M&Aストーリー M & A Story
これまで通り地域に根づいた調剤薬局であり続けたい。

これまで通り地域に根づいた調剤薬局であり続けたい。

会社名
有限会社アトムメディカル
業種
調剤薬局
M&Aで達成した内容
大手傘下入りによる安定的な経営・薬剤師の雇用確保
M&Aアドバイザー
永沢 渉

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M&Aに至る背景個人経営・家族経営の調剤薬局に、先行き不安を覚える。

M&Aに至る背景
有限会社アトムメディカルは2001年、後藤務氏の父、稔氏によって設立された。稔氏はもともと製薬会社のMRである。当時担当していた医師の勧めもあり、神奈川県鎌倉市で調剤薬局を開業。以降、JR「大船」駅と「北鎌倉」駅、それぞれの駅前において、2つの店舗を運営してきた。稔氏のあとに稔氏の妻が社長を務める時期が何年かあり、務氏がそれを引き継いでいる。

典型的な家族経営の調剤薬局で、従業員は10名足らず。前職がシステムエンジニアだった務氏は非薬剤師のため、社長職を退いた稔氏も一薬剤師として患者に薬を処方した。従業員からは、稔氏が「大先生(おおせんせい)」、務氏が「若先生(わかせんせい)」と呼ばれている。

創業当時はまだ院外処方を受けつける調剤薬局が珍しく、それなりの患者数と利益を確保できていた。そしてまた、自分の目の届く範囲で患者をサポートしたいという信念が稔氏にはあり、必要以上の多店舗展開は行わなかった。
M&Aに至る背景
しかし、政府が推し進める「かかりつけ薬局」制度の導入における薬局の基本的機能として、薬局の24時間営業が求められるようになってから、少しずつ風向きが変わりはじめる。実際、ドラッグストアやOTC医薬品(一般用医薬品および要指導医薬品)を取り扱う量販店では、大型店を中心に24時間営業化が進み、個人経営や家族経営の調剤薬局ではとても太刀打ちできない状況に陥っていった。

また、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の普及によって収益が減少したことや、薬剤師の人材確保が難しくなったことも、アトムメディカルの経営に大きな打撃を与えた。とくに全体の65%を占めるともいわれている女性の薬剤師が、結婚や出産などのライフイベントをきっかけに退職の道を選ぶケースは少なくない。非薬剤師の務氏にとって、これはかなり深刻な問題だった。

2015年に大船店を当時の従業員に譲渡してからは、北鎌倉の1店舗のみで細々と経営を続けていたものの、稔氏と務氏の両名とも、個人経営・家族経営の調剤薬局の未来に限界を感じていた。

M&Aの決断永沢さんが勧めるのなら、間違いはないだろう。

M&Aの決断
MABPの永沢渉は前職の製薬会社で、稔氏と同じくMRの業務にあたっていた。2012年から2015年の4年間にわたり、アトムメディカルを担当した経歴をもつ。MABPに転職後、当時お世話になった稔氏に連絡を入れたところ、事業譲渡を検討している旨の相談を受け、今回のM&Aの話がもちあがった。

大船店を手放す際にも、稔氏の頭の中にM&Aという選択肢はあった。調剤薬局のM&Aに関するニュースを耳にする機会も多く、M&Aに対するネガティブなイメージは、稔氏にも務氏にもない。譲渡企業側からすれば、後継者不足の解決や、大手傘下入りによる事業拡大が期待できる。一方、譲受企業側にとっては、店舗網の拡大のほかに、既存顧客や薬剤師の獲得、共同仕入れによるコスト削減などが、メリットとして挙げられる。双方の思惑は、比較的一致しやすいといえた。
M&Aの決断
永沢はアトムメディカルに対し、株式会社エスシーグループを紹介することにした。エスシーグループは東京都板橋区に本社を置く調剤薬局である。創業は1994年。この30年の間に店舗数は100店舗以上になり、従業員数900名、売上規模200億円を誇る。大企業でありながら、個人経営・家族経営の調剤薬局の存在を大切にし、社風はアトムメディカルに近しいものがあった。また、神奈川県内の4店舗のうちのひとつが、以前アトムメディカルが店舗を置いていた「大船」駅前にあり、それによるシナジー効果も期待できた。

稔氏と永沢は、以前から強い信頼関係で結ばれている。永沢が提示した譲受企業の候補はエスシーグループ1社のみだったが、稔氏は「永沢さんが勧めるのなら、間違いはないだろう」と、二つ返事で交渉の場につくことを決めた。また、務氏もそれに従った。

細かい条件面の調整や、財務・税務・法務調査への対応などは、経理担当を兼任する務氏が行った。同等以上の条件で従業員の雇用を維持することは、アトムメディカル側の最優先事項である。そして、永沢の事前の根まわしや迅速かつ広範なサポートもあり、初面談からわずか4ヶ月という異例のスピードで、株式譲渡契約が結ばれることになった。

M&Aの振り返りと展望調剤薬局に求められる新たな姿とは?

M&Aの振り返りと展望
契約成立後、エスシーグループの皿澤康孝会長と皿澤宏章社長が、アトムメディカルの北鎌倉店を訪れた。大企業のトップふたりが、従業員数10名そこそこの中小企業に、わざわざ挨拶に来てくれるなんて…。稔氏と務氏はもちろん、従業員たちも驚きを隠せなかった。しかし、今後の経営方針に関する説明が行われ、トップの口から「一緒にがんばっていきましょう」という旨の宣言があったことで、その驚きは安堵に変わったのだった。

超高齢化社会を迎えている日本では、医療のあり方が大きく見直されている。 その動きは、コンビニエンスストア以上の店舗があるといわれる調剤薬局においても例外ではなく、診療報酬の抑制や人手不足などが相まって、いま、新たな局面を迎えている。

調剤薬局が地域医療により深く関わっていくため、2016年度の診療報酬改定を契機に、「かかりつけ薬剤師指導料」の加算が可能となった。これまでの隣接するクリニックを中心とした処方から、特定の医療機関や診療科の処方によらない、いわゆる地域の処方を応需し、必要に応じてカウンセリングを行うなど、患者向けの健康サポートを強化することが、調剤薬局には求められているのだ。

ただ、そうした変化は薬局単店の機能拡大が前提となっているため、個人経営・家族経営の調剤薬局にとっては厳しい現実が待ち受ける。前職での縁が紡いだ今回のM&Aはある意味で特殊な例かもしれないが、譲渡企業・譲受企業双方にとってメリットの大きいM&Aは、選択肢のひとつとして、より積極的に検討されるべきなのではないだろうか。

稔氏は引き続き一薬剤師として、新体制となった店舗を訪れる患者に対し薬を処方する。一方、会社から離れた務氏は、この離職期間を知識のインプット期間と位置づけ、次なるステージを目指すことになった。それぞれに立場は変わったが、しかし、これまで通り地域に根づいた調剤薬局であり続けたい、あり続けてほしい、という思いは変わらない。

お客様プロフィール

お客様プロフィール

有限会社アトムメディカル

代表取締役社長後藤 務 氏

2001年、後藤務氏の父である稔氏が、神奈川鎌倉市にて有限会社アトムメディカルを設立。JR「大船」駅と「北鎌倉」駅の駅前で2店舗を運営し、調剤や服薬指導のほか、きめ細やかなカウンセリング業務を行う。その後、大船店を当時の従業員に譲渡し、今回のM&Aで残りの北鎌倉店も譲渡した。資本金300万円。従業員約10名。北鎌倉薬局所在地:神奈川県鎌倉市山ノ内1337-5

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