IT業界はここ数十年で大きな成長を遂げており、将来を見据えてITエンジニアを志す人も少なくありません。
しかし、業界全体を見るとさまざまな課題が山積していることも事実であり、企業として生き残っていくための具体的な対策としてM&Aを検討するケースもあります。
本記事では、IT業界が抱える課題や、それを解決するためのM&Aの事例などもあわせて詳しくご紹介します。
IT業界の現状と市場動向
IT業界は数ある業種の中でも成長が著しく、2024年度の市場規模は14兆円以上にのぼっています。
近年の市場規模の推移を見ると、2020年のコロナ禍で成長は一時的に鈍化したものの、2021年からはテレワークやECの需要が高まったこともあり順調に拡大しています。
一口にITといってもシステム開発やWeb開発のほか、近年ではIoTやAI、クラウドといった新たなテクノロジーも登場しています。
社会構造や人々のライフスタイルの変化に伴いIT業界が果たす役割は大きく、今後も市場はさらに拡大していくと予想されます。
IT業界が抱える課題
明るい将来が期待されるIT業界ですが、その一方でさまざまな課題を抱えていることも事実です。
IT人材の不足とスキルのギャップ
近年、日本では人手不足が深刻化していますが、IT業界も例外ではありません。
特に、システム開発の上流工程を担うプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーは慢性的に不足している傾向があります。
プログラマーやSEとしてのスキルは十分であっても、上流工程を任せられる人材がおらずスキルギャップに頭を悩ませる企業も少なくありません。
労働時間の長さ
労働者の立場から見ると、IT業界=長時間労働というネガティブなイメージが定着していることも大きな課題です。
近年では働き方改革によって労働環境の改善が進んでいますが、すべての企業が問題を解決できているわけではありません。
また、人手不足が深刻化した結果、既存社員の業務負荷が増え長時間労働に陥るケースもあります。
サイバーセキュリティの強化
自社サイトの運営はもちろんのこと、テレワーク環境を整備する企業も急速に増えています。
手軽に情報発信ができたり、多様な働き方が実現できるといったメリットがある一方で、サイバーセキュリティのリスクが高まるというデメリットもあります。
個人情報や機密情報の漏えいを防ぐためにも、サイバーセキュリティの強化は多くの企業にとって喫緊の課題といえます。
技術の急速な進化への対応
テクノロジーの進展に伴い、データサイエンティストやクラウドエンジニア、IoTエンジニアといった専門人材の需要が急速に高まっています。
しかし、技術進展のスピードが速すぎるあまり、企業が求めるスキルを持ち合わせた人材は圧倒的に少ないのが実情です。
新たなテクノロジーに対応できないと企業の競争力が低下し、他社との間に大きな差が生まれるケースもあります。
職場環境の整備や支援体制の構築
目まぐるしく発展し続けるIT業界で生き残っていくためには、スキルアップに向けてつねに勉強し続けたり、最新の情報をキャッチアップする姿勢が不可欠です。
社員個人が意欲的に取り組むことはもちろんですが、企業としてもそれらを支援するための環境を整備する必要があるでしょう。
長時間労働の削減はもちろんのこと、資格取得支援や研修・セミナーの開催など、企業としてできる支援にはさまざまなものがあります。
IT業界の課題解決に向けての取り組み
上記でご紹介したIT業界が抱える課題を解決するためには、具体的にどういった対策・取り組みが有効なのでしょうか。
専門人材の確保に向けた取り組み
人手不足の解消や社員のスキルアップを実現する方法として、以下のような取り組みが挙げられます。
リスキリングの推進
リスキリングとは、業務に必要なスキルや知識を習得・訓練することを指します。
IT業界では、AIやクラウド技術の進展により、これまで培ってきたスキルが陳腐化するリスクがあります。
企業としてリスキリングを積極的に推進することで、新しい技術や分野に対応できる専門人材を育成し、変化に強い組織を構築できます。
社員研修プログラムの強化
急速に進化するテクノロジーに対応するために、社員のスキルアップを支援する研修プログラムを充実させることも有効な方法といえるでしょう。
スキル面の向上はもちろんのこと、社員のキャリアアップを後押しすることにもつながり、組織全体の競争力が向上します。
アウトソーシングやグローバル人材の活用
既存社員の教育と合わせて、即戦力となる人材確保のためにアウトソーシングやグローバル人材の活用も進められています。
事業の中核を担う貴重な戦力となるほか、既存社員が一緒に働くことで実践を通してスキルアップを図ることもできるでしょう。
システム老朽化の対策
長年運用されてきたシステムの老朽化やブラックボックス化の課題を解決するためには、以下のような対策が効果的です。
旧システムからの大幅刷新
レガシーシステムの維持は、セキュリティリスクや運用コストの増大を招きます。
最新技術を活用したシステムへの大幅刷新を図ることで、業務効率の向上はもちろんのこと管理・運用コストの削減も期待できます。
段階的な移行計画の策定
システムの刷新には多くの時間とコストがかかるため、段階的な移行計画を立案することが重要です。
たとえば、現行システムを運用しながら、業務を限定して新システムへ徐々に移行するなど現実的なアプローチが求められます。
セキュリティ強化への取り組み
セキュリティ対策の課題については以下の対策が挙げられます。
ゼロトラストセキュリティの導入
ゼロトラストセキュリティとは、社内ネットワークの外部・内部を問わず、あらゆるリスクを想定しセキュリティ対策を講じるという考え方です。
たとえば、不正行為によって個人情報や機密情報の漏えいが発生することも考えられるため、端末の挙動を監視しセキュリティインシデントを予防するなどの対策が求められます。
セキュリティ教育と意識の向上
セキュリティ対策に関する意識の低下や、リテラシー不足が原因で情報漏えいにつながることもあります。
そこで、全社員を対象としたセキュリティ教育を実施することで、意識向上を図ったりヒューマンエラーによるセキュリティ事故を未然に防ぐ効果が期待できます。
多層防御の導入
サイバー攻撃の手口は巧妙化しており、単独のツールやセキュリティ対策だけでは防ぎきれないこともあります。
そこで、たとえばファイアウォールや侵入検知システム、データ暗号化などを組み合わせた多層防御を採用することでリスクを最小限に抑えられます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
少子高齢化が進む日本では、今後さらに人手不足は深刻化していき、現状のままでは生産性を維持できない企業も増えていくでしょう。
限られた人員で生産性を維持・向上させるためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が欠かせません。
たとえば、アイデア出しや意思決定は人間が担い、定型的な作業をAIやロボットに任せることで、業務の大幅な効率化とビジネスモデルの変革が期待できます。
ペーパーレス化の推進
ITに関するノウハウの不足や資金不足など、さまざまな理由によってデジタル化が進まない企業も少なくありません。
そのような場合に有効な第一歩となるのがペーパーレス化の推進です。たとえば、紙の契約書や資料をデジタル化することで、印刷や書類整理にかかるムダなコストや時間を削減できます。
また、データ化した情報は共有ファイルやクラウドストレージで管理しておけば、業務で必要な資料を瞬時に探し出すこともできます。
IT業界の課題解決にはM&Aという選択肢も
企業が抱える根本的な課題を解決するためには、M&Aという方法も選択肢のひとつに挙げられます。
M&Aと聞くと「会社を売り渡す」というネガティブな印象を抱く方も多いですが、実際にはさまざまなパターンがあり、自社の存続やさらなる事業の成長のために検討されることも多いのです。
M&Aでは具体的にどういった課題が解決できるのかを詳しく解説しましょう。
人材不足の解消
人手不足が続く日本において、優秀な即戦力人材を採用するには多くの時間とコストがかかります。
M&Aによって他社との経営統合が実現できれば、相手先企業に在籍している即戦力人材を確保することも可能になります。
新技術の獲得
IT業界では革新的な技術をいち早く取り込むことが競争力を高めるカギとなります。
そこで、たとえば特許技術や他社にはない高度な技術・ノウハウを持つ企業と経営統合ができれば、さらなる成長の原動力となるでしょう。
事業拡大と新市場への迅速な参入
同じIT業界でも企業によって専門分野は異なるため、新たな市場に参入する場合にゼロから体制を構築するとなると多くの時間とコストを要します。
また、参入したからといって安定した売上・収益を確保できるとも限りません。
M&Aによって、すでに市場に根付いている企業を取り込むことができれば、リソースを効率的に活用し短期間で業績を安定化できる可能性があります。
財務基盤の強化
経営基盤を安定させるために、収益力の高い企業を買収するケースもあります。
財務基盤が強化されることで、さらなる事業投資や市場拡大に向けた営業活動がスムーズに進められるようになるでしょう。
シナジー効果の創出
M&Aでは両社のリソースやノウハウを組み合わせることで、シナジー効果を発揮できる場合もあります。
たとえば、両者が持っている既存の顧客基盤を共有したり、製品やサービスのコラボレーションによって付加価値を高めることもでき、競争力の向上や他社との差別化が期待されます。
関連記事:IT業界のM&A動向とは?基礎知識や成功ポイントについて理解しよう
IT業界のM&A事例
IT業界においてM&Aを成功させた企業の事例をいくつかご紹介します。
ソフトバンク
IT業界の大型M&A案件といえば、ソフトバンクの事例を連想する方も多いのではないでしょうか。近年注目を集めたのは、半導体設計を手掛けるイギリスの企業ARMを傘下に収めた事例です。
半導体はIoTやAIをはじめとしたテクノロジーを支える心臓部ともいえ、ARMがもつ設計に関する高度なノウハウと将来性に着目したソフトバンクは巨額の資金を投じて子会社化しました。
これを機に、ソフトバンクはIoTやAIといった先進的な分野において急速な成長を遂げています。
KDDI
新技術の獲得や新規市場への参入を成功させたM&Aの事例として、KDDIによるソラコムの買収が挙げられます。
M&Aが成立した2017年当時、ソラコムはM2MやIoT分野に関するノウハウをもったスタートアップ企業でした。KDDIは通信事業者として生き残っていくためにIoTビジネスへの参入を検討しており、大型のM&A案件として注目を集めました。
M&A後はIoT事業のグローバル展開や5Gと連携した新サービスの開発にも成功し、シナジー効果を高めています。
Amazon
世界最大のECプラットフォームを展開するAmazonも数多くのM&Aによって事業を拡大しています。
近年ではオンライン薬局のサービスを提供していたスタートアップ企業PillPackを買収し、オンラインで処方薬を購入できるサービス「Amazonファーマシー」を開始しました。
ヤフー
Webサービスを手掛ける大手IT企業のヤフーは、さまざまなジャンルの企業を買収することでコンテンツの充実や顧客基盤の安定化を実現してきました。
近年では料理のレシピサイト「クラシル」を運営するDELYを子会社化したことで、ヤフーとクラシル双方のユーザーに対して効果的なアプローチを行いシナジー効果を発揮しています。
駿台グループ
ユーザーニーズの多様化やライフスタイルの変化に伴い、サービスの充実を図るために非IT企業がIT企業を買収するケースも増えています。
たとえば、予備校や専門学校を運営している駿台グループでは、オンライン家庭教師「manabo」を運営するマナボの買収を発表しました。対面式の授業とオンラインのメリットを補完し合うことで、少子化が進む中でも事業拡大に成功しています。
まとめ
企業の時価総額ランキングを見ると、AppleやGoogle、AmazonなどのIT企業が上位を独占しており、世界的に見てIT業界はもっとも成長が期待される産業分野といえます。
日本においてもITは経済を支える重要な産業に成長していますが、さまざまな経営課題が山積していることも事実です。
企業の努力や工夫によって解決できる課題も多いですが、自社だけでは対処が難しい場合にはM&Aも選択肢のひとつとして検討してみましょう。
IT業界のM&Aを検討しており、交渉や手続きに不安がある場合には、MABPへお気軽にご相談ください。