M&Aによる資金調達の方法とは?成約事例を紹介

会社の業績低迷によって経営環境が悪化している、あるいは不採算事業が原因で負債が増加している場合、経営を立て直すためにはまとまった資金を調達する必要があります。

資金調達といえば金融機関からの融資や株式の発行などさまざまな方法がありますが、M&Aもそのうちのひとつに挙げられます。

本記事ではM&Aによる資金調達のメリットや注意すべきポイント、資金調達に成功した企業の事例もあわせてご紹介します。

M&Aによる資金調達の現状

そもそもM&Aとは、主に経営の立て直しや事業規模の拡大、あるいは後継者問題などを解決する方法として選択されることが多くありました。

しかし、これらと同時に会社の売却によって得られる利益にも注目が集まり、単なる成長戦略の一環としてだけでなく、資金調達の方法としても活用されるようになったのです。

M&Aで資金調達した売却益の活用方法

では、M&Aによって調達した資金はどのような用途に活用されるのでしょうか。代表的な活用方法の例をいくつかご紹介します。

キャッシュフローの改善

1つ目の活用方法として、手元資金を確保しキャッシュフローの改善に役立てることが挙げられます。

会社の業績や経済環境が不安定な場合、予期しない事態に直面すると手元資金がなく経営が立ち行かなくなる危険性があります。

そこで、M&Aによって資金調達を行うことで手元資金に余裕が生まれ、経営の安定性が高まります。

また、大規模災害が発生した際など、緊急でまとまった資金が必要なときでも対処しやすくなります。

事業再編のための資金確保

事業規模の拡大や会社の成長のために新しい成長分野への参入を検討する場合、まとまった資金が必要となることがあります。

また、不採算部門の整理や既存事業の強化などにおいても資金が必要となることもあり、これらを目的としてM&Aによる資金調達は有力な手段となり得るでしょう。

事業再編を行うことで競争力や強みのある事業に集中することができ、採算性を確保し経営の安定性も高まります。

シナジー効果の追求

M&A後は慎重に統合プロセスを進めなければならず、そのためにはまとまった資金が必要となることもあります。

ITシステムやインフラの統合、マーケティング活動の強化や共同での研究開発などを進めることでシナジー効果が期待できます。

株主への還元

M&Aによる売却益の一部は、株主への還元に使われることもあります。

たとえば、配当金の増加や自社株買いなどが代表的で、これらを行うことで株主の利益を高め、株価の安定も図ることができます。

その結果、株主からの信頼がさらに高まり、より多くの株主から資金を調達できるようになるでしょう。

バランスシート改善目的での利用

経営状況の悪化により負債額が増加している場合、M&Aによって得た資金を活用しバランスシートを改善できる可能性もあります。

不採算事業の買い手企業が見つかれば、赤字の原因となっている事業を自社から切り離し事業再編ができるほか、売却益の一部を負債の返済に充て財務状況の健全化にもつなげられるでしょう。

関連記事:M&A戦略とは?必要性や基本的な流れについて詳しく解説します

M&Aによる資金調達以外のメリット

M&Aを行うことは、企業にとって資金調達以外にもさまざまなメリットが期待できます。

経営資源の集中

複数の事業を手掛けている企業の場合、不採算事業や非コア事業が経営の足を引っ張っているケースも少なくありません。

M&Aによってこれらの事業を手放すことで、収益性の高い事業に経営資源を集中させることができます。

これにより、経営効率が改善され会社全体の成長につながるほか、経営の重点を明確にすることで競争力を高められる可能性もあるでしょう。

財務状況の改善

大規模災害による生産設備の被害など多額の損失が生じた場合、M&Aによって得た売却益を補填に回すことができます。

これにより財務状況を早期に改善し、経営の立て直しを図れるでしょう。

戦略的パートナーシップの形成

M&Aは新たな戦略的パートナーシップを形成する手段として活用されることもあります。

他の会社と手を組むことで、新しい市場への参入がしやすくなったり、革新的な製品やサービスの開発を進められる可能性もあります。

双方の会社が持つ優れた技術やノウハウを共有することで、お互いの競争力を高め、長期的に安定した成長を実現できます。

ブランドや企業イメージの向上

長期にわたって赤字が続く不採算事業を継続していると、ブランド価値や企業イメージが低下し、さらに財務状況の悪化を招く可能性もあります。

M&Aによって不採算事業を手放すことができれば、負債の根本原因が解消され財務状況が健全化されます。

財務的な安定性が向上すれば株主や投資家からの信用力が高まり、企業イメージも改善し長期的な経営の安定にもつながるでしょう。

M&Aでの資金調達で注意すること

企業がまとまった資金を調達するためにM&Aは有力な手段となりますが、いくつか注意しておかなければならないポイントもあります。

税務上の義務が伴うこと

M&Aによって得られる売却益にはさまざまな税金が課されます。

たとえば、経営者個人が保有する株式を売却した場合には、所得税および住民税が課税されるほか、法人名義として売却益を得た場合には法人税が課税されます。

売却益が大きくなるほど税負担が大きくなるため、事前にどの程度の税金が発生するのか適切に計算し、納税分の現金は確保しておかなければなりません。

たとえ過失であったとしても、税務上の義務を怠ってしまうと後に修正申告や追徴税の納付などが求められるため、税理士や会計士と連携しながら正確な申告を行うことが重要です。

売却益の使い方がその後の企業価値に影響すること

M&Aによって得た資金の使い方次第で、会社の将来に大きな影響を及ぼすことがあります。

たとえば、事業再編や新規事業への投資に充てる場合、長期的な成長が期待できる可能性も高いですが、適切な戦略を立てることなく安易に株主還元やバランスシートの改善のために資金を投入すると、短期的な効果しか得られない可能性もあります。

経営陣は売却益の具体的な活用方法を慎重に検討し、自社の成長に資するような計画・戦略を立てる必要があります。

競合への売却にならないか要確認

同業種内で複数の事業を営んでおり、そのうちのひとつを売却する場合、売却先が今後注力したい事業の競合になり得る可能性があります。

この場合、戦略的な失敗となる可能性があるため、売却先の選定は慎重に行う必要があります。

競合企業への売却は自社の市場シェアを奪われるリスクがあるため、事前にしっかりとしたリサーチを行い、市場においてどのようなポジションにあるのかを考慮しながら判断しましょう。

社員に与える影響を考慮

M&Aによって経営体制や組織体制、社内の環境が変化することも多く、社員に対して大きな影響を与えることがあります。

たとえば、給与体系や福利厚生、役職、勤務地などの条件が変わると不安や不満が発生し、最悪の場合社員の退職といった結果にもなりかねません。

社員のモチベーション維持や離職防止のために、会社は透明性の高い情報共有を心がけるとともに、社員一人ひとりとコミュニケーションを強化し将来のビジョンを明確に示すことも重要です。

関連記事:M&Aを失敗する要因と失敗を防ぐための方法と対策

M&Aによって資金調達を成功させた事例

最後に、M&Aを活用しながら資金調達を成功させた企業の事例をご紹介します。

株式会社FiNE

株式会社FiNEは首都圏において調剤薬局を3店舗運営する会社です。

一般的な外来調剤の店舗も運営していますが、在宅で治療を受ける患者様に向けて訪問調剤事業も積極的に展開していることが大きな特徴です。

末期がんや難病の患者様にとっては外来調剤薬局へ通うのが難しいこともあり、訪問調剤のニーズが年々増加していきました。

そこで社長の平井氏は、在宅向けの訪問調剤事業に専念することを決意。それに伴い、事業に必要な資金調達のためにM&Aによって本店を売却することにしました。

M&A仲介会社からは全国で1,200店舗以上を運営する大手調剤薬局グループを紹介され、間もなくトップ同士の面談が実現します。

先方は対等な立場として接してくれたほか、地域医療を担当しているトップの方も同席していたことで「現場を大切にしてくれる信頼できる会社」であると感じ、面談からわずか51日という早さで正式に譲渡契約を結ぶことになりました。

今後はM&Aによって得た資金を活用し、在宅訪問特化型の薬局を作り上げていきたいとのことです。

関連記事:M&Aにおける資金調達とは?不安であれば専門家にご相談ください

まとめ

資金調達といえば、銀行などの金融機関からの融資を真っ先にイメージする方が多いと思いますが、実はM&Aも有力な手段のひとつです。

M&Aによって得た売却益は新たな事業への投資や負債の返還に役立てられるほか、不採算事業を切り離すことでコア事業に経営資源を集中させたり、戦略的パートナーシップの形成などにも役立てられるメリットがあります。

自社の中にM&Aに関する知識やノウハウがなく不安を抱えている場合には、まずは専門家へ相談し最適な方法を検討してみましょう。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

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