
近年、民事再生法を行う企業が増加傾向にあります。
経営状態の悪化した企業の再建を目的とする民事再生法は、同じく再建を目指す会社更生法と混同されがちですが、対象や手続きなどに大きな違いがあります。
そこで本記事では、民事再生法の定義や会社更生法との違いについて詳しく解説します。
併せて、民事再生法の手続きの流れやメリット・デメリット、弊社によくいただくご質問についてもご紹介するので、経営状態に不安を抱き、今後どうするかお悩みの経営陣の方はぜひ参考にしてください。
目次
民事再生法とは
民事再生法とは、経営状態の悪化を招いている企業が改善を行い、業績を回復させて企業としての再建を目指す再生型の法的整理です。
近年では民事再生を行う企業が増加傾向にあり、帝国データバンクの調査では2024年度の上半期だけで125件、年度を通して266件の企業に民事再生法が適用され、前年と比較して15.7%も増加しています。
参考:帝国データバンク|倒産集計 2024年報(1月~12月)
民事再生法と会社更生法の違い
民事再生法と同じく再生型の法的整理方法である会社更生法は、以下のようにさまざまな違いがあります。
比較項目 | 民事再生法 | 会社更生法 |
---|---|---|
対象 | すべての法人・個人 | 株式会社のみ |
経営陣の扱い | 原則として現経営陣が 経営を継続できる | 現経営陣は退任し、 管財人が経営権を持つ |
手続きの複雑さ | 比較的簡易・迅速 | 複雑・厳格、 時間や費用がかかる |
担保権の扱い | 原則として担保権の実行を 妨げられないが、例外あり | 担保権も手続き内で整理され、 手続き外での実行不可 |
株主の権利 | 原則として維持される | 失われることが多い |
主な利用規模 | 中小企業や個人事業主など 幅広い層 | 大企業向け |
それぞれの違いの詳細は以下のとおりです。
- 対象の違い:
民事再生法は株式会社以外の法人や個人も利用できるが、
会社更生法は株式会社のみが対象となる。 - 経営権の扱い:
民事再生では原則として現経営陣がそのまま経営を続けられる一方、
会社更生では経営陣は必ず退任し、裁判所が選任した管財人が経営を担う。 - 手続きの複雑さ・迅速性:
民事再生は手続きが簡易・迅速で、半年程度で再生計画が認可されることもある。
一方で、会社更生は利害関係者が多く、手続きが複雑で長期化する傾向がある。 - 担保権の扱い:
民事再生では原則として担保権者は手続き外で担保権を実行できるが、
会社更生ではすべての担保権が手続き内で整理され、手続き外での実行はできない。 - 株主の権利:
民事再生では株主の権利が維持されるのが一般的だが、
会社更生では株主の権利が失われることが多い。 - 利用される主な規模:
民事再生は中小企業や個人事業主など幅広い層が利用しやすく、
会社更生は大企業向けに設計されている。
上記のとおり、民事再生法と会社更生法には大きな違いがあり、どちらがよいかは事業規模や目的によって異なります。
そのため、どちらを選ぶかは弁護士など専門家へ相談することがおすすめです。
【図解付き】民事再生手続きの流れを解説
民事再生法の適用を受ける場合、下図の流れで手続きが行われることが一般的です。

各手続きの内容は以下のとおりです。
- 申立て:債務者が裁判所に民事再生手続きの申立てを行う(通常、弁護士が代理)
- 保全処分決定:債権者による強制的な債権回収を防ぐため、弁済禁止などの保全処分を決定する
- 監督委員の選任:裁判所が監督委員(多くは弁護士)を選任し、債務者の財産管理などを監督
- 再生手続開始決定:裁判所が再生手続きの開始を正式に決定
- 債権届出・財産調査:債権者が債権額などを届出し、債務者は財産状況を報告
- 債権認否:債務者が各債権の内容を認めるか否かを判断し、裁判所に提出
- 再生計画案の作成・提出:債務者が再生計画案を作成し、債権者に提示
- 債権者による決議・裁判所の認可:債権者集会で再生計画案を決議し、裁判所が認可
- 再生計画の遂行:認可された再生計画に従い、債務返済や事業再建を進める
上記のように民事再生法が適用されるまでにはさまざまなプロセスを必要とするため、申立てを検討する際は弁護士によるサポートが必要不可欠です。
民事再生法のメリット・デメリット
悪化した経営状態からの脱却を目指す民事再生法には、事前に把握しておいていただきたいメリット・デメリットがあります。
メリット・デメリットを理解することで、申請するか否かの判断がしやすくなるでしょう。
民事再生法のメリット
民事再生法の適用を受けることで企業が得られるメリットは、主に以下の4点です。
- 経営陣を交代せずに経営権を維持したまま再建できる
- 会社や事業を存続させながら債務を大幅に圧縮し、分割返済や弁済期間の延長(最長10年)が可能
- 手元資金や必要な契約を維持しやすく、再建のための資金調達もしやすい
- 破産と異なり、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性がある
経営陣が交代した場合、経営の現場や取引先との関係に混乱が生じるリスクがあります。
しかし、経営権を維持することで培ってきたノウハウ・従業員との信頼関係を活かした再建を目指すことができます。
また、民事再生法が適用になれば、債務の圧縮や分割返済・返済期間の延長をすることができます。
その他に、破産手続きなどの場合は銀行口座へ入金された金銭の引き出しに制限がかかる場合がありますが、民事再生法の場合は入金された金銭を借入金と相殺される心配がありません。
経営状態の悪化に苦しんでいる企業にとって、これらは大きなメリットといえるでしょう。
最後のメリットとして、破産手続きとは異なり、民事再生法では基本的に従業員の雇用を維持することができます。
また、企業(事業)を維持できるため、取引先との関係を維持することも可能です。
しかし、この点については債権者や裁判所の判断によって解雇や労働条件の見直し・取引先の判断によって異なるため、入念に確認をしましょう。
民事再生法のデメリット
民事再生法におけるデメリットは以下のとおりです。
- 担保権は原則として手続き外で実行されるため、重要な資産を失うリスクがある
- 社会的信用が大きく低下し、取引や新規融資に悪影響が出やすい
- 手続きに高額な費用(予納金や弁護士費用など)がかかる
- 債権者の多数の同意が必要であり、再生計画が認可されない場合は破産に移行することもある
- 債務免除益課税が課される場合があり、税負担が新たに発生することがある
債権に対して担保を設定している場合、債権者には担保権を行使する権利が認められています。
例えば保有している土地を担保として借入をしていた場合、担保権を行使されることで不動産という経営資産を失う可能性があります。
また、「再生」という単語がついていますが、民事再生は倒産手続きのなかの手段の一つです。
そのため、企業イメージが低下し、社会的信用が大きく低下する恐れがあります。
社会的信用の低下は、取引先や金融機関に悪い影響を与え、取引の中止や新規融資が得られないなど、さまざまな弊害が生じるでしょう。
その他にも、手続きに必要となる費用や適用とならなかった場合の破産のリスク:債務免除課税による税負担の増加など、さまざまなデメリットが考えられます。
【Q&A】民事再生法に関するよくある疑問
弊社はM&Aの専門仲介会社として多くの企業様からご相談をいただいてきました。
さまざまなご相談のなかから、民事再生法に間してよくいただくご質問とその答えをご紹介します。
民事再生法で社員はどうなる?
- 原則として社員の雇用は維持されます。
しかし、コスト削減など事業再建のために一部人員整理が行われる場合もあります。 - 未払い給与・解雇に伴う退職金などが発生している場合は、優先債権としてに支払われます。
なお、破産や特別清算に移行した場合は全員解雇となります。
民事再生法で会社の借金はどうなる?
- 民事再生手続の申立てが適用されると、借金や買掛金などの返済を一時的に停止します。
その後、債権者の同意を得たうえで、
債務の一部免除(減額)や返済期間の延長などを盛り込んだ「再生計画案」を作成します。
再生計画案が債権者集会で可決され、裁判所の認可が得られれば、
再生計画案に従って借金の返済を開始します※1。
注意点として、担保権が付いている借金(例:不動産の抵当権)は原則として担保権者が手続き外で回収できるため、全額返済が求められる場合があります。
※1:多くの場合、債務は大幅に減額され、分割での返済となる。
まとめ
事業を継続させながら業績を回復させて会社の再建を目指す民事再生法を申請する企業は、経営陣の継続や債務の圧縮など、さまざまなメリットがあります。
一方で、裁判所に認められない場合、破産手続きや特別生産へ移行し、企業としての歴史は終わってしまいます。
経営状態が悪化し、民事再生法の申請をしようか悩まれている方は、他社へ企業(事業)を譲渡するM&Aを検討されてみてはいかがでしょうか。
M&Aにはさまざまな手法がありますが、子会社化による企業としての存続や、一部事業の譲渡による売却益によって債務を返済するなど、企業を存続させる方法があります。
大切に経営してきた企業を存続させ、悪化した経営状態からの脱却を目指す方法を模索されている方は、ぜひ一度M&Aベストパートナーズへご相談ください。
M&Aのプロである専任アドバイザーが、大切にしてきた企業を存続させ、従業員の雇用を守るためのお手伝いをさせていただきます。