M&Aストーリー
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
多くの業界・業種において人手不足は深刻化しており、人材確保に頭を悩ませる経営者の方も少なくないでしょう。
人材確保といえば新卒採用や中途採用などが一般的な方法といえますが、実はM&Aも効果的な手段のひとつに挙げられます。
本記事では、M&Aによって人材確保を行うメリットや注意点、企業の成約事例などもご紹介します。
はじめに、日本が抱える人手不足の現状と、M&Aが人材確保に効果的である理由について解説します。
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略称で、「企業の合併と買収」という意味を指します。
M&Aは主に事業の拡大や事業の多角化、後継者の確保などを目的に行われるケースが多いですが、経営資源の獲得・拡大のために選択されるケースも少なくありません。
企業にとって人材(ヒト)は重要な経営資源のひとつであり、M&Aを行うことで買収先企業に在籍している優秀な人材を確保することにもつながります。
国勢調査のデータによると、2020年の時点で15歳から64歳までの生産年齢人口は7,406万人という状況です。
日本国内では少子高齢化が急速に進んでおり、今の状態が続くと2065年の生産年齢人口は4,529万人にまで減少すると予想されています。
一方、65歳以上の老年人口は全体の4割に達し、深刻な労働力不足に陥る可能性が高いのです。
生産年齢人口減少の影響はすでに出始めており、多くの企業では新卒採用の募集をかけても候補者が集まりづらい状況にあります。
そして今後はさらにその傾向が強まると考えられています。
安定的な人材採用を実現するためには、若年層を中心とした採用活動から中途採用の併用へとシフトしていく必要があり、そのための有効な手法としてM&Aによる人材確保が注目されているのです。
関連記事:M&Aで中小企業が解決できる課題とは?実施に向けた課題やPMIの課題と併せて解説
M&Aによって人材確保を行うことで、どういったメリットが期待できるのでしょうか。
最大のメリットとして挙げられるのは、即戦力となる人材を迅速に確保できることです。
特に、自社において専門的なスキルや知識を持った人材が不足している場合、同業他社や関連する事業を展開している会社を買収することにより、熟練した技術・ノウハウをもつ人材を取り込むことができます。
これにより、採用にかかるコストと手間を削減できることはもちろんですが、教育や研修にかかる手間も大幅に削減できるメリットが期待できます。
自社の事業や市場シェアの拡大を進めたいと考えても、人的リソースが不足し物理的に難しいケースも少なくありません。
そこで、たとえば特定の地域や市場で一定のシェアを持つ会社を買収できれば、その会社が持っている顧客基盤や営業力、マーケティング力を活かして自社の市場シェアを拡大することができます。
また、専門性の高い技術やスキル、ノウハウを持つ会社を取り込むことで、既存の事業を強化し経営規模の拡大に繋げられる可能性もあるでしょう。
消費者ニーズの多様化や市場の変化などによって、既存事業の収益性が低下することもあります。
そこで、安定した成長を実現するために新たな領域の事業へ進出し、多角化経営に取り組む会社もあります。
新規事業に関連する優れた技術力やノウハウをもった会社を買収できれば、新たな製品やサービスをスピーディーに開発し市場に参入しやすくなるでしょう。
また、M&Aによって多様な人材を受け入れることで、これまでにないアイデアや視点が生まれ、新しいビジネスモデルの開発に向けたヒントが得られる可能性もあります。
このように、M&Aは単なる人材確保に留まらず、イノベーションと会社の成長を加速するための手段にもなり得るのです。
M&Aは人材確保以外にも、企業にとってさまざまなメリットがあります。
M&Aによって複数の会社が統合されることで、重複する管理部門や生産設備が共有され、経営コストの削減につながる可能性もあります。
管理コストや人件費、設備の維持費などの固定費を削減できれば、統合後の経営効率の向上につながるでしょう。
M&Aを行うことで、買い手企業と売り手企業との間でシナジー効果を生み出せる可能性があります。
たとえば、両社の強みを活かして新たな商品開発やサービスの向上を図ったり、新規市場の開拓なども効果的に行えるようになるでしょう。
相手先の会社が持っている優れた技術やノウハウを自社に取り込むことができるのもM&Aのメリットです。
たとえば、その企業が保有している特許技術や独自の製造プロセス、優れたビジネスモデルなどを活かすことで、自社の技術力を強化したり、製品やサービスの品質向上に貢献できる可能性もあるでしょう。
その結果、市場における競争力が高まり、会社として長期的な成長が見込めるようになります。
売り手企業または買い手企業が強いブランド力や顧客基盤を持っている場合、M&Aを行うことで自社のブランド価値と知名度が向上する可能性もあります。
高度なマーケティング戦略や莫大な広告宣伝費をかけずとも市場における自社のポジションが強化され、売上規模の拡大につながっていきます。
関連記事:M&Aの目的を買い手・売り手の両視点から解説!課題やポイントも紹介
人材確保を目的にM&Aを行う場合、いくつか注意しておかなければならないポイントがあります。
M&Aによって異なる会社同士が統合する際には、企業文化や価値観の違いが問題になることがあります。
経営者の考え方や人材育成の方針、企業内部で共有されている行動規範などの違いにより、会社によっても文化は異なります。
これにより、統合後に社員同士の意見や考え方が対立し、職場環境の悪化やモチベーションの低下につながる可能性があります。
このような事態を招かないためにも、M&A後の統合プロセスではお互いの文化を尊重し理解し合う姿勢が重要です。
M&A後の統合によって、組織の再編や役職の見直しが行われることもあり、自身の将来に不安を感じたり、キャリアが停滞すると感じたりする社員も少なくありません。
最悪の場合、これらが原因で社員が次々と退職していく懸念もあります。
M&Aにあたっては社員に対する十分な説明とサポートを行い、透明性が高く公平な組織再編や役職の変更を行うことが大切です。
M&A後には、双方の会社間で異なる評価基準や報酬制度を統一する必要がありますが、これにより待遇が大幅に悪化し不満を抱く社員も出てくるでしょう。
社員間の不公平感が高まると、モチベーションの低下やパフォーマンスの低下を引き起こす可能性もあるため、双方の給与体系や福利厚生制度が異なる場合には、どの基準に統一するかを慎重に検討する必要があります。
M&Aの条件によっては、雇用契約の内容や条件、あるいは取引先との契約などが見直され、トラブルに発展する可能性も考えられます。
社員や取引先などが一方的に不利な条件を強いられる場合、訴訟リスクを抱えるリスクも生じることから、弁護士や司法書士などの専門家の協力を得ながら適切に対処することが求められます。
M&Aによって人材確保に成約した企業の事例をいくつかご紹介しましょう。
介護事業を手掛ける株式会社樫の木は、創業以来順調に経営規模を拡大してきた一方で、深刻な人手不足にも頭を悩ませていました。
そこで、地域に安定した介護サービスを展開するために、M&Aによる人材確保に着手。社員のことを第一に考え、地域社会への貢献を最優先に考えてくれるパートナーが見つかり安定的な人材確保に成約しています。
医療法人清水桜が丘病院は、北海道釧路市で長年にわたって多くの患者を受け入れてきた精神科のクリニックです。
しかし、院長が病気によって倒れたことなどをきっかけに、一族だけで病院を経営していくのは困難であると感じ、人材確保のためにM&Aを決断。
現在では人材確保の問題はもちろん、治療に欠かせない資材も安定的な確保がしやすくなったといいます。
ワイヤーハーネス加工や自動車部品の製造を手掛ける株式会社河合光機は、自身も買い手企業としてM&Aを行い経営規模を拡大してきた歴史があります。
自社の持続的な成長と存続を実現するためには、信頼して経営を任せられるパートナー企業とのM&Aが最善の策であると考え、トップ面談を経て会社を譲ることに。
社員の安定的な雇用継続はもちろん、待遇面の改善によって人材確保につなげています。
コンクリート補修の工事を請け負っている株式会社横浜システックでは、人手不足の深刻化により売上の停滞を招いていました。
自社の存続のためには人材確保が急務と考え、M&Aに向けて動き出しました。
複数の候補企業と面談を行った結果、コンクリート事業と不動産業を営む企業との交渉がまとまり約半年で契約が成立。
M&A後は社員の待遇も向上し満足度の高い結果が得られたといいます。
空調設備や給排水設備工事、電気工事などを手掛ける株式会社日乃出エヤコンは、深刻な技術者不足に頭を悩ませていました。
そこでM&Aを検討するようになりますが、M&A仲介会社からの紹介を受けたのは創業100年の大きな会社でした。
「自分の会社が下に見られてしまうのではないか」と不安があったといいますが、トップ面談では仲間になって欲しいとの提案を受けこれを快諾。
今後は買い手企業の協力も得ながら採用に力を入れていきたいとのことです。
有限会社ティー・エス・メディカルは、補聴器や医療機器の販売、クリニックの開業支援などを手掛ける企業です。
社長である外崎氏は社員に対して積極的に権限委譲を行っていましたが、薬剤師不足に頭を悩ませていました。
そこで大手調剤薬局グループとの交渉が進められた結果、社員の継続雇用はもちろんティー・エス・メディカル側にとって有利な条件が提示されたことでM&Aが成立しました。
有限会社アトムメディカルは神奈川県で調剤薬局を営む企業です。
社員数は10名ほどの家族経営の企業で、他店舗展開はあえて行わず地元に根ざした経営を行ってきました。
しかし、薬剤師不足や大手調剤薬局の台頭などもあり経営は決して楽ではなく、それまでの経営体制に限界を感じるようになります。
そこで、安定的な事業継続と人材確保を目的にM&Aを検討するようになり、仲介会社から紹介を受けたのが大手調剤薬局グループです。
大企業でありながらも個人経営や家族経営の調剤薬局を大切にしていることに魅力を感じ、社風もマッチすると考えM&Aを決断しました。
進和基礎工業株式会社は、グラウンドアンカー工事および各種ボーリング工事を手掛ける建設会社です。
建設業界は深刻な人手不足に陥っており、同社も例外ではありません。ときには人手不足を理由に工事依頼を断らざるを得ないケースもあったといいます。
そこで、同業他社であった大手工事会社との面談を経て正式にM&Aが成立。
人材確保の面だけでなく、顧客基盤の拡大や施工管理の効率化などのメリットも得られるようになりました。
関連記事:M&A仲介会社とは?利用するメリットや仲介業者の選び方
M&Aといえば一般的には経営規模の拡大や事業承継などを目的として行われることが多いですが、今回ご紹介したように人材確保の面でも有効な手段のひとつです。
ただし、M&Aにあたってはさまざまな成功事例がある一方で、企業文化の違いや人事制度や雇用条件の変更などによって社員の退職を招くリスクもあります。
このようなトラブルを防ぎ安定したM&Aを実現するためにも、専門家のアドバイスを仰ぎながら交渉を進めていきましょう。
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
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