近年、運送業界ではM&Aを実施する企業が増えています。
運送業界におけるM&Aを検討している人にとって、その動向について気になる人は多いでしょう。
また、M&Aを成功させるには売却相場の算出方法や事例についても把握しておくことが大切です。
本記事では、運送業界におけるM&Aの動向や売却相場の算出方法、事例について解説します。
また、運送業界の現状や課題も併せて解説するため、運送業界について知識を深めたい人は参考にしてください。
目次
運送業の現状について
運送業界におけるM&Aの動向を理解するには、運送業界の現状について把握しておくことが大切です。
まずは、運送業界の市場規模や、現状対応が迫られている2024年問題について解説します。
運送業の市場規模
近年では、ネット通販の市場拡大や、フリマアプリによる個人間での取引増加などにより、運送業界の市場規模が拡大しています。
経済産業省の「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、2019年の運送業界の市場規模は約28兆円です。そのうち、最も占めているのは「トラック運送業」で、市場規模が約19兆円という結果がでています。
さらに、国土交通省の「令和3年度宅配便等取扱実績関係資料」によると、2021年の宅配便取扱個数は約49億個であり、前年の約48億個よりも約1億個増加しています。
この傾向は、ネット通販やフリマアプリの普及によるものであり、運送業界の市場規模は今後も拡大すると予測されます。
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2024年問題について
2024年4月に施行される「働き方改革関連法」により、運転業務の時間外労働の上限が年間960時間に設定されます。
これに起因して起こりうる問題を「2024年問題」と呼び、運送業界では、この問題への対応を迫られているのが現状です。
例えば、ドライバー1人あたりの走行距離が短くなり、長距離の運送ができなくなることが懸念されています。その結果、運送業者の利益の減少や、ドライバーの収入減による離職などが考えられるでしょう。
さらに、月60時間以上の時間外労働を行う場合には、割増賃金率が25%から50%に引き上げられるといった施策もあります。運送業界で生き残るためには、2024年問題を早急に解消する必要があるでしょう。
運送業の今後の課題
運送業界では、2024年問題に対応するために解決しなければならない課題が存在します。今後、運送業界への参入を検討している人は、この課題について把握しておきましょう。
ここでは、運送業界の課題について解説します。
ドライバーの高齢化や人材不足
運送業界では、ドライバーの高齢化と人材不足の課題に直面しているのが現状です。
全日本トラック協会のアンケートによると、宮崎県トラック協会に加盟している運送業者のうち、約74%の運送業者が「かなり不足している」「やや不足している」と答えています。
(引用:公益財団法人全日本トラック協会│「物流の2024年問題」に係るアンケート調査集計結果について(速報))
さらに、「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023」によると、2022年時点のトラックのドライバーのうち、約76%の人が40歳以上という結果です。
(引用:公益財団法人全日本トラック協会│日本のトラック輸送産業-現状と課題-2023)
これを受け、運送業界では、今後さらに人材不足が深刻になると予測されるでしょう。2024年問題を解消するには、ある程度の人材が必要となるため、人材不足の課題は早急な解決が求められます。
ドライバーの厳しい労働時間
ドライバーの厳しい労働時間も、解決しなければならない課題の一つです。
全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業 現状と課題」によると、ドライバーの年間労働時間は全産業の平均と比較して、大型トラックのドライバーは504時間長く、中小型トラックのドライバーは420時間長いという結果が発表されています。さらにドライバーの年間所得額は、全産業の平均と比較して低いという結果もでています。
(引用:公益財団法人全日本トラック協会│日本のトラック輸送産業 現状と課題)
長い労働時間のわりに収入が低いというのは、新たな人材の確保も難しいでしょう。その結果、人材不足が加速し労働時間がさらに長くなるという悪循環に陥ります。そのため、労働環境の改善も解決しなければならない課題の一つといえるでしょう。
運送業におけるM&Aが活発な理由
近年、運送業界ではM&Aが活発化しています。ここでは、その理由について解説します。
後継者不足を解消するため
運送業界では、後継者不足を解決するために、M&Aを実施する企業が増えています。
昨今では、さまざまな業界において「後継者不足」が深刻な課題です。これは運送業界も同様であり、高齢となった経営者の後継ぎが見つからず廃業となったケースもあります。
帝国データバンクの調査によると、運送業も含めた運輸業界のうち、2022年時点で約53%の企業が後継者不足をかかえている状況です。
(引用:帝国データバンク│全国企業「後継者不在率」動向調査(2022))
少子高齢化が進むなか、後継者不足の企業は今後も増えると予測されるため、M&Aによる第三者への事業承継はさらに活発化するでしょう。
DX化に対応するため
近年では、国土交通省を中心に運送業界のDX化の推進を行っています。
具体的には、ドローンによる配送や自動配送ロボット、配車管理のデジタル化などです。
これにより、業務効率化が実現し、2024年問題の解消が期待できるでしょう。
DX化への取り組みは自社のみでは難しく、実現するためにIT企業やベンチャー企業をM&Aにより取り込む動きが活発化しています。今後、DX化への取り組みはさらに加速すると考えられるため、DX化に対応する目的のM&Aは増えるでしょう。
【売り手側企業】運送業におけるM&Aのメリット
ここでは、運送業界におけるM&Aの売り手側企業のメリットについて解説します。
後継者不足であっても事業承継が可能
先述した通り、運送業界では後継者不足により経営が困難になるケースが増加しています。
しかし、M&Aを活用すれば、第三者に自社を引き継ぐことができるため、後継者がいない状況であっても事業の存続が可能です。
特に、地域でのシェアや独自技術を持つ運送業者はM&Aの需要が高く、買い手が見つかりやすいため、後継者不足による廃業を回避できる可能性が高まります。株式の売却を通じて新たな経営陣に事業を譲渡することで、会社は存続し、従業員の雇用が保護されるため、地域社会への貢献も継続できるでしょう。
売却利益の獲得
M&Aを実施すれば、売り手側企業の経営者は、売却利益を受け取ることが可能です。
M&Aにより、廃業を回避できるうえ、売却利益を獲得できることは、経営者にとって大きなメリットといえるでしょう。
また、受け取った売却益を元手に新たな事業を展開したり、引退後の生活費に充てたりなどが可能になります。
個人保証・債務の解除
売り手側企業が金融機関への債務がある場合は、M&Aにより買い手側企業に引き継ぐことが可能です。また、中小企業庁が出している「経営者保障ガイドライン」の条件を満たせば、経営者が負っている個人補償も解消できます。
これにより、売却後に企業が倒産した場合に、売り手側企業の経営者が債務を返済するリスクや、業績悪化の保証のリスクがなくなるため、売り手側企業の経営者は安心できるでしょう。
大手グループに入ることによる経営基盤の強化
買い手側企業が大手グループであった場合、売り手側企業はその傘下に入ることが可能です。大手企業の傘下に入れば、買い手側企業のブランド力や営業力、資金力を活用できるメリットがあります。
また、これまで実現困難だった業務内容の改善や新しいビジネスモデルの探求も可能です。
このように、大手グループの傘下での運営は、経営資源を豊かにして安定した経営環境のなかで企業の成長を促進できるでしょう。
従業員の雇用維持
運送業者が後継者不足で廃業する場合、そこで働くドライバーや現場スタッフなどは失業してしまいます。従業員は職を失うことで生活に大きな影響を及ぼすため、特に重要な問題です。
M&Aを活用し、運送業者がほかの企業と合併や買収を行うことで、従業員の雇用を守れます。M&Aによって新たな経営体制が形成され、従業員は雇用の維持と安定した生活が保証されるでしょう。また、買い手側企業の規模によっては、現状よりも待遇がよくなる可能性もあります。
【買い手側企業】運送業におけるM&Aのメリット
運送業界におけるM&Aは、売り手側企業だけでなく買い手側企業にも多くのメリットをもたらします。ここでは、買い手側企業のメリットについて解説します。
運送業へ新規参入の際のリスクの低減
運送業界への新規参入を考えている企業にとって、M&Aはリスクを軽減し、参入する労力や時間を削減する有効な手段です。
運送業界は、参入障壁が低い業界であり、多くの企業が参入しています。そのため、業者数が多く他社との競争が激化している状況です。既に運送業界で確立された顧客基盤や運営ノウハウを持つ企業を買収すると、市場における競争力を短期間で構築できるでしょう。
運送業の事業規模を拡大が可能
自社の事業規模を拡大するための戦略にもM&Aは有効です。
特に、地域密着型の運送業者とのM&Aによって、その地域市場でのシェアを短期間で獲得できます。
さらに、運送業を行ううえで必要な設備やノウハウ、人材、顧客ネットワークを一括で獲得でき、事業の効率化と事業規模の拡大を同時に達成できるでしょう。
運送業におけるM&Aの価格相場の決まり方
ここでは、運送業におけるM&A取引での価格相場の算出方法と、その背後にある要因を詳細に解説します。
価格相場の簡易的な算出方法
運送業界におけるM&Aの価格相場を簡易的に算出する際は、企業の時価純資産に2~5年分の営業利益を加えて算出するのが一般的です。なお営業利益とは、無形資産である「のれん代」のことを表しています。
また株式譲渡と事業譲渡では、売却相場の算出方法が異なる点に注意しましょう。それぞれの違いは、以下の通りです。
・株式譲渡:時価純資産+営業利益×2~5年
・事業譲渡:事業資産+事業利益×2~5年
最終的な売却価格は企業価値をもとに交渉にて決定
売却価格は、企業の将来性や買い手側企業の資産状況、M&Aに対する緊急度、予想されるシナジー効果などさまざまな要素を総合的に考慮して交渉されます。
市場相場は目安であり、M&A取引では相場と大きく異なる価格での合意も珍しくありません。そのため、売買価格の最終的な決定に際しては、相場を参考にしつつも企業固有の価値や状況をしっかり考慮することが重要です。
企業価値の算定方法
M&Aにおける企業価値算定には、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つの方法があります。各アプローチには特徴があり、企業の状況や目的に応じて最適な方法を選択しましょう。以下は、それぞれの違いをまとめた表です。
コストアプローチ | 純資産の金額をもとに企業価値を算出する方法 |
インカムアプローチ | 収益性をもとに企業価値を算出する方法 |
マーケットアプローチ | 株式市場や類似・同業会社のM&A事例などをもとに企業価値を算出する方法 |
運送業のM&Aの成功事例
運送業界では、異業種間・同業種間のM&Aが盛んに行われており、企業の成長戦略やリスク軽減など多方面にわたる成功を収めています。以下の事例から、M&Aを成功させるための要因を探っていきましょう。
異業種同士のM&A
A社は、冷凍・冷蔵・常温物流に対応する物流センターを持つ運送事業者です。
一方のB社は、産業ガスや医療、食品、エネルギーなど、幅広い事業を展開する多角化企業です。
A社は、ドライバー不足や法規制の強化などの厳しい環境に直面し、解消すべく発行済株式の90%をB社に売却しました。
これより、A社はB社のインフラや経営資源を活用して事業の拡大を図り、B社の物流部門の強化にも寄与しました。結果、両社の物流効率を大幅に改善でき、双方にとって有意義なM&Aとなった事例です。
同業種同士のM&A
C社は、物流の業務を総合的に行う会社で、特に、電化製品の生産・販売に関する豊富な知識とノウハウを活かし、電気物流業界で高い納品品質を実現しています。
一方、国内外の広範な物流ネットワークを持つD社は、陸・海・空のすべての輸送手段を柔軟に組み合わせることで、効率的な物流を実現しています。
両社は、双方の強みを組み合わせることによって、業界における競争力の強化を図ります。その後、C社はM&Aにより自社の発行済株式の66.6%をD社に売却しました。
これにより総合物流企業の国際的ネットワークと物流の最適化ノウハウを取得し、成長性と収益性の向上を実現したM&Aの事例です。
まとめ
近年、運送業界におけるM&Aは、活発化している状況です。
その背景には、後継者不足の解消やDX化への対応などがあります。M&Aには多くのメリットをもたらしますが、成功させるには、専門的な知識や経験が必要です。そのため、M&Aの専門家に依頼するのがよいでしょう。
「M&Aベストパートナーズ」では、さまざまな業界におけるM&Aの専門知識と実績を持ったアドバイザーが担当いたします。
運送業界におけるM&Aを検討している人は、「M&Aベストパートナーズ」にご相談ください。