新たな事業を始めたい人や経営が上手く進んでいない人のなかには、M&Aを検討しているのではないでしょうか。
ただし、M&Aにはメリット・デメリットが存在するため、正しく理解したうえで取り組む必要があります。
本記事ではM&Aの概要やメリット・デメリットなど、基礎的な内容を解説します。
目次
M&Aとは
M&Aとは、企業統合の手法の一つです。
この手法では、事業や企業の経営権の移転、事業の譲渡、株式の譲渡、合併などを通じて、企業同士の統合を実現します。
経営権の移転や株式の譲渡によって、一つの企業が他の企業を完全に統合する場合もあるでしょう。
一方、M&Aの広義では、経営権を掌握しないままでも協力関係を構築する方法も含まれます。
例えば、ジョイントベンチャーの設立や資本業務提携などがこれに該当します。こうした手法では、企業同士が互いの強みを活かして共同事業を展開や、リソースや技術の共有が可能です。
M&Aは、企業にとって成長や競争力強化の手段として重要な役割を果たしています。
企業は市場変化や競合環境に対応するため、M&Aを活用して戦略的な統合を行うこともあるでしょう。統合によってシナジー(相乗)効果が生まれ、業績向上や市場シェアの拡大などの利益を得ることが期待できます。
関連記事:M&Aとは?概要や流れ、メリットなどについて徹底解説
M&Aにおける買い手側のメリット
合理的なM&Aは売り手側と買い手側の双方にメリットとシナジーをもたらします。
今回は、買い手側のメリットに焦点を当てて詳しく見てみましょう。
事業規模の拡大が期待できる
M&Aによる企業統合には、事業規模の拡大が期待できます。
統合によって取引先が広がるため、商品を取引する量が増えるでしょう。これにより、メーカーの設備の稼働率も高まります。また、統合による技術力の強化は事業拡大につながるでしょう。
さらに、統合後の企業のブランドの知名度が上がることで、集客にもプラスの影響が生まれます。統合に伴って、経済効果や競争力強化など、多角的なメリットを得られるでしょう。
節税が期待できる
M&Aによる企業統合には、節税効果が期待できます。
買収した企業が赤字だった場合、買い手側の企業がその負債を引き継ぐことになりますが、赤字発生後7年間は繰り越しが可能です。繰り越しされた赤字は「繰越欠損金」と呼ばれ、繰越欠損金は黒字の売り上げと相殺されるため、マイナスになった分だけ法人税が削減されます。
このような節税効果により、企業は買収によって発生した損失を利用して法人税負担を軽減可能です。繰越欠損金の活用によって、企業の税負担が軽減されることで資金を確保し、経営の安定や成長戦略への投資などに活用できます。節税効果はM&Aにおける重要なメリットの一つになるでしょう。
低リスクで新規事業への参入が行える
M&Aによる企業統合は、低リスクで新規事業への参入を実現する手段です。
M&Aを通じて買い手側の企業には存在しない新たな事業領域へ参入できます。一から新規事業への参入はリスクを伴いますが、M&Aによる統合を利用すれば円滑に参入できるでしょう。
具体的には、M&Aによる統合には既存の企業が保有する技術やノウハウ、リソースが活用されるため、新規事業への参入に必要な技術やコストが削減できる効果があります。これにより、市場への参入障壁が低下し、新規事業展開が容易になるでしょう。
M&Aを通じて新規事業への参入を行うことで、既存のビジネスに依存するリスクを分散させるメリットもあり、新たな成長領域への参入や多角化を通じて、企業の競争力を強化することが期待できます。
業界の再編が見込める
M&Aによる企業統合は、業界の再編を促進する効果があります。
市場の需要がピークを迎えると、市場の成長が鈍化し、競合他社によるシェアの獲得競争が激化するでしょう。このような状況では、競合他社を買収することによって、業界の再編が可能です。
M&Aによる企業統合は、ライバル企業の買収や合併を通じて、業界内での地位やシェアを強化する手段です。統合によって企業は規模やリソースを拡大し、競争力を向上できます。
また、競合他社の統合によって業界内の競争環境が整理され、持続可能なビジネスモデルが構築可能です。そのため、業界の再編は市場の活性化と持続的な発展に寄与する重要な要素といえるでしょう。
M&Aにおける売り手側のメリット
M&Aによって事業や企業を売却することは、売り手側にとっても大きなメリットを得られます。
以下では、売り手側のメリットに焦点を当てて詳しく見てみましょう。
自社の成長につながる
M&Aによる企業統合は、自社の成長につながる可能性を秘めています。
統合により、買い手側の企業と協力することで、自社の可能性が広がるでしょう。協力関係を構築することで、自社にとって新しい形のサービスの提供や、情報発信などの展開が可能です。
統合による新たなビジネスの展開は、自社の成長を促す要素となります。自社が手がけていなかった領域への参入・新たな市場への進出を行えば、自社事業の多様化やグローバルな展開が実現し、企業成長を加速できるでしょう。
M&Aを通じて企業は買い手側の企業リソース・ノウハウを活用し、市場の変化や競争環境に対応する柔軟性が得られます。自社の成長を促進する方法として、M&Aは有効な戦略の一つとなるでしょう。
後継者問題に悩まずに済む
M&Aによる企業統合は、後継者問題に悩む企業にとって有効な解決策となります。
特に中小企業で会社を継承する役員や従業員がいない場合、M&Aを通じて後継者問題が解決できるでしょう。
後継者問題を解決することで、廃業後の従業員の生活への不安や取引先への迷惑といった悩みが解消されます。
事業継承によって、従業員の雇用を守り、会社の存続につながるでしょう。
M&Aによる企業統合は、経済的な利益や業界での存在感も確保できます。後継者問題を解決することで、統合する企業の資源やノウハウが活用され、より強固な組織として市場に参入可能です。
事業売却により利益を得ることができる
M&Aによって事業売却すれば、利益を得る機会を得られます。
事業譲渡により、利回りの低い事業を手放すことで、業績の回復が期待できるでしょう。
売却に成功すれば負債を整理できるため、事業の立て直しを図れます。
また、事業売却によって得た利益を、従業員への補償や在庫商品の処分費用などに捻出すれば、円滑な事業終了計画の準備が可能です。M&Aによる事業売却は、創業者や経営者にとって新たな生活のステージへの移行や負担軽減につながります。
従業員の労働環境の向上
M&Aによる企業統合は、従業員の労働環境の向上につながる可能性があります。
統合によって福利厚生や企業の設備の充実が見込まれるため、従業員は好条件の環境で働けるでしょう。
M&Aによる企業統合は、統合後の企業文化や働き方に変化を与えることもあります。統合先の企業のノウハウや成功体験が取り入れられることで、働きやすい職場環境への変化が期待できるでしょう。
統合によって生まれる新たな組織の力や資源を活用し、従業員の働きやすさやモチベーションの向上が図れます。
従業員の労働環境の向上は、企業の持続的な成長と組織の競争力強化も期待できるでしょう。働きやすい環境は従業員の満足度や忠誠心を高め、優秀な人材の確保・定着にもつながります。統合による労働環境の改善は、企業と従業員の双方にとって有益な状況を生み出すでしょう。
M&Aにおける買い手側のデメリット
M&Aには多くのメリットがありますが、企業統合によるシナジーが十分に発揮できず、失敗するケースもあります。
以下では、買い手側に考えられるデメリットについて解説します。
買収した企業の人材のモチベーションが下がる
企業買収により、人材のモチベーションが低下する要因がいくつかあります。
例えば、社風が異なる企業が統合されることで待遇の違いが生じ、対立する派閥ができる可能性があるでしょう。
こういった場合には、M&Aのメリットを得られないことや、優秀な人材が退職することが想定されます。さらに、労働条件の変更により従業員が退職する可能性もあるでしょう。
これらの要素が組み合わさると、買収企業の人材のモチベーションが下がります。
継承した事業が軌道に乗らない
事業継承した事業が軌道に乗らないケースもあります。
要因としては、新規顧客への売り込みの低調や、コストの増大が挙げられます。
さらに、企業の運営に必要な固定費が増大してしまうと、継承した事業が軌道に乗らず、予想した成果を上げることが難しくなるでしょう。
会計上の「のれん」の減損処理が発生する
会計上の「のれん」の減損処理が発生する理由は複数あります。
のれんとは、買受企業が超過収益力を評価して買受企業の資産価値として認識したものです。
買受企業の収益が低下した場合、のれんの評価が減少すると見なされ、その減少分を減損処理として会計上に計上する必要があります。減損処理とは、企業の資産が将来の経済利益を生み出せない可能性が高いと判断された場合に、その価値を減少させることを指します。
その結果、会計上の価値の調整が行われ、のれんの減損処理が発生することになるでしょう。
関連記事:M&Aの「のれん」とは?基礎知識から計算方法、仕訳、会計処理、注意点について
M&Aにおける売り手側のデメリット
次に、売り手側が注意すべきM&Aのデメリットにはどのようなものがあるのか解説します。
買い手が現れないケースがある
企業の売却において、買い手が現れないケースもあるでしょう。自社の企業価値が低く見積もられることで、買い手が現れずに売却が難しくなります。
また、買い手が現れたとしても、自社の事業が今後成長しないと判断されれば、高値での売却が難しくなるでしょう。これらの要素が重なると、買い手が現れない状況が生じる可能性があります。
取引先から契約を打ち切られる
企業の買収により、取引先からの契約打ち切りが発生するケースも考えられます。買収後、契約条件や担当者が変更されることにより、取引先が不満・不安を抱き、契約を打ち切る可能性があるでしょう。このような状況では、取引先との関係の維持や再構築が重要です。
経営者の権限が小さくなる
買収された企業は、買収先の経営方針や戦略に従う必要があるため、自社の経営への権限が制約されるケースがあります。
買収した企業は主導権を握るため、経営の方針や意思決定において大きな影響力を持つでしょう。このような状況下では、経営者は買収後の組織の方針や目標に合わせて行動する必要が生じ、自身の権限が制約される可能性があります。
M&Aを成功するためのコツ
近年ではM&Aが一般化していることから、会社売却を検討している経営者も多いのではないでしょうか。
ここからは、M&Aを円滑に進めるためのコツを解説します。
買収をする前に対象企業の調査をする
企業買収前には、対象企業の調査が必要です。
具体的には、対象企業に潜在的な問題がないか、財務上の負債や顧客とのトラブルなどの問題がないか、を調査する必要があります。
また、買収する企業の事業を円滑に継承できるかも加えて調査すべきです。
必要な許認可がある場合は、取得の計画を立てたり、適正な買収価格を判断したりするために、対象企業の資産査定も必要になります。これらの調査は、買収の成功やリスクの最小化に必要といえるでしょう。
大きく失敗しないつもりで企業を買い取る
企業を買収する際には、大きく失敗しない意識を持ちながら取り組むことが重要です。
買収した企業とのシナジーを追求し、成功を収めることを目指す一方で、リスクを最小化することに注力しましょう。
大きな成功にこだわるのではなく、大きな失敗を避ける意識を持ち、慎重に取り組むことが大切です。
相手企業との統合や文化の調和、適切なリスク評価などを考慮し、失敗要因を最小限に抑えながら買収を進めることが成功への近道になります。
M&Aにて「基本合意」を締結する
M&Aにおいて、「基本合意」を締結することが重要です。
基本合意とは、最終契約に進む前に売り手側と買い手側の双方が基本事項について合意したことを書面で確認することです。この合意により、買収価格の上限が決定され、独占交渉権が獲得できます。また、買収までのスケジュールも明確になるでしょう。
さらに基本合意することで、交渉の効率化や情報の共有、リスクの最小化といったメリットを得られます。
M&Aが進まない状態を作らないよう優秀な人材を確保しておく
M&Aを順調に進めるには、優秀な人材を確保しておくことが重要です。
買収した企業へ派遣する人材が不足すると、事業継承が円滑に行われず、失敗する可能性が高まります。
一方で、買収を行う側の組織にも適切な人材が必要です。M&Aを成功させるには、経験豊富な人材や専門知識を持つ人材を確保し、適切な役割を担当させましょう。
まとめ
M&Aには、売り手側と買い手側の双方にとって、事業拡大や資金回収までの時間を短縮するメリットがあります。
しかし、買い手側の企業にとっては業務統合後にシナジーを発揮できるとは限らず、売り手側の粉飾が発覚した場合にはトラブルが生じる可能性もあるでしょう。
M&Aを円滑に進めるためには専門的な知識が必要であるため、専門家に相談することがおすすめです。
M&Aで悩んでいる経営者は、事業継承・M&AのプロフェッショナルであるM&Aベストパートナーズへお気軽にご相談ください。