昨今では大企業だけでなく、中小企業の間でも「M&A」を実施するケースが増えています。
M&Aについてある程度の理解を持つ人は多いでしょう。その一方で、「休眠会社」のM&Aについて把握している人は少ないのではないでしょうか。
M&Aにより休眠会社の買収・売却を図る場合、基本事項を把握しておくことが大切です。
本記事では、休眠会社のM&Aに関する基礎知識からわかりやすく解説します。
休眠会社のM&Aを成功につなげるポイントも紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
休眠会社におけるM&Aの基礎知識
休眠会社には、法的に明確な定義があることをご存知でしょうか。
まずは、休眠会社やM&Aに関する基礎知識についてお伝えします。
休眠会社とは
休眠会社とは、「会社としては存在するものの、実際には事業を行っていない会社」のことです。会社法においては、「最終登記から12年が経過した株式会社」が休眠会社であると定義されています。
役員や株主、所在地など、会社にまつわるさまざまな要素に変更が生じた場合、基本的に登記が必要です。12年間にわたり登記が行われなかった場合、その会社は事業活動の実態がないものと見なされ、休眠会社と呼ばれます。
ただし、休眠会社が存続するうえでは所定の手続きが必要です。法務局は毎年、休眠会社の整理を実施しています。法務局から公告を受けた休眠会社は、「会社を廃止していないこと」を示すための届出、または登記を行わなければなりません。
公告から2か月以内に必要な手続きを実施しなかった場合、「みなし解散」として解散扱いとなるため注意が必要です。
ペーパーカンパニーと休眠会社の違い
休眠会社と似ている言葉に「ペーパーカンパニー」があります。
一般的にペーパーカンパニーは、「登記が行われているものの、事業活動の実態が存在しない会社」を指して使用されます。
ただし、ペーパーカンパニーには明確な定義がありません。登記は頻繁に行っていても事業活動の実態がないケースや、設立以降に登記がまったくない休眠会社の一種といえるケースもあります。会社法で定義されている休眠会社のほうが、意味としては明確でしょう。
また、ペーパーカンパニーは、不正行為の手段として設立されることが往々にしてあります。そのため、ペーパーカンパニーという言葉に悪いイメージを抱く人が多いのが現状です。
M&Aとは
休眠会社が「M&A」を実施できるのか疑問に感じている人は多いでしょう。
M&Aとは、複数の会社が統合することで、さまざまな目的の達成を図る経営戦略のことです。
M&Aといえば、事業活動を行っている会社同士が統合するケースが一般的といえます。しかし、休眠会社であってもM&Aを実施することは可能です。M&Aを実施するかは買い手と売り手の交渉次第であり、両社の合意さえあればM&Aは成立します。
休眠会社であっても売却できる主なケース
M&Aにより休眠会社を売却したいと考える経営者もいるでしょう。
しかし、休眠会社のM&Aはハードルが高いといえます。M&Aの合意は、売り手の意向だけでは得られません。つまり、買い手にとってもメリットを提供できなければ合意に至らないでしょう。
休眠会社であっても売却できるケースとしては、次の2つが挙げられます。
魅力的な許認可を保有している
売り手の休眠会社が魅力的な許認可を保有している場合、M&Aの成功率は高まります。
例えば、買い手企業が建設業界に参入したい場合、建設業許可を保有している休眠会社は売り手として魅力的でしょう。
許認可を得るには、多くの手間やコストを要します。その点、M&Aのスキーム(手法)によっては許認可をそのまま承継できるため、買収のメリットが大きいといえるでしょう。ただし、需要が高い許認可でなければ、M&Aの買い手を探すことは難しいといえます。
繰越欠損金が存在する
売り手の休眠会社に「繰越欠損金」が存在する場合も、M&Aの成功率は高まります。
繰越欠損金とは、過去の赤字(欠損金)を持ち越せる仕組みのことです。
当年度に多額の課税所得があったとしても、過去の欠損金分を課税所得から減額できる可能性があります。つまり、M&Aの買い手が休眠会社の繰越欠損金を引き継げる場合、節税につながるでしょう。そうなれば、買い手にとって税務上のメリットが大きいといえます。
ただし、必ずしもM&Aにおいて買い手が繰越欠損金を引き継げるわけではありません。例えば、単なる租税回避目的としか見なされないケースでは、繰越欠損金が認められないでしょう。
休眠会社の売却をM&Aにより行うメリット・デメリット
休眠会社の売却を実施するかは、メリット・デメリットを天秤にかけて検討することが大切です。
ここでは、休眠会社の売却をM&Aで行うメリット・デメリットについて解説します。
売却のメリット
休眠会社の売却をM&Aにより行うメリットは、主に次の3つです。
・廃業のリスクを回避できる
休眠会社とはいえ、廃業には在庫の処分費用や手続きの人件費など、多くのコストがかかります。しかし休眠会社を売却すれば、処分が必要な経営資源を買い手企業の後継者に委ねることが可能です。また、廃業に伴う手続きが不要になる分、人件費も抑えられる可能性があります。廃業によって生じるコスト面のリスクを回避できるのがメリットです。
・売却益を得られる場合もある
経営者が主体となって会社を売却する場合、売り手の株式とともに経営権を買い手に委ねる「株式譲渡」が一般的です。株式譲渡では、取得に要したコストよりも高額で買い手に株式を売却できる場合があります。この場合、経営者は売却益を得られるでしょう。
・節税効果が期待できる
一般的に「法人住民税の均等割」は、赤字であっても会社の規模に応じて納付しなければなりません。
しかし、休眠会社を売却することで、法人住民税の均等割が免除される可能性があり、節税につながるでしょう。ただし、自治体によって条件や手続きは異なるため、事前に確認することをおすすめします。
売却のデメリット
休眠会社の売却をM&Aにより行うデメリットは、主に次の2つです。
・買い手探しのハードルが高い
前述した通り、買い手が魅力的と思えるメリットを提供できなければ、休眠会社のM&Aは成立しません。そのため、経営資源の豊富な会社と比べれば、休眠会社の買い手を探すのは難しいでしょう。
また、買い手が一向に見つからず、M&Aの計画が頓挫してしまう可能性もあります。
・訴訟リスクがある
M&Aで会社を売却した後に、簿外債務のような問題が発覚するケースもゼロではありません。故意に隠そうとした場合でなくても、買い手から訴訟を起こされるリスクがあります。
休眠会社の財務状況を適切に精査できなければ、訴訟リスクは高まるでしょう。
休眠会社の買収をM&Aにより行うメリット・デメリット
休眠会社のM&Aでは、買収する側にもメリット・デメリットがあります。
休眠会社を売却する場合でも、買い手目線のメリット・デメリットは理解しておきましょう。
買収のメリット
休眠会社の買収をM&Aにより行うメリットは、主に次の3つです。
・許認可を引き継げる
前述の通り、M&Aスキームによっては休眠会社の許認可を引き継げます。買い手の事業戦略において魅力的な許認可であれば、手軽に取得できるメリットは大きいでしょう。
・会社設立の手間を削減できる
事業を拡大するために子会社を設立する場合、設立登記のように多くの手続きが必要です。しかし、休眠会社を買収して子会社化すれば、会社設立の手間を削減できる可能性があります。
・会社の獲得コストを抑えやすい
買い手にとって休眠会社は、通常の会社と比べてメリットが限定的であり、リスクも高いといえます。そのため、休眠会社のM&Aでは買収金額が低くなりやすいでしょう。見方を変えれば、M&Aで会社を獲得したい場合、休眠会社を選ぶことでコスト削減が可能です。
買収のデメリット
休眠会社の買収をM&Aにより行うデメリットは、主に次の2つです。
・債務を引き継ぐリスクがある
M&Aスキームによっては、売り手の資産や権利だけでなく、債務も引き継ぐことになります。売り手の休眠会社が隠れ債務を抱えていた場合、買い手は見抜けないと負債を抱えることになるでしょう。
・経営上の負担になりやすい
大半の休眠会社には、従業員や取引先がほとんど存在しないでしょう。買収コストは抑えられても、経営基盤に組み込むには人材確保や営業など多くのコストが発生します。
また、リスクの高さから融資を受けられないケースも考えられます。休眠会社を再建できなければ、経営上の負担になりやすいでしょう。
休眠会社におけるM&Aの進め方
休眠会社かどうかに関わらず、M&Aでは多くのプロセスを正しく進めなければ、十分な効果を得られません。
休眠会社のM&Aを実施する前に、大まかな進め方を理解しておきましょう。
M&Aの目的・戦略の明確化
まずは、M&Aの目的を決め、それに沿った戦略を策定する必要があります。
目的や戦略が不明確だと、以降のプロセスで方向性がぶれてしまうため、重要なプロセスといえるでしょう。
休眠会社のM&Aでは「許認可の獲得」や「資金の回収」を図るケースが多くあります。しかし、これらは手段に過ぎないため、その先にある成長戦略の達成や経営基盤の強化など、中長期的な視点も含めたM&Aの目的を決めておくべきです。
また、目的によって「どのM&Aスキームを採用するか」「どの業界から相手企業を探すか」といった戦略も異なります。そのため、M&Aの目的・戦略を明確化して、以降の方向性を固めておきましょう。
相手企業の選定・交渉
次に、M&Aの目的や戦略に沿って、相手企業の選定を行います。
なお、相手企業を探す際は、M&A支援機関のサポートを受けるか、M&Aマッチングサイトを利用するのが一般的です。
前述した通り、M&Aは、買い手・売り手の合意がなければ成立しません。そのため、お互いの取引条件を提示しながら、交渉を通じて折り合いをつける必要があります。
基本合意書の締結
相手企業から大筋での合意が得られた場合は、「基本合意書」を締結します。
基本合意書とは、取引金額といった基本的な契約条件を記載する文書です。基本合意書によって、両社がM&Aを実施する方向で以降のプロセスを進めていくことが明確となります。
ただし、基本合意書によって契約条件が最終決定するわけではありません。基本合意書は中間契約のような位置づけであり、最終契約時には契約条件が変更になるケースもあります。
DD(デューデリジェンス)の実施
買い手は、売り手に対してDD(デューデリジェンス)を実施します。
DDとは、相手企業のリスクや価値を調査・分析するプロセスのことです。DDによって隠れ債務といった売り手のリスクを確認し、M&Aを実施して問題ないかを判断します。
なお、買い手がDDを実施するうえで、売り手に情報提供を求めるケースがあり、良好な関係性を構築するためにも、可能な範囲で協力することが大切です。
仮に、都合の悪い情報を故意に隠すようなことがあれば、後々の訴訟リスクは避けられないでしょう。
最終契約書の締結
DDの結果を踏まえて、M&Aの契約条件を調整します。
売り手にリスクがあれば、取引金額が減額される可能性もあるでしょう。なお、両社の合意が確認できれば、「最終契約書」を締結します。最終契約書は名前通り、M&Aの最終的な契約条件を記載する文書です。
最終契約書には、いつM&Aの効力が発生するか、どのような状況でM&A完了とするか、などさまざまな情報が記載されます。最終契約書の締結後に細かい条件を調整することは難しいため、事前に調整しておくことが大切です。
クロージング
最終契約書の締結後は、「クロージング」を実施します。
クロージングとは、M&Aの取引を完了させるためのプロセスのことです。クロージングでは、最終契約書の内容に従って、資産や権利の移転、対価の支払いなどを行います。
また、一般的なM&Aでは、クロージング後に両社の経営を統合する「PMI」を実施します。雇用している従業員や運用中の社内システムがない休眠会社であれば、大々的なPMIは発生しないでしょう。
休眠会社のM&Aを成功につなげるポイント
一般的に休眠会社のM&Aはハードルが高く、成功させることは容易ではありません。
休眠会社のM&Aを成功につなげるポイントとして、次の3つを押さえておきましょう。
【買い手】売り手の財務状況を精査する
買い手が休眠会社の買収を成功させるために、売り手の財務状況を精査しましょう。
休眠会社は、財務状況が思わしくないケースも多々あります。例えば、隠れ債務を抱えていたり、税金を滞納していたりするケースもあるかもしれません。
こうした財務上のリスクを引き継がないように、DDで確実に問題を検出することが大切です。
【売り手】会社の価値を少しでも高めておく
売り手が休眠会社の売却を成功させるために、会社の価値を少しでも高めておきましょう。
前述した通り、買い手にもメリットを提供できなければ休眠会社のM&Aは成立しません。買い手にとって価値ある休眠会社のほうが、成功率は高くなります。
そのため、需要の高い許認可を取得したり、債務を整理したりするなど、可能な範囲で価値を高めておくことが大切です。繰越欠損金の有無も確認しておきましょう。
【共通】M&Aの専門家からアドバイスを受ける
買い手・売り手を問わず、休眠会社のM&Aでは専門家のサポートが不可欠です。
休眠会社のM&Aにはリスクも多いため、細心の注意を払って進めていくことが求められます。しかし、M&Aのプロセスには税務や法務など、さまざまな専門知識が欠かせません。M&Aの経験がない会社や経営者が、適切にプロセスを進めることは難しいでしょう。
M&Aの豊富な経験・実績を持つ専門家であれば、各プロセスにおいて適切なアドバイスを提供してくれます。休眠会社のM&Aを成功につなげたいのであれば、M&Aの専門家を擁する支援機関に依頼するとよいでしょう。
まとめ
休眠会社とは、「会社としては存在するものの、実際には事業を行っていない会社」のことです。
会社法においては、「最終登記から12年が経過した株式会社」が休眠会社であると定義されています。
なお、休眠会社でもM&Aは可能ですが、ハードルはそれほど高くありません。
また、休眠会社のM&Aにはメリットがあれば、デメリットもあります。メリットを最大化するには、M&Aの専門家からアドバイスを受けるのが確実です。
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