M&Aの過程のなかで、デューデリジェンスは非常に重要なプロセスです。
本記事では、デューデリジェンスの意味や種類、適切な実施期間や方法について詳しく解説します。また、事業、財務、法務、税務、ITなど各種デューデリジェンスの特徴と、効果的なチェックリスト・手順についても具体的に説明しますので、デューデリジェンスについての基礎知識をおさえたい方におすすめです。
基本を理解することで、リスクを特定し適切に対応する能力が向上し、企業の価値を正確に評価するスキルが身につくでしょう。
デューデリジェンスの意味とは?
デューデリジェンスは、企業買収や投資の際に行われる詳細な調査のことを指します。日本語では「買収監査」とも呼ばれ、対象企業の業務内容や財務状況、法的リスクなどを総合的に評価するためのプロセスです。
この調査は、対象企業の業種や事業規模、また企業価値評価の結果に応じて、その範囲や方法が異なります。
それでも、デューデリジェンスの結果は、M&A交渉の基礎となり、これによって交渉を続けるかの意思決定をしたり、合意条件を決めたりする重要なデータとなるのです。
なお、デューデリジェンスはDue(当然行われるべき)Diligence(義務・努力)という意味を持っています。
デューデリジェンスを行う期間・タイミング
M&Aにおいて、デューデリジェンスは基本合意契約を締結した後に行われることが一般的です。
M&Aの検討
↓
相手先の検討
↓
基本合意終結
↓
デューデリジェンス
↓
(この調査期)
↓
最終契約終結
↓
クロージング
この調査期間は通常1〜2ヶ月ほどかかりますが、場合によっては2週間程度で完了することもあります。
しかし、デューデリジェンスの成功には対象企業の協力が不可欠です。相手企業の必要書類の準備や情報提供が遅れると、たとえ調査を急いで行う必要があっても、計画通りに進めることは困難になります。
そういったリスクからも、デューデリジェンスはM&Aプロセス全体のスケジュールに大きく影響することもあるため、それを踏まえた計画を立てることも重要です。
デューデリジェンスが必要なわけ
デューデリジェンスが必要な理由には、リスクの特定と対応の見極め、企業価値の正確な評価などがあげられます。
以下に、詳しくみていきましょう。
リスク特定と対応の見極めが必要だから
デューデリジェンスは、財務状況の健全性を確認し、運用上のリスクを見極め、法的な問題点を洗い出して評価することを目的としています。これにより、潜在的な問題を事前に把握し、適切な判断ができるようにするのです。
買い手はこのプロセスを通じて、リスクを最小限におさえた投資決定を行うことができるようになります。
また、売り手側にとってもデューデリジェンスは重要です。あらかじめ問題点を把握し、対策を講じることで、契約後のトラブルを回避することができるのです。
これにより、双方にとって円滑な取引が実現し、信頼性の高い取引関係が築かれます。
企業の価値を正しく評価できるから
デューデリジェンスによって、企業や資産の正しい価値を知ることができます。これにより、取引価格が適正かどうかを正確に評価することが可能になるのです。
また、デューデリジェンスを通じて、新たなビジネスチャンスを発見することもできます。企業の内部情報を詳細に分析することで、潜在的な成長機会やシナジー効果を見つけ出すことができ、戦略的な意思決定に役立てることができるのです。
買い手側にとっては、過大評価あるいは過小評価を避けることができ、売り手側にとっても、企業の価値を正しく伝えることで、適正な価格での売却が実現しやすくなります。
これにより、また透明性の高い取引ができ、信頼性を確保することができるのです。
デューデリジェンスの種類
種類 | どんなプロセスか | 実施者 |
事務(ビジネス) デューデリジェンス | 買収に見合う企業・事業なのかを調査 | 戦略コンサルタント |
財務(ファイナンシャル) デューデリジェンス | 業績・収益力・薄外債務の調査 | 公認会計士 |
法務(リーガル) デューデリジェンス | 許認可や訴訟など、法的リスクの調査 | 弁護士 |
税務 デューデリジェンス | 税務面のリスクの調査 | 税理士 |
IT デューデリジェンス | 既存システムの有効性や、新システムの必要性を調査 | ITコンサルタント |
デューデリジェンスには様々な種類があります。
ここでは、事業、財務、法務、税務、IT、その他のデューデリジェンスについて詳しくみていきましょう。
事業(ビジネス)デューデリジェンス
事業デューデリジェンスは、対象企業の事業やビジネス状況を詳細に調査するものです。
主要な事業活動、戦略や方針、市場競争力、顧客との関係、将来の成長見通しなどが調査対象となります。さらに細かくいえば、各種決算資料、事業計画書、競合相手、仕入先、顧客、製品・サービスの内容、市場の状況、保有する技術などです。
その目的は、M&Aの際に対象企業の事業戦略や状況を正確に把握することで、潜在的なリスクを見つけ出すことにあります。
財務(ファイナンシャル)デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、対象企業の財務状況を詳細に調査するプロセスです。これには財務諸表、収益、費用、資産、負債、キャッシュフローなどが含まれます。
主な目的は、時価純資産、正常収益力、簿外債務の有無、キャッシュフローの状況、内部統制の状況等などを確認し、潜在的な財務リスクを特定することです。
調査は税務や法務など他のデューデリジェンスと並行して実施され、それらの結果を基に調査範囲が調整される場合もあります。特に中堅・中小企業のM&Aでは、決算書と実態がかけ離れていることが多いため、財務デューデリジェンスの実施は必須といえるでしょう。
調査対象には、決算書や総勘定元帳、具体的な証憑類、予算・事業計画書、監査法人による報告書、役員会の資料、銀行に提出した資料などです。また、簿外債務の把握のため、雇用、不動産、法務関係の資料や契約書なども含めることがあります。
法務(リーガル)デューデリジェンス
法務デューデリジェンスの目的は、譲渡対象企業や事業の法務を対象とした調査で、想定されるリスクを把握することです。
この調査では一般的に「許認可」と「訴訟」に重点が置かれます。その理由は、許認可が引き継げない場合、事業の継続が困難となり、訴訟を抱えている場合は、賠償金の支払いリスクが発生するためです。
調査対象には、会社組織に関する資料、株式と株主関連の資料、役員・社員に関する資料、業務に関する資料、紛争に関する資料、許認可に関する資料などが含まれます。
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスは、対象企業の税務関連情報を詳細に調査するプロセスです。これには過去の税務申告内容や納税状況、税制度遵守、未解決の税務問題などが含まれ、税務リスクを洗い出すことを目的としています。
この調査は「税務リスクを回避・軽減するM&Aスキーム」を検討するために行われます。
特に、株式譲渡スキームの場合は、譲渡対象企業の税務リスクを引き継ぐことになるため、税務リスクが高い場合には事業譲渡スキームに変更するケースもあります。したがって、税務デューデリジェンスは必須デューデリジェンスの1つといえるでしょう。
調査対象には、決算報告書や勘定科目内訳明細などの各種基礎資料、財務関連の個別資料、税務関連資料などが含まれます。
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスでは、対象企業の情報技術(IT)インフラストラクチャー、ソフトウェア、セキュリティ、データ管理などを詳細に調査します。
M&A後に両社の情報システムを統合する可能性がある場合、対象企業のITリスク、セキュリティの問題、システムの効率性を評価し、M&A後のIT課題を特定するのが目的です。
このプロセスでは、IT環境の現状を把握し、統合後の運用に適したシステムの取捨選択や移行にかかる時間と費用を考慮する必要があります。
調査対象は、情報システムの体制に関する資料、アプリケーションの詳細、インフラの現状、ITコスト、システム管理を担う人材、セキュリティポリシーなどです。
その他のデューデリジェンス
その他のデューデリジェンスとしては、環境デューデリジェンス、知的財産デューデリジェンス、不動産デューデリジェンスなどがあります。
最近では、企業の社会的責任が高まるなかで、人権デューデリジェンスも注目されているものの一つです。これは、企業が労働環境や人権に対する責任を果たしているかを評価するもので、ニュースでも耳にしたことがある方も多いと思われます。
どのデューデリジェンスでも、実行することで適切な評価ができるようになり、投資や買収のリスクを低減することができるのです。
デューデリジェンスのチェックリスト・手順
デューデリジェンスの効果的な実施には、明確な手順の把握と、チェックリストが必要不可欠です。
以下では、その具体的なステップを解説します。
1. 調査チームを組成し、調査準備を行う
デューデリジェンスを効果的に行うためには、まず業務の担当者と専門家で調査チームを組成することが重要です。
また、調査を始める前に、まず対象企業と秘密保持契約を結ぶ必要があります。これにより、機密情報の保護を確保しつつ、円滑に調査を進めることができるのです。
次に、調査のスケジュールや具体的な調査内容を、チーム全員で共有します。これにより、各メンバーが役割を明確にし、効率的に調査を進めることができるようになるでしょう。
なお、調査の準備段階では、対象企業から必要な情報や資料を収集することも含まれます。
最初のステップを確実なものにすれば、調査の質と信頼性を向上させられるため、適切に実行しましょう。
2.資料を分析し、聞き取り調査を実施する
デューデリジェンスの次のステップは、収集した資料の正確性を確認し、詳細な分析を行うことです。
資料の分析中に追加資料が必要になる場合もあります。その際には、迅速に追加資料を収集しましょう。
また、聞き取り調査を計画的に実施することも不可欠です。
さらに、この一連の作業を、土日など社員がいないタイミングで実施するなどして、対象企業の業務に支障をきたさないよう配慮しましょう。
このように、適切な計画と調整をもって行うことで、もっとも効率的かつ効果的なデューデリジェンスが可能となります。
3. 調査結果を検討する
デューデリジェンスの最終ステップは、調査結果の検討です。
結果を受けて、譲受け企業側の経営陣は、M&Aをこのまま続けるかの議論を行います。続ける場合も、価格交渉が行われるケースも多いでしょう。
譲渡企業側は、調査で明らかになった問題点について、解決策の提案を求められることがあります。
これにともなって、取引条件の再評価や契約内容の調整が必要となる場合もあるでしょう。
双方、ここで適切な対策を講じなければ、大きな損失を生み出しかねません。調査結果の検討は、迅速かつ真摯に行いましょう。
まとめ
デューデリジェンスは、M&Aの際に行われる詳細な調査です。
これにより、リスクを特定して、企業価値を正しく評価し、適切な意思決定を支援します。
期間やタイミング、種類に応じた調査手順を踏むことで、M&Aの成功率を高めることができるでしょう。その際、各ステップでの詳細なチェックリストと手順を理解し、適切に実施することが重要です。
M&Aベストパートナーズは、専門知識と豊富な経験を活かし、最適なデューデリジェンスを提案します。安心して取引を進めたい方は、ぜひご相談ください。