M&Aストーリー
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
ビジネス業界では競争の激化に伴い、M&Aによる企業の統廃合が進んでいます。
不動産業界も例外ではなく、特に不動産の取得を主眼においた不動産M&Aが注目されています。
本記事では、不動産業界におけるM&Aの動向や現状、不動産M&Aが注目されている理由やメリットなどもあわせてご紹介します。
目次
ビジネス業界には、会社規模を大きく成長させていくための手段としてM&Aがあります。
買収先企業が不動産を持っていた場合、資産のひとつとして不動産も譲渡されることとなりますが、一般的なM&Aはあくまでも事業の統合が主な目的です。
しかし、自社ビルなど資産価値の高い不動産を保有している場合、事業そのものよりも不動産の取得を目的としてM&Aが行われることがあります。
これを「不動産M&A」とよびます。
不動産M&Aは業種に関係なく行われることがありますが、買い手となる企業は不動産管理会社や不動産コンサルティング会社であるケースが多い傾向があります。
昨今の不動産業界の現状と、不動産M&Aが注目されている背景・理由について解説します。
数ある業種の中でも不動産業の市場規模は大きく、日本国内では製造業、卸売・小売業に次いで3番目の位置にあります。
不動産業は土地や建物などを取り扱うため、商品単価が高額であることがひとつの要因です。
また、不動産業を営む事業者の数も33万社と多く、全産業の1割以上を占めています。
事業者の数が多いということは、業界内での競争も熾烈であり、厳しい経営を強いられている企業も少なくないでしょう。
不動産業界に限らず、さまざまな経営課題を抱えている企業が多いことから、それらの解決手段として不動産M&Aが注目されています。
経営規模の小さい事業者にとっては、大手事業者と手を組むことにより資金調達がしやすくなったり、大きなビジネスチャンスをつかむこともできるでしょう。
また、これまで開拓できていなかったエリアにも進出しやすくなり、市場拡大につなげられる可能性もあります。
さらに、信頼できる不動産事業者へ会社を引き継ぐことで、後継者問題に頭を悩ませることなく会社を存続できます。
M&Aと聞くと、経営者にとっては「会社が乗っ取られるのではないか」とネガティブなイメージを抱きがちです。
しかし、実際には会社を存続させるための手段として活用するケースが増えているのです。
関連記事:不動産業界における人材不足の実態とは?課題解決にはM&Aが有効?
不動産M&Aは、どのようなプロセスを経て実行されるのでしょうか。4つのステップにわけて解説します。
まずは市場調査を行い、買収先となる候補の企業を選定します。
企業が保有している不動産の市場価値やリスク評価も正確に行います。
次に、買収先候補の企業に対して交渉を行います。
買収金額やM&Aの条件、経営権引き継ぎ後の体制などを細かく決め、お互いに納得できる条件を模索していきます。
デューデリジェンスとは、M&Aにおいて買収先企業の経営状態や法的リスク、財務リスクなどを詳しく調査することを指します。
正式にM&Aが成立した後に簿外債務が発覚したり、重大な経営リスクが潜んでいたりしないよう、デューデリジェンスはM&Aにおいて不可欠なプロセスといえます。
関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?進め方や注意点、費用感について徹底解説
買い手と売り手双方の交渉が進み、デューデリジェンスの結果問題がなければ正式に契約手続きを行い成約となります。
関連記事:M&Aの目的を買い手・売り手の両視点から解説!課題やポイントも紹介
不動産を取得することを第一の目的とするのであれば、M&Aでなくとも不動産売買といった方法もあります。
あえて不動産M&Aを選択することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
不動産売買の場合、売り手企業には法人税や法人住民税、法人事業税などが課税され、これらの税率はトータルで30%以上となります。
また、買い手に対しても不動産評価額に応じて3%以上の不動産取得税や、登記の登録免許税がかかります。
しかし、M&Aによって株式を譲渡する場合には申告分離課税の20%のみで済む場合があるため、大幅な節税につながる可能性があるのです。
ただし、M&A後に短期間で不動産の売買が行われると、短期所有土地の譲渡とみなされます。
そして株式譲渡よりも約2倍の税金が課せられることもあるため、注意が必要です。
売り手企業にとっては、会社を廃業し不動産のみを売却するという手段も考えられます。
しかし、廃業の際に残余財産があった場合には30%以上の法人税が課税され、さらには財産を株主に分配する清算手続きも必要です。
中小企業の場合、会社のオーナーやその家族が株主となっているケースも多く、受け取った財産の額に応じて最大45%の所得税が課税されます。
法人税と所得税を合わせると、半分以上を税金として支払うことも想定されます。
そのため、廃業をせず不動産M&Aとして会社を引き継いだほうがコストを削減できる可能性があるのです。
M&Aで忘れてはならないのが、自社で働く従業員の存在です。
会社を清算するということは、従業員の働き口がなくなることも意味します。
しかし、M&Aによって経営を引き継ぐことで雇用は維持され、従業員が露頭に迷う心配もなくなります。
経営者によっては従業員の再就職先を斡旋する方も多いですが、M&Aであればその必要もなく、経営者にとってもメリットが大きいといえるでしょう。
関連記事:不動産業界における今後の動向・展望とは?生き残るための解決策について
不動産管理会社をM&Aによって売却する場合、宅建免許の取り扱いに注意しておかなければなりません。
宅建業法では、不動産管理会社の一部事業を譲渡した場合、宅建免許の引き継ぎはできず新たに取得しなければならないと定められています。
一方、株式譲渡によって不動産管理会社そのものを売却した場合には、株主は変わるものの会社はそのまま引き継がれるため、宅建免許は引き続き有効となります。
不動産管理会社がM&Aを行う場合、どちらのケースに該当するのかを見極めておく必要があるでしょう。
不動産業界のM&Aにはどういった事例があるのでしょうか。
ココチ不動産株式会社は、2008年に設立された不動産事業を手掛ける会社です。
賃貸物件の管理や売買仲介の事業と並行しながら、2015年には自社が管理する物件をリノベーションし古民家ダイニングも開業。
さらに2018年には地域情報ポータルサイトの運営も開始し、3つの事業を柱に経営を行ってきました。
しかし、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、飲食事業は大きな打撃を負ってしまいました。
会社の窮地を救うための手段として、M&Aを模索するようになります。
譲受企業に対し、不動産事業・飲食事業・メディア事業の一括買収を提案するものの、飲食・メディア事業は難色を示されたといいます。
しかし譲受企業は情熱のある経営者が率いていて、勢いがありました。
これまで自社が伸ばしきれなかった不動産事業を「攻めの経営に転換してくれるのではないか」との期待から、事業譲渡に踏み切ることにしました。
現在では資金面にも余裕ができたことで、これまで以上にチャレンジングな経営ができるようになったといいます。
M&Aを行う目的は企業によってもさまざまであり、不動産の取得を主眼においた不動産M&Aもそのひとつといえます。
不動産M&Aの買い手企業は不動産管理会社や不動産コンサルティング会社というケースが多いですが、売り手企業は幅広い業種にわたっています。
買い手企業にとっては、不動産物件の取得によって新たなビジネスチャンスが得られます。
売り手企業にとっては不動産だけでなく、会社そのものを譲渡することにより、後継者問題の解消や従業員の雇用維持にもつながるでしょう。
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
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