介護業界では、高齢化の進行を背景とした需要の高まりと働き手不足を理由に、M&Aを行う事業者が増加しています。
一方で、介護業界におけるM&Aに関する知識がなく、計画を立てられないと悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、介護業界でM&Aを行うメリットや失敗しないためのポイントなどを解説するので、ぜひ参考になさってください。
目次
介護業界のM&A事例を紹介
本記事では、まず弊社M&Aベストパートナーズが実際に仲介した介護業界の事例を共有します。
経営者の方がどういった経緯でM&Aを検討するに至り、どのような事の運びとなったか、ぜひ参考にしてみてください。
株式会社樫の木様の事例
お父様から会社を引き継いだものの介護事業特有の課題に直面し、「単に会社を売却する」だけではなく、地域社会への貢献のため、そして職員のため、同業を含む「介護業界のさらなる拡大を目指す決断」としてM&Aを進めていくことを決意された事例です。
株式会社ケア・オフィス優様の事例
経営者自身の体調悪化により廃業の二文字がはっきりと見えたものの、テレビCMでM&Aというものの存在を知る。
最終的には、同じ北海道で調剤薬局・医療法人・介護事業所などを一手に運営する企業への譲渡が決まり、夢であった「24時間営業の訪問看護ステーション」の立ち上げを叶えた事例です。
介護業界の現状
M&Aの話に入る前に、まずは介護業界の現状について確認しておきましょう。
介護が必要な高齢者の割合が増えている
2022年の統計調査によると、日本の65歳以上の高齢者数は過去最高の3,627万人となり、総人口に占める割合は29.1%となりました。
また、厚生労働省の介護保険制度に関する調査結果によれば、今後要介護者割合の多い75歳以上の後期高齢者が人口に占める割合はますます増加し、2025年頃には約18%に達すると見込まれています。
需要は増加する見込み
直前の内容と重複しますが、介護サービスの対象となる高齢者が増えているということは、必然的に需要の増加が見込まれるということ。
実際に、2000年の介護保険制度創設以来、介護サービスの利用者も3.4倍に増加しています。今後、介護を必要とする後期高齢者が一層増加するのに伴い、介護業界のさらなる発展が望まれます。
M&Aが増加している
介護業界の需要の増加を受け、事業拡大を目指す同業他社や、成長見込みのある市場への新規参入を考える異業種の大手企業を買い手としたM&Aが増加傾向にあります。
また、介護保険制度創設から20年経ち、事業承継を本格的に考え始める事業者が増えてきているのも増加理由の一つです。
さらに、後継者が不足していることや、人材獲得のための手段としてM&Aを利用する事業者も増えています。
売り手として大手の傘下に入りたい企業と、買い手として業界に新規参入したい企業それぞれが、介護業界の現状に基づいて動いた結果といえるでしょう。
介護業界の課題
介護業界の現状について見てきましたが、需要は高まることが予想されるにもかかわらず、多くの課題を抱えていることがわかりました。
ここでは、介護業界が抱える課題をひとつずつ見ていきましょう。
慢性的な人手不足
高齢者が増加し介護事業の需要が高まる一方で、介護業界の人手不足は深刻化しています。
厚生労働省の発表では、2025年時点で約243万人、2040年には約280万人もの介護人材を確保しなければならないとされています。
にもかかわらず、人手不足を理由に事業継続を断念する事業者が増加傾向にあります。
東京商工リサーチの調査によれば、2022年の老人福祉・介護事業の休廃業・解散・倒産の総計は過去最多の600件台を超え、中小事業者の割合の多い介護業界の全体的な経営力強化が求められています。
待遇が改善されないことによる離職率の高さ
介護職員の給与は年々増加傾向にはあるものの、シフト制の変則勤務や体力が必要な重労働などにより、対価が見合っていないというのが現場の素直な声です。
介護事業における離職率は改善こそしているものの、介護労働安定センターが発表した調査結果によると令和5年度の離職率は13.1.%であり、全業種合わせた離職率約10%という水準からは高いものとなっています。
また、続けたいという気持ちはあっても、介護職員自体が高齢化による体力的な厳しさなどで一線を退くケースも見られ、現時点でこの傾向が大きく変わるような明るいニュースはありません。
介護業界のM&Aの動向
ここでは、盛んになってきた介護業界におけるM&Aの動向について見ていきましょう。
異業種からの参入
介護業界は成長産業であるものの新規参入が規制されていることから、異業種からの企業がM&Aを通じて介護市場に参入するケースが増えています。
例えば、有料老人ホームなどの施設は総量規制があるため新規開設が難しく、既存の事業を買収する形で参入する企業が多くなっています。
後継者問題解決のためのM&A
日本の介護業界では後継者不足が深刻な問題となっています。これにより、事業の存続を目的としたM&Aが増加しています。
特に、経営者が高齢化している中小規模の介護施設では後継者が見つからずに事業を売却するケースが多く見られます。
市場シェア拡大を目指したM&A
大手介護事業者によるM&Aも活発で、地域での市場シェア拡大や、事業の多角化を目的として買収が行われています。
具体例を挙げるとSOMPOケアやソラストといった企業が地域の介護事業者を買収し、事業エリアの拡大を進めています。
介護業界でM&Aを行うメリット
ここでは、介護業界でM&Aを行うメリットについて確認しましょう。
後継者問題の解決
介護業界に限らず、多くの経営者の悩みの種でもある後継者不足の問題をM&Aによって解決することができます。
特に経営者が高齢化が進む介護業界では、事業を存続させるためにM&Aの活用が有効です。従業員の雇用が守られるのも大きなメリットといえるでしょう。
経営の安定と資金調達
せっかく社会のためになる事業を手掛けていても、経営が安定しなければ縮小せざるを得なくなっていきますが、M&Aによって資金力のある大手企業の傘下に入ることで、このような不安とは無縁となるでしょう。
また、売却益を得ることで、ビジネスに限らずリタイア後の新たな挑戦のための資金を手にできるのもメリットです。
事業の成長と強化
売却先の企業が持つ資本力やノウハウを活用することで、シナジー効果によりさらなる事業の成長やサービスの強化が図れる可能性があります。
特に設備投資や新しい技術の導入が難しい中小規模の介護事業者にとって、ITやAIに強い企業に買収されることで変革のきっかけとなることもあるでしょう。
介護業界のM&Aの相場
介護業界のM&Aの相場はある程度決まっています。
項目別に発生する費用を確認しておきましょう。
売買価格の相場
介護業界には訪問介護、デイサービス、老人ホームなど多様な形態の事業があります。いずれにせよ売却価額は経営状況に左右されるため、一概にいえないのが現状です。
一般的には、3~5年分の営業利益と時価純資産額を足した額が相場とされています。
例えば、1年間の営業利益が1,500万円、時価純資産額が3,000万円だった場合、4年分の営業利益として計算した計算式は以下のとおりです。
6,000万円(営業利益)+3,000万円(時価純資産額)=9,000万円
ただし、介護業界は人材の数が収益を左右する不安定な事業です。また、賃貸物件でも開設可能であり不動産資産も必要がないことから、事業所の規模や資産の有無によっては譲渡価格が相場目安より大きく下回ることもあります。
その一方で、地域への密着の度合いや、自治体ごとに異なる介護報酬の加算割合によって価格が大きく左右されるため、都道府県や立地によって相場が変動するのも介護業界のM&Aの特徴です。
買い手が希望するエリアとのマッチングによっては、営業利益が赤字であっても高値での売却につながるケースもあるでしょう。
M&Aのプロセスで発生する費用
M&Aを行うためには税務や法務などの広範な知識が必要であり、相手企業との交渉をはじめ各方面での手続きを同時に進めなければならないため、プロであるM&A専門会社に仲介を依頼するのが一般的です。
売り手側から見て仲介業者に依頼した場合に必要となる主な費用には、以下のようなものがあります。
- 相談料:正式に依頼する前の相談段階で発生する費用
- 着手金:依頼した際の最初の契約時にかかる費用
- 仲介手数料:M&Aの進行に対してかかる各種費用
- 仲介手数料①成功報酬:正式にM&Aが成立した時点でかかる費用
- 仲介手数料②月額報酬(リテイナーフィー):人件費・実費として毎月かかる費用
- 仲介手数料③中間報酬:基本合意書の作成時点でかかる費用
- バリュエーション費:売り手企業の価値評価にかかる費用
- デューデリジェンス費:買い手側が行う価値やリスクの調査にかかる費用
なお、相談料は無料としているM&A仲介業者が大半です。最近では着手金も無料としている仲介業者が増えつつあります。
さらに、中間報酬と成功報酬を分けずにM&Aに成功した場合のみ報酬を受け取る完全成功報酬システムを採用する仲介業者も多くなっています。
M&Aの仲介手数料は、取引金額に応じて報酬料率が徐々に減っていく「レーマン方式」が一般的です。
ただし、この手数料・報酬の計算は、契約内容によって算出基準となる数字が移動総資産か企業価値かによってまったく異なります。
仲介業者を選出する際には料金システムだけでなく、報酬の計算方法についても必ず確認した上で依頼しましょう。
介護業界のM&Aで失敗しないために
多様な背景を理由にM&Aが増加中の介護業界ですが、動きが活発な時だからこそ、慎重に取引を進めることが重要です。
売り手側が気を付けるべきポイントは主に以下の3点です。
- 社員の流出や顧客離れに気を付ける
- 経営状況を逐一チェックする
- M&A仲介業者を利用する
社員の流出や顧客離れに気を付ける
人材不足が問題となっている介護事業では、買い手側も人材確保を主な目的として買収先を探しているケースが増加しています。
買取側が求めているような社員の流出を防ぐことが直接的に事業の価値を高め、M&A成功へとつながるでしょう。
社員だけでなくその施設やサービスを利用している顧客の獲得を図っているケースも多いため、契約締結までサービスの質を維持し、客離れを防ぐこともM&Aを成功に導くためのポイントです。
経営状況を逐一チェックする
事業の経営状況はM&Aの価格に明確に影響します。
適切な希望価格を設定し、有効なM&A戦略を立てるためには、事前に経営状況を細かくチェックして事業の資産価値を正確に把握しておくことが重要です。
M&A仲介業者を利用する
さらに、仲介業者の利用によってM&Aの成功につながりやすくなります。
M&Aには相手先の調査や財務状況の整理から最終的な統合作業に至るまでに、法律上の専門的な手続きを含むさまざまな工程があります。事業所の運営と並行してこれらすべてを自分だけで行うのはきわめて困難です。
信頼できる仲介業者を見つけ、早くから相談しておくことで、戦略立案段階からスムーズにM&Aを進められるでしょう。
介護業界のM&A仲介業者の選び方
M&Aを成功させるために仲介業者の選び方を知っておきましょう。
介護業界のスペシャリストがいる仲介業者を選ぶ
介護業界特有の事情や資産価値の算出方法を把握している専門性の高い仲介業者、あるいは介護事業に明るいアドバイザーが在籍している仲介業者を選びましょう。
業界の事情に詳しい専門家であれば顧客の相談を十分に聞いた上で、希望に沿った計画立案ができます。
専門性が確認できない場合には、介護業界のM&Aの成約実績を詳細に提示できるかどうかを目安にするのもよいでしょう。
報酬システムが明朗な仲介業者を選ぶ
M&Aには相談料や着手金をはじめ、発生するタイミングが異なるさまざまな料金が存在します。
業者によって発生する料金とそうではないものがあるため、事前の確認は必須です。
また、同じM&A仲介業者であっても報酬システムが大きく異なる場合があり、決められた報酬システムがそのまま費用へと直結します。
契約後のトラブルを避けるためにも、報酬システムをホームページなどで明確に説明している仲介業者を選びましょう。
まとめ
介護業界でのM&Aは、高齢化と人材不足を背景に増加傾向にあります。
人口動態や国の動向を踏まえて揺れ動く介護業界でM&Aを成功させるためには、専門的な知識を持った仲介業者選びが大切です。
M&Aベストパートナーズは介護業界の仲介実績を持っており、また、業界に精通したアドバイザーが在籍しております。
「介護業界でのM&Aの方法が分からない」「仲介業者選びが難航している」とお悩みの方は、ぜひ一度M&Aベストパートナーズにご相談ください。