医療・ヘルスケア業のM&A事例や譲渡で注意すべき点|譲渡を検討する際のガイド

著者
M&Aベストパートナーズ MABPマガジン編集部

少子高齢化が進み社会保障にかかるコストが増大する中で、医療・ヘルスケア業界は将来的に成長が期待される分野のひとつです。

しかし、そのような成長産業であるにもかかわらず、M&Aによって事業を譲渡する法人も増えています。

本記事では、医療・ヘルスケア業界におけるM&Aの現状や、医療法人ごとに異なるM&Aの適用条件、M&Aを進める際のプロセスなども詳しく解説します。

医療・ヘルスケア業界のM&Aの現状と動向

ビジネスの分野ではさまざまな業界で再編が進んでおり、医療・ヘルスケア業界も例外ではありません。

はじめに、医療業界全体の市場規模や直近のM&Aの動向、医療業界で再編が進む背景などもあわせてご紹介します。

医療・ヘルスケア業界の市場規模と成長率

日本は世界の中でも稀に見る長寿大国ですが、長きにわたって少子化が進み社会保障費が増大しています

実際に、厚生労働省の調査においても国民医療費の総額は2021年度の時点で45兆円を突破しており、2020年度と比較して約2兆円の増加となっています。

少子高齢化社会の日本において医療費は今後も増大していくことは確実であり、医療・ヘルスケア分野の市場規模は今後も拡大すると見られています。

最近のM&Aの動向とその影響

医療・ヘルスケア業界全体で見れば、市場規模は拡大しています。

一方で、クリニックや介護関連の事業を展開する事業者のM&Aも加速しており、業界再編が進んでいます。

これまでは医療・介護それぞれの分野に特化した事業者が、独自に経営を行うケースが多くありました。

しかし、患者や利用者の手続きを簡素化したり、経営リソースを効率化する目的で複数の事業をM&Aによってひとつに統合するケースも増えているようです。

医療業界でM&Aが進む背景

医療・ヘルスケア業界全体でM&Aが進んでいる背景には、上記で紹介した経営リソースの合理化以外にもさまざまな理由が考えられます。

たとえば、建物や設備が老朽化し修繕や建て替えの必要があるものの、経営状態が苦しくコストを捻出できないといったケースもあるでしょう。

また、開業医として地域に根ざした医療を提供してきたものの、後継者がおらず経営を引き継ぐことができないクリニックもあります。

一般的な会社であれば、経営を引き継ぐために必要な資格は特にありません。

しかし、医療機関の場合は医師免許を保有していることが条件となり、一般企業のM&Aと比べてハードルが高くなってしまうのです。

医療法人の種類とM&Aの適用

一口に医療法人といってもさまざまな種類が存在し、M&Aを行う際には考慮しておかなければならないポイントも変わってきます。

出資持分あり医療法人と持分なし医療法人の違い

「出資持分あり医療法人」とは、医療法人の定款として社員の出資持分を定め、資本金を調達し設立された医療法人のことです。

出資持分とは一般企業における株式のようなものであり、第三者に譲渡することも可能です。

これに対し「持分なし医療法人」とは、資本金としてではなく基金として拠出することで経営に必要な資金を調達する医療法人のことを指します。

「出資持分あり医療法人」をM&Aによって買収する場合には、社員の出資持分を買い取り、持分譲渡によって経営権を取得することができます。

一方、「持分なし医療法人」を買収する場合は、売り手である医療法人に代わって買い手の人間を社員・評議員として入れ替えます。そして、過半数の議決権を得ることにより経営権を取得できます。

なお、従来の医療法人は「出資持分あり」で設立されるケースが一般的でしたが、2007年の医療法改正により出資持分あり医療法人の新規設立は禁止されています。

特定医療法人と社会医療法人の特徴

特定医療法人とは、租税特別措置法第67条の2によって定められた要件を満たした医療法人のことです。

特定医療法人は法人税の軽減といった税制上の優遇措置を受けることができます。

これに対し社会医療法人とは、医療法第42条の2によって規定されている医療法人のことです。

救急医療や災害救援など、公益性を担う医療法人に対しては都道府県知事が認定を行います。

社会医療法人は一定の税制優遇措置を受けられるほか、一定範囲内での収益業務や法人債を発行することもできます。

医療法人と一般法人(株式会社や合同会社)の違い​

病院やクリニックといった医療法人は、医療サービスを提供し国民の命と健康を支えることを目的に設立されます。

株式会社や合同会社といった一般法人は営利を目的としていますが、医療法人は営利を第一の目的とはしていません。

そのため、一般法人の場合は事業活動によって得られた剰余金は、株主に配当として還元することができます。

しかし、医療法人の場合は法律によって配当を還元することが禁止されています。

医療・ヘルスケア業界の事業者すべてが医療法人というわけではなく、たとえば製薬会社や調剤薬局などのように、一般法人として運営されている事業者もあります。

医療・ヘルスケア業界のM&Aのプロセスと成功のポイント

医療・ヘルスケア業界においてM&Aを行う際、どのようなプロセスを経る必要があるのでしょうか。

一連の流れと成功のポイントをご紹介します。

医療・ヘルスケアM&Aの流れ

医療・ヘルスケア業界でのM&Aは、大まかに分けると以下のようなプロセスで進められます。

【売り手の立場の場合】

  1. M&A支援機関への相談
  2. 買い手となる候補先の選定
  3. M&A支援機関との間で秘密保持契約(NDA)を締結
  4. 価値算定
  5. ノンネームシートの作成
  6. 買い手側からネームクリアの打診を受ける
  7. 買い手へ情報開示
  8. トップ面談の実施
  9. 基本合意契約の締結
  10. デューデリジェンス
  11. 最終契約書の締結

成功に導くM&A戦略とは

M&Aには高度な専門知識とノウハウが求められることから、専門の支援機関へ相談しながら進めるケースが多いです。

M&Aを成功させるためには、買い手・売り手ともに具体的な要件・条件を支援機関の担当者へ伝えることが重要です。

支援機関は、膨大な医療機関や法人の中からニーズにマッチする相手を探します。

できるだけ具体的で細かい要件・条件があったほうが、マッチングの精度が高まります。

紹介を受けた後は、トップ同士の面談によって経営戦略の方向性や細かな取引条件などをすり合わせておくことも大切です。

お互いに嘘や偽りのない正直な内容を話すことはもちろん、不安や疑問があれば些細な内容でもコミュニケーションをとっておくことでトラブルを防げるでしょう。

医療・ヘルスケアM&Aにおけるリスク管理と対策​

M&Aを進める過程の中で、外部に情報が漏れてしまうと混乱を引き起こし、経営に大きな支障をきたすことがあります。

また、最悪の場合相手先からの信頼を失い、M&Aそのものが白紙に戻る可能性もあるでしょう。

このような事態を防ぐためにも、M&Aを進める過程においては厳重なリスク管理が求められます。

そのためには、必ずM&A支援機関との間で、秘密保持契約(NDA)を締結します。

また、ノンネームシートを作成する際には、事業内容や数字はある程度ぼかして記載することが大切です。

関連サイト:クリニック・病院のM&A・事業継承尾流れや相場とは?株式会社CBパートナーズ

医療・ヘルスケア業界のM&Aと税務・法務の考慮事項

医療・ヘルスケア業界でM&Aを実施する際には、税務や法務面で考慮すべきことも出てきます。

【税務の考慮事項】

  • 売り手に対し、譲渡額に応じて所得税・贈与税が課税される(出資持分を売却・譲渡する場合)
  • 買い手に対し、譲受額に応じて贈与税・相続税が課税される(出資持分を売却・譲渡する場合)

【法務の考慮事項】

  • 譲受者は医師や歯科医師である必要がある(出資持分を売却・譲渡する場合)
  • 医療法人の解散・設立などの手続きが必要(合併する場合)

M&Aの方法や条件、出資持分の譲渡額などによっても、税金の金額や必要な手続きは変わります。

専門家のアドバイスを受けながら、最善の方法を検討してみましょう。

医療・ヘルスケア業界のM&Aの成功事例

医療・ヘルスケア業界において、M&Aに成功した法人にはどのような事例があるのでしょうか。

今回は、医療法人ではなく株式会社・有限会社としてM&Aを成功させた調剤薬局の事例をご紹介します。

株式会社松栄堂薬局様

株式会社松栄堂薬局様は、愛知県内で調剤薬局を営んでいる企業です。

一般的な調剤薬局と異なるのは、在宅医療に特化し患者の自宅や介護施設へ、処方薬を配達しているという点です。

しかし、もともと少人数の従業員で事業を展開していたため、人手不足が深刻化していました。

そのため、このようなビジネスモデルは、やがて限界を迎えるのではないかといった不安があったといいます。

少しずつM&Aという選択肢が頭をよぎるようになり、M&A支援会社の担当者と面談をすることになりました。

M&Aにあたって特に重視したのは「自社へのメリットや従業員の待遇」そして「譲受企業との相性や将来の展望」の2点でした。

M&A支援会社からは、北海道を拠点に医療・ヘルスケア事業を幅広く手掛ける株式会社ミライシアホールディングが紹介され、経営トップ同士の面談が行われました。

ミライシアホールディングにとっては、東海地方への初進出となることから期待が大きかったです。

さらに、M&Aにあたって懸念していた従業員の待遇に関しても問題がクリアになり、M&Aの決断に至りました。

ミライシアホールディングの傘下に入るまでは資金的な余裕もなく、新たな事業に挑戦することも難しい状況でした。

しかし、現在ではさらなる成長に向けて、チャレンジングな経営ができるようになったといいます。

有限会社アトムメディカル様

有限会社アトムメディカル様は、2001年に神奈川県鎌倉市に調剤薬局を開業しました。さらに、JR「大船駅」「北鎌倉駅」のそれぞれの駅前で、2つの店舗を運営しています。有限会社アトムメディカル様の調剤薬局は、家族経営しており、従業員も10名足らずでした。

M&Aを検討するようになる背景には、厚生労働省が推進しているかかりつけ薬局への移行がありました。かかりつけ薬局では24時間営業が求められ、家族経営の調剤薬局では生き残りが厳しいと考えM&Aの実施を考えます。さらに、ジェネリック医薬品の普及による収益の減少や、薬剤師の人材確保が難しくなったことなども要因です。

その後、店舗数が100店舗以上あり、売り上げ規模が200億を誇る株式会社エスシーグループ様とのM&Aを行うことになります。

株式会社ファルマシア様

株式会社ファルマシア様の古林氏は、49歳のときに宮崎県で調剤薬局の経営をしていました。その後、福岡県久留米市にある病院の院長から「調剤薬局を開業してほしい」との強い要望を受け、福岡県久留米市でも調剤薬局を始めます。

宮崎県と福岡県久留米市で2つの調剤薬局を経営していた古林氏は、体調に不安をかかえ、67歳のときに宮崎県の調剤薬局をM&Aにより手放しました。しかし、70歳を目前に福岡県久留米市の調剤薬局もM&Aにより事業承継しようと検討し始めました。

古川氏は、これまで通り病院とのよい関係を保て、従業員の雇用を守れる相手企業を条件として提示し、同じ地域で複数の調剤薬局を経営している会社を紹介されます。

その後、株式会社ファルマシア様は、M&Aにより事業承継を実現しました。

株式会社NAOSEL様

株式会社NAOSEL(ナオセル)は、代表の藤木氏が立ち上げた接骨院グループで、福岡県・熊本県で15店舗を展開、独自の「IMリセット整体」によって、根本的な不調の改善を目指しています。

しかし、事業が大きくなるにつれて「多くのことを犠牲にしてきたので、いつか後悔するかもしれない」「自分一人だけでの経営では発展する機会を遅らせてしまう」という悩みを抱き、M&Aの検討を始めます。

そして、プライベートエクイティファンドの組成や運営・管理を行うマラトンキャピタルパートナーズ株式会社とのTOP面談を実施、自分が必死に守ってきたNAOSELという会社に対する想いに対する理解と今後の展望を自分たちのことのように共感してくれたことで行って株式の譲渡を決意しました。

このM&Aを通じ、藤木氏は今後も訪れる患者様に真摯に向き合って健康意識を届け、安心して通っていただける接骨院づくりをしていきたいとしています。

医療・ヘルスケア業界のM&Aについてのまとめ

高齢化が進み医療のニーズが拡大している昨今、医療・ヘルスケア業界の市場は今後も伸びていくと考えられます。

しかし、慢性的な人手不足や収益の低下など、苦しい経営を強いられている医療機関や企業も多いです。

そのような経営課題を解決するための手段として、M&Aは有効です。

しかし医療法人の場合、一般法人とは税制や法務において注意すべきことも多いため、M&Aにあたっては専門家も交えて検討を進めることが成功させるためのポイントです。

「スムーズなM&Aを実行したい」「専門家からのアドバイスが欲しい」とお考えの方は、まずはお気軽にM&Aベストパートナーズまでご相談ください。

専門的な知識とノウハウを身につけた専任アドバイザーが、M&Aを成功させるためのお手伝いをさせていただきます。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

石橋 秀紀

ADVISOR

各業界に精通したアドバイザーが
多数在籍しております。

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