防災業界は需要面において不安定であり、厳しい局面に立たされています。
価格競争が激しいことから売上の増大につながりにくく、将来的な成長が見込めない業界です。
近年は、苦しい状況下で生き残るためにM&Aを実施する防災業界が増えています。
そこで本記事では、防災業界におけるM&Aの動向やメリット、成功事例などを解説します。
目次
防災業界における今後の動向
はじめに、防災業界における今後の動向について解説していきます。
実際のデータを参考にしながら、防災業界の厳しい現状を確認してください。
住宅需要は減少が懸念される
防災業界の需要は、新築・リフォームの住宅件数によって左右されます。
国土交通省の「新設住宅着工戸数の推移」では、次のような結果が発表されています。を参考に、ここ数年の新設住宅着工戸数の推移を見ていきましょう。
国土交通省「新設住宅着工戸数の推移」 (単位:千戸)
2000年 | 2008年 | 2013年 | 2018年 | 2021年 |
1,213 | 1,039 | 987 | 953 | 866 |
上記の推移によると、新設住宅着工戸数が2000年以降徐々に減少しています。
また、総務省消防庁「令和4年版 消防白書」によると、令和3年6月1日時点での全国の住宅用火災警報器設置率は84.0%です。
防災設備の取付作業の対象となるのは、大半が新築・リフォーム住宅であり、既存住宅の防災設備需要が低迷していることがわかります。
新設住宅着工戸数が減少傾向にある近年は、防災業界の価格競争が激化しています。人口の減少に伴い、住宅需要も今後さらに低下することが考えられるでしょう。
世帯数減少も相まって、徐々に住宅向けの防災設備需要が減っていくことが懸念されています。
新規設置需要の伸びは期待できない
現在は「特定防火対象物」と呼ばれる、不特定多数の人が利用する建物への新規設置需要が減ってきているのが現状です。
総務省消防庁による同調査によると、特定防火対象物へのスプリンクラーの設置率は99.9%、自動火災報知設備の設置率は99.6%となっています。
病院や百貨店、ホテルといった住宅以外の建物には、防災設備がすでに設置されていることから、スプリンクラーの新規取付の対象は、今後新たに建てられる建物に限定されてしまいます。
スプリンクラー新規取付の需要は期待できないため、既存設備へのメンテナンスが主軸になると考えられるでしょう。
以上の点を踏まえると防災業界は、中長期的には事業の発展が厳しいことがわかります。
防災業界で生き残るには「M&A」が必要
防災業界は需要面において安泰とはいえず、限られた利益の取り合いになることが予想されます。
しかし、案件の単価相場が低いケースも少なくなく、受注できたとしても業績アップを目指すことが難しいのが現状です。
防災設備会社がこの先も生き残るための解決策として、近年M&Aが注目されています。
同業種とのM&Aで事業の成長を図るケースもあれば、別業種とのM&Aによって競争力を高めるケースもあります。
M&Aは、さまざまな問題を解決につなげるための経営戦略といえるでしょう。
防災業界におけるM&Aの動向
価格競争が激しい防災業界は、近年M&Aが積極的に行われています。
防災業界におけるM&Aの動向について解説します。
同業種とのM&Aにより事業拡大を図るケースが増えている
防災業界が事業を継続させるためには、ある程度の規模が必要です。
しかし、価格競争が激しくなっていることから、特に中小企業が苦しい局面に立たされています。
その解決策として用いられている手段がM&Aです。
中小企業の防災設備会社同士が統合することで事業を拡大し、競争力を高めるケースが増加しています。
同業種のM&Aは、相手企業に自社とよく似た設備や環境が整っているケースが多いため、円滑に手続きを進めやすい点がメリットです。
競合相手と統合すれば、双方の強みを活かしながら事業に取り組めます。また、重複している事業を1つにまとめることで、コスト削減も見込めます。
別業種とのM&Aにより事業多角化を図るケースも増えている
建設業や不動産業の企業が防災設備会社を買収するといった、別業種のM&Aも増えています。
別業種との統合は事業の多角化を図れるだけでなく、異なるサービスや商品の開発・提供を進めることで1つの企業で獲得できる以上の成果が得られるでしょう。
さらに、既存の事業に影響を与えにくく、リスクを分散できる点もメリットです。
新たに開拓した市場に新規サービスを投入することで、既存サービスの需要が低下した場合でも企業全体の業績悪化を阻止できるでしょう。
このように、防災業界と別業種の統合はさまざまなメリットがあるため、今後も益々増えていくと考えられています。
防災業界におけるM&Aのメリット
M&Aを実施すると、買い手側にも売り手側にもメリットがあります。
防災業界におけるM&Aのメリットを買い手・売り手の両視点で解説します。
買い手のメリット
- 初期コストを抑えて事業拡大を図れる
- シナジー効果が期待できる
- 即戦力となる人材が手に入る
M&Aを実施した際の買い手側のメリットは、事業立ち上げのコストを抑えながら事業拡大を図れる点です。
新たに事業を開始したり、市場を広げたりする場合、経営が安定するまでに長い時間を費やします。そこで、すでにノウハウを蓄積している企業を買い取ることで、事業立ち上げに必要な防災設備や資源などの獲得が可能です。
また、お互いを高めあえる“シナジー効果”が期待できる点も、買い手側が得られるメリットといえます。
買収によって自社の弱みを補えるため、自社の競争力を高めながら売上アップを目指せるでしょう。シェアの拡大により、知名度の向上にもつながります。
その他にも、即戦力となる人材を獲得したい場合にもM&Aが有効です。
人手不足に悩みを抱える企業がM&Aでほかの企業を買収することによって、業界知識のある優れた人材を確保できます。
人材の教育・育成にかかるコストを削減できるため、効率的な事業成長が実現するでしょう。
優秀な人材は企業間の奪い合いになるケースが多く、事業拡大に必要な人材の確保を目的にM&Aを実施する企業も増えています。
売り手のメリット
- 後継者問題を解消できる
- 売却益が手に入る
- ブランド力や価格競争力を強化できる
近年は経営者の高齢化が進み、後継者不在の問題が頻発しています。親族や従業員の中に適当な後継者がいないことを理由に、事業の継続が難しくなるケースも少なくありません。
このような企業が、M&Aを実施することで社外から後継者となりうる人材を探せることは大きなメリットです。
自社の売却によって利益が発生する点も大きなメリットです。
事業譲渡であれば会社の利益となり、新規事業への投資や主力事業への運転資金に充てられます。M&Aによる売却は、資金調達や経営の安定化にも有効な手段といえるでしょう。
買い手側企業が大手の場合、ブランド力や価格競争力も強化でき、新たな顧客とのビジネスチャンスの獲得につながるでしょう。
既存事業を売却することによって、企業の時価総額が急増する可能性があります。
防災業界におけるM&A事例
以下では、防災業界におけるM&Aの成功事例をご紹介します。
防災設備A社とB社のM&A(株式譲渡)
買い手側のA社は、防災設備や火災報知器といった防災システムを通して、人々に安心・安全を提供する防災グループです。
2022年度から新たな中期経営計画を作成し、業績拡大の施策の1つとしてM&Aの実施を積極的に進めています。
一方で売り手側のB社は、大分県を拠点に消防施設の保守・点検を手掛けていました。
A社は大分県の市場における事業拡大を図るため、2022年4月にB社の全株式を取得しています。B社はA社のグループ会社となり、社名も変更しました。
A社のブランドを全面に出しながら、24時間対応サービスや物件の一括管理などの強みを持って、地域社会に根ざした防災事業に取り組んでいます。
消防設備C社とD社のM&A(事業譲渡)
C社は、福井県にて防災設備及び防災機器の販売・保守を中心に手掛ける企業です。シナジー効果の獲得を目的に、2017年12月にD社へ事業を譲渡しました。
防災設計や保守点検などの事業を譲り受け、従業員18名を引き継いでいます。
D社は福井県・石川県・滋賀県にて住設機器やプロパンガスの販売を行う企業です。汚染された外気の侵入を、防止あるいは浄化するための製品の販売を強みとしています。
M&Aを通じてD社は防災事業に参入し、福井県だけでなく、石川県や滋賀県にも販売ルートを広げました。販売エリアの拡大によって、事業の成長につなげる方針です。
まとめ
防災業界は価格競争が激しく、需要の面において不安定です。
今後も需要の伸びは期待できず、業績の向上は難しいでしょう。そこで同業種とのM&Aを実施することで、事業拡大につなげられます。別業種とのM&Aであれば事業の多角化を図ることも可能でしょう。
防災業界のM&Aを自社だけで進められるか不安であれば、M&A・事業継承の実績が豊富な「M&Aベストパートナーズ」へお気軽にご相談ください。
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