病院経営における問題とは?赤字になる理由や改善策も解説

監修者
さいたまみらいクリニック院長 岡本宗史
病院経営における問題とは

非営利性を原則とする病院は、利益の追求よりも医療と福祉の提供そのものが目的です。

しかし現実には、赤字経営故に苦しんでいる病院が多数存在し、どうすれば赤字から脱却できるのか悩む経営者は少なくありません。

今回は、病院が赤字経営に陥ってしまう理由について、日本の病院業界の問題点や課題に触れた上で解説します。

さらに、複数の改善策の紹介にくわえて、有効な改善策の一つとして注目されている病院の統合・M&Aについても詳しく紹介します。

病院経営が赤字になる理由と問題点

病院経営が赤字になる理由と問題点

病院経営が赤字になる理由はさまざまです。

ここではさまざまな理由とそこから見えてくる病院経営における問題点について解説します。

人件費増加

第一の理由は、人員数の増加と給与引き上げによる人件費の増加です。

近年は一人の患者に対して複数のメディカルスタッフが連携・協働して治療に当たるチーム医療を評価する傾向にあります。そのため、一つの病院に必要とされる専門員や人員数も増加しています。

また、単純な人員数だけでなく、一人当たりの給与の増加も人件費増加の要因です。

特に民間病院は、賃金引き上げの動きが緩やかな業界ではあるものの、医療機関での賃金値上げを求める声は強く、医療関係者の待遇改善のためにも一人当たりの給与は今後も増加していくでしょう。

 

新型コロナウイルスの影響

特にここ数年で病院の赤字が増加した理由は、新型コロナウイルスの影響によるところが大きいです。

通院者がコロナの影響で受診を控えるようになり、コロナ重症患者に医療が重点化したため、各病院では重要な収益源の一つである入院や手術の延期を行いました。

また、コロナ対策に必要なパーティションの設置、マスク、消毒薬などを揃えるための経費が、支出の増加として経営を圧迫した面もあります。

 

過剰医療

病院側が不必要な治療・医療を行ってしまう「過剰医療」も、長期的に見ると経営を悪化させる要因です。

患者にとっては手厚い治療を受けられるのはメリットですが、各病院が過剰医療を行えば、その分国全体の医療費が増大します。

その結果、医療費を低減させるための施策を実行し、医療費の引き下げや現実に即さない医療制度の導入に踏み切る可能性があるでしょう。

サービスの提供量を増加させれば必ずしも収益が増すわけではない点は、病院経営で考えなければならない課題といえます。

 

医師の不足

日本の病院業界全体における医師不足も問題点の一つです。

ある調査では、医師不足を感じている病院のうち、経営赤字の病院は半分以上を占めており、医師不足が病院の経営難に及ぼしていることが分かります。

国家資格取得者は増加傾向という調査結果がある一方、現場は医師の数に不足を感じているのが現状です。実際に人口当たりの医師数世界的に見ても少ないといわれています。

これは、資格取得後に実際に医師として働いている人の数が十分ではないこと、また地域や診療科による医師数の偏りが原因と考えられるでしょう。

また、長年に渡って医師として働いてきた団塊世代が、同時期に退職していることも影響しています。減少する医師数に対して新たな医師の数が足りておらず、病院経営にとっても課題であるとともに、国全体の医療レベルの低下も懸念される事態です。

医師不足は病院の後継者不足にも直結するため、経営者の引退後に事業承継をどうするべきかという悩みを抱える病院も少なくありません。

病院経営の問題を改善するためには

病院経営の問題を改善するためには

ここからは、病院経営の赤字の理由と問題点を踏まえて、赤字を改善するために必要なことについて解説します。

病院経営は、国による医療費策定やコロナウイルスの影響などの外的要因に左右されますが、赤字改善のためにできる有効な手段は決して少なくありません。

 

経営状況の見直し

まずは、経営状況の正確な把握と、現在の経営戦力が本当に病院の目的や置かれた環境に合っているのかをもう一度確認することが重要です。

病院経営者は現役、もしくは元医師であることが多いです。経営のスペシャリストではないため、客観的な経営状況の評価が十分でないケースが多々あります。

病院の現状に対する正確な把握・評価を踏まえ、実現可能な目標設定への改善、経営状況を打破するための中長期的な展望を見据えた経営方針の見直しを行いましょう。

 

職員の雇用状況の見直し

病院経営を行う上で、医師や看護師だけでなく、医療事務、臨床福祉士や理学療法士などの各種専門職者、さまざまなスタッフが必要です。

多様なスタッフそれぞれの雇用状況や福利厚生が適正か病院が提供しているサービスの内容に適したスタッフがいるか、人を増やすのであればどのようなスタッフを求めるかも改めて見直す必要があります。

業務システムのIT化や、効率的な電子カルテの採用などによって、すでに在籍している職員の負担を減らすことも可能です。人件費を増やすことなく人手不足の解消にもつながります。

 

人件費の見直し

病院が外来患者・入院患者への医療サービスによって得られる医業収益に対して、人件費の割合が適正かどうかの見直しを行いましょう。

また、内科であれば、風邪やインフルエンザの流行する冬季が忙しくなるなど、それぞれの診療内容によって忙しくなる時期はある程度決まっています。繁閑の差に合わせた雇用調整によって、人件費を抑えることも可能です。

人件費率が低いほど負担は軽くなりますが、その分サービスの質が低下する懸念があります。病院の経営状況の正確な把握と現職員の雇用状況の見直しを行った上で、人件費の見直しを行いましょう。

 

地域特性の把握と体制の見直し

地域特性を把握し、その特性に合わせて病院の経営体制を見直すことも重要です。

これまでに、高齢化のすすむ地域で在宅医療や介護を取り入れることで黒字化に成功した例もあり、地域特性に合わせた経営方針変更が黒字化につながる可能性は高いでしょう。

地域内にある他の病院との連携を強化することで、相互のサポート体制強化による医療サービスの充実、相互紹介率アップによる患者数の増加も見込めます。

地域医師会や勉強会を通じて、その地域の抱える問題や医療ニーズをより正確に把握できれば、さらなる経営方針の改善につながるでしょう。

病院経営の問題解決にはM&Aも選択肢の一つ

病院経営の問題解決にはM&Aも選択肢の一つ

経営の見直しで病院の赤字改善が見込めない場合には、統合・M&Aも選択肢の一つとして考える価値があります。

厚労省は、2019年に全国424の公立病院と公的病院を、再編統合の議論が必要な病院として公表しました。

赤字の原因となっている病床稼働率の低さを改善するのが大きな目的です。

統合やM&Aによって、病床の過不足の解消、地域連携の推進、人手不足の解消を一挙に行うことも可能です。また、経営難を脱却することで、病院スタッフの雇用先を守ることにもつながります。

ただし、病院数が不足している地域での安易な再編統合は、地域医療の崩壊につながる恐れがあります。また、再編統合したからといって経営状況が必ず改善するとは限りません。

病院経営改革や病院の統合・M&Aに対して不安を感じるのであれば、専門家に相談してサポートを受けることで大きな失敗を避けられるでしょう。

まとめ

まとめ

日本の病院業界の赤字率が高くなる原因は、人件費の増加新型コロナウイルスの影響をはじめ、複合的なものです。

問題を解決し、赤字を脱却するための解決策としては、客観的な経営評価や目的・雇用状況の見直しなどの手段が挙げられます。

また、病床稼働率の過不足改善や地域連携に高い効果の見込める統合・M&Aも有効な選択肢の一つです。

「病院経営で赤字が続いている」「改善策としてM&Aを検討しているが方法が分からない」とお悩みの方は、専門家によるアドバイスを受けることのできるM&Aベストパートナーズにぜひ一度ご相談ください。

著者

岡本宗史

さいたまみらいクリニック院長

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