老人ホームを経営するにあたって、どのような資格が必要か疑問に感じる人も多いのではないでしょうか。
本記事では、老人ホームの経営において取得すべき資格や、事前に整えるべき準備についてお伝えします。
超高齢化社会が進む日本にとって、老人ホームはなくてはならない施設です。さらなる高齢化の進行による需要の拡大が予想されることから、老人ホームの経営を考える人も増えています。
本記事では、老人ホームの経営において取得すべき資格や、事前に整えるべき準備についてお伝えします。
目次
老人ホームの経営において取得すべき資格とは
前提として、老人ホームの経営に必須となる資格はありません。
ただし、資格を持っていることで、さまざまなメリットを得られるため、可能であれば取得をおすすめします。
さまざまな資格がありますが、なかでも老人ホームの経営に役立つのは「介護福祉経営士」です。
ここでは介護福祉経営士の概要や取得するメリット、そのほかの資格について紹介します。
介護福祉経営士について
介護福祉経営士とは、老人ホームをはじめとする介護事業の経営に必要な知識・スキルを証明でき、肩書きにもなる資格です。
民間団体「日本介護福祉経営人材教育協会」が運営しており、試験に合格し登録審査を受けることで、介護福祉経営士と認定されます。
介護福祉経営士には財務会計、法制度、マネジメント、人材育成、コンプライアンスといった幅広い知識が求められます。また、それらの知識を実務で発揮できることが要求されるため、試験では実務を想定した出題もされるでしょう。
介護福祉経営士には、1級・2級という2つの認定区分があります。2級は年齢や学歴などの制限なく誰でも受験できますが、1級を受験するには2級の認定資格が必要です。そのため、まずは2級の取得を目指し、ステップアップとして1級を目指すとよいでしょう。
介護福祉経営士の試験は、パソコンを用いて回答するCBT方式で、ほぼ1年中受験が可能です。また、2023年4月からは自宅や職場からのリモート受験も可能となりました。なお、介護福祉経営士として活動するには、試験合格後に入会手続きが必要となるため注意しましょう。
資格取得で得られるメリット
介護福祉経営士の資格を取得することで、さまざまなメリットが得られます。主なメリットは、次の3つです。
・経営に役立つノウハウを習得できる
介護福祉経営士の資格を取得する過程で、老人ホームの経営に役立つノウハウを習得できます。
例えば、財務会計のノウハウを身に付ければ、予算策定や資金繰りに役立つでしょう。また、人材育成やマネジメントに関するノウハウは、組織づくりにおいて有用です。
こうしたノウハウを別々に学ぶ場合、分野ごとの参考書や研修などが必要となり、学習コストがかかります。その点、介護福祉経営士の試験対策として勉強すれば、体系的に必要なノウハウを効率よく習得できるでしょう。
・サービス品質の向上につながる
介護福祉経営士としてのノウハウを活かすことで、老人ホームのサービス品質向上につながります。
例えば、適切なスタッフ教育が行えるため、人材のレベルが上がるでしょう。また、マネジメントやコンプライアンスの知識は、問題を早期解決・未然防止することに役立ちます。
・キャリアアップ
介護福祉経営士の資格を取得することで、将来的にキャリアアップしやすくなります。
別の老人ホーム運営会社をM&Aにより取り込み、経営範囲を広げるケースが一例です。介護や経営に関する知識を持っていたほうが、こうしたプランを立てやすいでしょう。
老人ホーム経営時にあると便利な資格
介護福祉経営士に加えて次のような資格もあると、老人ホームの経営時に便利です。
・ケアマネージャー試験(介護支援専門員実務研修受講試験)
介護業務においてケアプラン(介護計画)を作成する「ケアマネージャー」に必要な知識やスキルを証明できる資格です。
老人ホームでケアマネージャーを雇用する場合、やり取りやマネジメントがしやすくなるでしょう。ケアマネージャー試験は各都道府県で実施していますが、受験には一定の実務経験が必要です。受験を検討する際には、受験資格を必ず確認しましょう。
・社会福祉士(ソーシャルワーカー)
社会福祉士は国家資格であり、主に身体または精神に障害を持つ人をサポートします。
老人ホームにおいて、障害を持つ人のサポートにあたるスタッフのフォローや指導がしやすくなるでしょう。
ただし受験にあたっては、社会福祉士養成校の卒業や実務経験など、さまざまな条件があります。介護スタッフとしての実務経験があり、経営者を目指す場合は取得を目指すとよいでしょう。
老人ホームを経営する際に必要な準備とは
老人ホームをはじめとする介護施設の経営には、さまざまな準備が必要です。
ここでは、老人ホームを経営する際に必要な3つの準備について解説します。
どのようなサービスを提供するか決定する
高齢者や障害を持つ人をサポートする介護施設には、老人ホームだけでなく多くの種類が存在します。
経営を検討する前に、どのようなサービスを提供するか明確にすることが大切です。
主な介護施設は、次の6種類です。それぞれの概要をまとめたので参考にしてください。
介護施設名 | 形態 | 概要 |
デイサービス | 通所型 | 利用者が通い、日帰りで食事や入浴などのサービスを受ける |
デイケア | 通所型 | 要介護者が通い、リハビリテーションを受ける |
老人ホーム | 入居型 | 施設の入居者に食事や入浴などのサービスを提供する |
グループホーム | 入居型 | 複数人の入居者による共同生活をサポートする |
訪問看護 | 訪問型 | 専門スタッフが自宅を訪問し、医療サービスを提供する |
在宅看護 | 訪問型 | 専門スタッフが自宅を訪問し、看護をサポートする (医療サービスは含まない) |
このように、介護施設のサービス形態は多く存在します。どのようなサービスを提供するか決めるうえでは、ターゲット層やコンセプトを明確にすることが大切です。
法人の設立を行う
個人事業主だと老人ホームは開業できません。老人ホームを経営するには、法人の設立が必須となります。老人ホームにおける法人の種類は、主に次の4つです。
法人形態 | 分類 | 概要 |
株式会社 | 営利 | ・株式を発行し、売り出すことで資本金を調達する法人形態 ・資本金の調達はしやすいが、利益を出資者(株主)に分配する必要がある ・経営の主体は、株主ではなく企業の経営陣 |
合同会社 | 営利 | ・出資者が経営に参加できる法人形態 ・株式会社よりも設立費用が安く、手続きがしやすい ・株式会社と比べると資本金の調達が難しい |
NPO | 非営利 | ・社会貢献を目的とする非営利団体 ・税制上の優遇措置があり、助成金や寄付金を受け取りやすい ・設立時に決めた活動内容に逸脱する事業展開は行えない |
一般社団法人 | 非営利 | ・特定の目的で活動する団体・組織を法人化したもの ・NPOよりも活動の自由度が高く、分類上は非営利だが営利事業も可能 ・NPOのような税制優遇は受けられない |
どのような法人を選ぶかによって、設立後の経営方針も変わります。
それぞれのメリット・デメリットを考慮して、事業内容やコンセプトに適した法人を選びましょう。
設立する場所や人材の確保を行う
老人ホームをはじめとする介護施設の経営には、場所の確保や人材の確保も重要といえます。
入居型や通所型の場合は施設そのものを用意しなければなりません。訪問型の場合でも、スタッフが管理業務や問い合わせ対応などを行うための事務所は必要です。コンセプトやサービス形態に合った土地の確保から、浴室・食堂などの各種設備を含む施設・事務所の建設まで行います。
また、介護施設に合ったスタッフの採用・教育も必須でしょう。介護職員や生活相談員といった必要な人員を採用し、経営方針やコンセプトに合わせて教育します。なお、サービス形態によっては介護職員や生活相談員の必要人数が決められているため、事前に確認しましょう。
老人ホームを経営する際の注意点について
老人ホームは、超高齢化社会が進む現代の日本において需要の高い施設といえます。
しかし、何も経営戦略を考えないまま経営すれば、利益を継続して生み出すことができず、行く行くは廃業する可能性があります。
老人ホームを経営する際の注意点として、次の2つを押さえておきましょう。
人材確保が難しい
老人ホームに必要なスタッフを、必要な人数だけ採用することは容易ではありません。
超高齢化社会である日本の労働人口は減少が続き、業種を問わず人材確保が難しくなっています。多忙なイメージを持たれやすい介護業界は特に人材不足に悩んでいる老人ホームが多いのが現実です。
介護施設のサービス形態によっては、入居者数に応じて最低限必要なスタッフ数が決められています。そのため、スタッフ数が少ないと入居者数も増やせず、経営に影響を及ぼすでしょう。人手不足を解消するには、M&Aのような経営戦略を取り入れることをおすすめします。
入居者が集まらないケースも考えられる
高齢者が増加しているからといって、老人ホームに入居者が簡単に集まるとは限りません。入居者が集まらず、経営の維持が困難となるケースもあります。
入居者集めが容易ではない理由は、競合となる老人ホームが増えていることが挙げられるでしょう。厚生労働省の調査によると、有料老人ホームの設立数は令和2年からの1年間で4.8%(768施設)も増えています。
高齢者は増加しているものの、競合となる老人ホームも増えているため、入居者が分散していると考えられるでしょう。
(引用元:厚生労働省「令和3年社会福祉施設等調査の概況」)
今後も老人ホームが増えれば、他社との競争は激しくなるでしょう。
競合にはない高品質・魅力的なサービス提供を心がけることが大切です。
まとめ
高齢者が増加している日本において、老人ホームの経営を始めることは有力な選択肢の1つです。
老人ホームの経営に必須の資格はありませんが、介護事業の経営に必要な知識・スキルを証明できる「介護福祉経営士」を取得すると役に立つでしょう。
老人ホームの経営を始めるうえでは、サービス形態の決定や法人の設立、場所・人材の確保といった準備が必要です。ただし、老人ホームに必要な人材の確保は容易ではありません。人材の確保には、合併や買収により相手企業の人材を取り込める「M&A」がおすすめです。
老人ホームの経営を検討しているものの、不安な人はぜひM&Aベストパートナーズにご相談ください。