ビジネスを存続するうえでは、次の世代へ経営のバトンをつなぐ「事業承継」が必要です。そして、日本の「食」を支える農業においても、事業承継の重要性は高まっています。
そこで本記事では、農業法人や個人農家の事業承継について、わかりやすく解説します。
また、事業承継を実現するためのポイントや成功事例も紹介するので、農家を営み後継者不足に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
目次
農業における事業承継の重要性
農業法人や個人農家がビジネスを存続するためには、次世代へと事業をつなぐ事業承継が重要となっています。
農業における事業承継の重要性について解説します。
高齢化による廃業の回避には事業承継が不可欠
多くの業種で高齢化が社会問題となっていますが、農業も例外ではありません。
農林水産省の調査によると、農業従事者の平均年齢は平成27年時点で67.1歳と高い水準となっています。
その後も平均年齢は上昇を続け、令和6年時点では69.2歳となっています。
平成27年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | |
基幹的農業従事者 | 175.7万人 | 136.3万人 | 130.2万人 | 122.6万人 | 116.4万人 | 111.4万人 |
平均年齢 | 67.1歳 | 67.8歳 | 67.9歳 | 68.4歳 | 68.7歳 | 69.2歳 |
また同データによると、仕事として農業に携わる基幹的農業従事者の減少も深刻です。
平成27年時点では175.7万人いましたが、令和6年時点では111.4万人と、実に60万人近くも減少しています。
事業を引き継ぐことができなければ、農業法人や個人農家は廃業を余儀なくされ、いずれは日本の食文化へも大きな影響を及ぼす可能性があります。
インボイス制度により廃業を迫られる個人事業者が多い
高齢化や人材不足の問題に加えて、2023年10月施行の「インボイス制度」も個人事業主にとっては懸念事項となっています。
以前は、年収1,000万円以下の個人事業者に対する消費税の支払いは免除されていました。
しかし、インボイス制度の登録事業者となった場合、売り手となる個人事業者が消費税を支払う義務が生じます。
インボイス制度への登録自体は義務ではありませんが、登録しない場合は買い手側の仕入税額控除の割合が減額され、税務負担は大きくなります。
事業規模などによって登録事業者として消費税を支払うか仕入税額控除の減額を選ぶかは異なりますが、いずれの場合も負担増となり、廃業を選択する農業事業者が増加しています。
農業の事業承継で引き継ぐ主な経営資源

農業にはさまざまな経営資源がありますが、事業承継で引き継がれるものは以下の3つが挙げられます。
- ヒト(経営者・従業員)
- モノ・カネ(有形資産)
- 知的資産(無形資産)
ヒト(経営者・従業員)
事業承継によって、農業に携わる経営者や従業員、つまり「ヒト」が引き継がれます。
特に農業の事業承継は経営権を引き継ぎという側面が強く、「経営承継」と呼ばれるケースもあります。
モノ・カネ(有形資産)
形のある資産、つまり「モノ」や「カネ」も事業承継によって引き継がれます。
具体例として、農地や農業機械、株式、資金といったものが挙げられます。
具体的な引き継ぎ方法は、後述する事業承継の方法によって異なりますが、原則として有形資産には法的な権利が存在するため、コンプライアンスを遵守して適切に引き継ぐことが大切です。
知的資産(無形資産)
形のない資産、つまり「知的資産」も事業承継によって引き継がれます。
農業における知的資産として、農業に関するノウハウや技術、許認可、ブランド力、取引先との関係といったものが挙げられます。
知的資産の内容によって引き継ぎ方法は異なり、ノウハウや技術であれば、マニュアルや後継者への教育が必要となり、特許技術や許認可などの引き継ぎには、法的な手続きが必要です。
農業における事業承継の種類
農業の事業承継には3種類あり、誰を後継者とするかで適切な承継方法が異なります。
各承継方法の特徴やメリット・デメリットを解説します。
親族内承継
「親族内承継」は、子供や孫、親戚など親族を後継者とする事業承継で、農業では多く用いられている方法です。
親族内承継は、現経営者と後継者の距離が近い分、資産の承継や後継者育成がしやすいことがメリットです。
一方で、適任でない親族を後継者にしてしまうと、売上の低下や親族間トラブルが生じるリスクがあります。
従業員承継(親族外承継)
「従業員承継(親族外承継)」は、現経営者が雇用している従業員を後継者とする事業承継です。
親族ほどではないものの比較的距離が近く、有力な選択肢の1つといえます。
従業員承継は、特に多数の従業員を抱える農業法人の場合に有効な方法で、既存従業員へ引き継ぐことで後継者育成の負担も少なくできる効果が期待できます。
ただし、親族内承継と同様に適任でない従業員を無理に後継者にすると、売上低下や取引先からの信用手かいにつながるリスクを生じます。
第三者承継(M&A)
「第三者承継」は、社外の第三者を後継者とする事業承継です。
一般的に第三者承継は、合併(Merger)や買収(Acquisition)によって企業を統合するM&Aのスキーム(手法)によって実施します。
M&Aによる第三者承継は、社外の候補者から幅広く後継者を探せることがメリットです。また、相手企業のノウハウや人材を活かして、成長につなげられる可能性もあります。
ただしM&Aを実施する場合、相手探しや交渉、契約手続きなど多くのプロセスを実施することになります。そのため、M&Aでは専門家のサポートを依頼することが一般的です。
なお、承継の相手は農業関係である必要はなく、昨今では他業種とのM&Aも珍しくありません。
関連記事:M&Aとは?M&Aの概要やメリット・デメリットなどを詳しく解説
農業の事業承継で増えているM&A事例
昨今では、幅広く後継者を探せるM&Aを行う農業法人や個人事業の農業事業者が増えています。
農業法人同士の統合
人手不足の課題を抱える農業法人の場合、大手農業法人の傘下に入ることで人材確保がしやすくなります。
また、農業法人同士のM&Aであれば、それぞれの経営資源を統合することで、作業効率の向上やコスト削減など、高いシナジー効果が期待できます。
個人の事業買収・事業売却
後継者問題を抱える個人農家の場合、個人の買い手に事業を売却することで廃業を回避できます。
大規模な農業法人と比べて少額で買収できる分、買い手も手軽に農業へ参入可能です。
ただし、承継先(買い手)が農業未経験者の場合、長期的な育成期間が必要です。
十分な育成を行わずに事業承継してしまうと、継続的な事業運営ができなくなる可能性があります。
農業の事業承継で代表的なM&Aスキーム(手法)
M&Aには、さまざまなスキーム(手法)があります。
農業の事業承継において代表的な3つのM&Aスキームをご紹介します。
事業譲渡
「事業譲渡」は、売り手の事業の一部または全部を買い手へ承継するM&Aスキームです。
複数の事業を行う比較的規模の大きな農業法人の場合、事業譲渡が有効な方法となるでしょう。
また、事業譲渡であれば株式を持たない個人農家でも事業を引き継ぐことが可能です。
関連記事:事業譲渡とは?会社分割との違いやメリットやデメリットを解説
株式譲渡
「株式譲渡」は、売り手の株式を譲渡することで経営権を承継するM&Aスキームです。
前提として、自社株を保有している必要があるため、株式を持つ農業法人が後継者問題を解決する目的で用いられるケースが一般的です。
関連記事:株式譲渡とは?概要から税金まわり、契約書、確定申告などについて分かりやすく解説
会社分割
「会社分割」は、売り手の事業の一部または全部を切り離して包括的に買い手へ承継するM&Aスキームです。
例えば、農業事業の一部だけを切り離して新設企業として独立させることで、自社の従業員へ承継することも可能です。
関連記事:会社分割とは?新設分割、吸収分割の概要、メリット・デメリットなどを解説
農業の事業承継を成功させるためのポイント
農業において事業承継は重要ですが、ポイントを押さえて実施しなければ大きな成功につなげるのは難しいでしょう。
以下では、農業の事業承継を成功させるためのポイントについて解説します。
補助金や税制優遇を有効活用する
M&Aスキームにより事業承継する場合、多くの費用や税金が発生する場合があります。
例えば、高価な資産を承継する際に、後継者は多額の贈与税や相続税を支払わなければなりません。こうしたケースを回避するためにも、補助金や税制優遇を有効活用するとよいでしょう。
「経営継承・発展等支援事業」の補助金に申請することで、最大100万円まで支給される可能性があります。また「事業承継税制」を活用すれば、贈与税や相続税の猶予を受けることが可能です。こうした制度を活用できないか、検討してはいかがでしょうか。
お困りの際は、補助金申請サポート等を行っている下記サイトをご参考下さい。
関連サイト:秋田県秋田市の秋田税理士事務所、秋田県会社設立0円サポート
個人事業者の場合は法人化も検討する
個人事業者が事業承継する場合は法人化の検討をおすすめします。
法人化により各資産を会社所有とすることで、権利移転といった手続きがしやすくなります。
また、給与所得控除のような税制優遇を受けられるメリットもあります。
ただし、法人化をする場合はさまざまな手続きが必要となり、状況によっては法人化しない方がメリットが大きいケースもあるため、専門家へ相談するなど十分な考慮をしましょう。
M&A専門家のサポートを受ける
事業承継において、M&Aは特に有力な選択肢ですが、専門知識や経験がなければM&Aを成功させることは難しいでしょう。
M&Aを活用する場合は、M&A仲介会社など専門家のサポートを受けることがおすすめです。
M&Aの豊富な経験を持つ専門家であれば、相手探しや交渉、契約手続きなどの適切なアドバイスを提供してくれます。
農業における事業承継・M&Aの成功事例
事業承継やM&Aの成功イメージが湧かない農業法人や個人農家の方も多いでしょう。
そこで、農業における事業承継・M&Aの成功事例を2つご紹介します。
農業A社による B社への事業承継(株式譲渡)
農作物の生産や販売を手掛けるA社は、後継者が見つからず頭を抱えていました。そこでA社は、オール電化システムや太陽光発電システムの販売・施工を行うB社と、「株式譲渡」によりM&Aを実施しています。
B社は、A社の経営資源を取り込むことで、農業への進出を実現しました。またA社は、廃業を回避しただけでなく、B社の傘下に入ることで、さらなる成長を図っています。
農業C社によるD社への事業承継(事業譲渡)
小規模な農業に加えて不動産事業も手掛けるC社も、後継者問題を抱えていました。子供に後を継ぐ意志がないうえに、経営者の高齢化もあり、廃業を検討していました。そこでC社は、近隣の大手農家D社と「事業譲渡」によりM&Aを実施しました。
C社は、農業をD社の経営者に承継したことで、不動産事業だけに専念できるようになりました。また、D社はC社の農地や仕入ルートなどを取り込むことで、生産の安定化を実現しています。
まとめ
農業では高齢化による後継者問題が深刻化しており、事業承継の重要性が高まり、解決の方法としたM&Aが増加傾向にあります。
しかし、M&Aは専門知識が不可欠であり、M&Aによる事業承継を目指すためには、経験豊富な専門家に依頼することが確実です。
農業の事業承継をスムーズに行いたいとお考えの方は、ぜひM&Aベストパートナーズへご相談ください。
知識や経験、ノウハウの豊富な専任アドバイザーが最適な方法のご提案とスムーズな事業承継のお手伝いをさせていただきます。