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IT業界といえば将来性が高く今後の成長が見込まれる産業というイメージがありますが、その一方で残業が多く離職率も高いという声も耳にします。
実際にIT企業の中には、優秀な人材の流出が止まらず人手不足に頭を抱えているところも少なくありません。
本記事では、IT業界における離職率の現状と、企業がとるべき対策のポイントも含めて詳しく解説します。
目次
IT業界の離職率の現状
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はじめに、IT業界の離職率はどのような傾向にあるのか、統計データをもとに詳しく見ていきましょう。
業界全体の離職率
厚生労働省では毎年「雇用動向調査結果の概況」を公表しており、この中に産業別の入職・離職状況のデータが掲載されています。
令和5年のデータでは、情報通信業の離職率は12.8%となっており、全産業平均の15.4%(※)に比べるとわずかに低い数字です。
離職率が高い業種としては「生活関連サービス業、娯楽業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「サービス業(他に分類されないもの)」が上位を占めており、いずれも20%(※)を超えています。
このことからも、全業種で比較してみるとIT業界の離職率は低い傾向にあるといえるでしょう。
企業の規模や業態による差異
同じ業種であっても、企業規模によって離職率は異なります。
令和5年の「雇用動向調査結果の概況」によると、従業員数が1,000人以上の企業の離職率が14.2%であったのに対し、999人以下の企業では15.6%〜19%となっており、大企業に比べて中小・ベンチャー企業の離職率は高い傾向が見られます。
上記のデータは全業種の平均値ではあるものの、中小のIT企業は大企業に比べて給与や待遇面、業務内容などの差が生じやすく、結果として離職率が高まりやすい傾向にあります。
IT業界で離職が発生する主な原因
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ITは将来の成長が期待される産業であるにも関わらず、なぜ離職が発生してしまうのでしょうか。考えられる主な原因は以下の4点です。
業界の多重下請け構造
IT業界では一般的に、中小規模の企業は大企業からの下請け業務が多い傾向にあります。
3次請け、4次請けと間に入る企業が増えていくと中間マージンが発生し、最終的に現場で働く従業員の報酬が低く抑えられることが少なくありません。
また、下請け企業では定型的な業務を繰り返すことが多く、新たなスキルや経験が身につきづらい側面もあります。
その結果、従業員の働きがいやモチベーションが低下し、転職を検討するようになります。
長時間労働と労働環境
IT業界ではシステムの納期を厳守しなければならないほか、エラーやバグなど不測のトラブルにも対応する必要があり、長時間労働が常態化しやすい環境にあります。
その結果、プライベートの時間を確保できず仕事への意欲を失ったり、最悪の場合は慢性的な疲労やストレスによって体調を崩すケースもあります。
また、狭いオフィスや業務で使用するPCのスペック不足など、過酷な労働環境下での業務を強いられることも多く、これらが原因で離職に至ることもあるようです。
転職のしやすさ
IT業界はSEやプログラマーをはじめとした専門職の需要が高いため、他業界に比べて転職がしやすい環境にあります。
高度なスキルと豊富な経験をもった優秀な人材ほど、より良い給与や条件を求めて転職を繰り返す傾向があり、他社から引き抜かれるケースも少なくありません。
人間関係の希薄さ
IT業界ではプロジェクト単位での業務が中心となるため、人間関係が希薄になりやすい傾向があります。
たとえば、半年間のプロジェクトが終わったらそのチームは解散し、また別のチームで新たなプロジェクトに参画します。
短期間でチームが入れ替わる環境下では人間関係の構築に時間を要し、新人や若手社員が十分なサポートを受けられず、不安を感じて退職に至ることもあります。
IT業界の離職率低下に向けた具体的な取り組み
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IT業界において社員の定着率を上げるためには、企業としてどういった対策・取り組みが求められるのでしょうか。
労働時間の見直し
IT業界は長時間労働が慢性化しやすいことから、労働時間の見直しが大きな課題となります。
たとえば、残業時間の削減目標を設定し、管理職が業務の割り振りをして調整を行ったり、部門やチームごとに労働時間を可視化し、どの業務の負荷が大きいのかを把握することが重要といえるでしょう。
また、フレックスタイム制やテレワークを導入することも、働きやすい環境の構築につながります。
関連記事:システムエンジニアは残業が多い?平均残業時間と残業が多い時の対処法とは|Liberty Works
教育制度の充実
定型的な業務ばかりが中心になっていると、高度なスキルが身につかずモチベーションの低下を招きます。
そこで、たとえばe-ラーニングや外部研修の受講を支援し、社員のキャリアアップを支援する取り組みが求められます。
また、業務における若手社員の不安を取り除くために、先輩社員が継続的にサポートするメンター制度なども効果的です。
報酬制度の確立
十分な成果を出しているにもかかわらず昇給が見込めなかったり、同業他社と比較して著しく低い給与水準のもとでは従業員のモチベーションが低下しやすく、離職につながりやすくなります。
成果や貢献度を公正に評価できる制度を構築し透明性を高めることはもちろん、給与以外にも住宅補助や子育て支援などの新たな福利厚生制度も検討してみましょう。
求める人材の明確化
採用時のミスマッチが離職につながるケースもあることから、これを減らすための取り組みも企業に求められます。
たとえば、スキルや経験だけでなく自社の文化や経営理念、社風に適応できるかを採用時に重視することはもちろん、仕事内容や職場環境について求職者に正確な情報を提供し入社後のギャップを防ぐといったことも重要です。
既存社員へのケア
採用活動に注力することと同時に、すでに在籍している従業員へのケアも心がけなければなりません。
従業員が抱えている不安や悩みを把握するための面談を定期的に行い、迅速に問題解決に取り組んだり、産業医やカウンセラーによるケアによって心身の健康維持をサポートすることも有効な取り組みといえるでしょう。
離職率を抑えIT業界で企業が生き残るためには
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離職率が高まり人手不足が深刻化すると、経営そのものが成り立たなくなり、廃業や倒産に追い込まれる可能性もあります。
このような最悪の事態を回避するために、企業が生き残っていくためにはどういった対策が求められるのでしょうか。
最新技術の導入
IT業界はテクノロジーの進化が早く、新しい技術を取り入れないと市場での競争力を失ってしまいます。
IT業界の中で今後も企業が生き残っていくためには、生成AIや量子コンピューティング、サイバーセキュリティの強化、クラウド技術の積極的な活用など、最新技術のノウハウを高め強みにしていくことが重要です。
マーケティングの強化
技術力が高い企業であっても、適切なマーケティング戦略がなければ事業の継続的な成長は難しいものです。
IT企業におけるマーケティング強化のポイントとしては、SEO対策やコンテンツマーケティング、SNS運用などのデジタルマーケティングに積極的に取り組んだり、AIやビッグデータを活用したデータドリブンのマーケティング活動に取り組むといったことが重要です。
こうした取り組みの参考となるサービスを以下に紹介します。
関連サイト:
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他社との明確な差別化
IT業界に限ったことではありませんが、他社と比較してどのような強みがあるのかを明確化することが競争力の向上につながります。
たとえば、昨今では製造業や医療など、特定の業種をターゲットに絞りDXを支援するIT企業も少なくありません。
専門分野に特化することでクライアントからの信頼を得やすく、他社にはない独自性も打ち出しやすくなります。
M&Aの検討
成長戦略の一環としてM&Aは有効な選択肢のひとつに挙げられます。
従来、M&Aといえば会社を売り渡すといったネガティブなイメージを抱かれることも多くありましたが、昨今では人手不足の解消や事業領域の拡大、経営基盤の強化などを目的として検討されることも珍しくありません。
関連記事:IT業界の今後の展望|企業が生き残るための戦略設計について
IT業界のM&A動向と目的とは
IT業界ではどの程度の企業がM&Aを行っているのか、買い手・売り手の立場から見たM&Aの目的の違いも解説しましょう。
IT業界のM&A動向
いくつかの民間企業ではIT業界のM&Aに関するデータを公表しており、そのほとんどが右肩上がりの状況にあります。
リーマンショックが発生した2008年から2009年にかけては一時的にM&Aの件数は減少しましたが、その後2010年からは増加に転じています。
技術革新に伴い新たな技術・ノウハウの獲得を目指す企業が多いことや、ITは他の業種に比べると設備投資額が少なく、買収をしやすいこともM&Aが増加している背景として考えられます。
M&Aの目的
M&Aでは自社を売却する譲渡側と、買収する譲受側の企業が存在しますが、両社の目的にはどのような違いがあるのでしょうか。
譲渡(売却)側の目的
譲渡側の企業の主な目的は以下の4点です。
- 大手企業の傘下に入って事業を拡大したい
- 事業の伸び悩みを他社の力で解消したい
- 売却益を別の事業に投資したい
- 事業を次世代に引き継ぎたい
事業の伸び悩みによって経営基盤が低下したり、人手不足や後継者不足によって経営の安定化を目指す企業にとっては、M&Aによって他社の傘下に入ることで課題解決につながります。
譲受(買収)側の目的
譲受側の企業の主な目的は以下の4点です。
- 優秀なエンジニアを獲得したい
- 新規事業に迅速に参入したい
- 開発業務を内製化したい
- 既存事業を拡大したい
買い手の企業の立場では、既存事業が軌道に乗り経営は安定しているものの、さらなる事業規模の拡大や新規事業への参入などを目的としてM&Aが行われるケースが多い傾向にあります。
IT業界におけるM&Aの注意点
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M&Aはさまざまなリスクがつきものであり、慎重に交渉や手続きを進めないと思わぬトラブルに見舞われることもあります。
特に注意しておきたいのは以下の3点です。
企業文化の統合
IT業界の中でも企業によって文化や考え方は異なるため、両社の理解が進まずM&Aが失敗に終わることもあります。
たとえば、仕事の進め方や人間関係、評価制度の仕組みなど、経営統合を機に環境が大きく変わることもあるでしょう。
従来のやり方や考え方に固執するのではなく、お互いを尊重し理解し合う姿勢と丁寧なコミュニケーションが求められます。
システムやインフラの統合
業務で使用しているシステムや社内インフラの統合作業が大きな負担となり、両社のシナジーが十分に発揮できないこともあります。
M&Aにあたっては既存のシステムとの統合が可能であるかや、データ移行の難易度、あるいはサイバーセキュリティの基準統一なども念頭に慎重に検討する必要があります。
デューデリジェンスの徹底
M&Aの完了後に簿外債務が発覚したり、取引先との契約に不利な条項が含まれているなどの法的トラブルが発覚するケースもあります。
正式な契約締結後にこのような事態が発覚すると、想定外のコストや訴訟リスクを抱えることになるため、専門家によるデューデリジェンスの徹底は不可欠です。
IT業界のM&A事例
M&Aによって経営課題の解決に成功した企業の事例をいくつかご紹介しましょう。
エイチーム
スマホアプリの開発を手掛けるエイチームは、2017年にIncrementsを買収しました。IncrementsはITエンジニア向けのさまざま情報を共有するプラットフォーム「Qiita」を運営していましたが、業績が伸び悩み経営状況が悪化していました。
エイチームの傘下に入ることで経営基盤が強化され、危機的状況を脱することができました。
ソルクシーズ
クラウドサービスや自動運転技術の開発を手掛けるソルクシーズは、AIに関するノウハウと技術を手に入れるためにアックスの株式譲渡によってM&Aを成功させました。
アックスはAIをはじめとした先進技術の知見を多く蓄積しており、特に自動運転技術の開発にはこれらのノウハウが不可欠です。
今後は自動運転技術だけでなくクラウドサービスにもAIを搭載し、両社のシナジーを発揮していくとしています。
Amazon
EC大手のAmazonは、オンラインによる処方薬の販売に参入するためにPillPackとのM&Aに踏み切りました。
PillPackはオンライン薬局の事業を手掛けるベンチャー企業であり、同社を傘下に入れることでAmazonは処方薬販売のノウハウを手に入れることに成功しています。
関連記事:堅調なIT業界にも課題山積?具体的な対策とM&A事例を紹介
まとめ
IT業界の離職率は全業種で比較してみると突出して高いというわけではありませんが、慢性的な人手不足に陥っている企業が多いことも事実です。
離職率を抑えるためには、労働時間や報酬体系の見直し、採用のミスマッチ防止、既存社員へのケアなど、さまざま対策が求められます。
ただし、少子高齢化が進む日本において採用のハードルは高まっており、即戦力人材の採用は簡単なことではありません。
このような経営課題を解決するための手段として、M&Aも選択肢のひとつとしてぜひご検討ください。