
旅館やホテルなどの宿泊業では、後継者問題や人手不足で悩むケースが多く、安定した経営基盤の構築が難しいといわれています。
この記事では、宿泊業のなかでも旅館業の経営難にフォーカスを当てて、M&Aのプロが直面している現状を詳しく解説します。
併せて、解決すべき課題や方法もご紹介するので、経営難でお悩みの旅館業経営者の方は参考にしてみてはいかがでしょうか。
目次
旅館業における厳しい経営の現状
近年では、旅館やホテルなど、宿泊業全体の倒産件数が増加傾向にあります。
また、事業は続いていても人手不足や資金繰りの難しさを理由に、廃業を考えている経営者も少なくありません。
宿泊業が直面している厳しい経営状況について解説します。
毎年100件前後の旅館・ホテルが倒産
2000年以降、毎年100件前後の旅館やホテルが倒産しています。
新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限や、東京オリンピック特需の終了による利用者の減少が主な原因として挙げられます。
昨今では、新型コロナウイルスが5類感染症に移行したことで、観光客が戻りつつあります。
さらに、全国旅行支援や水際対策の緩和によって、宿泊需要は高まってきています。
一方で、利用者減少に伴って、多くの旅館やホテルでは従業員の削減を余儀なくされました。
削減した従業員の補充は追いついておらず、宿泊の需要に対するサービスの供給が足りていません。
その結果、宿泊のお断りやサービスの品質低下が生じ、口コミなどにも影響を与えるといった悪循環に落ちいっている宿泊業者は多いです。
借入金依存度が他業種と比べて高い
宿泊業の資金調達は、金融機関からの借入がメインです。
一般的には、借入金依存度が60%以上になると要注意、70%以上になると要警戒といわれています。
しかし、宿泊業の借入金依存度は他業種よりも高いです。
財務総合政策研究所による「法人企業統計調査」によると、1,000万円以下の中小規模の旅館の借入金依存度は、95%と極めて高いです。
借入金に対する依存度の高さは、返済が厳しくなったときの経営への影響が多いため、早急な対策が必要です。
約1割の旅館・ホテルが廃業を検討
観光庁が発表した「観光を取り巻く現状及び課題等について」によると、約3割の旅館・ホテル経営者が「事業承継をしたいが進んでいない」と回答し、「事業承継をせずに、廃業を検討している」と回答した方は約1割となっています。
廃業する理由として「事業に将来性がない」と回答している人は約2割と、将来に不安を抱える経営者が多いことがわかります。
その他に、後継者不足が原因で廃業を考えるケースも増加しています。
旅館・ホテル経営者の約3割は後継者問題に直面している
「観光を取り巻く現状及び課題等について」では、宿泊業が廃業を考える理由にも触れています。
廃業を検討している旅館・ホテル経営者のうち、約3割が後継者問題を抱えています。
後継者問題の原因は、以下の通りです。
- 子供に継ぐ意思がない
- 子供がいない
- 後継者が見つからない
少子高齢化が社会問題となっている近年では、子供がいないことを理由に廃業を検討している宿泊業者が少なくありません。
また、子供が事業を継ぐことを拒否するケースや、経営者としての知識やスキルを持った人材がいないといったケースもあります。
なぜ旅館やホテルの経営が厳しいのか
宿泊業の経営が厳しいといわれる原因は、集客の難しさや、人手不足によるサービスの品質低下や需要に対応しきれないといったことが挙げられます。
高価格イメージによる集客の難しさ
利用者の意識として、旅館=高価格というイメージが強いため、旅館業は集客が難しいといわれています。
そのため、観光でもリーズナブルなビジネスホテルを選ぶケースが増えるなど、競争力が低くなってしまいます。
「観光を取り巻く現状及び課題等について」でも、旅館よりもホテルの利用者が多いことがわかります。
資金繰りの厳しさ
宿泊業を維持するためには、多額の費用がかかります。
建物の維持費やリフォーム代、備品の補充や設備のメンテナンス代などさまざまです。
必要な資金を確保できない場合、資金を調達する必要があります。
しかし、旅館やホテルは金融機関の借入金に依存する傾向が高いです。そのため、新たな借入の審査が通りにくいといった問題があります。
人手不足による顧客離れ・競争力低下
帝国データバンクによる「人手不足に対する企業の動向調査」では、2023年1月から2025年1月までの間で人手不足に悩んでいる経営者の割合が掲載されています。
宿泊業で人手不足と感じている経営者の割合は、次の表のとおりです。
2023年1月 | 77.8% |
2024年1月 | 68.6% |
2025年1月 | 60.2% |
削減した従業員を補充し、徐々に人手不足と感じている経営者の割合も減ってきています。
しかし、依然として過半数以上の経営者が人手不足を感じていることがわかります。
人手不足が続いた場合、従業員1人あたりの負担が増加し、提供するサービスの品質低下につながります。
サービスの品質が下がると、リピーターが離れたり、競合との競争力が低下したりするでしょう。
また、業務に負担を感じ、せっかく雇用した従業員が離職する可能性もあるため注意が必要です。
旅館業の厳しい経営を立て直すための課題解決方法
旅行業の厳しい経営を立て直すためには、抱えている課題を具体的に把握し、早急に解決策を講じることが必要です。
経営立て直しのために考えられる課題解決策は、以下の2つです。
- Webマーケティングの強化
- 役員・従業員の雇用拡大
それぞれの理由について、詳しく解説します。
Webマーケティングの強化
近年では、業種を問わずさまざまな企業がWeb広告やSNSを活用しています。また、ユーザーもインターネットから多くの情報を得ています。
そのため、旅館業の経営再建は、インターネットを活用した集客・売上の拡大を目指すことが求められます。
旅館側から積極的に情報発信することで、注目を集めやすくすることができるでしょう。
また、フォロワー数の多いインフルエンサーとコラボレーションをすることで、より多くのユーザーへ情報を届けることが可能です。
集客だけでなく、オンラインでの予約システムの構築も欠かせません。
以前は、旅館の予約方法といえば旅行代理店の利用が主流でした。しかし、近年では利用者が自らWebサイトを使用して予約するのが一般的です。
このように、時代の流れに沿ったマーケティング方法が、経営の立て直しには有効です。
役員・従業員の雇用拡大
旅館業の厳しい経営を立て直すためには、役員や従業員の雇用拡大や強化が必要です。
業務を効率化できるように、経営スキルの高い役員や、知識や経験の豊富な従業員を確保しましょう。
新たな人材を採用する場合、スキルが高いだけでは課題が解決したとはいえません。
スキルのある人材に長期的に働いてもらえるように、労働環境の見直しも必要です。
例えば、有給休暇を取得しやすいように業務内容を共有できる仕組みづくりや、定期的な面談によるコミュニケーションなどが挙げられます。
経営スキルの高い役員がいれば、安定した経営基盤の構築がしやすくなります。
また、知識や経験の豊富な従業員を雇用することで、従業員全体のスキルアップをすることができるでしょう。
旅館の経営再建に向けたM&Aのメリット
近年は、旅館業でもM&Aを実行し、経営再建につなげるケースが増加しています。
旅館業がM&Aを実施することで得られる3つのメリットについて、詳しく解説します。
優秀な人材を取り込むことができる
M&Aを実施することで、売り手側に在籍していた役員や従業員を獲得することができます。
すでに高いスキルを持った優秀な人材の獲得ができれば、人材教育に使う時間とコストが節約できます。
また、新たな人材の獲得によって人手不足の解消をすることができます。
経営基盤を安定させるためのノウハウや経営資源を手に入れられる可能性もあるでしょう。
経営スキルのある人材が確保できれば、後継者問題による廃業を回避できるため、M&Aは事業を継続するうえで有効な手段といえます。
資金調達がしやすくなる
業績が低迷している場合でも、資金調達力やブランド力のある企業を選ぶことで、資金調達がしやすくなります。
借入の依存度が高い旅館業で資金調達がしやすくなることは、とても大きなメリットといえるでしょう。
資金調達がしやすくなれば、様々な分野への設備投資が可能になります。
Webマーケティングの活用や従業員の待遇改善を図るなど、経営を立て直すための大きな力になります。
新規事業への参入や事業拡大のコスト削減につながる
新規事業として旅館業を選んだ場合、建物の購入や従業員の確保・教育など、多くの時間とコストを要します。
しかし、経営に悩んでいる旅館のM&Aが成功すれば、建物や経験豊富な従業員を引き継ぎ、コストを減らすことができます。
一方で、旅館業として異なる地域への市場拡大を考えている場合、旅館同業社と経営資源を統合することで、コスト削減につながる可能性があります。
すでに地域に根付いている旅館との統合ができれば、市場の拡大はもちろん、顧客も獲得することができるでしょう。
このように、M&Aは経営基盤の立て直しだけでなく、新規事業の立ち上げや市場拡大時の時間とコスト削減をすることができます。
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旅館の厳しい経営を打開したM&Aの事例
旅館業の厳しい経営状態を、M&Aによって立て直した成功事例をご紹介します。
投資ファンドによる旅館の買収:資金調達力の向上
1点目は、温泉施設を営むA社と世界でも最大規模の投資会社として有名なB社のM&A事例を紹介します。世界でも最大2015年3月にA社を買収し、すべての株式を獲得しました。
過去の売上アップの施策に関する経験を活かしながら、宿泊料金の引き下げに取り組んでいます。見込みのある施設に優秀なCEOやCFOを配置することで、よりスピーディーな事業の立て直しを実現させました。
旅行会社による旅館の子会社化:シナジー効果の創出、事業拡大
2点目は、C社とD社のM&A事例を紹介します。クルーズ旅行に特化した旅行会社であるC社は、2018年12月に旅館業を営むD社の株式を手に入れました。D社は、ホテル運営やオンライン予約サービスに関する豊富な知識を持っています。
自社のサービス利用者に対し、宿泊先を用意することでシナジー効果の獲得につなげています。インバウンド向けのホテル・旅館業への展開を実現させることを目的に、D社を買収しました。
旅館がM&Aにより厳しい経営状況を打開するには
旅館業においてM&Aを成功させるには、専門家への相談が欠かせません。
M&Aにはさまざまなプロセスがあるため、法律や税などのあらゆる専門知識が必要です。旅館経営者がM&A未経験の場合、プランの策定から交渉に至るまで自力で進めることは困難でしょう。
公認会計士や税理士、仲介業者などの専門家にサポートを依頼することで、M&Aをスムーズに進めやすくなります。なお、M&A仲介業者であれば、売り手と買い手の双方に対して専門家の立場からアドバイスを行います。実績のある仲介者が間に入ることで、交渉や契約時のトラブルの回避につながるでしょう。
まとめ
旅館業の多くは、後継者問題や人手不足などを理由に廃業を検討するなど、厳しい経営状況にあります。
経営基盤を強化し事業を継続するためには、集客システムの見直しや雇用の拡大など、さまざまな課題を解決する必要があります。
時間とコストの負担を減らしながら立て直しをするなら、M&Aはとても有効な方法です。
M&Aを行うことで、優秀な人材の確保やコスト削減が可能です。また、資金調達がしやすくなり、設備投資など多くのメリットを得ることができるでしょう。
私たちM&Aベストパートナーズは、これまでさまざまな業種のM&Aをお手伝いしてきた豊富な経験と実績がございます。
経営悪化や後継者不足などの悩みを抱えている旅館経営者の方は、まずはお気軽にM&Aベストパートナーズへご相談ください。
抱えている悩みをしっかりヒアリングし、最適な課題解決方法のご提案をさせていただきます。