2024年5月17日

初心者にもわかる!ガバナンスとは?企業価値を高める鍵

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初心者にもわかる!ガバナンスとは?企業価値を高める鍵

企業が持続的に成長を続け、価値を向上させるためには、コーポレートガバナンスを導入・強化することが重要です。上場企業だけのものと考えられがちですが、中小企業などの非上場企業であっても、ガバナンスへの理解は必要不可欠なものとなっています。

そこで今回は、ガバナンスの概要や関連用語、導入のメリット・デメリットや強化する方法などを、初心者にもわかりやすく紹介します。

1. ガバナンスとは

企業の信頼性において必要不可欠と言われる「ガバナンス」。どのような意味の言葉なのでしょうか。また、どのような目的で導入すべきなのでしょうか。

まずはガバナンスの定義や重要性について、詳しく解説します。

ガバナンスの定義と意味

ガバナンス(governance)とは、「統治」「管理」「支配」を意味する言葉。ビジネスにおいては「コーポレートガバナンス」とも言われ、健全な企業経営を目指して正当かつ透明な判断がされるよう、監視や統制をする企業自身による仕組みのことを指します。

「ガバナンスを強化する」という言葉で使われますが、これは社内の管理体制や内部統制を強化するという意味。ガバナンスは、企業の透明性をアピールするために欠かせないものとなっています。

ガバナンスの目的と重要性

ガバナンスの大きな目的は、企業の不祥事を防ぐことと、企業の収益力を強化することです。1990年代から2000年頃にかけて、日本では大企業の不祥事や粉飾決算などが横行し、大きな社会問題となっていました。

この状況で注目されたのがコーポレートガバナンスです。ガバナンスを強化することで、経営陣の独断による判断や管理体制を監視・統制し、不祥事を未然に防ぐことができます。透明性の向上は企業価値の向上にもつながり、収益力の強化にも寄与します。

顧客や株主、従業員や取引先などといったステークホルダーとの関係においても、ガバナンスは必要不可欠な存在となりました。上場企業をはじめとした大企業で注目されがちですが、情報化社会の現代においては、中小企業などの非上場企業においてもガバナンスは重要な存在となっています。

2. ガバナンスと類似の概念との違い

ガバナンスと混合しやすいものに、「コンプライアンス」や「リスクマネジメント」、「内部統制」や「ガバメント」といった言葉があります。それぞれの違いについて確認してみましょう。

コンプライアンスとの違い

コンプライアンス (compliance) は「法令順守」を意味する言葉です。「法令の遵守」という意味ですが、広い解釈では「法規範はもちろんのこと、社会良識や社会ルール等を踏まえた企業の行動規範の遵守」を意味します。

ガバナンスは「規則を守るための管理体制」という意味で使われますが、コンプライアンスは「規則に従うための管理体制」を示します。つまり、ガバナンスを強化することは、コンプライアンスも強化することにつながります。

リスクマネジメントとの違い

リスクマネジメント (risk management) はその名の通り、リスクを管理(マネジメント)するプロセスのことです。企業が継続的に事業を続けていく上で障害となるリスクを管理し、損失の回避または低減を目指します。ガバナンスが管理の体制・機能を表すのに対し、リスクマネジメントは管理手法を示します。

企業に対するリスクは、年々多様化・複雑化する傾向にあり、各リスクに対応するためにはプロセスを細かく構築しておく必要があります。つまり、リスクマネジメントはガバナンスの大切な手段の一つと言えます。

内部統制との違い

内部統制とは、企業が経営目標や事業目標を達成するために整備する、すべての従業員が守るべきルールや仕組みのことを指します。上場企業では金融商品取引法第24条で、内部統制報告書の提出義務が定められています。

ガバナンスが企業運営の仕組みを表している一方で、内部統制は社内における運営の仕組みとなり、ガバナンスやコンプライアンスを達成するための手段となります。

ガバメント(統治)との違い

ガバメント (government) とは、日本語で「政治」や「政府」を表す言葉です。ガバメントと同様、「統治する」という意味を持つ「govern」が由来となった言葉ですが、ガバナンスの主体は「組織」で、ガバメントの主体は「国」です。つまり、ガバナンスは「組織の統治」、ガバメントは「国の統治」を表すため、全く意味が異なります。

3. ガバナンスの効果とメリット

ガバナンスの効果とメリット

企業経営においてガバナンスを強化すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

主な効果とメリットについて、詳しく解説します。

企業価値の向上

コーポレートガバナンスを強化すると、企業の評価や価値を高める効果があります。

株主や顧客などのステークホルダーに対し企業の適正な運営や透明性を示すことができると、社会的な信用や評価が高まります。また、株価の上昇や金融機関に対しての信用度も向上、優秀な人材確保などにも効果を発揮し、結果的に経営の安定にもつながります。

持続的な成長力と競争力の強化

コーポレートガバナンスの導入は、企業の継続的な成長と競争力の強化にも効果的です。

内部ルールを整備することで、それまであいまいだった各役職やポジションが持つ責任や権限が明確になります。すると、スピーディな判断や意思決定ができるようになり、成長率がアップします

また、企業の信頼性が上がると、日本のみならず海外の投資家からも支持を集めることができ、企業としての競争力も強化されます。

不正や不祥事の防止

ガバナンス導入の最大のメリットともいえるのが、不正や不祥事の防止効果です。

過去、日本の企業では、利益の水増しや不適切な会計処理、内部報告やデータの改ざんなどといった不正・不祥事が多発していました。

コーポレートガバナンスを導入すると、コンプライアンスに関わるルールや曖昧であった内部手続きなどを整備することができます。また、外部の目を設置することで第三者からの監視体制ができるため、不祥事や不正の発生リスクを軽減させることができます。

社会的信用の維持

企業の成長や健全な経営には、社会的な信用が欠かせません。社会的信用があるとステークホルダーの支持を得ることができ、中長期的な成長や企業価値の向上、ビジネスチャンスの拡大にもつながります。

しかし、社会的信用は、1つの不正や不祥事で簡単に失墜してしまいます。コーポレートガバナンスを効かせてこれらのリスクに備えることで、企業は社会的な信用を維持することが可能となります。

4. ガバナンスが不全の場合の問題点

ガバナンスが機能していない場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

ガバナンス不全におけるリスクについて、以下に解説します。

企業不正や不祥事の発生

ガバナンスが機能していないと、法律違反や不正行為が発生しやすくなります。

コーポレートガバナンスが効いていない組織では、社内規定やルールなどがきちんと管理されていない可能性が高くなります。その結果、不正や不祥事が横行し、企業のイメージダウンにつながります。

不正や不祥事の発覚はステークホルダー離れにつながり、企業評価もダウン。また、罰金や訴訟などといった、法的トラブルに発展する可能性も生じます。結果、企業の競争力が低下し、経営破綻などに陥るリスクが高まります。

社会的信用の失墜

コーポレートガバナンスの弱さが原因で不正や不祥事が起きると、企業の社会的信用は簡単に失墜します。社内業務の管理ができておらず、業務が不透明な企業は、不正発生のリスクが高い上、不祥事の発覚まで時間がかかり、対応も遅くなります。

適正な運営や透明性を示すことができない企業は社会的な信用度が低くなり、顧客はもちろん、株主や投資家、金融機関など、様々なステークホルダーからの信頼を失います。

グローバル化への遅れ

ガバナンスの強化は企業のグローバル化とも密接に関係しており、コーポレートガバナンスが弱いことは、グローバル化の遅れにもつながります。

ガバナンスが整備されていないと、権限や責任がどこにあるのか不明確であるため、組織内での決定や判断に遅れや混乱が生じます。意思決定の遅れはグローバル化の阻害となり、企業の成長率自体も低下します。

5. コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンスを実施するためのガイドラインとして、金融庁や東京証券取引所は2015年に「コーポレートガバナンス・コード」を公表しました。

このコードは、企業の平等性や透明性、企業とステークホルダーとの適切な協働などを定め、組織として望まれる姿を示しています。以下に、その内容を詳しく解説します。

上場企業が順守すべきガバナンス規範

それぞれの証券取引所では、上場会社に対して求める「企業行動規範」を設けています。

例えば東京証券所の場合、コーポレートガバナンス・コードに5つの基本原則が設定されており、以下のような内容になっています。

株主の権利・平等性の確保

    株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うこと、株主がその権利を適切に行使することができる環境を整備すること、株主の実質的な平等性を確保することなど

    株主以外のステークホルダーとの適切な協働

    様々なステークホルダーのリソース提供や貢献の結果によって持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を十分に認識すること、ステークホルダーとの適切な協働に努めることなど

    適切な情報開示と透明性の確保

    企業の財政状態・経営成績等の財務情報や経営戦略・ガバナンスなどの非財務情報について法令に基づく開示を適切に行うこと、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきことなど

    取締役会等の責務

    取締役会が会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促すこと、収益力・資本効率等の改善を図るべく企業戦略等の大きな方向性を示すこと、客観的な立場からの実効性の高い監督を行うことなど

    株主との対話

    株主総会の場以外においても株主との間で建設的な対話を行うこと、株主の声に耳を傾け関心・懸念に正当な関心を払うこと、経営方針を株主に分かりやすく明確に説明しその理解を得る努力を行うことなど

    改訂によるガバナンス強化の必要性

    東京証券取引所は、ガバナンスをより強化するために、改訂コーポレートガバナンス・コードを公表しました。改訂の中でも影響が大きかったのは、内部監査に対する強化です。コーポレートガバナンス・コードの4項に

    「取締役会はグループ全体を含めた全社的なリスク管理体制の整備が求められ、内部監査部門を活用しながら、その運用状況を活用すべきである」

    という一文が加わりました。これに伴い、企業はより高度な内部監査体制やリスク管理体制が求められることとなりました。

    この改定に応じると共に、近年多発している組織的な不正や偽装表示などを防止する観点から、ガバナンス強化に取り組む企業が増加しています。

    6. ガバナンスを強化する方法

    ガバナンスを強化する方法

    企業にとって、コーポレートガバナンスを強化することは今や必要不可欠となりました。

    では、具体的にはどのように強化すればよいのでしょうか。以下に、コーポレートガバナンスの強化方法を紹介します。

    行動規範や倫理憲章の策定と浸透

    ガバナンスを強化するためには、社外のステークホルダーだけでなく、社内の従業員に対しても企業の理念や方向性を浸透させなければなりません。そのためにも、行動規範や倫理憲章など一定のガイドラインを策定し、全員が共有することでガバナンスに対する理解を深める必要があります。

    また、企業ガバナンスはコンプライアンスを遵守していることを前提としています。そのためにも内部統制を機能させ、より透明性の高い企業として信頼を得ることが大切です。

    内部監査体制の構築

    内部監査の実施も、コーポレートガバナンスの強化においては極めて重要です。

    内部監査とは、企業内の人間が公平かつ客観的な立場で行う監査のこと。会計監査や業務の不正・改定、業務における誤りなど、経営全般を評価・検証し、助言や勧告を行います。

    内部監査を行うことで、企業内に倫理観やルールの遵守を浸透させると共に、不正や不祥事を未然に防ぐ等のリスクコントロールにも効果を発揮します。

    社外取締役など外部監視機関の設置

    社外取締役や社外監査役の導入など、第三者からの監視体制の構築も、コーポレートガバナンスの強化には欠かせません。コーポレートガバナンス・コードでは、2021年の改定により、プライム市場では3分の1以上、スタンダード市場とグロース市場においては2名以上の独立社外取締役を選任すべきであると定めています。

    また、監査役会設置会社や指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社なども設置することで、独立した客観的な立場から経営陣や取締役に対する実効性の高い監督を行うことが期待されています。

    公平な立場でガバナンスの有効性を評価してくれる存在がいることは、企業の透明性や信頼を証明することに繋がます。

    人的資本やサステナビリティ情報の開示

    企業には、人事資本やサステナビリティ情報など、組織のデータや情報を内外のステークホルダーに開示することが求められています。

    人事資本とは従業員がもつスキルや知識、ノウハウや資源などの能力を資本として考えるもので、上場企業に対しては2023年3月期決算から人的資本の情報開示が義務付けられています。人的資本における国際的なガイドライン「ISO 30414」を導入することで、国内のみならずグローバルな視点でも情報を開示することができます。

    サステナビリティ情報は企業が社会的および環境的にどのような活動をしているかを示すためのもの。サステナビリティとは「持続可能性」という意味で、環境・社会・経済の3つの観点に配慮した活動を中長期的に持続することを示します。2023年1月の内閣府令等改正の際、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄が設けられ、開示を求められるようになりました。

    これらの内容をオープンにすることで、企業は社会との良好な関係を示し、より信頼度や競争力を内外にアピールすることができます。

    7. ガバナンス関連の重要用語

    ガバナンス関連には、いくつかの重要な用語があります。

    理解を深めるためにも、再度確認してみましょう。

    ガバナンス強化

    ガバナンス強化とは、企業においてコーポレートガバナンス(企業統治)を強めること。企業が不正や不祥事など法律に反した行動を起こさないために、規律やルール、管理体制の整備を行うことを意味します。

    ガバナンス効果

    ガバナンスが強化され、企業で効果を発揮していることを「ガバナンス効果」といいます。企業の管理体制や内部統制がしっかり行われている状態を「ガバナンスが効いている」といい、逆の場合を「ガバナンスが効いていない」と表現します。

    ガバナンスプロセス

    企業が目標達成のために、情報提供や意思決定、管理や監視を行うために実施する一連の手順のこと。企業がガバナンスを実施し効果を発揮するために行うべき、具体的なプロセスを示します。

    ガバナンスモデル

    ガバナンスモデルとは、企業がガバナンスを実施するための設計やアプローチのこと。目標やニーズに合わせ、それに沿った意思決定、管理や監視を設定します。

    まとめ

    ガバナンスは、上場企業はもちろん、非上場企業にも必要不可欠なものとなっています。コーポレートガバナンスを強化することは、企業の価値や市場での競争力を高めていくことにつながります。また、企業に大きなダメージを与える不正や不祥事に対するリスクヘッジとしての効果も期待できます。

    今後はガバナンスをより深く理解し、戦略的に強化していくことが求められるようになるでしょう。

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