ホテル業界は慢性的な人手不足が続いているだけでなく、2020年から始まったコロナ禍をきっかけに大きな打撃を受けました。
そのため、厳しい経営状況からの脱却を目指す企業は多く、そのための手段のひとつにM&Aが挙げられます。
そこで本記事では、ホテル業界でのM&Aに成功した事例を詳しく解説します。
併せて、売り手側・買い手側それぞれのメリットや譲渡にあたって注意すべき点もご紹介するので、ホテルを経営されている方、これからホテル事業へ参入したいと考えている方はぜひ参考にしてください。
ホテル業界のM&Aの動向
日本政府観光局の調査によると、年間の訪日外国人旅行者は2013年に初めて1,000万人を超え、2019年には3,200万人と、右肩上がりで推移してきました。
ホテル業界の最新の動向とM&Aの傾向、今後どのように変化していくのか、詳しく解説します。
業界再編に向けたM&Aが増加
ホテル業界は2010年代半ばからインバウンド需要が高まり、市場規模も右肩上がりを続けてきました。
しかし、2020年に感染が拡大した新型コロナウイルスの影響で観光客は激減。
その結果、ホテル業界は収益性の改善など経営基盤の見直しが求められ、業界の再編が重要な課題となっています。
同業他社との協力体制強化を目的としたM&Aはもちろん、異業種による新たな視点での経営戦略を求めるためのM&Aなど、業界再編に向けた合併や買収が活発化しています。
コロナ禍以後の倒産・廃業を回避するためのM&Aが増加
新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年、年間の訪日外国人旅行者は約400万人にまで減少。
ホテルを含む宿泊業は大きなダメージを受けました。
東京将校リサーチの調査によると、2020年に倒産した件数は前年と比較して約1.5倍の118件に達し、直近10年の間で最多となった東日本大震災の年(2011年)の134件に次ぐ件数となっています。
周囲で続く倒産や廃業を目の当たりにし、生き残りをかけて大手事業者とM&Aをするケースが増えています。
業界の課題と展望
ホテルの経営基盤を安定させるためには、より多くの宿泊客を取り込むことが何よりも重要です。
そこで大きな課題となるのが、ホテルのブランディングと競争力の向上です。
サービス面の充実を図るだけでなく、より多くの人にホテルの名前を知ってもらうことがユーザーを取り込む重要な要素となります。
ホテルの認知度を上げるためには、インターネットを有効活用し、効率的なマーケティング施策を実行することが重要です。
参考記事:東京のSEO対策会社おすすめ48選【2025年5月】自社サービスにあったSEO会社の選び方とは?
ホテル業界でM&Aを行うメリット
コロナ禍の影響や人手不足などによって苦しい経営を強いられるホテルが増えている近年では、経営基盤強化のひとつとしてM&Aが注目されています。
ホテル業界におけるM&Aについて、売り手企業と買い手企業それぞれの目線からみたメリットをご紹介します。
売り手側のメリット
売り手企業にとっての主なメリットは、以下の3点です。
- 経営改善ができる
- 従業員の雇用維持と待遇の改善
- マーケティング施策の効率化
経営改善ができる
赤字が続き採算がとれないホテル、また十分な利益が出せていないホテルの場合、M&Aによって外部企業に買い取ってもらうことで経営の立て直しが期待できます。
外部企業のなかでも大手ホテルチェーンの傘下に入ることができれば、親会社の資金力を活かしつつ、知名度向上によって宿泊客の増加が見込めるでしょう。
また、異業種企業とM&Aをする場合には、新しい視点での経営戦略によって売上や収益の改善につながる可能性もあります。
従業員の雇用維持と待遇の改善
経営状態が改善できなかった場合、従業員の雇用確保が難しくなる可能性があります。
しかし、M&Aによって事業を引き継ぐことができれば、事業だけでなく従業員の雇用も引き継ぐことができます。
また、ホテルをはじめとしたサービス業界は、他社との価格競争に巻き込まれやすく従業員の待遇改善がしにくいといった特徴があります。
しかし、M&Aによって経営環境を改善することができれば、従来よりもよい待遇にできる可能性が期待できるでしょう。
マーケティング施策の効率化
ホテル業界で生き残っていくためには、ブランディングと競争力の向上が重要です。
M&Aによって大手ホテルチェーンの傘下に入ることができれば、その知名度とブランド力を活かし、多くの宿泊客を獲得しやすくなるでしょう。
多額の広告宣伝費を注ぎ込むことなく、効率的なマーケティングが可能です。
買い手側のメリット
買い手企業側の主なメリットは、以下の3つが挙げられます。
- 不動産投資ができる
- ノウハウをもった人材の確保
- 異業種からの参入がしやすい
不動産投資ができる
ホテルを買収した場合、その企業が所有する土地や建物なども同時に取得することになります。
ホテルは繁華街や駅前など立地条件の良い場所にあるケースが多いため、資産価値の高い不動産を入手できる可能性があります。
参考記事:知るべき!!不動産投資のメリット・デメリット|底地・再建築不可”URUHOME”
ノウハウをもった人材の確保
ホテル事業へ参入するためには、土地や建物の用意だけではなく、宿泊客へサービスを提供するための従業員の雇用も必要です。
しかし、質の良いサービスを提供するためには、人材育成に多くのコストと時間がかかります。
ホテルを買収することができれば、既存の従業員も引き継ぐため、即戦力となる人材の確保ができます。
異業種からの参入がしやすい
異業種企業が新たにホテル業界へ参入する場合、土地や建物を取得し、人材の雇用と育成に時間とコストが必要です。
しかし、M&Aによってホテルを買収できれば、経営に必要なリソースをすぐに取得することができます。
また、既存顧客もそのまま引き継げるため、収益化もしやすいでしょう。
関連記事:M&Aとは?概要や流れ、メリットなどについて徹底解説
ホテルのM&Aを成功させるための注意点
準備不足のままM&Aに着手した場合、さまざまなトラブルが生じることで相手企業の不信感を招き、失敗する可能性があります。
ホテルのM&Aを成功させるための注意点をご紹介します。
許認可の引き継ぎ
許認可を引き継げるかどうかは、ホテルのM&Aにおいては非常に重要な問題です。
株式譲渡や合併、および会社分割によってM&Aを行う場合は、ホテル事業も包括的に承継されるため許認可もそのまま引き継ぐことが可能です。
しかし、個人で経営しているホテルや旅館などを取得する、あるいは事業譲渡を行う場合は許認可を引き継ぐことはできません。
そのため、買い手側が新たに許認可を取り直す必要があります。
許認可を取り直す場合、申請から取得まで1ヶ月以上の期間を要するケースが多いです。
また、法改正によって建物の審査基準や必要な資格などが変更されている場合もあるため、M&Aを行う前に確認しておくことが必要です。
情報漏洩への対策
M&Aの検討を始めたとき、外部への情報漏洩には十分な配慮が必要です。
M&Aを検討している、または交渉を進めていることが漏れてしまった場合、顧客や取引先、従業員に対して不信感を与え、経営に大きな影響を及ぼすリスクがあります。
最悪の場合、交渉が決裂する可能性もあるでしょう。
このような事態を防ぐためには、秘密保持契約(NDA)をしっかり締結したり、信頼できるM&A仲介会社のサポートを受けることが大切です。
関連記事:【専門家監修】NDA(秘密保持契約)がM&Aにおいて果たす役割
ホテル業界のM&Aの成功事例
最後に、ホテル業界においてM&Aを成功させた5つの事例をご紹介します。
浦島観光ホテル株式会社のM&A
1956年の創業以降、半世紀以上にわたって南紀エリアの観光産業に貢献してきた浦島観光ホテル株式会社は、和歌山県内で4つのホテル・旅館を経営している企業です。
長い歴史とともに建物・設備も老朽化したため、設備投資額が増大。
地元の観光資源を活かしつつ、ホテルの経営を安定化させていくたの手段を検討した結果、M&Aによって日本共創プラットフォーム(JPiX)へ株式譲渡することを決断しました。
浦島観光ホテルの事業や経営基盤を活かしつつ、JPiXが経営支援を行い、JPiXグループが運営する南紀白浜エアポートを中心とした南紀エリアの活性化を目指しています。
参考:株式会社日本共創プラットフォーム|浦島観光ホテル株式会社の株式譲受に関するお知らせ
ウォーターマークホテル長崎のM&A
2011年よりHIS傘下のホテルとして事業を展開してきたウォーターマークホテルは、2021年4月にオランダの街並みを再現していることで知られるハウステンボスの100%子会社になりました。
もともとハウステンボス傘下だったこともあり、株式の取得によって買い戻し、パーク内のホテル事業強化を目指しています。
参考:ハウステンボス株式会社|株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
祖谷渓温泉観光のM&A
日本三代秘境の一つである徳島県祖谷にある「和の宿 ホテル祖谷温泉」を運営する祖谷渓温泉観光は、2020年6月に総合不動産会社である穴吹興産によって子会社化されました。
買収当時に香川県・岡山県でホテルを5施設、旅館1施設の運営のほか、公共施設の指定管理会社を行なっていた穴吹興産は、祖谷渓温泉観光の取得によって観光関連事業の拡大や地域の観光事業促進を目指しています。
参考:穴吹興産株式会社|祖谷渓温泉観光株式会社及び有限会社祖谷温泉の株式取得(子会社化)に関するお知らせ
Karakami HOTELS&RESORTSのM&A
カタログ通販事業大手のベルーナは、もともとグループ会社によってホテル事業を展開してきました。
そして2021年4月、北海道の定山渓温泉で巨大スパ・リゾートを運営していたKarakami HOTELS&RESORTSから資産譲渡によって事業を引き継ぎました。
このM&Aによって、ベルーナは北海道で展開していたホテル事業の基盤をさらに高めることを検討しています。
参考:株式会社ベルーナ|「定山渓ビューホテル」の取得に関するお知らせ
菊水のM&A
京都の東山で料理旅館を経営していた菊水は、2017年7月に飲食店経営やオリジナルスイーツのブランド展開を行なっているバルニバービに株式譲渡を実施しました。
バルニバービは、自社のプロデュース力と伝統ある京都の料理旅館の融合によって、「ここでしか味わえない食をベースにした新たな付加価値」創出できると判断したことを発表しています。
参考:株式会社バルビーニ|株式会社菊水の株式取得(連結子会社化)に関するお知らせ
ホテル業界のM&Aについてのまとめ
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、苦しい経営状況から抜け出せずにいるホテルは少なくありません。
経営基盤の強化に向けた課題は多く、生き残りや地域貢献を目指す手段の一つとしてM&Aが盛んに行われています。
しかし、M&Aの契約締結までのプロセスは複雑で、自社だけで行うことは非常に難しいです。
また、マッチング先の選定や秘密保持契約に関する注意点など、専門的知識やノウハウを必要とします。
私たちM&Aベストパートナーズは、M&Aのプロフェッショナルとして、これまで多くのM&Aを成功に導いた実績がございます。
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