2023年7月14日

事業における譲渡と売却の違いとは|手続きや税金について解説

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

Twitter Facebook
事業売却と事業譲渡の違い

事業から身を引く選択肢として「譲渡」や「売却」といったものがあります。

自社事業の価値を把握し、どちらの手法が向いているのか判断するのはなかなか難しいものです。

考慮すべき事柄も多く、行動に移せないでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では事業売却と事業譲渡の違いに加え、どんな企業がそれぞれの手法に適しているのか紹介します。

必要な手続きや税金の違いについても解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、特定の事業部門や事業資産を他の企業に譲渡することを指します。

自由度の高さは大きなメリットといえますが、譲渡対象とするものをそれぞれ個別に手続きする必要があるため、煩雑かつその処理に伴うコストが増えるリスクがあります。

事業売却とは

事業売却とは、企業がもつ事業の全部もしくは一部を売却することを指します。

採算がとれていない部門の切り離し・得意とする部門への資源集中など、経営効率化を目的として売却することケースが多いです。

事業譲渡と事業売却の基本的な違い

事業売却と事業譲渡

事業譲渡と事業売却は、他の企業に事業を引き渡す点で似ていますが、法的および手続き上の違いがあります。手続きや税金の違いについては後述します。

また、実際の言葉の定義とは若干違ってきますが、一般的に事業譲渡は事業の一部を、事業売却は事業全体(=企業自体)を売却する言葉として使われるケースが多いです。

他には株式譲渡や会社売却といった言葉で表現されることもあります。

事業における譲渡と売却の手続きの違い

ここでは事業譲渡と売却の手続きの違いを確認しましょう。

必要な手続きや流れはかなり似通っていますが、交わされる契約書の種類など、細部が異なっています。

事業譲渡の手続き

  1. 事業譲渡の計画策定:目的の明確化や、どの事業を譲渡するのか決めます。
  2. 事前調査:財務状況の確認や法務的なチェック、運営状況の評価を第三者が行います。
  3. 譲渡条件の交渉:価格の交渉を行い、支払い条件や引き継ぎ期間などの具体的な条件を調整します。
  4. 事業譲渡計画の締結:法律に基づいて事業譲渡契約書を作成し、譲渡先と譲渡元が合意書に署名します。
  5. 株主総会の承認:会社法に基づいて譲渡を決議するための株主総会を開催し、株主からの承認を得ます。
  6. クロージング:資産の移転や必要に応じて従業員の転籍手続きを行い、既存の顧客や取引先にも改めて事業譲渡が完了した旨を通知します。
  7. アフターケア:譲渡後の統合を進め、業務がスムーズに移行できるようにサポートします。

事業売却の手続き

  1. 売却の準備:売却の目的や範囲を明確化し、役員や主要株主の承認を受け、内部での合意を得ます。
  2. 事前準備:財務状況の詳細な整理や事業の価値を評価を行い、許認可や知的財産権などを確認します。
  3. 売却先の選定:潜在買い手のリストアップを行い、情報を開示する前に秘密保持契約(NDA)を締結します。
  4. 情報開示と交渉:潜在買い手に対しての情報の開示と買い手候補の評価、価格や支払い条件などの具体的な条件交渉を行います。
  5. 売買契約の締結:法律に基づいた事業売買契約書の作成と署名を行います。
  6. 株主総会での承認(必要に応じて):必要に応じて売却を決議するための株主総会を開催し、株主からの承認を得ます。
  7. 取引の完了:資産の移転や従業員の転籍手続き、取引先への通知などを行います。
  8. 売却後の対応:売却後の業務がスムーズに進むようサポートし、売却後に発生した問題に対処します。

事業における譲渡と売却で発生する税金の違い

事業譲渡と売却で発生する税金の違いはほとんどありません。

下記で紹介する税金は一般的なものであり、事業譲渡の内容や状況によって異なる場合があります。

あくまで事業譲渡や売却の際に「発生する可能性のある」税金として参考程度にとどめておきましょう。

また、売り手側・買い手側でそれぞれ支払う税金は異なるため、支払うべき税金について正しく理解しておく必要があります。

売り手側にかかる税金

売り手側には売却益に応じて法人税だけでなく、地方法人税・法人住民税・事業税が課税されます。ただ、売却益が発生するのは売却する資産が帳簿価額よりも高かった場合に限られます。

その他には、資産の譲渡に消費税が発生します。そのため買い手側への請求の際には、売却価額に消費税を加えた金額を請求することが大切です。なお、この資産には有価証券や土地などは含まれません。

節税に関しては、売り手側には税制上の優遇措置は適用されないため、誤った理解をしないように注意しましょう。

買い手側にかかる税金

買い手側も消費税の考慮が必要です。

事業売却の際に購入した資産のうち、消費税を課税する取引に該当するものが対象となります。具体的には機械等の設備・車両などが資産に含まれるでしょう。

その他には、不動産を取得する場合に必要となる税金があります。不動産取得に課される不動産取得税、不動産売買後の所有権移転登記に課される登録免許税が買い手側にかかる税金です。

事業のブランド価値が表現される「のれん」は無形固定資産として扱われるため、含まれている場合は考慮する必要があるでしょう。

のれんとは、譲り受けた資産や負債の時価と支払った買収価額との差額を指します。試算調整勘定として一旦計上されますが、5年間かけて定額償却(損金算入)し続けることで、のれんの償却分として法人税の節税が可能です。

関連記事:M&Aの「のれん」とは?基礎知識から計算方法、仕訳、会計処理、注意点について

事業譲渡を検討すべき企業とは

事業譲渡はその事業に関わっている権利や財産のみの譲渡も可能で経営権も移さずに済むため、選択肢は多く存在します。

新規事業への展開を視野に入れた判断となることから、以下の項目に該当する場合に事業譲渡を検討すべきといえるでしょう。

会社経営の一部を続けたい

事業譲渡は、経営状況に問題があっても会社を手放すことだけは避けたいと考える場合に適した方法です。事業譲渡を行えば、得られた収益をもとに経営の立て直しが可能になるでしょう。

また、負債額が大きい場合にも事業譲渡が有効といえます。事業売却は負債を抱えた状態で受け渡すことになるため、買い手が見つからないケースもあります。

事業譲渡の場合は負債を譲渡の対象外とすることで事業の魅力だけに注視するため、事業取得へのハードルを大きく下げられます。

価値を見出せる一部事業のみを対象とすることで、譲渡と会社経営の継続、そして再建の可能性が生まれるでしょう。

携わる事業を絞りたい

自社が複数事業を抱えることで資本の分散に苦しんでいる場合は、拡充しすぎた事業の整理の観点から絞り込みを判断するのも有効な方法です。

今後の成長が予測される事業は他社にとっても魅力的といえます。また、現時点で停滞している事業であっても、将来の売上が見込めれば高い評価につながるでしょう。

好条件で譲渡できる事業の売却額を元手にして新たな事業へ投資できる点も大きな魅力といえます。

関連記事:事業譲渡とは?会社分割との違いやメリットやデメリットを解説

事業売却を検討すべき企業とは

事業売却の場合、自社の価値がどの程度のものかによる影響が大きくなることから、以下の項目に該当している場合に検討すべきといえるでしょう。

特許やノウハウといった無形資産がある

事業売却における企業の価値は業績だけで決まるものではありません。

目には見えない「無形資産」も評価に大きく影響します。

無形資産の例としては、ブランド力・特許・ノウハウなどが挙げられます。

社名や事業自体のもつ絶対的なブランド力は、老舗として親しまれていたネームバリューといった基盤や特定の業界内での大きな強みとなるでしょう。

売却額はそのブランド力との相乗効果といった付加価値への期待も含めて検討され、より高額化する可能性があります。

また、特定商品に対する特許や競合他社にはないノウハウなどの長年培ってきた技術的な成果も大きな価値です。

技術力以外では、営業面における製品・サービス拡充のための販売ルートも今後の経営に生かせるものとして資産評価の対象となるため、売却額が上がる可能性があるでしょう。

企業規模が大きく従業員数が多い

業績だけでなく、企業規模の大きさや従業員数の多さなども企業価値を証明するため、売却時の判断として有利に働く場合があります。

売却後は従業員本人の強い希望がない限りは、基本的に新たな経営者のもとで従業員の雇用が継続されることになるでしょう。

これまで働いてくれた従業員の雇用を保証し、生活をサポートするという意味でも、正しいプロセスを経た事業売却が重要となるのです。

関連記事:事業売却とは?基礎知識から手続きの流れ、成功のポイント、事例まで紹介

譲渡・売却における事業の価値はどう決まる?

M&Aで用いられるバリュエーションの種類 概要・算定イメージ・メリット・デメリット

企業価値を測る指標は株価だけではありません。

算定には「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」という3つの指標が用いられ、自社の価値判断の基準とされます。

インカムアプローチは、将来的にいくらの売上が見込めるかを表した指標です。期待される収益から実現までに予想されるリスクを割り引くことによって評価します。

投資判断としては最も理論的といえますが、計画による価値変動が大きいことで客観性が問題視されており、相続や中小企業の会社売却にはあまり適していません。

コストアプローチは、財産がいくらあるのかに着目したもので、企業保有の資産と負債をベースに価値を算出する方法です。

その時点での純粋な売却額が得られるため会社売却に有効な指標ですが、事業継続時の判断には向いていません。

マーケットアプローチは、類似会社の株式相場との比較をベースにしており、取引額から企業価値に換算します。

ただし上場企業の場合は実際の株価をもとに計算されるケースが多いため、重要な指標となります。

関連記事:M&Aにおけるバリュエーションとは?種類や実施するタイミングについて

事業における譲渡と贈与の違い

事業譲渡や売却との違いについてよく語られる言葉として「贈与」があります。

事業譲渡と贈与の大きな違いは目的です。

譲渡の主目的は「対価を得ること」であり、贈与は多くの場合、最高経営責任者の高齢化やリタイアなどで「単純に後継者に事業を引き継ぐ」目的で行われることがほとんど。

そのため事業譲渡では譲渡元が譲渡先から適切な対価が支払われるのに対し、贈与の場合は対価の支払いは通常発生しません。

税務に関しては法人税や消費税といった共通で発生するものに加え、贈与という形をとる場合には贈与税がかかります。

まとめ

事業売却は、法律上は事業譲渡とされますが、会社売却と表現されることが多い専門用語です。

事業売却は、自社のもつ価値がさまざまな指標により判断されるため、専門的な知識が求められる側面も多くあります。円滑に進めるには、第三者的視点での企業としての評価を知ることが大切といえるでしょう。

さらに節税を含めた税金への対策の問題もあり、滞りなく円滑に進めるためにも専門家に依頼することを検討しましょう。

事業売却・譲渡でお困りであれば事業継承・M&Aのプロフェッショナルである、M&Aベストパートナーズへお気軽にご相談ください。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

M&Aベストパートナーズのマガジン編集部です。

M&Aストーリー

M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。

Preview

Next

製造、建設、不動産、
医療・ヘルスケア、物流、ITのM&Aは
経験豊富な私たちがサポートします。