電気機器業界は、技術の革新と市場の動向によって常に変化しています。
近年では、競争力を高め、市場でのポジションを確固たるものにするために、多くの企業がM&A(合併・買収)を戦略的に活用しています。
当記事では、電気機器業界の現状を詳しく見ていくとともに、M&Aの最新動向について分かりやすく解説していきます。
目次
電気機器業界の現状
かつては家電が主要製品でしたが、現在、日本の電気機器業界における家電の市場シェアは22%程度にとどまっています。今は電子回路などを構成する電子部品、システム関連、エンタメ事業などが盛んになっています。
日本製の電子部品は世界市場の約40%を占め、国を代表する産業の一つです。
システム関連では、金融機関のATM、電力会社の電力供給システムなどの社会インフラ、工場設備のシステムなど一般企業向けのものまで幅広く取り扱っています。エンタメ事業は、家庭用ゲーム機をイメージしていただくとわかりやすいでしょう。
ゲーム・映画・音楽関連の機器やサービスが、電気機器業界全体の売上のうち、約50%を占めるほど成長しています。
しかし、現在の電気機器業界の市場全体の売り上げは、ほぼ横ばいで、成長の見込みもない状態です。
スマートフォンの普及に伴い、若年層のテレビ離れが進行し続け、音楽はストリーミングが主流になるなど、時代と共に需要が変化しています。そのため、電気機器業界の企業は今、多角化を目指さざるを得ないのが現状です。一部の電機メーカーは事業部会社制を導入し、事業ごとに分社化する経営戦略を採用しています。
かつて、日本製の電気機器は、高価な反面、高性能・高品質で長持ちするブランドでした。
しかし今はアジア圏の経済成長に併せて、日本製電気機器の神話も盤石なものではなくなり、日本製より安く、デザインにも優れ、性能や製品寿命も劣らないものが多く輸出されており、消費者も海外製を選ぶ機会が増加しています。
例えば、海外製のテレビやモニター、スマホを使っている人もいるのではないでしょうか。そのため、国内の電機メーカーはかつての時代より、より多くのライバルと競争しなくてはならない状況となっています。
近年の円安や物価高騰などを受け、電気機器も例にもれず値上がりが続いていますが、消費者からの電気機器への需要は衰退したわけではありません。
それでも、半導体不足によって製品を製造することができないなどの供給量不足が起こってしまっている面もあり、需要に対して供給が追いついておらず、それもまた消費者が海外製を購入する要因となっています。
また、そうして供給が追い付いていないことで、国産の電気機器はより値上がるという悪循環が起きているのも事実です。
国内の電気機器業界には戦後の日本人を支え「三種の神器」などで生活を豊かにしてきた企業も多数あります。しかし、これまでのやり方で胡坐をかいていられる状況ではなくなり、主に事業の多角化といった変革が求められているのが現状です。
電気機器業界のM&Aの動向と特徴
電気機器業界のM&Aは主に、同業界内で盛んに行われています。
国内の企業同士で行う場合は、成熟した市場によって、頭打ちとなった売り上げを伸ばす方法として選択されるのが一般的です。新規顧客の獲得、従業員のノウハウの底上げなど、事業基盤をさらに強化するのが主な目的とされています。
海外進出のためのM&Aも盛んに行われています。
電気機器業界は国内の経済界でも力のある業界であると同時に、海外の同業界とも渡り合える技術力を持っているのが強みです。世界的な企業として、各国で知らない人はいない社名に心当たりがある人もいるでしょう。
そうした上場企業はもちろん、そうでない非上場企業も合わせて、主に欧米の有名な電機メーカーを買収して、より事業を拡大するケースが増加しています。どの国でも電気機器業界は力があることから、M&A全体でも見ても、過去最大規模を記録したM&Aが行われたケースがいくつもあるのが特徴です。
ちなみに、欧米以外にイスラエルの企業も注目されています。武力衝突の絶えない地域ではあるため、慎重に検討する必要はあるものの、日本、ドイツに並び、技術力が平均的に高いイスラエルのIT関連、精密機器や電気機器は、日本国内の企業にとっても魅力的な水準を持っているのです。
実際、日本国内の上場企業がイスラエル企業とM&Aを行った事例もあります。
家電やゲーム機、電気や水道設備など、多岐に渡っているのが今の電気機器業界です。そのため、この特徴を活かし、異なる業界の企業とM&Aを行うことも多くあります。
例えば、電機メーカーが建設業界の企業とM&Aを行うことで、社会インフラの建設とシステム設計を一社で完結することができるからです。
消費者ニーズの変化および多様化、海外企業の安価な製品。事業の多角化が求められる近年の電気機器業界において、あえて事業を一点集中させて業績を上げようとする動向もあります。
どの企業も、自社のどの部分を成長させたいかが明確になっていることが多く、その目的を最も効率よく達成させることができるのがM&Aというわけです。
電気機器業界でM&Aが行われている背景
背景にはやはり、縮小していく国内の市場と、年々進歩するテクノロジーと進むグローバル化にあります。高度経済成長期はもう過去の話。今は日本を除くアジア圏全体が経済成長しており、中国、韓国、台湾などが日本の電機メーカーに台頭して市場を拡大しています。
そのため、日本国内の電機メーカーは、世界に後れを取らないよう、最先端のテクノロジーを獲得することに積極的になっています。
少子高齢化による人口減少で国内の市場は縮小し、特に家電の分野は買い替え需要で持ちこたえている状態で、売上も大きく上昇させることは困難になっています。
かつて、家電の主な販路であった家電量販店は寡占化し、新規参入はほぼできない状態。すでに独占している側のメーカーでも希望金額での販売が困難になっています。さらにAmazonなどのネット通販で、安価で良質な海外製の電気機器も容易に入手できる状態となりました。
加えて半導体などの部品不足も重なり、需要に対して供給量不足が起きていることで、物価高騰も重なって価格が下げられないどころか、値上がりが続いているため、上場企業でも新たな戦略を打ち出す必要が出てきています。
スマートフォンの普及および機能の成長により、端末1台でデジカメ、オーディオ、テレビ、パソコン、カーナビ、ゲーム機、電話機、時計などの役割を果たせるようになりました。
それにより、カメラなどを別で買う人も年々減少し、若年層のテレビ離れは進行して、テレビが家にないという単身世代も増加しています。
反対に音楽はストリーミングが主流になるなど、時代と共に需要が変化したことで、企業は事業を多角化する必要が出てきているのです。
業界内の中小企業は、大手上場企業から受注して生産する形を取っているのが一般的です。そのため、大量生産し、世界に向けて販売している海外企業に遅れを取っている面もあります。
それでも、国内の需要は一定水準を保っているのですが、それに対し半導体などの部品不足、さらに各企業の人材不足が深刻化している背景もあります。
特に工場や電気工事関係などは、従業員の高齢化も進み、主力となっている従業員の殆どが50代以上です。これは経営者も同じで、電気機器業界に限らず、団塊世代と呼ばれる人達が経営陣であることが多い傾向にあります。50代以上の中高年だらけの企業は、若年層にとって魅力的ではありません。
少子高齢化の影響もありますが、職人肌や体育会系などと呼ばれる人達が多い企業・現場であれば、草食系などの言葉も登場する今日の若年層と相性が悪いとも言えるでしょう。
工業高校出身者の就職先となることも多い同業界では、高校や大学の多様化・若年層の高学歴化が進んだことで、関心を寄せる学生も減少しました。
労働環境も過酷なケースが少なくありません。薄給で、昨今の猛暑の中でも熱を持つ機材を扱わなければいけないような現場だったりすると、若年層の興味関心を遠ざけているとも言えるでしょう。
それらは、応募する求職者も減少させると同時に、高い離職率も生み出しています。
また一部では、海外への人材流出も、企業がM&Aを検討する要因となっています。高度な技術を持った人材が、経済成長の続くアジア各国で就職することで、より良い待遇を受けるのです。
背景にある要因は複数あるとはいえ、主に海外企業に押されつつあることが、電気機器業界がM&Aを積極的に行う要因と言えるでしょう。
電気機器業界のM&Aの目的とメリット
ここでは、電気機器業界のM&Aの目的とメリットを解説します。
譲渡企業も買収企業も、事業の多角化など共通の目的もありますが、異なる部分も多くあります。
譲渡企業
強力な相乗効果が望めなくても、同業界の企業同士でM&Aを行えば十分なメリットが得られます。
電気機器業界全体でみれば人材不足・後継者不在が多発していますが、そうでない企業も存在します。
人材不足が起きていない企業とM&Aを行うことができれば、十分な人材補充になるだけでなく、双方の取引先によって変わる閑散期と繁忙期の変化に合わせて補い合うなどし、安定した経営も実現するのです。
人材不足の解消は、後継者不足の解消にも繋がります。従業員だけでなく、経営者の高齢化も進んでいるため、後継者を作りたい人にとっては、大きなメリットが期待できるでしょう。
電気機器業界の企業が廃業に追い込まれるというのは、単に一つの企業が無くなってしまうというだけでなく、国の政策や経済にとっても重要な、長年培われた日本のノウハウが失われることも意味します。
そのため経営者の中には、自分が育ててきた会社をここで終わらせたくないという思い以外に、世界に胸を張れる高度なノウハウ、独自のノウハウをここで途絶えさせたくないというケースもあるのです。
買収企業によっては、受注先を多く持っていることで生産が追い付いていない場合もあるかもしれません。そうした企業とM&Aを行えば、仕事がもらえるだけでなく、選べる仕事が増え、経営の選択肢を増やせることになります。つまり、利益率の向上を目指すことができるというわけです。
2社で人材を補い合ったり、選べる仕事が増えるということは、労働環境の改善にも繋がってきます。
そうなると、離職率の低下に繋がる可能性もあるため、連鎖するようなメリットが期待できます。
また、同業界内かつ同業他社とのM&Aであれば、既存事業の拡大に繋がり、事業内容が異なっていれば、新事業への参入・拡大が期待できるでしょう。
異なる業界であっても隣接業種とのM&Aであれば、同じく大きなメリットが期待できます。電気機器業界の隣接業種は例えば、建設業界、管工事業界、ビルメンテナンス業界、不動産業界などです。この場合も、新たな仕事の選択肢が増え、経営・従業員の収入と雇用の安定に繋がります。
M&Aは、そうした経営基盤を固められるとともに、より強化することも期待できるでしょう。
買収企業
買収企業にとっても、同業界内の同業他社とのM&Aの場合は、大きな相乗効果は望めなくても十分なメリットが期待できます。人材不足の解消、双方の取引先によって変わる閑散期と繁忙期の変化に合わせて、人材を補い合うことで安定した経営の実現。経営者と従業員の高齢化によって起きている後継者不在の問題も、解消できるでしょう。
買収企業が電気機器業界でなくても、電気機器業界とM&Aを行うケースは増加しています。理由としては、電気機器業界に限らず、あらゆる業界で事業の多角化を進める必要が出てきているからです。
電気機器業界はその中でも、消費者の生活に直結する製品・サービスを提供していることから、業界外の企業にとっても魅力的です。相乗効果によって、新製品・新サービスを開発・提供することができ、消費者ニーズに応えながら、新事業を展開することができます。
外注に多くを頼っているような企業であれば、電気機器業界の企業とM&Aを行うことによって、内製化することができます。そうすることで、コスト削減に繋がり、結果として収益の増加にも繋がるでしょう。
同じ業界でも、そうでなくても、高度なノウハウ、独自のノウハウを取り込むことができるのが特徴でありメリットです。譲渡企業の従業員・経営者に高齢者が多いということは、ベテランの人が多い、すなわちそれだけ高度なノウハウを持っているということになります。
この高度なノウハウを途絶えさせず取り込めば独占することができ、ひいてはそれだけで市場での競争力を強化し、優位に立つことができるようになるからです。
電気機器業界のM&Aをする際のポイント
電気機器業界は、特殊かつ高度なノウハウで溢れる業界です。
そのため、自社にどういった人材・ノウハウがあるのかなど、どういった強みがあるのかを明確に把握しておくのが重要です。
従業員が持つ資格や免許はわかりやすいアピールポイントになります。
さらにそれが多岐に渡っていたり、あるいは特許があれば買収企業にとってより魅力的です。従業員に高齢者が多いということは、経験年数や、その人独自のノウハウもアピールできるでしょう。
同業他社と比べて、ノウハウという点でアピールしづらいと言う場合でも、例えば50代以上が主力となっている業界内で、40代以下の働き盛りな従業員が多くを占めているとなれば、それだけでも買収企業にとっては魅力的な企業となります。
他にも、安定した取引先を持っていたり、利益率の高い事業を展開していたり、高効率な事業内容であることも強みと言えるでしょう。
働く人々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現するための改革、すなわち働き方改革という取り組みが生まれてからは、それに応じた労働環境になっているかも重要です。労働環境を改善していれば、それもまた強み・アピールポイントとなるでしょう。
逆に、弱みを認識しておくことも重要です。
弱みを認識しておくことで、M&Aによって何を目標にし、何を達成するべきかも明確になり、交渉をスムーズに行うことができるようになります。交渉がスムーズにいくということは、それだけ相手側の企業にとって好印象になるからです。
働き方改革に応じた労働環境の改善ができていない、あるいは改善の途中という場合も、弱みとして認識しておくと良いでしょう。
弱みとなる部分は、隠しておきたいというのが人間の心理です。
しかし、隠してもM&Aのプロセスの中で必ず明るみに出る時が来るため、全て開示することが重要です。
そうすることで、それらの問題解決のためのM&Aを目指すこともできるようになるほか、M&A仲介会社などの相談の段階からスムーズに候補企業を見つけることもできるようになるでしょう。
逆に、隠していたのが発覚するパターンだと、せっかく順調にM&Aが進行していたとしても破談になる可能性が高いため、注意が必要です。
M&Aでは強みと弱みの両方を把握することが重要です。
電気機器業界のM&Aの売却価格相場
結論から言うと、電気機器業界のM&Aに売却価格の相場はありません。
なぜなら、企業の規模やM&Aの種類で変動し、譲渡企業側と買収企業側の交渉によって決まるからです。ただ、M&A全体における平均価格は存在するため、M&A仲介会社などに依頼している場合は、経験豊富なアドバイザーに聞いてみるのも良いでしょう。
数々の事例から、その人しか知らない、高く売却するコツやテクニックを知っているアドバイザーもいるかもしれません。
売却価格の算出方法は、最終的には譲渡企業の経営者と買収企業の経営者の価格交渉によって決定しますが、その交渉の基準として、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの三種類の企業価値評価を用います。
コストアプローチ
コストアプローチは、純資産をもとに企業価値を算出する方法です。
中小企業の売却でよく用いられており、その中でも年買法を適用するのが一般的です。
年買法は「時価純資産+営業利益の2~5年分」といった数式を使います。
時価純資産は「時価資産-時価負債」で算出されたものを指し、すべての資産・負債を時価評価するのは不可能であるため、不動産や有価証券など、価格が変動しやすいものに焦点を絞って時価評価を算出するのが一般的です。このとき、ノウハウや人材などに対する評価は含みません。
ただ、年買法では現在の利益の数年分を超過収益力として見積もり、時価純資産に加算します。それが式の「営業利益の2~5年分」の部分です。買い手側の会計において「のれん代」として計上されるものもあり、ここが企業によって大きく変動することが、売却価格に相場がないとされる理由の一つです。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、中堅及び上場企業、ベンチャー企業が譲渡企業側となる場合、あるいは買収企業側が上場企業となる場合に用いられる方法です。その中でも、DCF法を用いるのが一般的とされています。
DCF法は、事業より生み出されるキャッシュフローをもとに株式価値を評価します。約5~10年分の事業計画をもとに、その年に生み出された利益のうち、納税や事業活動への投資分を除いたフリーキャッシュフローを算出。
そのフリーキャッシュフローから、現在価値に直して合計した事業価値を算出し、事業外資産を加算して、株式価値を算出するわけです。
この方法は予測と主観が基準になっている面が強いため、マーケットアプローチと併用するのが一般的。これも相場が算出できない要因となっています。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチには、市場株価法と類似会社比較法があります。
市場株価法は、売り手側が上場企業の場合に用いられ、株式時価総額をベースに企業価値を算出します。株価の変動を考慮し一定期間の平均株価を参考にしたり、支配権プレミアムとして株式時価総額の2割程度を上乗せしたりするのが一般的です。
類似会社比較法は、売り手側が非上場企業の場合に用いられ、事業の内容・状態が類似している上場企業と比較することで、企業価値を算出する方法。ただこの方法は、類似した上場企業が見つからないことも多いため、あまり用いられることはありません。
電気機器業界のM&Aの事例2選
ここからは、実際のM&Aの経験や事例を2選、紹介します。
また、それぞれのM&Aストーリーへのリンクも記載していますので、電気機器業界のM&Aについての実例を知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
【配電盤・分電盤・制御盤の設計/製作】松栄電機株式会社様の事例
松栄電機株式会社様は、1941年3月創設、1955年に株式会社となった電気製造業の会社。三代目社長である新堀英世氏が父親から会社を継いだ時、業績は順調でした。
それでも、40代半ばでM&Aを検討します。理由は、事業継承者がいないこと、娘2人のためにも準備は万全にしておく必要性を感じたこと、起業意識や、事業拡大という目標もあったことなど。
コロナ禍の影響もあり、経営が成り立たなくなる懸念もありました。
それらの課題を一気にまとめることができるのがM&Aだったのです。
担当となったMABPのM&Aアドバイザー・石田功は、松栄電機株式会社様と同様、製造業出身でした。新堀氏は、それが心を開ける大きな理由となったと言います。
石田は新堀氏の要望に応えつつ、複数の会社を紹介。新堀氏はその中の一社とM&Aのトップ面談まで至り、そこからは半年で最終契約を結びました。
「十社も当たれば、たいていの傾向がわかります」
信頼できるM&Aアドバイサーを探すポイントとして、「データをできる限り集めること」だと新堀氏はアドバイスしています。
そして「知識をある程度持っておき、わからないことは専門家に聞くようにすれば、舵を大きく取り間違えることはなく、気持ちも負けないと思います」と締めくくりました。
M&Aストーリー|3代続く盤製造の事業拡大、継承M&Aが最適な選択肢に
【電気設備設計施工等、電気工事全般】株式会社ひかりシステム様の事例
株式会社ひかりシステム様は、1956年創業のひかり電気商会から始まり、有限会社ひかり電気を経て、1991年、現在の株式会社ひかりシステムとなり、狩野宏氏が社長に就任しました。
創業当時は、いわゆる「町の電気屋さん」で、今も電気工事を数多く手掛ける会社。そのため、従業員の約8割は、電気工事士などの職人集団です。狩野氏にとっては信頼できる仲間たちですが、優秀な職人が優秀な社長になれるとは限りません。
狩野氏は、後継者について悩んでいました。息子を後継者にする手もありましたが、年上で経験豊富、しかも職人肌で癖の強い従業員たちを指揮するのはおそらく難しい。そうして狩野氏は、M&Aを検討するようになりました。
会社のいいとこ取りをされるのではという心配が強かった狩野氏ですが、MABPの桶谷祐太の仲介のもと、医薬・化学・食品・製紙プラント会社を中心に、配管・製缶・機械装置・空調・メンテナンスなど、さまざまな生産設備のサポートを行う株式会社望月工業所様の代表取締役・望月達也氏と出会い、トップ面談へと至ります。
職人出身の狩野氏にとって、そうでない望月氏とは、正確や考え方の相違があるのではという懸念がありましたが、望月氏の勤勉な姿勢に惹かれ、尊敬の念を抱くようになったことから、M&Aの話を前に進めることとなりました。
M&Aストーリー|いいところを出しあって、一緒に成長していきたい。
電気機器業界のM&Aの動向やメリットを理解する。
家電やゲーム機、電気や水道設備など、多岐に渡っているのが今の電気機器業界。
成熟した市場によって、頭打ちとなった売り上げを伸ばす方法としてM&Aが選択され、新規顧客の獲得、従業員のノウハウの底上げなど、事業・経営基盤を強化するのが主な目的です。
消費者ニーズの変化や多様化に対応し、海外企業の良質で安価な製品に対抗するため、それらへの対抗策として、事業の多角化をめざし、異なる業界とM&Aを行うことも少なくありません。あるいは、あえて事業を一点集中させて業績を上げようとする動向もあります。
同業界内であれば人材不足・後継者不在を解消でき、ノウハウの継承・存続も期待できます。選べる仕事が増え、経営の選択肢を増やすことができ、利益率の向上や、労働環境改善による離職率の低下も目指せるでしょう。
異なる業界同士でM&Aを行えば、相乗効果が期待できるほか、事業の内製化によってコストを削減することができます。
海外進出を目的にM&Aを行うケースも数多くあり、M&Aでは過去最大規模の取引が複数あります。
近年の物価高騰、半導体などにみられる部品不足など経営が成り立たなくなっているパターンも少なくなく、そうした企業の打開策にもなるでしょう。
まとめ
企業の乗っ取りや失業の増加など、かつてM&Aは悪いイメージを持たれがちでした。
しかし、現在では多くの企業がこれを有効に活用し、具体的な成功例や成果の数値を通じて顕著な業績向上を実現しています。
その過去のイメージや先入観に囚われず、実際のメリットと可能性を慎重に評価することが重要です。
特に技術革新やグローバル競争の激化を背景に、日本国内の電気機器業界も例外ではありません。
もともと世界と渡り合えるほど力のあるこの業界は、M&Aを通じてより強力な企業へと変貌を遂げることができます。この戦略を通じて、電気機器業界の企業は国際競争力をさらに強化し、持続可能な成長を達成することが期待されます。