エスクローの意味、仕組みや流れ、メリットデメリットについて紹介

著者
M&Aベストパートナーズ MABPマガジン編集部

M&Aは大きなお金が動くことから「できる限り安全性を確保したい」と考える企業が多く見られます。

相手に悪意がなくとも実施数の少なさから、金銭トラブルへのリスクマネジメントが欠かせませんが、その場合に活用できるのが「エスクロー」です。

今回はエスクローの仕組みや活用のメリット・デメリットを紹介します。

M&A契約を円滑に進めるためにぜひ理解を深めましょう。

エスクローとは?

エスクロー(escrow)は、英語で「預託」を意味する用語です

M&A領域においては、第三者が契約における売買取引に介入し、安全に取引を行うことを指します。

M&Aでは買収する企業が売却側に多額の資金を支払います。その際にトラブルを防止する効果がエスクローには期待されています。エスクローはアメリカをはじめとした海外で活用される機会が多いものの、日本国内ではあまり活用の例がありません。

 

エスクローのはじまり

エスクローは戦前戦後、不況の中で不動産取引の安全性を高めるためにアメリカではじまったと言われています。

不況の最中、住宅や土地を売買した際に確実に資金を得られるようにとの目的で仕組みができあがりました。この概念がM&Aにおいても活用されています。

また、近年はネットショッピングにおいても「エスクロー決済」という方法が見られるほど、第三者を介入するお金の動きは浸透しています。

エスクローの仕組みと流れ

ここからはM&Aにおけるエスクローの仕組みや流れを解説します。

M&A契約締結に際して、4つのステップを踏み、成立を目指します。

 

買い手がエスクロー業者に代金を預ける

まず、M&Aの内容に売却側と買い手側が合意すると契約書を取り交わします。

次に買い手側は取り決めた内容を元に必要金額エスクローを扱う機関や事業者に預けます。この時、資金はまだ売却側に支払われていません。

 

売り手が入金を確認して買い手に商品を渡す

資金を預かったエスクロー業者は売却側に対し、その旨を連絡します。

資金支払いを受けて売却側は商品や書類等を買い手側に引き渡します

 

買い手が商品を受け取る

次に買い手は売却側から商品や書類等を受け取ります

このタイミングで契約内容と齟齬がある場合、内容の確認を行ったり取引不成立になることもあります。もしも契約が不成立だった場合は、入金済みのお金は買い手に返却されます。

 

売り手が代金を受け取る

双方が取引に納得し、商品を受け取った場合は売却側に資金が支払われます。この段階で取引が完了です。

このようにM&Aにおいてエスクローを活用すると契約が不成立出会った場合も資金について「戻ってくるのだろか」と不安を抱える必要はありません。煩雑な取引の中で、お金にまつわる不安を軽減できるのはエスクロー最大の特徴です。

 

M&Aでエスクローが活用される理由

ここからはM&Aにおいてエスクロー活用が見られる理由を解説します。

エスクローは国内で活用する企業が少ないものの、効率的かつ信頼感を持って取引が行えます。

 

デューディリジェンスを効率的に実施できる

デューデリジェンス(Due Diligence)は投資用語のひとつで、投資先の価値やリスクを調査することを指します

M&A実施に際して買い手は売却側企業の価値を適切に判断し、契約に進む必要があります。

デューディリジェンスでは主に下記の項目を調査します。

・事業

・財務状況

・法務

・税務

・IT

・人事

上記項目は多岐にわたりかつ専門性が求められるため、弁護士や公認会計士、税理士など様々なプロフェッショナルの力を借りながら進めます。そのため、時間だけでなく費用もかかるでしょう。

デューディリジェンス実施のタイミングは最終契約前が多く、期間は2週間〜数ヶ月と様々です。一般的に企業規模が大きい場合、デューディリジェンスにも時間を要します。

M&Aにおいて買収にかかる資金にプラスしてデューディリジェンス費用がかかるため、「契約が確実になってから資金を支払いたい」と考えるでしょう。エスクローを活用すると、デューディリジェンスが済んでからお金が売却側に移るため、損害のリスクを軽減できるでしょう。

関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?進め方や注意点、費用感について徹底解説

 

企業間で信頼感を持って取引が行える

M&Aにおいては多額の資金が動くため、買い手売り手ともに慎重にやり取りを行います。

少しでもお金に関する不一致が発生すると、その後の企業運営に暗雲が立ち込めるでしょう。

エスクローを活用すると、お金を一度第三者に預けることから、双方がフラットな状態で条件を確認できます。

エスクローの手法

ここからはエスクローの具体的な手法を紹介します。

エスクローと一言で言っても、細かくは「信託契約」「銀行口座」に分類されます。

 

信託契約

エスクローにおける信託契約は、買い手がエスクロー業者にお金を預け「信託財産」として管理してもらいます。そして契約締結や支払いにかかる条件が達成された後にお金を売却主に支払います。

信託契約の場合、買収にかかるお金だけでなく損害賠償金としても扱えるためリスクに備えられます。

一方で手続きが煩雑になる点に注意しましょう。

 

銀行口座

銀行口座を使ったエスクローは買収にかかるお金を口座に送金し、エスクロー業者が管理する方法です。

契約や条件達成のタイミングで売却主にお金を引き渡します。

エスクロー用の銀行口座を開設し、送金するだけのため信託契約と比較して規約や手続きが少ないメリットを持ちますが、金融機関破綻時のリスクがあります。

 

エスクローを使用するメリット

ここではエスクローを使用するメリット3つ紹介します。

エスクローの活用で取引の安全性担保はもちろん、双方の意思確認を明確に行えます。

 

安全性を担保できる

エスクロー使用における最大のメリットは取引の安全性を確保できる点です。

お金のやり取りに第三者が介入し、保証することで透明性の高い取引を行えます。売却主として入金されたことを確認し安心して会社を任せられ、買い手は不成立時の支払いリスクに備えられます。当人同士の場合、主観が入り、お金のことでトラブルが起こりがちです。

しかし、第三者にお金を任せることで具体的な事業の内容に集中できるでしょう。

 

見解の相違を確認できる

エスクローを活用すると、支払いに関する両者の相違を確認しやすくなります。

例えば、一定条件の元で段階的に売却金を支払う場合、条件が不明瞭で「言った言わない」のトラブルが起こりがちです。しかし、エスクロー業者を利用すると「〇〇の条件達成により〇〇万円を支払う」と、細かな取り決めをしてから進めるため、見解の相違が発生しません。

M&Aは複数の企業が手を取り合って企業成長や市場拡大を目指す目的で行われます。しかし、見解の相違があったり契約前にトラブルがあるとその後円滑な運営が難しくなるため、エスクローを活用した透明性のある取引がおすすめです。

 

損害未払いに備えられる

エスクロー損害を受けた場合に備えられるメリットがあります。

M&Aの契約が進み決済が成立しても話を進める中で「話が違う」と不調和に至る可能性があります。また、売却金額は大きいため「本当に支払ってもらえるのだろうか」と不安になることもあるでしょう。

エスクローを利用すると、買い手が売却金を業者に預けた状態を把握しつつ売却側は契約締結や条件達成に向けて動き出せます。そのため、見通しを持ってアクションを起こせるでしょう。また、買い手にとっても売却金を支払った後に契約が不成立になるといったトラブルを予防できます。

エスクローを使用するデメリット

ここではエスクロー活用に際して理解したいデメリット3つ紹介します。

信頼性を高める仕組みではあるものの、その費用感や手続きに抵抗を感じる企業も見られます。

 

手数料が発生する

エスクローを利用する場合、サービス手数料が発生します。

具体的な金額は業者によって様々ですが、一般的に売却金額の1%〜2%と言われています。M&Aには多額の費用を投じますが、そこにエスクローの手数料が加わると資金繰りに悩む可能性があるでしょう。

ただし、手数料を支払う対価として、取引の透明性や安全性が期待できます。M&Aにおいて扱う金額が大きい場合や、条件設定を行う場合はデメリットとリスクを比較して検討してみましょう。

 

手続きが必要になる

エスクローを利用する場合は、業者において手続きが必要です。

書類の提出や様々な条件の確認などに時間を要するため、買い手売り手ともに労力を要します。特に、信託契約の場合は法的な確認事項が多く契約まで期間がかかります。そのため、M&A契約においてエスクローを利用する場合はスケジュールにゆとりを持つことが欠かせません

また、手続きは財務や経理などお金を司る部門との連携も求められるため、情報の周知やスケジュールの共有を行いましょう

エスクロー活用が効果的なシーン

ここではM&A取引の中でもエスクロー活用がおすすめのシーンを2つ紹介します。

複数社との契約を締結する場合、締結後に条件にあわせた支払いを行う場合に適しているでしょう。

 

複数社とM&A契約を行う場合

買収対象が複数者にわたる場合エスクローの活用がおすすめです。

例えば、M&Aにおいてチェーン店を保有する企業を買収する場合、店舗ごとの交渉が必要です。店舗ごとに1つひとつ手続きを行う場合、売却金を一括支払いではなく店舗の交渉ごとに分割して支払います。そのため、店舗によっては契約まで時間を要したり、金額に誤差が生じたりするでしょう。

支払いに関するトラブルは企業の信頼低下に直結します。これから共に歩もうと考えている企業の支払いに不穏な動きが見られると「本当に会社を売却しても大丈夫だろうか」と売却主だけでなく、従業員からも不安の声があがる可能性があります。そのため、M&A契約において資金の透明性や支払いのスムーズさは重要な事柄です。

エスクローを活用すると支払いをスムーズかつ明確に行えるため、複数社の資金管理がしやすいメリットがあります。

複数の企業や店舗にM&A契約がまたがる場合はエスクロー活用を検討しましょう。

 

アーンアウト条項の場合

M&Aの実行においては、一括で買収金を支払うだけでなく条件達成ごとにお金を支払うアーンアウト」という方法もあります。例えば「◯年後に利益率◯◯%達成」と条件を定め、段階的に売却金を支払うケースが挙げられます。

具体的な項目は財務指標に基づき、下記があります。

・純利益

・売上高

・営業キャッシュフロー

・営業利益

・EBITDA

国内においては扱える専門家が少なく事例はあまり見られませんが、国際間取引がある企業では可能性があるでしょう。

アーンアウトの場合、幾度にもわたり支払いを行うため、やり取りが不明瞭になったり齟齬が起きやすいでしょう。アーンアウトにおいてエスクローを活用すると、双方が同じ認識を共有しながら円滑に支払いを進められます。

エスクローについてメリットデメリットを理解する

エスクローは大きなお金が動くM&Aにおいて安全性を担保する仕組みです。

日本国内で活用する企業は多く見られませんが海外では利用する企業が多く見られます。

エスクローを活用すると取引に透明性を持たせられるため、買い手売り手ともにお金以外の内容に集中できます。信頼できるエスクロー業者に売却金を任せることで、本来企業同士が話し合うべき吸収合併後のあり方や新たな事業展開についての時間を十分に確保できます。

M&Aの目的は企業同士が結びつき、熾烈な市場競争での競争力強化や時代の変化にあわせた事業の見直しです。資金のやりとりにかかる負担を減らし、市場でどのように戦っていくかをじっくりと対話し構築が求められます。

エスクロー利用は手数料がかかる反面、企業間の諍いや認識の齟齬を解消するメリットがあります。スムーズなM&A契約を行いたい場合は一度検討してみましょう。

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