電気設備や水道、空調などの設計・施工を担う設備工事会社は、地域に根ざした企業も少なくありません。
長年にわたって順調に経営を続けてきたものの、人手不足や後継者不足などの理由で会社を存続させることが難しくなるケースが増えています。
このような経営課題を解決するためにM&Aを検討する企業も多いですが、譲渡にあたってはどのような点に注意すべきなのでしょうか。
目次
設備工事会社におけるM&Aの概念と重要性
設備工事会社とは、私たちの生活に欠かせないライフラインである電気や水道、ガス、さらには空調設備などの設計・施工を担う専門業者を指します。
一口に設備工事会社といっても、電気工事を得意とする企業もあれば、空調設備工事を得意とする企業もあります。
各業者によって、対応可能な工事や得意分野は異なります。
そのため、異なる専門領域をもつ設備工事会社同士がM&Aを行うことで、対応可能な工事が増え顧客満足度の向上につながる可能性があります。
また、現在さまざまな業種・職種において深刻な人手不足が続いていますが、設備工事会社も例外ではありません。
転職が当たり前の世の中になった今、若手人材を採用してもさまざまな理由によって離職していき、現場で働く職人や作業員が高齢化している現状もあります。
優秀な若手が育成できないと管理職や経営者も不足し、次の世代に会社を引き継ぐことも難しくなります。
このように、設備工事会社の中にはさまざまな経営課題を抱えているケースが多く、これらを解決するためにM&Aという手段は有効な方法といえるのです。
関連記事:M&Aとは?目的や流れ、メリット・デメリットについて解説
設備工事会社がM&Aを行うメリット
企業がM&Aを行う目的は「経営課題を解決するため」という一言に集約できます。
しかし、設備工事会社が抱える経営課題は企業によっても異なり、漠然として分かりづらいものです。
そこで、M&Aによって具体的にどういった経営課題が解決できるのか、具体例を挙げながらメリットを紹介します。
事業拡大の機会
冒頭でも紹介した通り、一口に設備工事会社といっても、得意分野や対応可能な工事の内容は異なります。
たとえば、電気設備工事を得意とする企業と、水道管工事を得意とする企業同士がM&Aを行うとします。
すると、両者の専門性を活かしながら事業領域を拡大していくことができるでしょう。
技術力とサービスの向上
異なる得意分野や領域をもつ設備工事会社がM&Aによって手を組むことで、両社が培ってきた技術とノウハウが集約されます。
そして、他社にない技術力や、付加価値の高いサービスを提供できる可能性もあります。
たとえば、空調設備工事と電気設備工事、水道管工事を依頼する場合、顧客は各専門領域の会社に個別に発注するケースが多いです。
しかし、M&Aによって事業領域が拡大することで1社がまとめて受注できるメリットがあります。
市場シェアの拡大
地元で長年にわたって事業を続けてきた設備工事会社も多く、地域住民や地元の取引先企業から高い信頼を得ています。
しかし、地元以外のエリアに進出しようとすると一から市場を開拓していかなければならず、必ずしも成功するとは限りません。
M&Aによって異なるエリアの会社と手を組むことによって、その企業が開拓してきた市場を取り込むこともでき、シェア拡大につなげられます。
経営資源の最適化
資金や人材、モノといった経営資源は限られており、これらを最適化することが経営効率にも直結します。
特に規模の小さい設備工事会社は、大手の企業とM&Aを行うことで、経営資源を有効に活用できます。
これまで実現が難しかった大きな事業にも、挑戦できる機会が得られるでしょう。
人材不足の解消
会社が生き残っていくためには次世代を担う若手人材の育成も重要ですが、人手不足に頭を悩ませる企業が増えています。
設備工事会社同士がM&Aによって手を組むことで、お互いに即戦力となる人材が確保できるメリットもあります。
一から人材を採用し育成するよりもコストがかからず、早い段階で経営の立て直しや事業戦略の強化に役立てられるでしょう。
後継者問題の解決
若手人材が育成できないと、次の世代に会社を引き継ぐことができず廃業も視野に検討しなければなりません。
しかし、M&Aによって信頼できる企業と手を組むことができれば、相手先企業の経営者に事業を継承し後継者問題に頭を悩ませる必要もなくなります。
関連記事:M&Aにおける注意点とは?買い手・売り手の両視点から解説【中小企業向け】
設備工事会社がM&Aを行う際の注意点
M&Aに対してネガティブな印象を抱く経営者も少なくありません。
「M&Aをすべきではなかった」「こんなはずではなかった」
そう後悔しないためにも、設備工事会社のM&Aを成功させるためには、以下の点に注意しておかなければなりません。
企業文化の不一致
設備工事会社に限ったことではありませんが、同じ業界・業種の企業であったとしても企業文化は異なるケースがあります。
自社が培ってきた文化と真逆の会社と手を組んでしまうと、従業員に戸惑いが生じたり働きにくさを感じたりすることもあるでしょう。
最悪の場合、M&Aがきっかけで退職を余儀なくされる従業員も出てくるかもしれません。
このような事態を防ぐためにも、買い手と売り手双方の企業は事前に入念なリサーチを行い、企業文化の違いを把握しておくことが大切です。
簿外債務のリスク
建設会社や土木会社、そして設備工事会社特有のリスクとして、M&Aの後に帳簿に記載されていない債務が発覚するケースがあります。
建設業界は契約の締結から完成・引き渡しまでの期間が長期に及ぶことも多く、会計処理が曖昧になりがちです。
その結果、企業買収後に簿外債務が発覚することも多いのです。
このような事態を防ぐためにも、M&Aを検討している企業に対しては、事前に買収監査を実施しておくことが大切です。
関連記事:M&A仲介会社とは?利用するメリットや仲介業者の選び方
設備工事会社のM&A事例
実際にM&Aによって経営課題を解決した成功事例をご紹介します。
株式会社日乃出エヤコン
株式会社日乃出エヤコンは、三重県松阪市において空調設備工事や電気設備工事などを手掛けている会社です。
1969年の創業から50年以上の歴史を誇り、多様な建設業許可を取得しながら事業を拡大してきました。
しかし、近年になって深刻な技術者不足と後継者不足に悩まされるようになり、そのための解決策としてM&Aを模索しはじめました。
M&Aにあたっては、自社だけが生き残れば良いという考えではなく、協力会社や地域社会と共に発展し続けていけることを重視し、候補先企業を選定したといいます。
また、地元である松坂地域をさらに発展させていく意味でも、東海地方でガス・熱・電気供給事業などを営む会社に絞り込みました。
経営トップ同士の面談を経て100%株式譲渡によるM&Aを決断し、日乃出エヤコンの屋号を残したまま完全子会社として再出発を図っています。
設備工事会社のM&Aについてのまとめ
設備工事会社は私たちが快適な生活を送るために欠かせない存在であり、事業を通して地域社会に貢献しています。
小規模でありながらも長年にわたって地元に根ざし事業を継続している企業も多いですが、一方で深刻な人手不足や後継者不足に悩むケースも少なくありません。
このような経営課題を解決し、会社を存続させていくためにはM&Aも有効な選択肢として考えられるでしょう。
M&Aを検討するにあたっては、企業文化が自社とマッチするかを考え、簿外債務のリスクなども事前に把握しておくことが大切です。