2024年5月23日

【自社株買いとは?】目的やメリット・デメリットをわかりやすく解説

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【自社株買いとは?】目的やメリット・デメリットをわかりやすく解説

自社株買いによって余剰資金を株主に積極的に還元する企業の動きが増えています。本記事では、上場企業の自社株買いの概要について紹介します。自社株買いの仕組みや意味を理解したい方は、ぜひ参考にしてください。

自社株買いとは

自社株買いとは、企業が自ら発行した株を買い戻す行為を指します。株式発行企業は、事業資金を得るために株式を発行しますが、自社株買いはその反対に自己資金を出して自社株を買い戻します。買い戻した株式は消滅させる「償却」、もしくは「金庫株」として保有するなどして調整し、株主への利益還元や株価の上昇といったポジティブな結果を実現させます。

自社株買いのメリット

それでは、企業が自社株買いを行う積極的な理由を見ていきましょう。

株当たり利益を高められる

市場に出回る株式数を減らすことで、1株あたりの純利益(EPS)を高め、株価収益率(PER)を下げることが期待できます。

株主還元として好感が持たれる

自社株買いは株式価値の上昇につながるため、株主還元として好感が持たれます。市場に対し、成長を期待した株式の長期保有や、継続的な購入を促す材料となりえます。

株価の下支えになる

自社株購入によりEPSとPERの指数変動が起こることで、市場における自社株の価値が上がります。株主にとって保有する魅力が高い商品となることは、株主の大量売却といった株価の暴落原因を抑え、株価の下支えとなるでしょう。

なお、EPSは「Earnings Per Share」の略で、市場が企業を評価する際に使われる指標のひとつです。(当期純利益÷発行済株式数)で算出されます。EPSは企業の規模にかかわらず、基本的に数値が高いほど企業の収益力は高いと見られます。また、同じ企業の当期EPSと前期以前のEPSを比較することで、企業が順調に成長しているかを判断されるでしょう。

また、PERは「Price Earnings Ratio」の略で、株価が割安か割高かを判断するための指標です。株価をEPSで割ったものがPERとなり、一般にPERが高いと利益に比べて株価が割高、低ければ割安であるといわれます。

自社株買いのデメリット

自社株買いにはメリットがある一方で、次のようなデメリットも懸念されます。詳しく見ていきましょう。

運転資金が減少する

自社株買いは自己資金によって行われるため、自己資本比率(自己資本 ÷ 総資本)が低下します。自己資本比率が著しく低下しないように、十分に自己資本を準備して実施する必要があるでしょう。

自己資本比率とは、返済不要の自己資本(手元のキャッシュ)が全体資本の何%かを表します。会社経営の安定性を示す数値として高いほどよいとされているため、自己資本比率が低下すると株主や投資家から財務リスクの懸念を持たれる可能性があります。その一方、自己資本の縮小は後述するROEの調整にも関わり、一概に問題ばかりではありません。

過度な買い過ぎには注意が必要

自社株買いは計画と実行に多くの時間や経営リソースを要します。市場から好意的に受け止められるよう、自己資本の準備や、市場から回収した株式の取り扱い方法、またその目的と計画を発表し結果を残す必要があります。自社内の経営管理部等に事務局を設置し、株式管理を委託する金融機関や、専門のコンサル企業にアドバイスをもらうなど、問題点がないか細心の注意を払って行うことが望ましいでしょう。無理のある計画の場合、株主の離脱を加速してしまう場合も懸念されます。

自社株買いの目的

このように株主や市場にとって魅力のある自社株買いですが、実施する企業が自社株買いを行う目的はなんなのでしょうか、次の項目で見ていきましょう。

資本の最適化

一つ目の目的は「資本の最適化」です。株式会社の資本構成要素である他人資本(借入)と自己資本の比率や内容・内訳などが、その企業にとって最適なバランスを取り、資本コストが最適になる構成のことを最適資本構成といいます。自社株買いは、他人資本(自社株流通による他人資本依存)を減らし、各企業にとって目指すべき資本構成の実現のために行う場合があるでしょう。

株価対策

自社株買いにより、前述の1株あたりの純利益(EPS)、株価収益率(PER)の改善のほか、ROE(自己資本利益率)の向上からも株価の上昇が見込まれます。

ROEとは、「Return On Equity」の略で、「自己資本利益率」ともいわれ、株主が出資したお金を元手に、企業がどれだけの利益を上げたのかを数値化したものです。「企業がどれくらい効率良くお金を稼いでいるか」を示します。基本的に、ROEが高いほど資本をうまく使って効率良く稼いでいる企業、反対にROEが低いほど経営効率の悪い企業だと判断されます。

ROEは当期純利益 ÷ 自己資本 × 100%の計算式で求められ、一般的には10%を上回ると投資価値がある優良企業といわれています。自社株買いにより、自己資本を下げることでROEの数値を上げることができるでしょう。自己資本比率とのバランスを取りながら、目的の数値を目指すことができます。

経営陣の株式報酬

株式報酬は、株価に連動して報酬が支払われるインセンティブ報酬の仕組みの一つです。日本においては取締役報酬を金銭報酬から株式報酬にシフトする動きが見られます。回収した株式を役員報酬として付与するため自社株買いが実施される場合があるでしょう。

自社株買いの方法

自社株買いの方法

それでは、企業が自社株買いを行うにはどのような手法があるのでしょうか。

自己株式を取得する方法には、「市場取引や公開買付けで取得する方法」と「特定の株主から取得する方法」があります。

「特定の株主からの取得」は、総会の特別決議で承認された上で、「市場価格を超えない値段」で実施されます。

「市場価格を超えた値段」で「特定の株主から買取」を行う場合、他株主総会の原則2週間前までの全株主への通知が必須とされます。また、株主には総会5日前まで自己株式の追加買取請求権が与えられます。1人でも追加請求が行われた場合、議案の変更等による対応により総会の実施が事実上不可能になるでしょう。

このように自社株買いは自己株価格の操作につながる可能性から、市場や株主に公平な機会を与えるような法的仕組みとなっています。

では次に「市場取引や公開買付けで取得する方法」を見ていきましょう。

市場買付け

市場買付けとは、株式市場で取引されている自社の株式を会社が市場から直接買い入れる手続きです。売主を特定の相手方に限定せず、市場において売付注文に対して企業が買付けを行います。

公開買付け

公開買い付けとは通常、TOB(Takeover Bid)と呼ばれています。株式の買付価格や期間、株式数などを公告し、取引所外で多くの株主から大量に買付ける手法を指します。他社の株式を購入する場合には経営権取得を目的とした敵対的買収の場合があります。

その他(第三者割当増資など)

その他、特定の第三者に株式を有償で引き受けてもらうことで資金を調達することがあります。市場に流通している株式を自社に引き上げるために、新株を発行する方法です。一時的に発行済株式数が増加しますが、回収した自社株を償却することで、結果として株式数を減らすことができ、手元に目的の株式数の取得に必要な資金がない場合の調達方法として利用できるでしょう。

自社株買いに関するリスク

これまで見てきたように、自社株買いは自社株の価値の変動に直結する手続きであり、株価に関わる指数は関連し合うため、目的を達成するには綿密な計画と専門性が必要なことがわかります。それでは最後に、企業側が認識すべき自社株買いにおけるリスクを確認していきましょう。

資金繰りが悪化しやすい

自社株買いによって会社の資金が不足し、倒産となる危険性もあります。資金管理には細心の注意を払い、必要な資金を充分に蓄えた状況で実施することが基本と言えるでしょう。

自己資本比率が低下する

自社株買いは、自己資本比率(自己資本÷総資本)が低下します。自己資本比率とは、返済不要の自己資本(手元のキャッシュ)が全体資本の何%を表し、会社経営の安定性を示す数値として高いほどよいとされます。一方、自社株買いにより、自己資本を下げることでROEの数値を上げることができるでしょう。

基本的に、ROEが高いほど資本をうまく使って効率良く稼いでいる企業、反対にROEが低いほど経営効率の悪い企業だと判断されます。

このように指数が表裏一体となっているため、自社株買付計画には企業の経営状況と、市場の動向を踏まえた綿密な計画が必要です。

買い付け時のルールが設けられている

自社株買いは株価に大きな影響を及ぼすため、買い付け時のルールが定められています。株式公開企業では前述の総会での規制にくわえて、市場買い付け時のルールも定められています。例えば、上場企業の場合は指値注文の金額やタイミング、1日の買付数量などに制限がかけられています。また、上場していない中小企業に関しても、「財源規制」と呼ばれるルールがあり、分配可能額(利益剰余金とほぼ同額)を超えた自社株買いを禁止する規制しています。

自社株買いによる倒産を防ぐためにも余力以上の自社株買いは禁止されていると言えるでしょう。

株主と従業員、社会との利益相反

会社経営における利益相反とは、会社の利益と取締役や社員、株主、顧客などの利益が相反している状況を指すものです。自社株買い付けにより、さまざまな数値に影響が出るため、特に企業にメリットが大きい買い付けとなった場合、今後の株主・従業員へ配当や株価による価値提供の説明は必須でしょう。また社会的常識を超えるような手段や結果となった場合、レピュテーションリスク(reputation risk)となり企業の存続に直結してしまう可能性さえあるでしょう。

まとめ

自社株買いとは、市場に出回る株式数を自社が買い戻すことによって調整し、それによって株価価値が上昇することで株主還元とする経営手法の一つです。企業は自社の経営状況に応じて、資本構成の最適化や役員報酬の手段等を目的とした実施を検討することができるでしょう。企業価値を判断する各指数に影響を与え、また買い付けには法的な規制が数多くあるため、綿密な計画を立て、さらに専門機関によるアドバイスが欠かせないと言えます。

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