
コンクリートを加工したり製造したりするコンクリート製造業界(以下、生コン業界)は、長い歴史を持っています。明治初期頃からビルやダム、トンネルなど、社会基盤整備で重要な役割を担ってきました。
しかし、近年では企業の吸収合併を行うM&Aの動きが活発化しています。
この記事では、生コン業界の現状と抱える課題について詳しく解説します。併せて、生コン業界におけるM&Aの重要性とメリットについてもご紹介します。
「企業の永続的な成長のために必要な対策がわからない」とお悩みの方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。
目次
生コン業界は今後どうなる?
少子高齢化による人口減少の影響で都市開発は縮小傾向にあり、生コン業界に大きな影響を与えています。
生コン業界の市場規模と現状について、詳しく解説します。
生コン業界の市場規模
今後のコンクリート製造業界は、少子高齢化や人口減少の影響で市場規模の縮小が進むと見込まれています。
全国生コンクリート工業組合連合会の「コンクリート産業の推移」によると、日本のコンクリート需要はバブル期以降減少傾向が続いており、1990年代のピーク時と比べておよそ半分まで落ち込んでいます。
この背景には、新規住宅建設やインフラ整備の需要低下があります。
住宅建設や新規の都市開発は縮小傾向にあり、公共インフラ整備の一部も、新設ではなく維持や修繕へシフトしています。そのため、生コン業界の市場規模は、今後も縮小していくことが予想されています。
また、環境負荷への意識の高まりによって再生コンクリートやエコマテリアルの導入が進み、従来の製造量はさらに少なくなるでしょう。
こうした状況に対応するため、生コン業界では業務の効率化や新技術導入による生産体制の見直しが求められ、持続可能なビジネスモデルへの転換が課題となっています。
生コン業界の現状
建築業界で使用される生コンクリートは、セメントや混和剤、水などを混ぜて製造されています。
この製造方法は1949年頃に導入され、1953年には日本工業規格(JIS)で品質基準が定められるほどまで成長しました。
生コン製造を行っている企業は全国に2,778社ほどの企業が存在し、需要の低迷によってさまざまな課題を抱えています。
また、少子高齢化による労働人口の減少の影響も受けています。目の前にある人手不足はもちろん、技術やノウハウを引き継ぐ人材の確保ができず、各企業は頭を悩ませています。
生コン業界の課題
厳しい状況が続く生コン業界では、次のような課題を抱えています。
- 労働力不足
- 環境規制の強化
- 価格競争
- 技術革新への影響
- 品質管理と安全性の維持
- 物流と輸送コストの増加
労働力不足
熟練工の高齢化や過酷な労働環境、他業界との人材の取り合いによって、深刻な労働力不足に直面しています。
労働力不足はさまざまな部分に影響を及ぼし、生産性の低下や人的コストの上昇、納期の遅延などを引き起こしています。
環境規制の強化
排出ガスや廃棄物の管理に関する規制が厳しくなっていることで、環境規制への対応は生コン業界にとって重要な課題となっています。
なかでも、CO₂排出削減に向けた環境負荷の低減を実現するためには、新しい製造プロセスや技術の導入、車両の改良が必要です。
しかし、環境規制の遵守にはコストがかかるため、企業への経済的負担が大きくなります。
経済的負担を少しでも減らすためには、再生コンクリートやエコマテリアルの利用を促進し、持続可能な生産体制の構築が必要です。
価格競争
需要の減少と供給過剰の影響を受けて価格競争が激化し、利益の確保が難しくなっています。
激しい価格競争に対抗するために価格を引き下げることは、取引の維持や新規顧客の獲得つながるでしょう。しかし、過度な価格の引き下げは品質やサービスの低下につながり、他社との差別化も図れなくなります。
価格を引き下げた分のコストを削減することに意識が強まり、従業員の待遇悪化や環境対策が疎かになる可能性もあります。
生コン業界に限らず、競争に勝つために価格を引き下げることは、さまざまな弊害が生じます。競争に打ち勝つことができても、利益率の低下や従業員の離職など、さまざまなリスクがあります。
技術革新への対応
長い歴史を持つ生コン業界でも、時代の変化に合わせた対応が必要です。
具体例として、業務プロセスの自動化や、IoT技術の導入によるリアルタイムでのデータ分析が挙げられます。プロセスの自動化やデジタル化を発展させることで、生産性の向上やコスト削減が期待されます。
しかし、新たな技術を導入するためにはシステムの導入や人材の育成などの設備投資が必要です。価格競争の悩みを抱える経営者にとっては、判断が難しい課題といえるでしょう。
品質管理と安全性の維持
生コン業界における品質管理と安全性の維持は、顧客満足と信頼性を確保するためにはとても重要です。
厳密な品質管理をすることで、原材料から製造プロセスまでの各段階で、適切な製品強度や耐久性の維持ができます。
また、建築現場での作業が多い生コン業界では、安全な労働環境の構築も課題です。労働災害を予防するために、安全教育や作業環境の整備が求められます。
物流と輸送コストの増加
原材料の価格上昇や燃料費の高騰は、生コン業界に大きなダメージを与えています。
生コンクリートは、製造後に専用車両を使用して運搬します。しかし、燃料費の高騰が輸送コストの上昇に影響を与え、利益率が圧迫される恐れがあります。
さらに、脱炭素やCO₂削減などの環境規制に対応するためのコストも、生コン業界が抱える課題の一つです。

生コン業界の課題を解決するための取り組み
さまざまな課題を抱える生コン業界ですが、課題を解決するための手段は存在します。
生コン業界の課題を解決する方法を解説するので、取り組めることがないか探してみてはいかがでしょうか。
労働環境の整備
人手不足を解消するためには、労働環境の整備は重要な取り組みです。
労働条件の改善や安全対策の強化を行い、就職がしやすく、長期的に働きやすい環境を用意しましょう。
労働環境の整備は新たな従業員の雇用が促進できるだけでなく、離職率の低下にもつながり、企業価値の向上も期待できます。
また、ベテラン従業員の技術を若手に継承するための教育プログラムも重要です。適切な研修制度を用意することで、即戦力の育成がしやすくなるだけでなく、技術の継承も可能です。
持続可能な製造プロセスへの転換
持続可能な製造プロセスへの転換も、課題解決のためには必要です。
廃棄物や再生資源を利用したエココンクリートの活用が進められれば、原材料の節約と廃棄物の削減が実現できます。
また、カーボンニュートラルへの対応として、低炭素製品の開発や製造過程でのCO₂排出削減が求められています。エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入も必要です。
持続可能な製造プロセスへの転換は、業界の競争力を高めるだけでなく環境保護にも貢献し、企業の社会的責任を果たすことにもつながります。
最新システムの導入
人手不足や作業員の高齢化の影響で、業務の効率化が急務となっています。その対策として、AIやICT技術の導入が進められています。
新たな技術やシステムの導入によって自動化が進み、作業の精度やスピードが向上します。また、品質や安全性の向上も期待できます。
その他にも、物流管理システムを導入することで、運搬効率の最適化やコスト削減が実現できます。さまざまなシステムや技術を駆使することで、少ない人手でも高い生産性が維持でき、労働環境の改善にもつなげることができます。
最新システムや技術の導入は、生コン業界の競争力や企業の信頼性を高め、持続可能な成長を支える土台となるでしょう。
M&Aの実施
M&Aも、業務の効率化や持続可能な成長を目指すための選択肢の一つです。
最新システムや技術の導入は、莫大な費用が必要です。そのため、迅速に導入することは予算規模の大きい企業に限られます。
資金やリソースが乏しい企業は、M&Aで一部の事業を譲渡した利益を活用したり、大手企業の傘下に入ることで事業を継続したりするケースが増えています。
M&Aを通じて事業規模を拡大し、技術やノウハウの共有を図ることが可能です。
業界全体の競争力向上や事業の持続可能性を確保する手段として、M&Aはとても注目されています。

生コン業界のM&Aの目的とメリット
M&Aは、生コン業界にさまざまなメリットをもたらします。
譲渡企業と買収企業それぞれの目線から見たM&Aのメリットを解説します。
譲渡企業側の目的とメリット
譲渡企業がM&Aを行う目的やメリットは、以下のとおりです。
- 財政状況の改善が期待できる
- 自社のノウハウ継承が期待できる
- 従業員の雇用を継続できる
- 新規事業や市場開拓ができる
- 売却益を得られる
M&Aを検討する場合、多くの企業が財政状況や将来性に不安を抱えています。
勢いのある企業とM&A契約を進めることで、財政状況の改善や自社のノウハウ継承が可能になります。
財政難が原因で従業員の削減を検討している場合、M&Aによって雇用の維持ができ、従業員の生活を守ることもできるでしょう。
さらに、買収先の販路やノウハウとのシナジー効果が得られれば、新規事業への進出も実現できる可能性があります。
買収企業側の目的とメリット
M&Aは、買収企業にもさまざまなメリットがあります。
買収企業がM&Aを行う目的やメリットは、以下のとおりです。
- 市場占有率の拡大
- 新規事業への参入
- 同業他社との差別化
生コン業界は、JIS規格が設けられているため商品の差別化が難しいです。そのため価格競争が激しく、コスト削減の動きが高まっています。
生コン業界の中でも中小企業の立場は弱く、資金力も限られることからM&Aによる売却を検討するケースが多いです。
買収を行うことで、買収先の市場を手にいれ、市場での占有率を拡大することができます。また、異業種や独自性を持つ企業を買収することで、新規事業への参入や、同業他社との差別化も図ることができるでしょう。
関連記事:M&Aの目的を買い手・売り手の両視点から解説!課題やポイントも紹介
生コン業界のM&Aを成功に導くためのポイント
生コン業界でM&Aを成功させるためには、次の4つのポイントを抑えることが必要です。
- 方向性の一致
- 従業員への理解
- 情報管理の徹底
- 専門家への依頼
M&Aを行う大きな目的は、事業の継続や発展です。M&Aの目的を達成させるためには、両者の認識のブレを減らし、経営方針などの方向性を一致させることが重要です。
また、従業員に理解を求めることも必要です。なぜM&Aをするのか、従業員が納得できる説明ができなかった場合、離職につながる可能性があります。
情報管理の徹底も、M&Aでは重要です。M&Aを行うとき、重要な情報を多く扱うため情報漏えいが起きた場合、企業の信頼度や価値の低下をまねく恐れがあります。
最後に、M&Aはさまざまなプロセスを経て締結されます。締結するまでに、適正価格の設定や手続きなど、専門的な知識を要します。
スムーズにM&Aを行うためにも、専門家に相談し、適切なサポートを受けることがおすすめです。
関連記事:M&Aとは?概要や流れ、メリットなどについて徹底解説

生コン業界のM&Aの売却価格相場
M&Aを行う場合、売却側は自社の価値を見極め、適切な価格設定をする必要があります。
売却価格を算出するために必要な要素は、以下の通りです。
- 純資産
- M&A締結後に予想される利益
- ノウハウや既存顧客などの無形資産
価格の代表的な算出方法は、次の2つです。
- 帳簿情報を元に純資産から負債を差し引き、将来性や無形資産を加味した上で価格を決定する
- 株価や市場の動向から譲渡する会社の価値を決定する
企業の経営状況や無形資産の内容によって有利な方法は異なるため、売却価格の設定をする際は専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
希少価値が高いノウハウや技術を保有している場合、第三者の視点から適切な評価をもらうことで、納得できる価格設定が行えます。
生コン業界のM&Aの事例
M&Aベストパートナーズが実際にサポートを行った、M&Aの事例をご紹介します。
事例を参考にしていただき、M&Aの検討材料にしてみてはいかがでしょうか。
株式会社横浜システック様
株式100%譲渡を実施した株式会社横浜システック様は横浜と名古屋を中心に事業展開を行う企業です。コンクリートを使った建造物の補修や延命を広く行い、地元から首都圏まで広く事業展開を行っていました。
元々は老舗の建設会社にて働いていた3人で設立した、というチームワーク抜群の会社。設立から3年程は東海道新幹線の補修工事がメイン事業でした。そこから少しずつ取引先を増やし、2008年には横浜に自社社屋を構え、人員を増加して本格的に事業を発展させていきます。そして、売上は右肩上がりで横浜から静岡、名古屋と西へエリア展開を広げていきます。
しかし、事業が安定する反面で課題となるのが人材不足や後継者問題でした。売上の上昇を目指すには優秀な人材と後継者の育成が不可欠です。そこに不安を感じたことから横浜システック様はM&Aを検討。「自社の良さを活かしながらさらに上積みを目指せる会社を紹介してほしい」との熱い思いを受け、MABPは動き出しました。
そこからは候補先4社と2日にわたり面談を実施。複数の候補先から選ばれたのはコンクリート事業と不動産事業を展開する横山産業様でした。横浜システックの菅社長は、面談時に横山産業様が5〜6人と多くの社員で来られたことを受けて「他の企業とは熱量が違う」と感じ、M&Aを決意。実際に面談では横浜システック様の高い技術力と、横田産業様の将来性がマッチし、契約に至りました。
じっくりと面談を進めることで社内において大きな混乱が見られず、M&Aの影響で退社した社員はゼロという結果も出ています。
横山産業様が横浜システック社員の前で「資本の論理だけで経営を行っていない」と話して下さったことも2つの会社が1つになるために重要な要素であったと考えられます。実際に契約後に意見が覆るといったトラブルもありませんでした。M&Aにおいて、利益重視でなく内部体制に配慮した上で進めることが大切だと分かります。
また、M&Aにおいてはしばしばバックオフィス業務の統合が要になると言われていますが、この事例では「自社の課題やお客さまの要望、社会的ニーズに合致した結果としてM&Aに至った」というものが見られます。
管理体制だけでなく「企業が社会やお客さま、従業員などステークホルダー全体に対してどうあるべきか」を意識すると高いシナジーに結びつく契約ができるでしょう。
まとめ
生コン業界は、自然災害や社会の発展など、社会基盤を担う重要な存在です。
しかし、従業員の高齢化や技術伝承が遅れているといった課題もあり、同業だけでなく異業種とも手を組みながら、課題解決や企業の発展を目指す必要があります。
抱えている課題を解決する方法の一つに、M&Aがあります。
M&Aによって自社に不足している要素を補い、積み上げてきた技術やノウハウ、販売網を残すことができます。また、従業員の雇用維持をすることもできるでしょう。
M&Aベストパートナーズは、M&Aのプロとして、さまざまな企業のM&Aサポートをさせていただいた実績があります。
「経営の立て直しにM&Aを検討しているけど方法がわからない」「事業の継続をどのようにすrでばいいかわからない」といったお悩みをお持ちの方は、まずは「M&Aベストパートナーズ」へお気軽にご相談ください。
抱えている悩みに寄り添い、適切なサポートをさせていただきます。