M&Aストーリー
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
近年、同業種・他業種による病院の再編統合が盛んに行われるようになり、よりよい医療サービスの提供のためにM&Aを検討している病院経営者は少なくありません。
今回は、病院のM&Aがなぜ経営難の脱却に効果的なのか、医療業界全体の特徴や抱えている課題の検討を通して解説します。
病院のM&Aを成功に導くためのポイントも合わせて解説するため、M&Aを検討中の病院経営者は、より幅広い選択肢を踏まえた将来像の設計が可能です。
目次
まず、病院のM&Aについて考える際に必要となる、病院・医療業界の概要を解説します。
医療業界とは、患者に医療サービスや医療に直接関連する各種サービスを提供する事業全般を指し、歯科診療所、助産・看護業も含まれます。
中でも、医師による医事を提供する非営利性の機関が病院です。
病気ごとに適切な医療があるため、各専門の医者によって多様な病院経営が行われています。規模による区分では、20床以上を有する場合は病院、19床以下の場合は診療所(クリニック)と称されます。
また、病院はさまざまな区分で区別可能です。開設者別の区分の場合、「国立病院」「大学病院」「公立・公的・社会保険関係法人の病院」「一般病院」の4種類があります。
さらに、病院の類型別で見ると以下の5つに区別可能です。
非営利が大前提である病院・医療業界におけるM&Aは、ほかの業界企業のM&Aとはやや傾向が異なるため、専門的な知識が必要です。
そもそもM&Aとは、事業の売買取引および企業間の組織再編全般を指します。
ただし、その手法は一つではないため、ここでは病院のM&Aで用いられる5つの手法とその特徴を解説します。
医療法人設立時の出資者が、財産権を持っている場合は「出資持分あり」、持たない場合は「出資持分なし(基金拠出型医療法人等)」です。
2007年の医療法改正以降は出資持分ありの医療法人は新規設立できなくなりました。そのため、2007年以降に設立した病院は基本的に出資持分なしとなっています。
出資持分は譲渡が可能なため、設立出資持分がある医療法人の場合は「出資持分譲渡」という手法がよく用いられます。
株式会社の株式譲渡に相当する取引で、資産や負債、契約もすべて買い手側に引き渡される手法です。
出資持分がない病院の場合、「役員・社員の変更」という形で売り手側から買い手側への譲渡が行われます。
理事長や社員の立場を買い手側に譲ることで、経営権を移す方法です。
社員には退職金として対価を支払い、役員の変更登記手続きをする必要があります。
複数の病院が統合される方法を取った場合には「合併」となります。
医療法人が合併を行うためには、総社員の同意にくわえて、都道府県知事の認可も必要です。合併後の事業計画や予算書を提出しなければいけないため、時間と労力がかかります。
合併は「吸収合併」「新設合併」の2種類があります。
「吸収合併」は、合併後に一方の医療法人のみが残り他方が消滅する方法です。消滅する医療法人側の権利や義務は吸収した側の医療法人に引継がれます。
新たに医療法人を設立し、そこに2つの医療法人のすべてを引継がせることもでき、その場合は「新設合併」となります。
分割は、2016年の医療法改正に伴い可能となった比較的新しい方法です。
法人内の特定の事業のみを分割し、新たに設立した医療法人もしくは既存の医療法人に引継ぐ方法で、新規設立なら「新設分割」、既存引継ぎは「吸収分割」となります。
なお、分割は持分なしの医療法人のみに許されている方法です。今後持分なしの医療法人が増えていく中で、分割によって事業を整理する病院も増えていくと見られています。
事業譲渡は、特定の事業の資産・権利を一括して譲渡する方法です。
譲渡する側は病院の廃止の届け出、譲渡される側は新規の開設許可が必要となります。
新規の開設となるため、譲渡される側が医療法人である必要はありません。
合併が雇用契約もすべて引継ぐのに対して、事業承継の場合には再契約が必要となります。
病院・医療業界では、経営難に陥った赤字の病院や医療法人が、大手の病院・医療法人に買収される事例が増えています。
大手側の思惑としては、自法人の広域展開や規模の拡大が目的ですが、通常の株式会社のM&Aと異なり制限も多いため、業界再編によるグループ化は順調とは言い難い状況です。
2019年には、厚労省が病院の赤字対策として、病院の再編統合による病床稼働率の低さを改善することを目的に、全国424の病院に再編検討を提示しました。こうした国による後押しも、病院のM&Aが増えている要因の一つです。
また、買い手は医療法人に限らず、病院事業への新規参入を図る異業種企業によるM&Aが盛んに実施されています。そうした企業にとっては、新規で病院や診療所を開設するよりも、短期間で既存の病院、そこで働く有資格者を獲得できるM&Aが選択されているようです。
病院のM&Aには、医師や看護師が不足し、十分な医療サービスを提供できなくなっている医療法人の状況改善に役立っている側面があります。
病院・医療業界のM&Aは、病院の非営利性ゆえにほかの業界にはない制限があるものの、売り手側と買い手側双方にメリットのある手段です。
ここでは、売り手・買い手それぞれのメリットについて解説します。
病院・医療業界のM&Aを行った場合に売り手が受けられるメリットは、主に以下の3つです。
・廃業しなくてよい
経営難や後継者がいないことを理由に廃業を選択せざる得ない病院・医療法人が、M&Aで事業を譲渡すれば、廃業を避けることができるのはメリットの一つです。
慢性的な医師不足に陥っている日本で、新たに後継者を探すよりも、事業をそのまま引き受けてくれる買い手を探した方がより確実性が高い場合もあります。
・従業員の雇用先を確保できる
病院・医療法人が廃業すれば、そこで働いていた従業員全員の雇用が失われることとなります。M&Aによって経営を継続、もしくは経営状況を改善することができれば、雇用先の確保にくわえ、待遇改善につながる可能性もあるでしょう。
・地域医療を守れる
病院・医療法人は利益を追い求めるのではなく、住民の健康と福祉のために運営されています。病院の数は地域によって偏りがあり、場所によっては一つの病院の廃業が、地域医療に致命的なダメージを与えることになりかねません。
M&Aによって、大手医療法人の傘下となれば、豊富な資源を元に事業の拡大・安定化を図れ、地域医療の質の向上も目指せます。
病院・医療業界のM&Aを行った場合に、買い手が受けられるメリットは、主に以下の3つです。
・地域への参入をスムーズにできる
病院の新規開設を行う際には、該当地域の都道府県知事の許可が必要です。また、地域ごとに定められた医療計画に則る必要があり、望んでいた新規開設や増床が行えない場合もあります。
その点、すでにその地域で開設している医院にM&Aを実施すれば、スムーズな新規医院開設や増床が可能となります。
・優秀な人材を確保できる
病院・医療法人では、建物や医療設備だけでなく、在籍している医師・看護師・その他スタッフの数や質が重要です。医師不足が課題とされる中、優秀な医療人材を新たに集めるのは大変ですが、M&Aであれば売却側の人材を一挙に獲得できます。
・エリア拡大できる
新規エリアへの事業展開を行う場合、すべてを新規開設で行おうと思うと、手続きの煩雑さにくわえて設備投資や人材確保で多大な資金と時間が必要となります。M&Aを活用することで、スピーディなエリア展開が可能です。
病院・医療業界のM&Aはメリットも多い反面、どの形態で行うかによって手続きのフローが異なるなど、難しい面があるのも事実です。
ここでは、病院・医療法人におけるM&A成功のポイントを解説します。
・期間がかかるため、前もって計画を立てる
医療法人のM&Aは、方法によっては当道府県知事の認可を受ける必要があります。仮に条件交渉がスムーズに進んだとしても、すべて完了するまでには相応の期間が必要です。
また、希望の買い手が見つかるまでにかかる時間も予測できないため、長期戦になることを見越して、前もって計画を立てることが大切です。
・引継ぎ内容を細かく立てる
M&Aによって譲渡契約に至った後に行われるのが、その契約を基にした事業の引継ぎ実務です。この引継ぎ実務が難航するケースも多いため、M&Aの契約段階から引継ぎ内容を細かく立てておくことが大切となります。
医療現場を担う診療部門と一般事務や全体統括を行う運営部門それぞれで、引継ぎ内容と手続きを確認しておくことで、M&A後の承継をスムーズに完了できるでしょう。
・適切なタイミングでスタッフに事業譲渡の説明をする
M&Aを行うにあたって、経営者には従業員に説明する責任があります。しかし、交渉段階で説明なしに情報が漏洩してしまうと、従業員の自主退職なども起こりかねません。役職に応じて適切なタイミングで説明を行いましょう。
・交渉が不安な場合は専門家へ相談する
病院・医療法人業界は、M&Aの中でも専門性の高い分野です。交渉に不安を感じる場合は、そのまま進めることなく、病院・医療業界のM&Aに精通した専門家のいる仲介業者に相談することをおすすめします。
買い手側・売り手側双方にメリットのある病院のM&Aは、同業種による事業拡大や異業種の業界新規参入を目的とし積極的に行われています。
経営難や病床不足の解消にも有効な手段ではありますが、病院や医療法人でM&Aを成功させるためには、専門家への相談がおすすめです。
「どうやって交渉すればよいか」「M&Aのことを知りたい」とお悩みの方は、M&Aベストパートナーズに、ぜひ一度ご相談ください。
当社は交渉を不安に感じている方に向けたサービスを展開しています。
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ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
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