで、株主総会や取締役会で必要な決議を取ったり、クロージング後に発生する誓約事項の実施、クロージング貸借対照表など財務諸表の作成、対価の調整などがあります。
関連記事:M&Aにおけるクロージングとは?手続きや流れ、書類をわかりやすく紹介
M&Aのメリット
M&Aを行っている企業が年々増加しているのは、やはりメリット多いからと言えます。
ここでは、M&Aのメリットを買い手側と売り手側双方の視点から解説します。メリットを知ることで、M&Aの魅力をより深く知っていきましょう。
買い手側のメリット
企業の成長や競争力向上を目指す中で、M&Aは効果的な戦略です。
なぜ効果的なのか。その主な理由としては「ノウハウの取得」「ブランドや取引先取得」「事業進出の機会」「人材の確保」「コストの削減」が挙げられます。
ここでは、それらの詳しい解説をしていきます。
ノウハウの取得
同業の自社より優れたノウハウ、あるいは異業種のノウハウを取得できるのは大きなメリットです。
これにより市場での競争力の向上、新たな成長機会の獲得といった、ビジネス拡大の基盤が手に入れられることが期待できます。
消費者のニーズが多角化した現代では、事業の多角化も求められます。ひとつひとつの製品の寿命はより短くなり、企業側は悠長に商品の研究開発を行っている時間はありません。そんな中で、M&Aによる新たなノウハウの取得は、最も効率的で、かつスピーディーな成長戦略となるわけです。
また、売り手のノウハウを吸収することは、そのノウハウを信頼している売り手の顧客が離れることなく、買い手にとっての新たな顧客となることにも繋がります。そうした基盤を手に入れることで、新たな市場への進出が低コストかつスムーズにもなり、新規顧客との関係構築も容易になるのです。
さらに、新たなノウハウを取得することは、買い手は独自の新しい製品やサービスを提供できるようになることを意味します。これもまた競争力向上を生み出し、業界内での地位向上に寄与するでしょう。
ノウハウの取得は、ビジネスの成長と競争力強化に向けた重要な手段であり、M&Aによって得られる大きなメリットというわけです。
ブランドや取引先取得
M&Aを通じて、企業は短期間でノウハウ、すなわち高い技術力、権利、知的資産を自社内に取り込むことができます。
そうすることで、本来は確立に時間のかかるブランドや信用なども、M&Aによって一挙に取得できるため、市場での存在感の強化に繋がってきます。
また、顧客同様、買い手にとっての新たな取引先も取得できます。市場の需要がピークに達して成熟期に入ると、それ以上の市場での成長は見込めないため、競合他社同士による商品価格の値下げ競争へと発展します。そうなると、市場そのものが疲弊し劣化してしまうのです。
しかし、そうした競合他社とM&A取引をした場合、価格競争を発生させず、新たな取引先も取得できることになります。そうすることで、市場での存在感と拡大と持続性の保持へと繋がっていくわけです。
事業進出の機会
企業を成長させる手段の一つとして、新たな事業への進出が挙げられますが、これは膨大な時間と労力と費用を必要とします。しかし、M&Aを通じて他の分野、あるいは他の地域や国の企業を買収することで、買い手企業は大きなコストをかけることなく、新規事業に参入するチャンスを得ることができるのです。
事業進出のために競合他社を買収することは、ライバルの排除にも繋がります。それにより、新たの市場を獲得するだけでなく、市場での優位な地位と事業そのものの成長も期待できるでしょう。
他にも、事業進出の機会を得ることは、新たなビジネスモデルの構築、資本力の強化といったメリットもついてきます。それらは、事業拡大や投資の機会を増やし、企業の成長を加速させる一端を担うことになるでしょう。
人材の確保
M&Aを通じて、買い手企業は売り手企業の優秀な人材を取得することができます。
従来の求人や採用プロセスでは困難だった、高度なスキルを持つ人材を、迅速に組織に統合できるのは大きなメリットです。
少子高齢化と人口減少が進む日本国内では、15歳から64歳の生産年齢人口も大幅に減少しているため、企業にとっては優秀な人材の確保も一つの課題となってきています。
中途採用という手段もありますが、その場合、その人物が本当に活躍できるスキルを持っているかは未知数な部分があります。しかし、M&Aならそのリスクを減らすことができるわけです。
通常なら採用・確保が困難な海外の拠点や工場などでの人材確保も、現地の企業とM&A取引を行うことで達成されるでしょう。
また、小さな会社であれば「この人がいないと成り立たない」と言われている人物もいるかと思われます。そんな人物の離職を防ぐためにも、M&Aは有効な手段と言えるでしょう。
コストの削減
M&Aによって企業規模が拡大することで、大量仕入れや大量生産が可能になります。また、共通のインフラを共有することで、生産コストを削減、効率も向上させることが可能です。これにより、買い手側は製品やサービスの提供コストを下げ、浮いた分も含めて収益を向上させることができます。
あるいは、合併に伴い重複する業務や機能を統合することがあります。これにより、経費や人件費を削減できることもあるでしょう。統合による相乗効果によって、新たな成長機会やコスト節約のポイントが生まれることもあります。
売り手側のメリット
買い手側に負けず、売り手側にも多くのメリットが存在します。
そのメリットは、売り手側がM&Aを行う目的そのものであったりもします。「後継者不足の解決」「従業員の雇用確保」「個人補償の解除」など。ここからは、それらを詳しく解説していきます。
後継者不足の解決
近年の後継者不足は、特に地方の中堅・中小・零細企業にとって深刻な問題です。
2025年までに非上場企業うちの、国内の約1/3を占める250万社の経営者が70歳を超える高齢者になるとされていて、うち約半数が後継者未定とされています。
少子高齢化によって若者が少ないだけでなく、時代と共に若者が興味を示さなくなった業界も多く出てきています。そうした業界では、企業内の高齢化が進んでいて、より若者にとって魅力を感じられなくなっていることもあるでしょう。
さらに日本国内に進出してくる海外資本の企業との競り合いにも勝っていかなければならない場面もあり、苦しい状況に置かれている企業も少なくありません。そうなると、ますますその企業を継ぎたいと思う人はいなくなっていくことでしょう。
そうした将来に大きな不安を抱える企業にとって、M&Aは打開策になります。
最も簡単な流れとしては、M&Aを通じて買い手側が売り手側の経営権を承継することで、経営者の後継者問題が解決し、企業の存続が確保されるというわけです。
売り手側がM&Aを通じて後継者を確保することで、その企業の持続力と安定的な成長が期待できる可能性が高まり、また、経営者の後継者問題が解消されることで、周囲からの評価や顧客の不安あるいは不信感にも対応できるようになります。そうして企業の価値そのものが維持され、さらなる成長が期待することもできるでしょう。
従業員の雇用確保
これは、買い手側にとっての人材の確保というメリットに似た部分がありますが、売り手企業にとっては、企業を存続させることができるというメリットがある他に、従業員にとってもメリットが多数あり、それが結果として企業にとってのメリットに繋がります。
まず、廃業を免れることで雇用が継続されます。慣れ親しんだ職場・環境を離れ、新たな職場へと移ることに抵抗がある従業員は少なくなく、年齢やその人の体調によっては、その企業でしか働けないなんてこともあるかもしれません。そうした従業員にとって、企業の存続は安心なだけでなく、士気の向上にも繋がってきます。
また、力のある大きな企業に買収された場合、給料など雇用環境が改善される可能性も出てきます。これにより、従業員は将来への不安を軽減し、より仕事に専念できる環境が整うでしょう。
そして、新しい環境での業務やプロジェクトにおいて、従業員は新たなスキルを身につける機会が増えます。これは、向上心のある従業員にとっては魅力的です。買い手側の資源やノウハウを活かし、新たなキャリアパスによってスキルアップができれば、より良い相乗効果も期待できます。
買い手側が大企業の場合、従業員にとっては「大企業の従業員」という肩書きが手に入ります。世間的に名の通った大企業であれば、優遇される場面もあるため、誇りやモチベーション向上にも繋がるでしょう。そしてこれは、売り手側がM&Aを行わず、単体で自社の経営状況を好転させた場合よりも、従業員にとって良い影響を与えるものと言えます。
従業員の雇用が守られることは、企業の社会的責任にも関連することであり、持続可能なビジネス運営にも貢献します。「人は石垣、人は城」といった言葉があるように、良い組織は、そこにいる人たちを一番に考え大切にします。だからこそ、従業員にとってのメリットは、企業のメリットとなるわけです。
関連記事:M&Aのメリット・デメリットとは?買い手・売り手側からわかりやすく解説
個人保証の解除
売り手側の企業は経営者の個人保証を解除できる利点があります。
個人補償とは、企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者がその債務の返済に対して自ら責任を負う制度です。M&Aにより買い側の手企業が新たな所有者になる場合、売り手側の経営者はこれらの個人保証から解放されることが期待されます。これは経営者にとって負担を大きく軽減するだけでなく、新たな人生へのプロセスにもなるでしょう。
M&Aのデメリット
近年、増加傾向にあるM&Aでも、デメリットがないわけではありません。
ここでは、主なM&Aのデメリットを紹介します。デメリットをよく把握しておくことで、可能な限りデメリットによる影響を軽減させましょう。
買い手側のデメリット
M&Aによって事業の成長や市場シェアの拡大を図る一方で、慎重な計画と戦略が必要でもあります。買い手側の主なデメリットとしては「時間やコストがかかる」「相乗効果が生まれない可能性がある」「人材流出の可能性がある」などです。それらを詳しく解説します。
時間やコストがかかる
これは、最も避けられないデメリットです。M&Aを成立させるには、例えばデュー・ディリジェンスと呼ばれる綿密な調査が必要です。買い手側は売り手側の財務状況や法的なリスクなどを詳細に調査しなければならず、このプロセスには膨大な時間と決して安くはない費用を必要とします。
また、事前にトップ面談や現場視察をしたとしても、PMIの過程では、企業文化の細かな違いを含め、統合に伴う課題が顕在化することがあります。PMIとは、M&A後に行われる統合プロセスのことです。
これにより、合併・統合プロセスが遅延し、プロセスにより時間がかかる可能性が出てきます。そうなると、買い手側は目標の利益や相乗効果を得ることが難しくなってしまうというリスクが発生するのです。
M&A仲介会社などの専門家によるサポートがあっても、世の中に100%は存在しません。M&Aには、予測が難しい状況が常に伴います。
例えば、合併・買収に伴い人員整理が必要になる場合、人件費や関連する法的手続きにかかるコストが予測を上回れば、買い手企業は追加の負担を強いられる可能性が出てくるでしょう。
相手が海外の企業なら尚の事、このデメリットとリスクは増大します。あらかじめ、かかる時間とコストを多めに想定してM&Aを行うと良いでしょう。
相乗効果が生まれない可能性がある
M&Aにおいて、買い手企業が期待するメリットの一つが相乗効果です。
予想以上の顧客の獲得、サービスの大幅な拡充、ブランドが持つ力そのものの上昇。しかし、これが予想より生まれない場合があります。M&Aを行った後にうまく協力し合えないと、むしろ悪化・劣化する可能性もあるのです。
相乗効果が生まれない理由としては、例えば組織文化の不一致や主とする経営戦略の違いが挙げられます。合併や買収によって企業同士が統合される際、従業員の統合やビジネススタイルの調整が必要ですが、これらがスムーズに進まない場合、期待した相乗効果が生まれにくくなってしまうのです。
M&Aによる買収が行われると、買収された企業の従業員は大きな変化に直面します。新たな経営陣や組織文化の変化にうまく適応できなかった場合、従業員の不満が生じる可能性があります。
この不満が従業員のモチベーションや生産性に影響を与え、結果として企業の業績に悪影響を及ぼすことが考えられます。
買収後の従業員の不満を軽減するためには、十分な説明や、従業員同士のコミュニケーション、研修などの適切な対応が必要です。また、従業員を尊重やし、統合計画の透明性を高くしておくことが重要です。
M&Aによる相乗効果を期待すると同時に、相乗効果が全く生まれないパターンも想定しておくことで、いざそうなっても、予想だにしなかったデメリットとならないようにしましょう。それが、結果としてデメリットをなくすことにも繋がります。
人材流出の可能性がある
M&Aにおける買い手側の最大の目的であり、最も求めるメリットが人材の確保であることも少なくないですが、取引後にむしろ離職・人材の流出が起こる可能性があります。
それが高度な技術を持つ人材であったり、職場でのリーダー的な存在である人材であれば、より大きな打撃にも。
例え目立った人材でなくても、人材は企業の最も重要な資産であることに変わりはありません。人材流出は買い手側にとって相乗効果を得られないなど、悪影響をもたらす可能性は高いです。
ではなぜ、人材流出が起こるのでしょうか。例えば、従業員は新しい経営陣や企業文化に適応する必要がありますが、一部の従業員は不確実性や変化に適応できず、転職という選択肢を検討する可能性が高まるからです。
特に、M&Aが不透明であったり、組織文化の不一致が見られる場合は、優秀な人材の流失が起こりやすくなります。
他にも顕著で最もわかりやすい理由としては、給与や待遇面が悪くなり、不満を抱くパターンです。
人材流出によって、その業界や職場の経験が豊富な従業員を失い、業務の効率や専門的なノウハウが減少する可能性が出てきます。
それらは、従業員のモラルの低下や組織の不安定化にも繋がっていき、買収企業が期待した相乗効果を損なう可能性も出てくるでしょう。M&Aを行う際は、何より従業員への配慮を念頭に、プロセスを進めるのが大切です。
売り手側のデメリット
売り手側には「従業員の雇用条件が悪化する可能性がある」「クライアントとの関係が悪化する可能性がある」「企業文化が合わない可能性がある」といったデメリット及びリスクが存在します。
それぞれの具体的な解説は、以下の通りです。
従業員の雇用条件が悪化する可能性がある
M&Aを行う前の売り手側の待遇の方が、買い手側の待遇より良かったとなる場合があります。
最も顕著に不満が出るのは給与の減少。他にも福利厚生や、勤務条件の変更なども、雇用条件の悪化に繋がります。
これらは時に、買い手側の視点ではわからない予想できない場合もあります。福利厚生や勤務条件を良くしようと変更したら、逆に売り手側の従業員たちにとって迷惑となったりするのです。
あるいは、M&A仲介会社などを通さずM&Aを行えば、買い手側が最初から売り手側従業員の待遇を下げるつもりで取引する場合も考えられます。
以上のことから、M&Aのプロセスの中で、買い手側と売り手側双方の、十分な説明やコミュニケーションが不可欠といえるでしょう。
クライアントとの関係が悪化する可能性がある
M&Aが実施されると、事業内容や契約条件に大幅な変更が生じる場合があります。この変更が、クライアントに影響を与え、関係が悪化する可能性が出てきます。
これは例えば、新たな経営者となった買い手側が、業務の合理化やコスト削減、新たな利益、その他何らかの自社の条件に合わせるために、旧売り手側のクライアントとの契約条件を変更したり、あるいは取引そのものを停止したりすることで生じます。そうなると信頼関係の維持が難しくなるわけです。
また、M&Aにより大企業の傘下に入る場合、売り手側の経営陣が新体制での経営に携わる機会が減少することがあります。
すると、特定の人物の人脈で経営が成り立っているような経営形態の企業であった場合、従来のクライアントとの関係性が希薄化し、ビジネスの取引機会が減少する可能性が出てくるのです。
M&Aに伴い従業員の待遇や業務内容が変更される場合、従業員の動揺がクライアントに波及し、信頼を損なう要因となることも考えられます。
こうした要因によるクライアントとの関係が悪化を少しでも防ぐためにも、やはりトップ面談などのM&Aのプロセスの中で、十分に協議し、意見交換を重ねるのが重要というわけです。
企業文化が合わない可能性がある
買い手側のデメリットでも少し触れましたが、売り手側が買い手側の企業文化の違いが問題となることがあります。
企業文化とは、組織の風土や価値観、働き方などを含むものであり、これが大きく合わない場合、従業員のモチベーション低下や対立が生じる可能性も出てくるでしょう。そうなると、人材流出に繋がってくるわけです。
M&Aの種類
M&Aと一言で言っても、何種類もの手法(スキーム)があり、それぞれ特有の特徴と目的があります。
以下に、主なM&Aの手法を紹介します。買い手側と売り手側からの視点でも解説しますので、それぞれの特徴を理解し、最も行うべき手法を探っていきましょう。
株式譲渡
株式譲渡は、企業が保有する株式を他社に売却する手法です。
M&Aにおいては、売り手側が株主としての権利や所有権を喪失し、これに代わって買い手側がそれらの権利を得ることになります
この手法の特徴は、他のM&Aの手法に比べて、内容がシンプルで手続きも簡単であるところです。売買契約書のみで取引が完了するため、双方の負担も少なく済みます。また、株式を購入するのに支払われるのは現金のみ。これが他とは違うポイントとなります。
買い手側
買い手側は、売り手側の株式の購入によって企業の経営権を得て、事業の拡大や市場での競争力強化など目指します。
手続きが簡単なため着手しやすいですが、その反面、多額の現金を用意しなければならないというデメリットがあります。
また、株式を購入、すなわち会社を購入するということは、その会社を手に入れられるということ。これはとても魅力的に感じられますが、それは同時にその会社の負債や、あるいは不名誉な理由で訴訟されたことがあるといった汚点など、負の要素も手に入れてしまうことになるため注意が必要です。
売り手側
売り手側は、売却によって資金調達を行ったり、事業の特定の部門から撤退する際の有益な手段として選択することもあります。
ただ、売り手側が非上場企業で、株主が広く複数に分散している場合は注意しましょう。
なぜなら、売り手側の株主との相対取引となるため、買い手側は多数の株主と株式譲渡の取引をしなければならず、その結果、目標の株式数を取得できない可能性が出てきてしまうからです。
関連記事:事業継承における株式譲渡とは?メリットや成功に近づけるポイントを解説
事業譲渡
事業譲渡は、売り手側が保有する事業の一部あるは全てを、買い手側に譲渡する手法です。一部譲渡、全部譲渡とも言います。
なお、2006年の会社法制定以前には、事業譲渡ではなく営業譲渡と呼ばれていたため、営業譲渡と呼ぶ人もいます。
会社ではなく会社の一部分を譲渡するとなると、それだけ手続きが複雑になりますが、買い手側と売り手側それぞれに、株式譲渡とは違ったメリットがあるのが特徴です。
買い手側
株式譲渡と違い、会社の一部分だけを譲渡するということは、負債や訴訟歴など、負の要素を切り離して、欲しい部分だけを取得することができるのが特徴です。しかし、譲渡された事業の契約関係は、全て1から契約し直さなければいけないなど、買い手側にとっては大きな負担があります。
売り手側
株式譲渡と違い、売り手側の企業は残存し続けます。
事業譲渡を選ぶ主な目的は、経営状況が悪化した時、事業の一部を売却することで得た資金や、残った人員などを、残した事業に集中的に投入することで会社の再建を図るためなどです。
負債があっても買い手が見つかりやすく、株主の決議なしでも行えるため、事業再建に有効な手法となります。
会社法上の組織再編行為には該当しないというメリットもあります。これにより、経営破綻寸前であったり、負債超過状態となっていても、債権者の意見に関係なく、一時期的な資金を確保するために取引を行うことができるのです。
ただし、売り手側が一度これを行うと、そこから20年間、同市区町村及び隣接する市区町村で、譲渡した事業と同じ内容の事業を行うことは会社法で禁止さるため注意しましょう。
また、売り手側でも取引先や従業員と一つずつ契約し直さなければならない場合があり、かなりの時間と労力を要する可能性があるため、注意が必要です。
関連記事:事業譲渡とは?会社分割との違いやメリットやデメリットを解説
会社分割
会社分割は、売り手側の企業が保有する事業の一部あるいは全てを切り離し、二つ目の新しい会社を設立して、買い手側の企業に譲渡する手法です。
事業譲渡とかなり似ていますが、新しく会社を作るというところが重要な点となります。買い手側は、新しく作られた会社を買うという形になるのです。事業譲渡では個別に権利を承継する特定承継であるのに対し、会社分割では権利を一括して承継する包括承継となる違いがあります。
また、会社分割は主に吸収分割と新設分割の二つに分けられます。
吸収分割は、分割の対象となる事業の権利の一部あるいは全てを、既存の会社に承継させるもので、新設分割では、これを新たに設立した会社に承継させるものを言います。
買い手側
買い手側は、現金を用意する必要がないというメリットがあります。
事業譲渡と違い、包括承継であるということは、取引先や従業員との契約を一つずつし直さなければならないという手間もかかりません。
そして、会社法で定められている要件を満たすことで、適格組織再編となり、買い手側にとっては税制上の優遇処置が受けられるというメリットなどもあります。
ただ、事業譲渡と違い、株式に関連するデメリットがいくつかあるため、注意が必要です。
会社分割はほとんどの場合、株式を対価にして行われるため、買い手側が承継のために新株を発行して対価を支払うと、自然と株式数が増え、株価下落のリスクが発生してしまいます。
他にも、売り手側の株主が、そのまま買い手企業の株主となるため、これまでと体制が変わってしまうおそれも出てくるでしょう。
他にも、許認可が必要な事業の場合は承継できなかったり、売り手側が切り離した事業に負債やトラブルがある場合は、それも承継してしまうリスクもあるため注意が必要です。
売り手側
事業譲渡では売り手側の方にメリットが大きい可能性があるのに対し、会社分割は売り手側にとって、事業譲渡より特段大きなメリットがありません。そのため、買い手側と売り手側でどちらの手法を選ぶか、よく協議する必要が出てくることもあるでしょう。
株式交換
株式交換は、売り手側の株式会社が、買い手側にすべての発行済株式を売却する手法ですが、この時支払われるのが現金ではなく株式となります。そのため株式譲渡とは別の手法となるのです。
この手法を用いれば、売り手側が完全子会社、買い手側が完全親会社となる形で、組織が一つとなり、事業の拡大などが期待できます。
株式譲渡と違い、現金を用意する必要がない反面、株式譲渡より手続きが複雑になるという特徴があるため注意が必要です。
買い手側
この手法では、多額の現金を用意する必要がないため、買い手側にとっては株式譲渡よりも負担が小さくなります。
特に上場企業の場合は、もともと株価が高いだけでなく、実際の会社の価値以上の株価が付いていることも多く、株式交換においては潤沢な資金を持っていることになります。そのため、全株式の1%を交換するだけでも、非上場企業にとって十分な価値を持っていることもあるのが特徴です。
ただ、会社分割に似て、買い手側が上場企業の場合は株価が下落してしまったり、株主の構成が変化してしまうなどのリスクもあるため注意が必要となります。
売り手側
株式譲渡と違い、売り手側の企業が子会社という形にはなるもの、残存するというメリットがあります。
しかし、まとまった現金が欲しい経営者にとっては悪手です。また、買い手側が上場企業でないと、株式での取引はできない可能性が高いため、注意が必要です。
第三者割当増資
第三者割当増資は、売り手側が既存の株主以外の第三者に、M&Aでは買い手側に新株を発行し、それを取得してもらう手法です。言葉にもあるように、譲渡や交換ではなく増資となります。
資金を投入するだけとも言える第三者割当増資は、株式譲渡に似たシンプルさを持ち、他の手法に比べて手続きが複雑ではないのが特徴です。
買い手側
M&Aでこの手法を選択する際は、買い手側が売り手側の株式の51%以上を所有するようにします。そうしなければ、経営の主導権を持つことができず、買い手側がM&Aを行う際の目的が達成されない可能性が出てきてしまうからです。
また、株式譲渡に似て、多額の現金を用意しなければならないというデメリットがあります。
売り手側
第三者割当増資は売り手側にとってメリットが多数あります。
取引先との関係を悪化させないようにしたり、経営が悪化し通常の方法では増資できない時などに用いられるのです。
通常、取引先や自社の役員などの縁故者に向けて発行するため、縁故募集とも呼ばれます。そのため、未上場であったり、株式を公開していない売り手側でも増資することができるうえ、返済義務が発生しません。
他社と第三者割当増資を行った場合は、業務提携ができるようになり、自社の信用も失わないというメリットもあります。
しかし、新株を発行すれば、自社の株式全体の価値が下がるため、既存の株主がこの手法に反対する可能があります。それでも強行すれば、株主が株式を売却してしまう可能性も出てくるため、注意が必要です。
資本業務提携
資本業務提携は、買い手側が売り手側の株式を購入することで資金を投入し、株主となって業務提携も行う手法です。上場企業と非上場企業の間で多く用いられ、資本の移動が伴わない通常の業務提携より強固な繋がりを持つことが可能になります。
他にも、相互に株式を購入し、相互で株主となって業務提携する場合もあります。これにより、買い手側も売り手側も自社の利益のみならず、相手側の利益も考える必要があり、より強い相乗効果が期待できるため、新サービスや新商品を生み出すきっかけにもなるのが特徴です。
どちらの場合でも、提携である以上は、相互理解を深め、慎重かつ繊細な運営が求められるため、難易度が高いと言えます。
ただ、この手法では、売り手側が事業や経営権を手放すものではないため、より本格的なM&Aの手法への足掛かり、双方を探る手法とも言えるでしょう。
買い手側
通常の業務提携よりも、売り手側に対してより深く影響力を持つことができるのが特徴です。売り手側が独自のノウハウを持っていた場合は、それを独占的に扱うことができるようにもなります。
売り手側
売り手側には、買い手側のブランドや知名度の影響を受けられるというメリットがあります。ただ、提携が失敗に終わった時は、高額な株式買い取りを要求される可能性があるため、注意が必要です。
資本参加
資本参加は、買い手側が売り手側に相互に出資し、相互に株式を取得する手法です。
資本提携に似ていますが、資本提携は買い手側が売り手側に出資し、株式を取得するのみの一方的なものであるのに対し、資本参加は相互に株式を取得するのがポイントです。
買い手側
買い手側は売り手側に対して影響力を持つことができます。経営権を掌握していなくても、大株主となれば売り手側は無視できる存在ではなくなるからです。
買い手側にとって有益な方向にコントロールしたり、売り手側の経営方針すら変えられる可能性もあります。そのため、企業成長のために資本参加を選択する経営者も増加してきています。
売り手側の独立性が保たれる分、取引が成功しやすいのも特徴です。
売り手側
売り手側は独立性を維持できます。しかしそれは同時に、買い手側からの資本参加が突然打ち切られるリスクも存在し続けることになります。
資本参加を打ち切られれば、売り手側が株式を買い戻さなければならず、それができなければ買い手側が第三者に転売するかもしれません。
第三者に転売された場合は、事態がより悪化する可能性もでてきます。そのため、解約時の取り決めを事前に作っておくことが重要です。
他の手法と違って、関係の継続性に不安な点が残り続けるため、簡易に行える分、安定・安心感という点では、デメリットも大きいと言えるでしょう。
合併
合併は、2つ以上の企業が統合し、新しい企業を形成する手法です。買収との違いは、単に売り手側の経営権を取得するのではなく、対象の会社が全て一体化するため、いずれかの企業が消滅することを意味します。
合併には主に、吸収合併と新設合併の二種類があります。
吸収合併は、買い手側が売り手側を吸収し、一つの企業となると同時に、売り手側の権利義務の全てを買い手側に承継させるものです。買い手側の企業だけが残り、売り手側は消滅します。
新設合併では、買い手側と売り手側が協力して新しい企業を設立します。これにより、各企業は平等な立場で新しい組織を構築し、資金や技術を統合するわけです。つまり、買い手側も売り手側も消滅します。
どちらも、M&Aに期待する相乗効果を得られやすく、大規模な資金を用意する必要もないのが特徴です。
買い手側
買い手側にとっては、吸収合併でも新設合併でも、現金を用意する必要がないのがメリットです。
また吸収合併の場合、権利義務をそのまま承継するため、許認可や免許の必要な事業への新規参入が容易になります。
そのため、手続きの負担も少なく、買い手側にとってメリットの多い手法と言えるでしょう。
新設合併では、吸収合併でそのまま承継されていた権利義務を、新たに取得し直す必要があるため、許認可や免許の必要な事業への新規参入を狙う場合は、効率的な手法とは言えません。
ただ、買い手側に吸収合併でも新設合併でも、合併自体がリスクを伴うことがあります。売り手側の負債などの負の要素も一緒に取り込んでしまう可能性が出てくるからです。
売り手側
売り手側は、吸収合併でも十分なメリットが得られますが、新設合併の方がメリットが大きいと言えます。
手続きが吸収合併より複雑になってしまいますが、買い手側と売り手側が対等に統合されるため、売り手側は世間からのイメージを悪くしないだけでなく、新しい企業が誕生することから、世間からの期待を得られるといった面があるからです。
ただ、対等に合併するということは、企業文化や社内規定の統合などにも、吸収合併に比べてより時間と手間がかかることが予想されます。
関連記事:吸収合併とはなに?メリットやデメリット、手続きの流れについて
合弁会社設立
合弁会社は、複数の企業が協力し、共同出資によって新たに企業を設立するか、既存の企業の株式を共同で取得して、共同経営を行う手法です。共同で出資して新規に会社を設立するか、既存の企業に出資側のいずれか一つの企業の株式の一部を、対象の企業に譲渡して共同で経営したりします。
異なる企業がそれぞれの強みを生かして協力し、新しい市場に参入する際や特定のプロジェクトを共同で進める際に選択されることが一般的です。そうして新規事業へ参入する際に、出資金を抑えることができるのも特徴です。
総じて、異なる国や業種間での取引や事業展開に有効となるため、海外進出を狙う企業に選択されることが多いです。
複数の企業が共同で経営するため、あらゆるリスクが分散されるため、リスクを最小限に抑えての新規事業参入を行うことができるのも特徴です。しかし、これは裏を返せば、経営方針も分散してしまい、利害関係も複雑化してしまうリスクを発生させてしまいます。
それにより、指揮系統までもが分散してしまい、トラブルへの対処が遅れたり、スピード感が求められる業界では失敗に終わってしまう可能性も出てきます。
この手法を選ぶ際は、そういったリスクの軽減のため、各企業の出資率を事前に協議すると良いでしょう。各企業が対等な比率で出資するより、一社が最も多い比率で出資し、意思決定権を集中させるのです。
この場合、例え出資比率が低く、株式の取得数が他社に劣る企業は何の権利も得られないわけではなく、拒否権付株式などの種類株式を発行することで、意思決定に参加することもできます。
M&Aサービスの種類
M&Aは企業が事業拡大や経営効率向上を目指す際に利用されます。しかし、専門的な知識がないまま行うことはほぼ不可能です。
では、そういった知識がない経営者などはどうしたらいいのでしょうか。ここでは、M&Aに詳しくない人がM&Aを行ううえでサポートしてくれるサービスを紹介します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は企業同士の合併や買収の交渉を仲介し、M&A取引の円滑な進行をサポートします。市場調査や企業評価、交渉戦略の構築など、M&Aに必要な全てを担当し、クライアントがM&Aを成立させるまで、終始一貫してサポートしてくれます。
幅広い情報とネットワークをもとに、M&Aの取引相手を紹介し、マッチングをサポートしてくれるのも、M&A仲介会社の特徴です。
中立的であり、取引において公平かつ効果的なプロセスを進行させます。そのため、買い手側と売り手側のどちらかが損をするような結果にならない、むしろ双方が満足する結果になるようにしてくれるのです。
現在、日本の中小企業のほとんどが、M&A仲介会社に依頼して、M&A取引を行っています。専門的な知識がない経営者の、最も無難な選択肢とも言えるでしょう。
ファイナンシャルアドバイザー
ファイナンシャルアドバイザーもまた、M&Aのプロセスに関するサポートを行ってくれます。
M&A仲介会社との違いは、一社のM&A仲介会社が中立の立場で、買い手側と売り手側の取引をサポートするのに対し、ファイナンシャルアドバイザーは弁護士のように、買い手側と売り手側それぞれで雇うケースが一般的であるという点です。
双方がそれぞれ別のファイナンシャルアドバイザーを雇うため、それぞれのファイナンシャルアドバイザーは、クライアントである企業の利益の最大化を目指します。そのため、中立の仲介者がおらず、結果として対立が大きくなり、交渉が上手くいかなくなるリスクがあります。
それでも上場企業同士や、海外の企業とのM&A取引では、フィナンシャルアドバイザーに依頼するのが一般的と言われています。
これは例えば、複数の株主を持つ上場企業の場合だと、M&A後に複数の株主から訴訟を起こされるリスクがあり、そのリスク回避のため、専門家には中立ではなく、自社専属のアドバイザーとなってもらい、法的なミスがないか集中的にサポートしてもらいながら、慎重かつ厳密にM&Aのプロセスを進行させる必要があるからです。
中小企業の場合は、経営者と株主が同一であることが多いため、ファイナンシャルアドバイザーに依頼するケースはあまりありません。むしろ、リスクの方が大きくなってしまう可能性の方が高いのです。
金融機関
金融機関はM&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー同様、M&Aに関するアドバイスを提供してくれますが、ほか二つとの大きな違いは、資金調達や財務面でのサポートを提供してくれることです。
M&Aを検討している相談者への融資は、M&A取引後に融資した資金が回収できるかどうかを基準に判断しますので、そこで、持ち込んだM&Aの計画の成功率を判断することもできます。
ただし、こちらもファイナンシャルアドバイザー同様、上場企業向けです。理由は、金融機関が得意とするM&Aは規模の大きいもので、中小企業を対象としておらず、手数料も高いなどが挙げられます。
M&Aの手数料
一言でM&Aの手数料といっても、相談料、着手金、月額報酬など多岐に分かれており、支払うタイミングも変わってきます。ここでは、主な手数料の種類と具体的な内容を解説。
わかりやすい表も掲載していますので、M&Aを検討している方はぜひ、どのタイミングで資金を用意するべきか、どのくらいの金額が必要になるかなどの参考にしてください。
相談料 | 無料~10,000円 |
着手金 | 無料~1,000,000円 |
月額報酬 | 無料~1,000,000円 |
中間報酬 | 成果報酬の10~30% |
成功報酬 | 企業やM&Aの規模により変動 |
相談料
相談料はM&Aプロセスの中で一番最初に発生する手数料です。
企業がM&Aに関する相談や助言を受ける際に支払います。相談料の金額は事業規模やアドバイスやサポートの提供元によって異なってきますが、近年はM&A仲介会社の競争激化に伴い、相談料無料をうたうM&A仲介会社も増えてきています。
着手金
着手金は、おおよそM&Aアドバイザーなど専門家が実際にサポートする段階になると発生します。
着手金の金額も相談料同様、事業規模や交渉の複雑さによって変動しますが、同じく競争激化の中で着手金無料をうたっているM&A仲介会社などもあります。この場合、最後の成功報酬の中に着手金が含まれているパターンもあることを念頭に置いておきましょう。
着手金は、一度支払うと返金はできません。だからといって、着手金も無料のM&A仲介会社などを優先的に検討するのも危険です。
「安かろう悪かろう」という言葉もあります。最も安い相談先を見つけることを目標とせず、最終的に納得のいく金額で、売り手側と買い手側が友好的にM&Aを成功させ、Win-Winの関係となることを目標に、相談先を検討するようにしましょう。
月額報酬
月額報酬は、M&A取引の成立まで、月に一度支払う報酬です。
毎月同じ報酬額の場合もあれば、業務内容の複雑さや難易度などに応じて報酬額が変動する場合もあります。
M&A成立まで毎月請求されるため、M&Aのプロセスが長期に及んでしまうと、その分月額報酬の負担額も増していくことになるため、注意が必要です。
ただ、そうして受け取った月額報酬を、最後の成功報酬に充当させるM&A仲介会社などもあるため、料金面に不安がある人は、そうした手数料のM&A仲介会社などに依頼すると良いでしょう。
こちらもまた、月額報酬無料をうたっている会社もありますが、相談料や着手金に比べると可能性は低いです。
中間報酬
中間報酬は、言葉通りM&Aのプロセスが中間点に達した時点で発生する手数料です。
具体的な支払いタイミングとしては、基本合意書を締結した時点が一般的と言われています。これは、仲介会社に対して成功報酬の前払いとも言えるものであり、M&A仲介会社などとの関係維持のためにも重要な報酬です。
成功報酬とは別の独立した報酬で、一般的には成功報酬の10~30%が相場です。しかし、M&A仲介会社などによっては、中間報酬の金額は成功報酬の一部として設定されていることもあります。
その場合、成功報酬が1000万円で、その10%の100万円を中間報酬として支払ったなら、最後の成功報酬で支払うのは残りの900万円ということになります。
この手数料の支払い後は、例えM&A取引が中断された場合でも返金はできません。
成功報酬
成功報酬は、M&Aが最終契約締結に成功した場合に支払われる手数料です。
これは、ビジネス取引の合意が完了し、結果的に双方の当事者が利益を得た際に発生します。成功報酬の金額は契約によって異なりますが、通常は取引総額の一定割合が設定されます。
成功報酬の算出のために、一般的に用いられているのが、レーマン方式です。
レーマン方式とは、取引金額が大きくなればなるほど、手数料の割合が下がる計算方式。取引金額を基にこれを用いて、成功報酬を算出します。
ただし、基準とする取引金額は、株式譲渡価格の他に、移動総資産(株式価額+負債総額)や企業価値(株式価額+有利子負債)を指す場合もありますので、契約する際にはどの形式かきちんと把握しておくことが重要です。
M&Aの税金
M&Aの際に発生する、様々な税金について理解することは重要です。通常かかる税金は、所得税、住民税、復興特別所得税など。ここでは、株式譲渡と事業譲渡にかかる税金に焦点を当てて解説します。
株式譲渡にかかる税金
株主譲渡を行った場合、税金は原則として売り手側にしか発生しません。
株主が株式を売却した際には、その売却によって得た利益(譲渡所得)に対して所得税が課されます。ただ、個人株主と法人株主で課される税金に違いが出てきます。
個人株主の株式譲渡の場合:「譲渡所得の金額(譲渡価格―必要経費)」×20.315%(内訳:所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
法人株主の株式譲渡の場合:(譲渡価格―必要経費+本業の利益)×29.74%(内訳:法人税、法人住民税の法人割、法人事業税の所得割など)
他にも、売り手側の個人株主から著しく安い価格で株式譲渡行った場合、買い手側が個人株主なら贈与税、法人株主なら法人税が別途発生するため、注意が必要です。
事業譲渡にかかる税金
会社が得たお金には原則として税金がかかり、事業譲渡による収益も例外ではありません。
法人税のほか、譲渡対象資産に課税対象のものが含まれていた場合には、消費税がかかってきます。
法人税など:(譲渡価格-譲渡資産-譲渡負債+本業の利益)×29.74%
消費税:課税資産×10%
他にも、譲渡対象に不動産が含まれている場合は、買い手側に対して登録免許税や不動産所得税などもかかります。
M&Aを成功させるための留意点
近年、成功率が高まり、M&Aを選択する企業は増加しているとはいえ、失敗例も少なくありません。
そうした失敗例のひとつにならないよう、成功させるための留意点を押さえておくことが重要です。ここでは、代表的な留意点について解説します。
自社に合った条件設定をする
0から起業した会社は、経営者にとって想い入れも強く、自社を過大評価してしまう傾向があります。そのため、特に多く見られるミスは、売り手側が自社を売却する値段を高く設定することです。それほどの価値がないのに、高額であれば、誰も取引したいとは思いません。
まずは高望みをせず、自社の客観的な評価を把握すること。そこから、M&A取引を行う際に、自社の身の丈に合った条件を設定することが、M&A成功への第一歩です。
スケジュール管理や計画を緻密に立てる
スケジュール管理や計画が重要であることは、あらゆる事業・ビジネスの常識ではありますが、M&Aを行うにあたっても、事業の一環と認識して、計画を綿密に立てることが重要です。
特に売り手側は、M&Aの本番、交渉に入る前の準備段階で、かなりの時間を要します。会社を売却するということは、それだけ手間がかかるということです。
そのため、M&Aを行うと決めたときには、会社の価値が大きく下がってしまっていることも少なくありません。少しでも経営の先行きが曇り始めたら、早い段階でM&Aの検討に入るのも一つの手です。
専門家や仲介会社に相談をする
M&Aには経済や法律など、あらゆる専門知識を必要とします。
基本的には、専門家のサポートなしで進めてはいけないものとみて良いでしょう。
ただ法に抵触しないようにサポートしてくれるというだけでなく、何十、何百とM&A取引を成功に導いてきた専門家なら、その経験と知識をもって、M&A取引をより良い方向へ導いてくれます。評価の高いM&A仲介会社や、信頼できる専門家に相談するようにしましょう。
M&Aの成功事例
ここでは、実際のエピソードをもとに、M&Aの成功事例を紹介します。より詳しく内容を知りたい方のためにリンクも記載していますので、M&Aの知識を深める一環として、ぜひ参考にしてください。
【コンクリート事業】株式会社横浜システック様の事例
株式会社横浜システックの代表取締役社長・菅一仁氏は、コンクリート補修事業に20年取り組んできました。しかし、人材不足と売上の停滞が顕著となり、さらに当時の代表取締役会長が60代まじかだったこともあり、次世代への継承も兼ねてM&Aを検討。全株式を横山産業に譲渡することにしました。
その結果、生コンクリートと不動産事業を展開していた横浜産業のバックアップのもと、人材不足は解消されました。
さらに、社員には譲渡のことをぎりぎりまで知らせていなかったものの、役職が上がったり、給料が上がったり、休日が増えたりと、譲渡前に比べて社員の待遇が良くなったことで、M&Aを不満に思う社員は出ませんでした。
横山産業の取締役兼総務部長・門田誠一氏は、M&A成功の秘訣として「M&Aは、法務や労務、会計などがコアだと言われますが、実際は違うと考えます。横浜システックの菅社長や五十嵐専務がしっかりと行われている仕事の受注と技術、いわゆる「事業」が最も大事ではないでしょうか。(中略)
もし譲渡企業にアドバイスをさせていただくのであれば、人と技術を高め、他社より競争力のあるものをつくることが、M&Aを成功させるために最も大事なことだと思います」と語っています。
また、菅氏は最後に「本業だけをぶれずにやろうというのは、創業当時から今も変わっていません。そして本業に集中してきた結果、今、高評価をいただきました。我々はただお客様に要望されたステップに応え、満足させてきただけです」と語っています。
M&Aストーリー|つながりで抜群の相性、双方満足のM&Aを実現。
【スキンケア・食・精油生産事業】株式会社LIGUNA様の事例
南沢典子氏は、美容部員出身で肌の悩みに触れ、大手企業では難しい接客方法や販売方法を模索し、今の株式会社LIGUNAを設立。
しかし、南沢氏自身の病歴やコロナ禍などの影響もあり、不測の事態に備えたい思いからM&Aの検討を開始。この時、南沢氏は最初、自社の安心と成長のために買収を検討していましたが、MABPは買収と譲渡の二つを提案しました。
そして、ユーグレナ様と出会い、トップ会談からわずか3ヶ月という短期間で、譲渡する形で、2021年3月にM&Aが成立しました。
ユーグレナの代表取締役社長である出雲氏は、最初に経営スタンスに共通点を感じたと語っています。
Sustainability Firstというユーグレナ・フィロソフィー(理念)が高次元で一致していて、LIGUNAはSDGs(持続可能な開発目標)を主軸に製品開発に取り組み、ユーグレナもまた、同様の考えのもと原材料開発を進めていたのです。
肌がきれいになって終わりではなく、その先のゴミの循環も考えながら事業を行っていく必要がある。最近はサステナビリティという言葉が流行っているから、といった生半可な気持ちでは絶対に通用しない。覚悟を持ってゲームチェンジを起こそう。
業界の慣習やしきたりを大きく変えるような商品やサービスを打ち出していこう。その部分で南沢氏と出雲氏は意気投合したのです。
M&Aストーリー|Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)という理念が高次元で一致した。
【建設・土木工事業】株式会社大志工業様の事例
株式会社大志工業の小川志津夫氏は、1990年6月に会社を設立して以来、30年以上にわたって懸命に働き、従業員とは家族のような絆を作ってきました。しかし、自身が70歳を過ぎたこともあり、M&Aを検討するようになります。
そして、銀行やM&A仲介会社などの仲介のもと、実際にM&Aに乗り出しました。しかし、トラブルや目的の相違などで、2度挑んだM&Aは実を結ばずに終わります。
そうしてMABPが仲介に入った3社目、首都圏で塗装工事を行っている会社との譲渡契約が成立しました。
小川氏は、従業員を長く最後まで面倒をみてくれることや、社長でもある娘さんの雇用条件など、多くの条件を出していましたが、相手の会社は、シナジー性が抜群に良い企業でした。
これまで大志工業が他社に委託していた舗装工事を依頼したり、反対に、構造物の工事を受けたりすることができる。つまり、自社内で業務をまかなえるところや、地域が異なり競合しないことや、社長が若いことを小川氏は評価。
そしてM&Aを決心する一番の決めてとなったのは、相手の会社に訪問した際に見せられた予算の管理表。毎日売上や経費を記録し、各現場でのキャッシュフローが一目瞭然になっていて、相手の社長から「当社の管理方法を徐々に真似していってほしい」と言われます。
それに対し小川氏は「この人は、原価管理の仕方を分かっている。真面目に一生懸命やる人だな」と感じたのです。
M&Aストーリー|家族のように育て上げた従業員の雇用を守りたい。
M&Aの概要や流れについて理解する
M&Aは、異なる企業が合併して新たな企業となったり、ある企業が他の企業を買収することを指し、近年では主に企業の成長戦略・事業の強化に向けた手段として利用されています。
M&Aの流れは、検討から始め、決心がついたら準備に入り、取引相手となる企業の選定であるソーシング、相手が決まったら、互いに情報の開示と交換を行い、経営者同士のトップ面談へと入ります。
そうして意見交換をし、現場視察などを経て問題がなければ、M&A基本合意書の締結へ。さらにそこから、詳細な調査を行うデュー・ディリジェンスを経て、本当に問題がなければM&A最終契約の締結をし、クロージングとして経営権などが正式に引き渡され、対価が支払われます。
M&Aを行うメリットは、買い手側はノウハウやブランド、新たな取引先や人材を獲得し、コストを抑えて新規事業への進出の機会を得られることです。売り手側は、後継者不足の問題を解決し、従業員の雇用を守れるなどがあります。
デメリットは時間とコストがかかり、それに見合う相乗効果が生まれない可能性があったり、逆に人材が離れていってしまうことでしょう。
M&Aに対する理解を深め、会社の未来をより良いものにしてください。