
少額の株式投資が話題となっている近年、「従業員持株会」のニーズも高まっています。
従業員に向けて福利厚生を充実させたいと考えたり、企業イメージの向上を目指している経営者の方は参考にしてみてはいかがでしょうか。
目次
持株会とは
従業員持株会(以下、持株会)とは、会社の従業員及び子会社の従業員が、所属企業の株式取得を目的として運営する組織、もしくは制度そのものを表します。
従業員の資産形成を支援する福利厚生として多くの企業に導入されており、東京証券取引所の調査レポートでは、2023年3月末時点の東京証券取引所上場国内企業3,868社のおおよそ8割に当たる3,262社が導入していることがわかります。
持株会の仕組みと制度
持株会の基本的な仕組みや制度について解説します。
基本的な仕組み
持株会は加盟した従業員の給与や賞与を原資として、持株会名義で定期的に自社株を購入します。
また、保有している株式に対する配当金は、持株会の規約に沿って、会員の拠出金額に応じて配分されます。
注意点として、持株会を通して購入した株式は持株会のものであり、従業員が直接所有するものではありません。
日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」によると、従業員持株会の目的は ”従業員の福利厚生の増進及び経営への参加意識の向上” と定義されています。
そのため、持株会を導入している企業の多くは、購入資金を給与から控除したり、奨励金の支給を行ったりしています。
持株会の2つの制度
持株会の福利厚生効果をさらに高める制度として、日本版ESOP※とも呼ばれている2つの制度があります。
※企業が自社株を買い付け、従業員へ配分する制度
- 従業員持株会型ESOP信託
- 株式給付型ESOP
持株会は、インサイダー取引の回避も兼ねて定期的に自社株を購入する必要があります。
そのため、株式購入のタイミングによっては損失が生じ、購入費用を拠出している従業員に影響が出ます。
従業員持株会型ESOP信託を導入している場合、信託受託者が委託者である企業から一括で株式を購入し、持株会は信託受託者から株式を決まった価格で購入します。
また、信託終了時に発生した損失は、委託者である企業が負担します。そのため、従業員は市場に左右されずに安定して株式を入手でき、損失額を負担する必要がありません。
株式給付型ESOPは、退職時または在職中に、自社株が従業員へ報酬として付与される制度です。
どちらも福利厚生の制度ですが、従業員側から見た場合「従業員持株会型ESOP信託」は自ら資金を拠出する投資、「株式給付型ESOP」は企業からの報酬という違いがあります。
持株会のメリット・デメリット
持株会を導入することで、企業や従業員にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
それぞれの視点から見たメリットとデメリットを詳しく解説します。
企業側のメリット・デメリット
企業側のメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット |
従業員の帰属意識が向上する | 運用コストが発生する |
従業員の財産形成支援ができる | 株価変動のリスク |
株主の確保ができる | ー |
メリット
自社株式を保有することで従業員の帰属意識が向上し、働くモチベーションにもなるでしょう。
また、従業員の中長期的な財産形成にもつなげることができます。従業員へ向けた財産形成の支援は、福利厚生だけでなく従業員の満足度向上にもつなげられます。
そのほかに、持株会を作ることで安定した株主の確保も可能です。持株会が自社株を保有していれば、敵対的買収に向けた対策ができるなど、経営面の不安を減らすことができるでしょう。
デメリット
株式運用などで発生する事務委託手数料は、会社側と従業員どちらが負担するか選択することができます。
会社側が手数料負担をする場合、手数料は年々増加し、企業の負担となることがあります。
持株会が購入する株式は優先的に配当が行われ、配当金額が市場に出回る一般株式より高くなるように設定することができます。
そのため、業績が悪化してもある程度の配当を捻出しなければならないことも、企業側のデメリットです。
従業員側のメリット・デメリット
従業員側のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット |
業績に連動した資産形成ができる | 会社に対する依存度が高くなる |
少額から株式取得が可能 | 売却時期の制限がある |
奨励金の支給が受けられる | ー |
メリット
企業が増資をした場合、持株会は優先的に取得権を得られるケースが多いです。自社株を取得することで、会社の業績に連動した資産形成ができます。
また、自社株は会社の業績に連動して価値が変わります。株価が上がることは、「自信が会社に貢献してる」と実感することができるでしょう。
個人で企業の株を購入する場合、ある程度まとまった資金が必要です。近年では少額投資に対応した証券会社も登場していますが、少額購入に対応している企業はまだ少ないです。
一方で、持株会は最低金額をクリアしていれば、少額でも自社株を購入することができます。
少ない資金でも株式投資ができることは、持株会に入る大きなメリットといえるでしょう。
企業から株式購入にかかる費用の奨励金が支給されることも、持株会によって得られる大きなメリットです。
企業によって奨励金の設定は異なりますが、東京証券取引所の調査レポートによると、持株会導入企業の多くが奨励金を支給しています。
デメリット
持株会制度を活用した資産形成は、収入も資産も会社に依存していると言えます。
面倒な株式購入手続きが社内で完結し、奨励金の支給や配当が得られるなど、さまざまなメリットがあります。
しかし、会社の経営が悪化した場合、収入が減り、積み立ててきた株式の価値も下がる可能性があります。万が一倒産してしまったときは、株式を失うことにもなりかねません。
収入だけでなく資産形成も会社へ依存することは、投資に対するリスクの分散ができなくなる可能性がり注意が必要です。
通常の株式投資のように好きなタイミングで売却できないことも、持株会のデメリットです。
売却を行う場合、持株会の規約に従った手続きが必要です。委託している証券会社で売却できる株式に変換することが必要なため、売却までに時間がかかるケースは多いです。
資金調達を目的として持ち株の売却を検討する場合、すぐに現金化ができないことは、持株会ならではのデメリットといえるでしょう。
持株会の導入と運営
導入することによって会社、そして従業員に対するメリットが大き場合、持株会の導入は会社の成長にさまざまな利益をもたらしてくれるでしょう。
持株会を導入するために必要な手続きや出資金の拠出方法をご紹介します。持株会のメリットに魅力を感じた方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。
持株会の設立手続き
持株会は、株式を発行している会社の取締役会の決定によって設立ができます。
持株会は民法第667号にある「組合契約」の組合にあたり、当事者である企業とその従業員、および大株主や労働組合といった関係者との協議を行います。
企業は設立手続きのための事務局を設置し、持株会の設立後の役員(理事長、理事、監事)を発起人として選任します。
株式購入や運用などの管理運営は、証券会社や信託銀行などの外部専門機関へ依頼するケースが多いです。
株式保有比率の決定
事務局は、持株会の設立に向けて規約の作成を行います。
規約のなかでも「株式保有比率」についての取り決めは、欠かすことはできません。会社法では、株式の保有比率によって株主に与えられる権限が変わるためです※。
持株比率が50%を超えた場合、議案を単独で可決することが可能です。そのため、議決権のない種類株の作成も検討する必要があります。
※株式補通比率ごとに行使できる権利の例
持株比率 | 行使できる権利 |
1株以上 | 配当受取権、株主総会の議決権等 |
1%以上 | 提案権(企業の方針や経営について提案する権利) |
3%以上 | 株主総会の開催、帳簿の閲覧、監査請求権(企業の適正な経営を確認するための監査請求権) |
33.4%以上 | 自己株式の取得請求権(自己株式を企業に買い取らせる権利) |
50.0%以上 | 単独で重要な決議を通すことが可能 |
出資金の拠出方法
持株会を設立する場合、株式購入費用の拠出方法についても定める必要があります。
拠出金には定時拠出金と臨時拠出金があります※。
給与のみ・賞与のみ・それぞれから拠出など、企業の状況に応じて設定することができます
※拠出方法の種類
定時拠出金 | 規約の定めにより、会員があらかじめ申し込んだ金額を給与及び賞与から天引きする拠出方法 |
臨時拠出金 | 規約の定めにより、会員の申し出により臨時に拠出する方法 |
持株会における奨励金
従業員が持株会によって得られるメリットの一つに、奨励金があります。
支給される奨励金の金額は企業によって異なりますが、多くの企業で奨励金は支給されています。
持株会における奨励金の意義や法律上の取り扱いについて、詳しく解説します。
奨励金の意義と金額設定
奨励金は必ず設定しなければいけないものではありません。
しかし、東京証券取引所の調査レポートによると、持株会をもつ上場企業の多くが奨励金を支給しています。
奨励金を支給することで、従業員が持株会へ加入する意欲を掻き立てます。
2023年3月末時点の調査では、持株会をもつ企業全体の96.5%で奨励金が支給されており、そのうち100円以上150円未満の奨励金を支給する企業が全体の4割を占めています。
法律上の取り扱い
日本証券業協会の「持株制度に関するガイドライン」によると、「福利厚生制度の一環として取り扱われる範囲内において、定時拠出金に関して一定比率を乗じた額または一定額の奨励金を付与することができるもの」とされています。
なお、奨励金は会員の給与として課税されます。
毎月支給される奨励金の場合は給与に加算して源泉徴収を行い、年1回支給する奨励金であれば賞与として源泉徴収が行われます。
M&A時の持株会の取り扱い
近年、さまざまな業種でM&Aが活発に行われています。
株式譲渡によるM&Aが行われる場合、持株会が保有している株式も買い手企業へ売却することになる可能性が高いです。
多くの持株会は組合であるため、株式の発行企業が勝手な売却を行うことはできません。株式を売却するために会員全員の同意を得るか、持株会を解散して清算手続きを行う必要があります。
従業員の持つ自社株は買い手企業へ譲渡され、従業員はそのM&Aの取り決めに応じた対価を受け取ることになります。
まとめ
従業員持株会は、会社独自の福利厚生として従業員にも企業にもメリットがある制度です。
従業員にとっては、会社の業績に連動した資産形成を奨励金等の補助を受けながら行うことができます。
企業にとっては、従業員のモチベーションを上げ企業への愛着を深めることができ、さらに長期安定株主の確保による経営の安定化も図れます。
中小企業にとっては、事業承継対策にもなるでしょう。
さまざまなメリットがある一方で、記号にとっては管理コストや配当金、奨励金の捻出などデメリットも存在します。
従業員にとっては現金化に時間がかかるといったデメリットがあります。
メリット・デメリットを比較し、メリットが大きければ持株会の検討をしてみてはいかがでしょうか。
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