老人ホーム経営の課題と解決策|人材不足から収益構造まで徹底解説

著者
M&Aベストパートナーズ MABPマガジン編集部

高齢化社会の真っただ中にある日本において、老人ホームはさまざまな事情で近親者のもとを離れざるを得なくなった高齢者の受け皿として不可欠な施設です。

しかし、「老人ホームを運営するにあたって必要な人材が足りていない」「同じ地域に老人ホームが乱立して入居者が少ない」といったお悩みを抱える経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?

本記事では、老人ホーム経営における人材不足・収益構造の不安定化・集客戦略など、代表的な課題と解決策を詳しく解説し、今後の高齢化社会で経営を安定させるポイントや、事業を手放す場合の選択肢を紹介します。

老人ホームの市場動向

介護保険費用の推移

老人ホーム市場は高齢化の進行に伴い拡大を続けています。2021年度の介護保険総費用は前年度比2.3%増の約11兆円(※)となり、4年連続で増加しました。

特に、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームの新設が増加傾向にあります。

また、異業種からの介護業界への参入も増加しており、大手企業による買収や新規事業の立ち上げが活発化しており、競争が激化しています。

このような動向を受け、経営状況の悪化や事業所数の減少が見られる一方、訪問看護など一部のサービスでは事業所数の増加が顕著です。

さらに、介護報酬の改定や介護サービスの質の向上に向けた取り組みが進められています。2024年の介護保険報酬改定では、地域包括ケアシステムの深化や自立支援・重度化防止に向けた対応が重点項目として挙げられています。

総じて、老人ホーム市場は需要の増加とともに多様な課題に直面しており、業界全体での対応が求められているのです。

※参考:厚生労働省「介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査):結果の概要」

老人ホーム経営における課題

老人ホームの需要は増えており、市場規模も広がっていることがわかったところで、本題である老人ホーム経営における課題に迫っていきましょう。

入居率の低迷

有料老人ホームの需要増加に伴い、供給も急増しています。

その結果、立地条件が悪かったり、価格設定が高い施設では、入居者の確保が難しくなり、入居率の低迷が問題となっているのです。

特に、競争が激化する都市部では、他施設との差別化が求められています。

介護職員の不足

介護業界全体で人材不足が深刻化しています。

厚生労働省のデータによれば、2025年度には約243万人の介護人材が必要とされますが、現状では供給が追いついていません。

この人手不足は、職員一人ひとりの負担増加やサービス品質の低下を招く要因となっています。

サービス品質の維持

人手不足により介護職員一人あたりの業務量が増加し、一人ひとりの利用者へのケアが行き届かない状況が生じています。

これによりサービスの質が低下し、利用者やその家族からの信頼を損なうリスクが高まっています。

また、職員のストレス増加が、離職率の上昇や新たな人材確保の困難など、二次的な弊害につながっていることも問題です。

経営の安定性

介護報酬の改定や人件費の増加により、老人ホームの経営環境は厳しさを増しています。

特に特別養護老人ホームでは経営実態調査で初めて「赤字」となるなど、経営の安定性が大きな課題です。

このような状況下で、収益性の向上やコスト管理の徹底が求められています。

老人ホームの経営課題への社会的な支援

ここでは、政府や行政といった組織が、老人ホームが抱える経営課題の解決に向けて、具体的にどのような支援をしているか紹介します。

経営支援策

厚生労働省は、介護施設・事業所の安定的な事業継続を支援するため「介護経営の大規模化や協働化に向けた政策パッケージ」を推進しています。

これにより、複数の事業者が連携して経営基盤を強化し、サービスの質向上や人材確保を図る取り組みが支援されています。

補助金・助成金制度

各自治体では、特別養護老人ホームの運営費や施設整備費に対する補助金を提供している場合があります。

例えば、東京都の「特別養護老人ホーム経営支援事業」では、施設の運営費や整備費等に対する補助が行われています。

ICT導入支援

介護現場の業務効率化や職員の負担軽減を目的として、ICT(情報通信技術)の導入支援が行われています。

具体的には、介護記録の電子化や見守りシステムの導入に対する補助金が提供され、これにより業務の効率化とサービス品質の向上が期待されています。

これらの支援策を活用することで、老人ホームは経営の安定化やサービスの質向上を図ることが可能です。各種支援の詳細や申請手続きについては、厚生労働省や各自治体の公式サイトをご確認ください。

老人ホームの経営課題に対する解決策

老人ホームの経営課題を解決するには、先述した社会的な支援を活用することも重要ですが、老人ホーム側でも努力しなければならない点があります。

労働環境改善による人材確保

介護職員の確保と定着は多くの施設で課題となっています。そもそも働き手の数が減っている現状では、新しい人材の確保と同様かそれ以上に、現在の職員が離職しないように繋ぎ止めることが重要です。

労働環境の改善や処遇の向上を図ることで職員の満足度を高め、離職率の低下を目指しましょう。具体的には給与体系の見直しや福利厚生の充実、キャリアパスの明確化などが効果的です。

ICTの導入による業務効率化

業務の効率化を図るために、ICT(情報通信技術)の導入が有効です。

例えば、介護記録の電子化や見守りシステムの活用、クラウドカメラの導入などにより、職員の負担が軽減されるほか、ヒューマンエラーがなくなるため、サービス品質の向上が期待できます。

導入には決して安くない初期費用がかかり、職員たちに使い方を共有する手間などが発生しますが、上手く活用できれば人件費の大幅な削減につながり、長期的に見た場合のコストパフォーマンスは人を雇う場合よりも優れるでしょう。

サービスの差別化とブランディング

競合施設との差別化を図るために、施設の特徴や提供する価値を明確に打ち出すことが重要です。

市場動向を深く理解し、ターゲットを明確にすることで、効果的な営業戦略とブランディングが可能となります。

オンラインの活用により、SNSやウェブサイトでの情報発信を強化し、幅広い層にリーチすることも効果的です。

地域との連携とサービスの多様化

地域の医療機関や福祉団体と提携し、入居者に包括的なサービスを提供することで、地域社会における信頼性を向上させることが期待できるでしょう。

また、特定の文化活動や趣味に特化したプログラムを提供するなど、サービスの多様化を図ることで、入居者の満足度を高め、長期的な入居を促進することが可能です。

特に地域性をブランディング戦略に盛り込むことで、チェーン展開している新興勢力に対して地域密着の観点で優位に立つことができます。

下記は入居者を増やす目的ではありませんが、老人ホーム誘致と地域活性化を上手く結びつけた事例です。興味のある方はぜひご覧ください。

参考:2024グッドデザイン・ベスト100「神社・地域と共に歩む老人ホーム黒鶴稲荷神社+アズハイム大田中央

M&Aの検討

ここまでは老人ホーム事業を何とか続けていく場合の解決策について提案してきましたが、事業そのものを手放すこともお考えの方には、M&Aという選択肢もあります。

一口にM&Aといっても、特定の事業だけを譲渡する「事業譲渡」や、株式の一部を買収先に分け与える「株式分割」など複数のスキームが存在し、どの方法が最も適切かは案件によって実にさまざまです。

M&Aの実施には長い期間を要し、そのプロセスの中で法務や財務に関わる手続きが多数発生するため、専門知識を持つ仲介業者に依頼するのが一般的です。

当社、M&Aベストパートナーズは介護業界のM&A仲介に強みを持っています。ぜひお気軽にご相談ください。

介護業界のM&A成約事例

先ほども紹介したとおり、当社、M&Aベストパートナーズは介護業界でのM&A仲介経験を多数持っております。

ここでは、その中の数社の事例をご紹介できればと思います。

株式会社樫の木|介護業界の未来を見据えたM&Aへの決断。

株式会社樫の木は2004年に設立され、介護事業を展開してきた企業です。

代表取締役の冨樫正樹氏は、事業の成長と地域貢献を目指し、M&Aを検討しました。

当社アドバイザリーの菊池の支援を受け、譲受企業との交渉を進め、2023年12月に譲渡契約を締結しました。

冨樫氏は、譲受企業の理念や地域社会への貢献姿勢に共感し、今後も取締役として事業に関与し、地域と従業員のために尽力する意向を示しています。

株式会社樫の木の事例を見てみる

株式会社ケア・オフィス優|高い志を抱く訪問看護サービス企業のM&A。

株式会社ケア・オフィス優は2008年に設立され、北海道小樽市全域で訪問看護サービスを提供してきました。

代表取締役の二丹田早稲子氏は、体調不良や従業員数の減少により、事業継続に不安を感じ、M&Aを検討しました。

当社アドバイザリーの永沢の支援を受け、株式会社ミライシアホールディンググループとの交渉を進め、2024年に譲渡契約を締結。

二丹田氏は、ミライシアグループの地域包括ケアシステムへの取り組みに共感し、今後も事業の発展を期待しています。

株式会社ケア・オフィス優の事例を見てみる

有限会社H(※社名非公開)|入居者も従業員も継承者も救ったM&A。

有限会社H(※社名非公開)は、グループホームや有料老人ホームを運営する介護事業者です。創業者の高齢化と後継者不在、財務状況の悪化により、事業継続が困難な状況に陥っていました。

当社アドバイザリーの岡田が支援し、株式会社武上との交渉を進め、2023年6月に譲渡契約を締結。武上の武井裕樹代表は、創業者の理念に共感し、迅速な意思決定でM&Aを実現しました。

これにより、入居者や従業員の生活が守られ、施設の再興が期待されています。

有限会社H(※社名非公開)の事例を見てみる

まとめ

老人ホームの需要は拡大しているとはいえ、それだけ参入してくる競合も多く、なかなか入居者を集めるのに苦労する場合もあるでしょう。

また、介護従事者はこれからさらに重要になってくるにもかかわらず、賃金をはじめとした待遇は一向に改善せず、人材不足という深刻な課題も常に付きまといます。

何か競合とは差別化できる明確なポイントがなければ、この先を生き抜くことは難しいでしょう。

もし老人ホーム事業を手放すことを少しでもご検討されている場合は、介護事業のM&A仲介実績を多数持つM&Aベストパートナーズまでご相談ください。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

石橋 秀紀

ADVISOR

各業界に精通したアドバイザーが
多数在籍しております。

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