事業者向けに建設機械や重機のリースを提供する建機リース業界は、市場規模が大きく全国にさまざまな事業者が存在します。
しかし、建機リースの売上は工事の需要に左右されやすいため、経営基盤を安定化させるためにM&Aを行う企業も増えています。
建機リース業界におけるM&Aの最新動向や重要性を解説するとともに、失敗しないためのポイントや成功事例もご紹介します。
目次
建機リース業界の概要
建機リースとは、工事現場に欠かせない建設機械や重機を事業者に対して貸与する事業のことです。
具体的には油圧ショベルやホイールローダ、ブルドーザなどが代表的であり、特に大型建機の場合は重機の操縦を行う専門のオペレーターも派遣することがあります。
本来、建機は各事業者が保有しておくのが理想的ではありますが、導入コストが高額であることや建機の保管場所が確保できないなどの理由から、あえてリースを選択する事業者も少なくありません。
そのため建機リース業界の市場規模は2023年時点で1兆円を超えるまでに成長しており、ここ数年は右肩上がりの状況にあります。
一方、建機リースの業績は建設工事の需要に大きく左右される傾向も見られます。
たとえば、公共工事の発注量が増えると建機リースの需要も高まりますが、公共工事の見直しや中止が増えると需要が減り、建機リース会社は多額の負債を抱えることになります。
特に経営規模の小さい建機リース会社は急速に経営状態が悪化し、最悪の場合廃業や倒産に追い込まれるケースもあるのです。
そこで、このような経営リスクを少しでも抑えるために、中小規模の建機リース会社はM&Aによって大手の傘下に入ることも有力な選択肢といえます。
建機リース業界においてM&Aが重要な理由
建機リース業界ではM&Aが活発に行われていますが、それはなぜなのでしょうか。主に考えられる5つの理由を解説します。
業界再編と規模の拡大
上記でもご紹介した通り、建機リースの事業においては建機を購入するための導入コストやメンテナンスコストなどが高額で、中小企業ほど苦しい経営を強いられることもあります。
安定的な経営基盤を手に入れるために大手の傘下に入る企業も増えており、業界再編が進む中でM&Aは有力な手段となり得ます。
リース契約の拡充
リース契約の対象商品は建機以外にも自動車や作業機械など多岐に及びます。
複数の商材を取り扱う総合リース会社もあり、このような企業がリース契約を拡充するために建機リース会社を買収する事例も少なくありません。
建機リース会社にとっても取り扱う商材が増え、顧客基盤の強化につながります。
海外展開と新市場の開拓
国産メーカーの建設機材は信頼性が高く、日本国内はもちろんのこと海外での需要も増加しています。
新たなビジネスチャンスを求め、新市場を開拓するために海外進出を目指す企業も多いことから、海外展開のノウハウが豊富な企業をM&Aによって買収するケースもあります。
後継者問題の解決
建設業界では経営者や労働者の高齢化が進んでおり、若い人材の採用に苦労する企業も少なくありません。
建機リース業界も例外ではなく、特に中小企業においては後継者不足に頭を悩ませ、廃業せざるを得ないケースもあります。
M&Aによって外部の企業に経営を引き継ぐことができれば、従業員の雇用を守り取引先との関係も維持することができます。
競争力の強化とイノベーション
人手不足への対応や生産性の向上を目的として、多くの企業ではデジタル化やDXへの取り組みが加速しています。
建設業界も例外ではなく、IoTや5Gといった技術を活用した建機の遠隔操縦が注目されています。
新たなニーズに対応するために、最先端の技術やノウハウをもつ異業種と手を組む建機リース会社が今後増えてくると予想されます。
関連記事:M&Aとは?概要や流れ、メリットなどについて徹底解説
建機リース業界のM&Aのメリット
M&Aにおいては、会社を売る側と買収する側のそれぞれ立場によって異なるメリットがあります。
譲渡企業のメリット
会社を売る側のメリットとしては、上記でもご紹介した通り後継者問題の解消や従業員の雇用を確保できることが大きなポイントといえるでしょう。
また、建機リース業界特有のメリットとしては、経営者が抱える個人保証を解消できることも挙げられます。
建機リース業は多額の初期投資を銀行などからの融資によって賄うことが一般的です。
これは経営者の個人保証が条件となっているケースが多く、仮に廃業したとしても経営者個人に返済義務が生じます。
M&Aによって経営を引き継ぐことで、これらの負債も合わせて移転されるため返済に頭を悩ませることがなくなります。
譲受企業のメリット
会社を買収する側のメリットは、経営に不可欠な建設機材や優秀な人材なども引き継ぐことができ、事業規模を拡大していけることが挙げられるでしょう。
特に昨今では深刻な人手不足が続いていることから、即戦力となる人材を含めて経営を引き継げることは大きなメリットといえます。
建機リース業界のM&Aを成功させるためのポイント
M&Aは適切なプロセスに沿って進めないと失敗に終わることもあります。
どういったポイントに注意すべきなのか、特に気をつけたい4つの点をご紹介します。
M&Aの目的やゴールを明確化する
M&Aを進めるにあたっては、目的を明確化しておくことが何よりも重要です。
M&Aさえ実行できれば経営を立て直せるという保証はなく、むしろ合併や統合後にどういった戦略を立て経営を実行していくかが重要となります。
目的を明確にしておかないと経営戦略の方向性が不透明なままとなり、どういった企業とM&Aの交渉を進めれば良いのかも分かりにくくなるでしょう。
適正な資産評価とデューデリジェンス
M&Aでは企業価値を正当に評価したうえで具体的な買収金額を決定する必要があります。
企業価値の評価にはさまざまな方法があり、たとえば保有する建機などの資産から負債を差し引いて算定する方法や、その企業が将来どの程度の収益を期待できるのかを予測し算出する場合もあります。
買収する企業の規模や経営状況によっても適正な評価方法は異なるため、専門家と相談しながら進めることが大切です。
関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?進め方や注意点、費用感について徹底解説
組織統合の方法
M&Aでは異なる企業が統合することにより、両社のシナジー効果を高められる可能性があります。
しかし、組織統合をうまく進められないと、それぞれの組織が独立したままとなり、従業員同士の交流も生まれずシナジー効果が得られなくなるでしょう。
M&Aの後にどういった組織開発を行うのか計画を立てておき、新たな組織目標や戦略などを従業員に共有しておくことが大切です。
文化の統合と従業員の対応
M&Aにおいてよくある失敗が、企業文化や価値観の相違によって衝突が生じたり、従業員同士の軋轢につながるというケースです。
M&Aによって社内の環境が変化することで戸惑う従業員も出てくると思いますが、お互いを理解し尊重する姿勢が求められます。
また、経営層や管理職も従業員に対して丁寧な説明とフォローを行うことで、衝突や軋轢を防げる可能性があるでしょう。
関連記事:M&Aのメリット・デメリットとは?買い手・売り手側からわかりやすく解説
建機リース業界のM&A成功事例
M&Aによって事業規模の拡大や経営基盤の強化を成功させた企業の事例をご紹介します。
株式会社アクティオ
建機リース大手の株式会社アクティオは、2016年に株式会社共成レンテムを買収し完全子会社化しました。
共成レンテムは北海道を中心に建設機械のリースやレンタルを展開している企業で、同業社同士によるM&A案件となりました。
アクティオにとっては新規エリアへの進出によってシェア拡大が見込まれるほか、共成レンテムにとっても大手企業と経営資源を共有化することで経営効率が上がるという相乗効果が期待できます。
アクティオでは共成レンテム以外にも積極的にM&Aを進めており、2024年6月時点で国内36社、海外に8社ものグループ会社を擁しています。
建機リース業界のM&Aについてのまとめ
建機リース業の市場は1兆円を超えるまでに成長し、建設会社や土木会社にとってなくてはならない存在です。
しかし、公共工事などの需要によって経営環境が左右されやすい傾向もあり、安定的な経営基盤を手に入れるために大手の傘下に入る建機リース会社も少なくありません。
M&Aを行うと企業文化の融合や組織の統合といった問題を抱えることも多いですが、M&Aの目的を明確化したうえで従業員に対する説明やフォローを徹底することで経営環境を改善できる可能性は高まるでしょう。