2024年5月17日

株式分割のメリットとデメリットを投資家と企業それぞれわかりやすく解説

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【株式分割】メリットや知っておくべきポイントがわかる!

新NISAの開始や長引く低金利などよって、金融資産の人気は貯蓄から投資へと変化しています。

そこで注目されている株式分割とは一体どのようなものなのでしょうか。また、どんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

この記事では、株式分割の概要や企業・投資家それぞれの視点によるメリットとデメリット、手続きの流れや実際に株式分割を行った企業事例などを紹介します。

株式分割とは

株式分割とは、既に発行されている株式をより細かく分割すること。株式総数は増加しますが、企業の価値は変わりません。

また、既に株式を保有している投資家にも分割された株式が割り当てられるため、こちらの価値も変わりません。

整倍数に決まりはなく、1.5倍、100倍といった分割が行われることもあります。

株式分割の仕組み

株式分割の仕組みや保有株式数や株価の変化を考えてみましょう。

ある企業の株価が1株1,000円だったとします。この株を株式分割により10分割にすると、1株当たりの単価は10分の1で、1株100円になります。

この企業の株式発行数が1万株だったとすると、元々1千万円の価値があったことになります。株が10分の1になると、1万株の株は10万株と多くなりますが、1株あたりの価格も10分の1で100円になるため、価値が1千万円であることには変わりません。

株主の立場でもこれは同様です。ある株主が元々100株、10万円分の株を持っていたとします。株式分割によってこの株主の株は1,000株に増加しますが、1株100円となったため、価格は変わらず10万円となります。

株式分割と増資の違い

株式分割と増資の違いは資本金等の額に変動があるかないかです。

増資とは企業が新たに株式を発行して資金を調達すること。新しい株を発行し、その対価として投資家から出資を受けます。

一方、株式分割は1株あたりの株価を下げることで総株数のみが増加します。増資は資本金が増加しますが、株式分割には資本金の増加はありません。

株式分割の目的

株式分割の目的

1株あたりの価格が低下する株式分割ですが、どのような目的で行われるのでしょうか。

ここでは株式分割の目的について解説します。

株価の適正化

株式分割は株価の適正化を目指して行われることがあります。

株式を購入する際の現在の株価が妥当かどうかを判断する基準として、「PBR」と「PER」があります。

PBRとはPrice Book Ratioの略称で、日本語では株価純資産倍率のいいます。企業の純資産が1株あたりの何倍まで買われているかで株価の妥当性を判断する指標です。

一方のPERはPrice Earning Ratioの略称で、株価収益率のこと。企業の純利益が1株あたり何倍で買われているかで株価の妥当性を判断する指標です。算出する計算式は

株価÷1株当たりの純利益

となり、現在の企業の純利益に対して株価が割高か割安かの判断基準となります。

PBRやPERに大きなズレがあると株主からの投資機会が減少します。そこで、株式分割をすることにより1株当たりの価格を下げることで株価の適正化を図れるのです。

株式の流動性向上

株式分割で得られる最大のメリットは株式の流動性の向上です。

一般的に、株価が低いほど投資家が株を購入しやすくなり、市場での株の取引量が増加します。

例えば1単元100株の株を購入しようとする場合、1株10万円だと1,000万円用意する必要があるため、個人投資家などは簡単に手が出せません。

しかし、この株が100分割されて1株が1,000円になると、1単元の株が10万円で購入できようになるということです。

これにより購入できる投資家が増加し、株式の売買がより円滑に行われることが期待できるようになります。

上場市場の変更の準備

株式分割は上場市場の変更準備として行うケースもあります。

企業が上場をする際、株式の1単元を100株とすることが定款で決められています。また、それぞれの市場で、株主数や流通株式数に下限が定められています。

例えば東証の場合、プライム、スタンダード、グロースそれぞれの市場では、以下のような株主数・流通株式数の規定があります。

 株主数流通株式数
プライム市場800人以上2万単位以上
スタンダード市場400人以上2千単位以上

配当・株主優待制度の見直しへの対応

配当・株主優待制度の見直しをする際にも、株式分割が行われる場合があります。

配当とは、企業が出資者である株主に利益を分配する制度のこと。所有する株式の割合に比例して、株主は配当を受け取ることができます。企業側が株式分割を行うと、新たな株式の分だけ受け取れる配当が多くなる仕組みです。

一方、株主優待に関しては、2022年4月の東京証券取引所の再編を契機として廃止や減少に踏み切る企業が増えました。

株主優待とは、所有する株式の数に対して企業が自社製品やサービスを提供する優待制度のこと。日本の市場には、株主優待目当ての投資家も多いようです。

しかし東証の再編に伴い、それまで4つの区分だった市場を、プライム・スタンダード・グロースの3つの市場に再編し、上場や上場維持に必要な株主の数が大幅に緩和されました。

例えば東証一部の場合2,200人だった株主数が、プライムであってもわずか800人まで減少されたのです。

企業側としては投資家へのアピールの一環で行っていた株主優待制度を廃止しても規定の株主を維持できるようになり、制度の廃止や減少を行うようになりました。

ただし、株主優待は日本の金融市場において人気の高い制度。あえて株式分割後も株主優待の還元率を変えないことで魅力を高めている企業もあります。

【企業側】株式分割のメリット

株式分割には、企業側・投資家側、双方メリットもデメリットがあります。

まずは企業側と投資家側それぞれの観点から、株式分割のメリットをご紹介します。

株式分割を行うことによって、企業側には主な以下のようなメリットがあります。

株価の適正化による投資家層の拡大

株式分割によって株価が適正化すると、投資家の層が拡大します。特に近年は新NISAの開始により、個人投資家が増加して株式の流通がより活発化しています。

また、株式分割を行うことで流通している株式数が増加し、必然的に株主も増えます。上位市場への昇格も狙いやすくなるでしょう。

株式の流動性向上

株式分割の最大のメリットは、株式の流動性が高められること。

分割比率に応じて株価が下がると、より多くの投資家が株式購入のチャンスを得ることができます。株主の増加は上場市場への昇格だけでなく、企業ファンの獲得にもつながるでしょう。

株主優待制度の見直しによる株主還元

株式分割によって株主が増加すると、株主獲得のために行っていた株主優待を廃止または減少させることができます。

元々株主優待は株主の数を増やすために上場企業が行っていたことが多く、株式を分割すると株主の数が増えるため、株主への還元率を縮小させることが可能となります。

【投資家側】株主分割のメリット

株式分割は投資家側にとってもメリットがあります。

以下に、投資家側から見た株式分割の主なメリットを紹介します。

株式の取得がしやすくなる

株式分割によって1株あたりの価格が下がると、株がより購入しやすい存在となります。これまでは顧客としての接点のみだった会社に対して株主としての接点を持つことで、企業とより密接なコミュニケーションをとることが可能となるでしょう。

株主優待の権利が増える

企業が投資家に対して自社の製品やサービスなどを提供する株主優待。日本の投資家の中には、株主優待を目当てに投資をする人も少なくありません。

株式分割を行うことで、投資家はより多くの企業の株を購入でき、株主優待の権利を増やすことができます。

NISA口座への組み入れがしやすくなる

NISA口座で保有している株式で分割があったとしても、株式に対する権利は変わりません。新たに割り当てられた株式も、自動的にNISA口座へ組み入れられます。

また、株式分割や株式併合があった場合も価格調整はなく課税もされません。

【企業側】株式分割のデメリット

企業と投資家双方にとってメリットが大きい株式分割ですが、残念ながらデメリットもあります。

株価が急激に下落するリスク

株式分割をすると株を売却する際のハードルが下がり、短期的な利益を追求した取引が増加する可能性があります。

1株あたりの株価が高いと投資家は売買において慎重になります。しかし、株価が安くなると心理的な障壁が低くなります。

すると、短期的な利益を求める投資家が増え、株価の急激な下落のリスクが高まるのです。

手続き費用の発生

株式の分割手続きには多くのコストと時間がかかります。法的な手続きや証券取引所への報告、既存の株主への通知など、その業務は多岐にわたります。

一時的な業務負担の増加

株式を分割すると、管理すべき株主の数も増えることになります。名簿の管理や株主総会の運営など、一時的に業務やコストの負担が増加してしまいます。

【投資家側】株主分割のデメリット

株式分割においては投資家側にもデメリットが発生します。

株価が下がる懸念

株式分割は、株価の下落につながる懸念もあります。株主が増えると株価は安定するのが一般的です。

しかし、株価が低くなったことで投機目的の投資家が増えると、株価の価格の変動幅(ボラティリティ)が大きくなり、株価の安定性が損なわれるリスクが生じます。

株式分割の事例

実際の企業で行われた株式分割の事例を見てみましょう。

NTTの事例

市場関係者を大きく驚かせたのはNTT。2023年6月末に1株を25株に分割しました。分割後も1株あたりの株主優待が変わらないとあって、購入希望者が殺到。若年層の投資家を多く呼び込むことに成功しました。

トヨタの事例

トヨタ自動車は2021年9月に、1株を5株に分割する1:5の比率で株式分割を実施。この株式分割は1991年以来、実に30年ぶりのもので、「株価が高く投資が難しい」という投資家の意見に対応し、個人投資家が株式を購入しやすくすることを目的として行われました。

任天堂の事例

任天堂は2022年10月日付で1株を10株に分割しました。分割前は約600万円だった投資単位が約60万円に下がったことから、個人投資家が多く参入するようになり、株価は大きく上昇しました。

株式分割の手順

株式分割の手順

では、実際に株式分割を行う場合の具体的な手順について確認してみましょう。

株主分割は、以下の5つのステップで行われます。

取締役会または株主総会での決議

株式分割は取締役会または株主総会での決議によって始まります。取締役会設置の企業は取締役会、取締役会を設置していない企業では株主総会で普通決議を行う必要があります。

株主への公告

取締役会または株主総会で株式分割が決定したら、株主への公告を行います。

株がいくつに分割されるのか、株主に割り当てられる株式数を通知します。

基準日の決定

続いて行われるのは、株式分割の基準日を決定することです。

基準日とは、株主がどの時点で増加した株式の割り当てを受け取れるのか決定する日のこと。

会社法では株主分割の基準日が決定したら、その2週間前までに告知を行うことが義務づけられています。

効力発生日

効力発生日とは、実際に株式の分割効果が生じる日のこと。株主名簿に記載されている株主が、基準日の時点で保有する株式の比率に乗じた株式を取得します。

法務局への変更登記申請

株式分割を行った企業は、会社の登記簿に対して株式数の変更を申請しなければなりません。申請は企業の本店所在地を管轄している法務局に対し、2週間以内に実施する必要があります。

まとめ

株式分割は、企業にとってはもちろん、投資家にとっても大きなメリットがあることがわかりました。

新NISAの効果により金融市場には個人投資家も多く参入するようになり、企業にはさらなる投資単位の引下げも求められています。

その一方で、株式分割は株価の下落や管理コストの増加などのデメリットがあることも確か。

株式分割をすることが企業にとって利益になるタイミングを見極めて実施することが大切です。

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