M&Aは大きなお金が動くため、「できる限り安全性を確保したい」と考える企業は少なくありません。
そのため、金銭トラブルへのリスクマネジメントが欠かせませんが、そのような場合に活用できるのが「エスクロー」です。
本記事では、エスクローの仕組みや活用のメリット・デメリットを解説するので、ぜひM&A契約におけるリスクマネジメントの参考にしてください。
目次
エスクローとは
エスクロー(escrow)は「預託」を意味し、M&A領域では第三者が契約における売買取引に介入して安全に取引を行うことを指します。
エスクローの歴史をご紹介します。
エスクローのはじまり
エスクローの歴史は古く、不動産取引の安全性を高める目的として、1947年にアメリカで初めて導入されたとされています。
住宅や土地を売買した際に確実に資金を得られるようにとの目的で導入され、この概念がM&Aにおいても活用されるようになりました。
また、近年はネット通販やフリマアプリ、ネットオークションなどの運営会社がエスクロー決済の機能を果たしているなど、身近なところでも導入されています。
M&Aにおけるエスクローの仕組みと流れ
ここからはM&Aにおけるエスクローの仕組みや流れを解説します。
買い手がエスクロー業者に代金を預ける
はじめに、M&Aの内容に売却側と買い手側の合意に基づいて基本合意書を取り交わします。
続いて、買い手側は取り決めた内容を元に必要金額をエスクローを扱う機関や事業者に預けます。このとき、資金はまだ売却側に支払われていません。
関連記事:MOU(基本合意書)とは?契約書との違いや法的効力について解説
売り手が入金を確認して買い手に商品を渡す
資金を預かったエスクロー業者は売却側に対し、その旨を連絡します。資金支払いを受けた売却側は、事業や書類等を買い手側に引き渡します。
買い手が事業を受け取る
このタイミングで契約内容と齟齬があった場合、内容の確認を行ったり取引不成立になることもあります。もしも契約が不成立だった場合は、入金済みのお金は買い手に返却されます。
売り手が代金を受け取る
双方が取引に納得し、商品を受け取った場合は売却側に資金が支払われ、この段階で取引が完了となります。
M&Aでエスクローが活用される理由
M&Aにおいてエスクロー活用が見られる理由を解説します。
デューディリジェンスを効率的に実施できる
デューデリジェンス(Due Diligence)は、投資先の価値やリスクを調査するM&Aのプロセスで、主に下記の項目を調査します。
事業 | 財務状況 | 法務 |
税務 | IT | 人事 |
エスクローを活用した場合、デューデリジェンス後に資金が移動するため、万が一デューデリジェンスで予期せぬ負債が発覚した場合でも、損害リスクを軽減することが可能です。
関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?費用や期間・種類などを詳しく解説
企業間で信頼感を持って取引が行える
M&Aでは多額の資金が動くため、買い手・売り手ともに慎重にやり取りを行います。
そのため、少しでもお金に関するトラブルが生じた場合、その後の交渉に支障をきたす可能性があります。
しかし、エスクローではお金を一時的に第三者へ預けるため、「お金を先に渡すのは不安だけど、対価を受け取れないのも困る」といった不安の払拭につなげることができます。
エスクローの手法
エスクローの具体的な手法を紹介します。
信託契約
信託契約は、買い手がエスクロー業者にお金を預け、「信託財産」として管理してもらい、契約締結や支払いにかかる条件が達成された後にお金を売却主に支払う手法です。
信託契約の場合、買収にかかるお金だけでなく損害賠償金としても扱うことでリスクに備えられる一方で、手続きが煩雑になるといったデメリットがあります。
銀行口座
銀行口座を使ったエスクローでは、新たに開設したエスクロー専用の銀行口座へ買収にかかる資金を送金し、エスクロー業者が管理する方法です。
信託契約と比較して規約や手続きが少ないことがメリットである一方で、金融機関破綻時のリスクを伴います。
エスクローを使用するメリット
エスクローを使用するメリットを3つ、ご紹介します。
安全性を担保できる
エスクローの使用における最大のメリットは、取引の安全性を確保できる点です。
お金のやり取りに第三者が介入、保証することにより、透明性の高い取引を行うことが可能になります。
見解の相違を確認できる
エスクローを活用する場合、条件やルールを事前に明文化するため、考え方や意識のズレが可視化しやすいです。
そのため、早い段階で見解の相違が確認でき、M&Aの方向性を正すだけでなく、マッチングのし直しといった判断材料にすることもできます。
損害未払いに備えられる
エスクローは、リスクマネジメントをするうえでも有効です。
エスクローを利用した場合、買い手の目的や条件達成後に初めて資金が支払われます。そのため、万が一最終契約の締結までの期間でトラブルが生じても、資金を支払わずに済みます。
また、買い手にとっても売却金を支払った後に契約が不成立になるといったトラブルを予防できます。
エスクローを使用するデメリット
エスクローを活用することはさまざまなメリットがありますが、デメリットも把握しておくことが大切です。
手数料が発生する
エスクローを利用する場合、サービス手数料が発生します。
具体的な金額は業者によって異なりますが、一般的に売却金額の1%〜2%といわれています。
ただし、手数料を支払う対価として取引の透明性や安全性が期待できるため、規模の大きなM&Aの場合、もしくは細かな条件設定を行う場合は、メリット・デメリットを比較したうえで検討してみましょう。
手続きが必要
エスクローを利用する場合は、業者との間で手続きが必要で、特に信託契約の場合は法的な確認事項が多く契約まで期間がかかります。
そのため、M&A契約においてエスクローを利用する場合はスケジュールに余裕を持つことが必要です。
また、手続きは財務や経理部門との連携も求められるため、必ず情報の周知やスケジュールの共有を行いましょう。
エスクロー活用が効果的なシーン
M&A取引にはさまざまなケースがありますが、なかでもエスクローの活用がおすすめのシーンをご紹介します。
複数社とM&A契約を行う場合
買収対象が複数者にわたる場合、エスクローの活用がおすすめです。
例えば、複数のチェーン店を保有する企業を買収する場合、店舗ごとの交渉が必要で、支払いも各店舗の交渉に応じて行う必要があります。
エスクローであれば、資金の管理から支払いまでを業者が執り行うため、資金管理がしやすいメリットがあります。
アーンアウト条項の場合
一括で買収金を支払うだけでなく条件達成ごとにお金を支払う「アーンアウト」の場合も、エスクローが有効な場合があります。
アーンアウトとは、具体的な条件を定め、段階的に売却金を支払う成果報酬型ともいえる支払い方法です。
アーンアウトのは支払いが複数回となるため、やり取りが不明瞭になったり行き違いが生じやすいです。
しかし、資金管理のしやすいエスクローであれば、適切な支払いが可能になります。
まとめ
エスクローは、多額の資金移動があるM&Aにおいて、安全性を担保した支払い方法の仕組みです。
エスクローを活用することで取引に透明性を持たせられるため、買い手売り手ともに契約内容などコアなプロセスへ集中することが可能になります。
一方で、買い手側は手数料の支払いが発生するといったデメリットもあるため、支払い総額とエスクローのメリット・デメリットを比較したうえでの検討が必要です。
「どのような方法が自社に合っているかわからない」「透明性のあるM&Aを実行したい」といったお悩みの方は、ぜひM&Aベストパートナーズへご相談ください。
M&Aに関する知識と経験の豊富な専任アドバイザーが、最適な方法のご提案をさせていただきます。