M&Aストーリー
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
経営者の高齢化や後継者不足などの問題を解決するために、事業承継の準備を進めている会社も多いのではないでしょうか。
事業承継と混同しやすいワードに「M&A」がありますが、どのような違いがあるのか正確に理解できていない方も少なくありません。
本記事では、事業承継とM&Aの違いを解説するとともに、自社にとって適切な方法を選ぶためのポイントもご紹介します。
事業承継とM&Aは似たような意味で用いられることも多く、混同しやすい文言です。
M&Aは事業承継の手法のひとつに分類されますが、事業承継はM&Aよりも幅広い意味を指します。
それぞれの概要と違いについて、もう少し詳しく解説しましょう。
事業承継とは会社の経営権を後継者に引き継ぐ手続きのことです。
たとえば、親が経営していた会社を子に引き継いだり、自社の従業員または外部の企業に経営権を譲渡することも事業承継に含まれます。
また、事業承継にあたって引き継ぐものは経営権だけでなく、株式や不動産、事業に必要な設備、さらにはブランドや特許、それまで蓄積してきた事業のノウハウなども含まれます。
もちろん、会社に在籍している従業員についても雇用が引き継がれるケースが多くあります。
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略称で、日本語では「合併と買収」と直訳されます。
合併とは複数の会社がひとつになることを指し、買収は買い手企業が売り手企業を買い取ることで経営権を取得します。
M&Aは事業承継の手法のひとつであるとご紹介しましたが、家族や親族ではなく外部の企業に経営権を譲渡するケースがM&Aにあたります。
2000年代初頭には企業の敵対的買収が大きなニュースとなったこともあり、M&Aに対してネガティブなイメージを抱く経営者は少なくありませんでした。
しかし、昨今では企業の競争力強化や後継者不足解消を目的としてM&Aを選択する経営者が増えています。
事業承継は経営権を引き継ぐ先に応じて3つのパターンに分類されます。
親族内承継とは、経営者の子どもや孫、あるいは親族などの身内に会社を引き継ぐ方法です。
子どもや孫などを後継者として時間をかけて育成できるため、家族経営の企業において一般的な承継方法のひとつです。
また、株式をはじめとした財産を相続によって移転できることも親族内承継の大きなメリットといえるでしょう。
親族外承継とは、その名の通り経営者の家族や親族以外の従業員に会社を引き継ぐ方法です。
現経営者に会社を引き継ぐ子どもや孫がいなかったり、当事者に後継の意思がない、あるいは経営者としての能力が不足している場合などに親族外承継が検討されることがあります。
自社の経営方針や企業文化を熟知している役員や従業員を見極めて承継できるため、安定した経営が期待できるでしょう。
外部の企業に会社を引き継ぐ手法が第三者承継です。
一般的にはM&Aとよばれることが多く、家族や親族、あるいは従業員に後継者が見つからない場合に選択されることがあります。
M&Aでは会社の価値を算定し株式の売買によって承継するため、現経営者は会社の売却益を得られるメリットがあります。
関連記事:M&Aとは?基本的な意味や流れ、メリットなどを事例付きで解説
一口にM&Aといってもさまざまな方法やスキームが存在します。代表的なM&Aの方法をご紹介しましょう。
株式譲渡とは、売り手企業の株式を買い手企業が取得し経営権を得る方法です。
相続や贈与によって親族に無償で株式を譲渡するケースもありますが、M&Aの株式譲渡では企業価値を正しく算定し、対価を支払ったうえで取引が行われるケースが一般的です。
株式譲渡は数あるM&Aの手法の中でも手続きが比較的簡便で、迅速に実行できる点が特徴です。
事業譲渡とは、売り手企業が行っている一部の事業を切り離し、買い手企業に譲渡する方法です。
株式譲渡は会社そのものを売却し経営権を移しますが、事業譲渡の場合は会社全体ではなく特定の事業のみが対象となります。
買い手企業は自社にとって必要な事業のみを取得できるため、リスクを抑えた買収が可能です。また、売り手企業にとっても不採算事業のみを売却できたり、会社そのものは残せるといったメリットがあります。
合併とは、2つ以上の会社が統合して1つの企業となる方法であり、「新設合併」と「吸収合併」の2つの形式があります。
複数の会社が解散し、新たに1つの会社を設立する方法を新設合併とよびます。
それぞれの会社が保有していた資産や負債は新設会社に引き継がれますが、新たな会社名や組織体制が構築されるため再スタートの意味合いが強いM&Aの方法といえるでしょう。
一方の会社が他方の会社を吸収し、存続会社として統合する方法を吸収合併とよびます。
吸収された会社は解散し、保有していた資産や負債は存続会社に引き継がれます。存続会社の名称や組織体制はそのままでM&Aを行えるため、新設合併に比べるとスムーズな統合が可能です。
会社分割とは、社内の一部の事業を分離し、新たな会社として設立する方法です。
事業の効率化のためにスピーディーな意思決定を行いたい場合や、経営の効率化などを目的として活用されることが多くあります。
第三者割当増資とは、会社が新たな株式を発行し特定の第三者(買収側企業や投資家)に割り当てる方法です。
買い手企業は売り手企業の株式を取得し経営権を手に入れることができるほか、売り手企業は資金調達と経営権の移転を同時に行えます。
M&Aでは買い手企業と売り手企業が存在し、それぞれが得られるメリットは異なります。買い手と売り手の立場から、どのようなメリットが期待できるのか詳しく解説しましょう。
売り手企業のメリットは主に以下の3点です。
中小企業の中には、経営者がリタイアを考えているものの後継者が見つからず頭を悩ませているケースが少なくありません。
信頼できる買い手企業や経営者が見つかれば、M&Aによって安心して会社を引き継ぐことができ後継者問題の解決につながります。
経営環境が厳しい場合や事業の収益が低下している場合、M&Aによって他社に事業を引き継いでもらうことで経営危機を回避できる可能性もあるでしょう。
また、会社や一部の事業を売却することにより、まとまった資金を手に入れることができます。これにより、経営者の個人保証として抱えていた負債を返済できる可能性もあります。
後継者の不在や安定した経営の見通しが立たない場合など、重大な経営課題が解決できないと廃業や倒産に至るケースもあるでしょう。
しかし、経営者にとって長年にわたって育て上げてきた自分の会社を廃業するのは大きな決断が要るものです。
このような場合でも、M&Aを通じて会社の引き継ぎ先が見つかれば事業を存続でき、従業員の雇用も守ることができます。
買い手企業にとって考えられるメリットは以下の3点です。
M&Aによって競合他社や関連事業を取り込むことができれば、市場シェアを短期間に拡大できる可能性もあります。
特に新たな地域への進出を考えている場合、当該エリアの会社を買収できれば市場での競争優位性を高める大きなチャンスとなるでしょう。
高度な技術や特許などを持つ会社を買収できれば、自社にない技術的なノウハウや知見を手に入れられるほか、即戦力となる専門人材も迎え入れることが可能です。
その結果、これまでにない画期的な新製品を開発できたり、サービスの質を向上させられる可能性もあります。
M&Aは買い手企業の既存事業を強化するだけでなく、異なる業界や分野へ参入するために行われることもあります。
本来、異業種への参入は極めてハードルが高く事業の安定化には多くの時間を要する場合が多いですが、条件にマッチする売り手企業とM&Aが成立すれば事業ポートフォリオの多角化を図ることができます。
複数の事業を手掛けることで経営におけるリスク分散が可能となり、安定した収益基盤を構築できるでしょう。
関連記事:M&Aにおける経営統合と合併の違いとは?統合後はPMIが重要?
事業承継にはM&Aを含めてさまざまな方法があるため、自社にとってどれが適切なのか判断が難しいケースもあるでしょう。
そのような場合には、以下のポイントをもとに検討することが大切です。
新たな経営者に会社を引き継ぐ際には、自社がどんな会社なのか、将来どのように成長していく見込みがあるのかを説明できなければ交渉を進めることはできません。
そこで、まずは自社の現状と将来のビジョンを明確にすることが必要です。
現在の経営状況はもちろんのこと、自社の強みや弱み、今後想定されるリスクを再確認しておきましょう。
そのうえで、今後どのような会社になりたいのか、ビジョンや目標を明確にしておきます。
事業承継を円滑に進めるためには、はじめからM&Aを検討するのではなく、まずは現経営者の家族・親族や、社内から後継者候補を探してみましょう。
家族や親族、社員は自社がどのような会社であるかを理解できている分、スムーズな事業承継が期待できるためです。
しかし、親族や社内に適切な候補者がいない場合には、外部から後継者を探すことも検討する必要があります。
事業承継にあたっては法律に沿って正しく手続きを進める必要があるため、専門家を交えながら税務や法務、財務の状況を詳細に分析することが不可欠です。
たとえば、親族内承継の場合には相続税や贈与税が課税される場合があり、具体的な税額を算出するためには自社の企業価値を算定しなければなりません。
また、事業承継後のトラブルを未然に防ぐためには、法令がきちんと厳守されているかや財務の健全性なども確認しておく必要があります。
これらの分析には専門的な知識が求められるため、税理士や弁護士、会計士などの専門家に相談しながら進めることが理想的といえるでしょう。
事業承継の方法としてM&Aを選択する場合には、以下の点に注意しながら進めることが大切です。
M&Aが成功するか否かは、売り手企業と買い手企業の文化がスムーズに統合できるかが重要な鍵を握っています。
極端に文化が異なる会社同士が統合すると、価値観の相違によって社員間で摩擦が生じたり、モチベーションの低下を招く可能性もあります。
M&Aを行う際には、経営者から社員に対してM&Aの目的や狙いを丁寧に説明するとともに、両社の社員同士が交流できる場を用意しコミュニケーションを強化することで、お互いの理解が深まり協力体制が整います。
一連のM&Aプロセスが完了した後で、売り手企業が抱えている想定外の負債やリスクが発覚し、トラブルに発展するケースもあります。
これを防ぐためには、事前のデューデリジェンスを徹底し、財務状況や取引先との契約などを詳細に調査しておくことが大切です。
万が一、デューデリジェンスの時点で重大なリスクが発見された場合、買収条件の見直しや追加の保証を求めるなどの対策を講じることも重要です。
M&Aにおいては、法務や税務に関するリスクにも注意が必要です。
例えば、M&A後に正しい税務処理が行われていなかったことが発覚した場合、買い手企業が追徴課税などを受けることになります。
また、労働基準法や下請法など法務リスクを抱えていることを認識しないままM&Aが完了した場合も、買い手企業が訴訟リスクを負うことになります。
このようなリスクを回避するためには、M&Aの早い段階で法務および税務の専門家を関与させ、徹底的に調査しておくことが求められます。
関連記事:M&A仲介会社とは?利用するメリットや仲介業者の選び方
事業承継とM&Aは同じような意味で使われることもあり、混同して認識している方も少なくありません。
しかし、M&Aはあくまでも事業承継の方法のひとつであり、親族内承継や親族外承継などの方法もあります。
重要なのは自社の経営状況を正しく認識したうえで、将来どのような会社にしていきたいのかビジョンを明確にし、それを実現させるために最適な方法を検討することです。
事業承継やM&Aでは高度な専門知識が必要とされるため、できるだけ早い段階から税理士や弁護士、コンサルタントなどに相談することがおすすめです。
M&Aを実施する目的や背景は多岐にわたって存在するため、
ひとつとして同じ案件や事例は存在しません。
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