
吸収合併が行われたとき、両者の雇用契約や給与形態の違いが原因で給与格差が生まれることがあります。
場合によっては従業員の不満がたまり、さまざまな弊害を生じる可能性があるため、対策が必要です。
この記事では、吸収合併によって給与格差が生じる理由について解説します。併せて、解消方法や放置することで生じるリスクもご紹介します。
これから吸収合併を検討されている経営者の方や、吸収合併が決まり給与格差対策を探している経営者の方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。
吸収合併で給与格差が生じる理由
吸収合併によって給与格差が生じる理由は、以下の2つです。
- 既存の労働契約が引き継がれる
- 賃金を同一にする法的根拠がない
それぞれの理由について、詳しく解説します。
既存の労働契約が引き継がれる
吸収合併が行われる場合、労働契約承継法によって以前の労働契約が引き継がれます。
合併前の労働条件・給与がそのまま適用されるため、企業間で異なる給与水準が存在する場合、合併後もその差異が残る可能性があります。
企業文化や業務体制の違いも、給与格差が生じる理由です。
賃金を同一にする法的根拠がない
吸収合併における「同一労働同一賃金」に関する法的な拘束がありません。政府も給与格差の是正に取り組んでいますが、まだ法整備は進んでいません。
賃金に関する交渉が企業間の話し合いのみで決められることも、給与格差が埋まらない理由となっています。
吸収合併で給与格差を解消する方法
法的に定められていない給与格差問題は、企業内で解決する以外に方法はありません。
給与格差問題を解消する方法を2つご紹介します。
両社の給与テーブルを統合する
給与格差を解消するためには、両社の給与テーブルを比較し、以下に挙げるような検討が必要です。
- どちらかの給与基準に合わせる
- 両者の給与基準の中間で設定する
- 基本給や退職金など、項目ごとに新たな基準を定める
給与基準をしっかりと取り決めることで給与差異を縮小し、公平な評価基準が確立できます。
合併前に個別で給与条件を調整する
合併前に個別で給与条件を調整することも、給与格差を解消する方法の一つです。
しかし、従業員との個別調整は実務上の負担が大きいです。
個別調整は公平性を保つことができます。一方で、管理や処理の複雑さがあり、均一な給与体系の構築が困難な可能性があります。
給与格差解消の方法を選ぶ際は、実行可能な方法を検討しましょう。
吸収合併による給与格差を放置するリスク
合併後の給与格差を放置した場合、さまざまな弊害が生じて企業の運営に支障をきたす場合があります。
給与格差を放置することで起こりうるリスクについて、詳しく解説します。
従業員同士の関係性が悪化する
給与格差の放置は、従業員同士の関係性悪化を引き起こす可能性があります。
同じ職務やポジションにある従業員たちの間で給与格差が広がると、信頼関係や協力関係が悪くなる可能性があります。
給与格差が原因で従業員との間に溝が生じ、コミュニケーションやチームワークが損なわれる可能性があります。
情報共有や意思疎通が滞り、組織内の連携が悪くなるでしょう。
従業員のモチベーションが低下する
給与格差が拡大すると、低給与の従業員のモチベーション低下を招く可能性があります。
モチベーションの低下は、業務効率にも影響を及ぼし、企業の業績に影響が出る可能性もあり注意が必要です。
離職の可能性がある
給与格差によって低給与の従業員が不満を感じた場合、離職する可能性があります。
技術やノウハウを持つ従業員の流出は、企業の大切な財産です。優秀な人材の流出は、業績にも影響が出るでしょう。
タレントスクエア株式会社が行った「転職を検討した理由」に関するアンケートでは、「現職の給与に満足していない」という回答が最も多いです。額面自体が低いという理由以外に、会社の吸収合併による給与格差に納得いかないという回答もありました。
従業員が訴訟を起こす可能性がある
給与格差による従業員の不満が膨れた場合、訴訟につながる可能性があります。
訴訟になった場合、時間やコストがかかるだけでなく、企業の社会的な評価や信頼性に悪影響を及ぼす可能性があります。
給与格差の放置はさまざまな弊害が生じるリスクがあり、企業の業績にも影響するため早めの対応が必要です。
吸収合併の給与格差を減らすためのポイント
吸収合併後の給与格差は、従業員のモチベーション低下や離職など、さまざまな弊害が生じます。リスクを回避するためには、早い段階で給与格差を減らす取り組みが必要です。
給与格差を減らし、さまざまなリスクを回避するためのポイントをご紹介します。
従業員の意思確認を行う
給与格差を減らすために、従業員の意思確認を行うことは非常に重要です。
給与が下がる場合だけでなく、給与条件に変更が生じる場合は従業員の同意を得る必要があります。
正当な変更理由や目的を説明することで、従業員の理解は得やすくなるでしょう。
従業員が変更に納得し協力を得ることができれば、給与格差の是正が円滑に進み、健全な組織運営に繋がります。
「労働条件の不利益変更」に関する法律に注意する
給与格差解消の際には、「労働条件の不利益変更」に関する法律を理解し、訴訟リスクを回避することが必要です。
「労働条件の不利益変更」とは、厚生労働省によって定められ、変更の内容は以下のとおりです。
- 従業員ごとに個別に同意を得て不利益変更を行う方法
- 就業規則を変更することにより労働条件の不利益変更を行う方法
- 労働組合との間で労働協約を締結し、労働条件の不利益変更をする方法
- 人事考課に基づく等級の引き下げにより給与を減額する方法
- 降格に伴い従業員の給与を減額する方法
給与や労働条件の変更が従業員に不利益をもたらす場合、訴訟を引き起こされるリスクがあります。
過去には多額の支払いを命じられた判例もあるため、変更の際には法律の遵守は必須といえます。
定められている法律を理解し、リスクを最小限に抑えながら給与格差の解消を進めることが大切です。
給与が上がる従業員/下がる従業員の分断回避
給与格差によって、給与が上がる従業員と下がる従業員の分断が起きるケースがあります。
給与制度の統一により、一部の従業員は給与が上昇し、一部は減少するケースが少なくありません。仕事内容や評価が正当に評価されないと、従業員間に分断が生じる可能性があります。
分断を回避するためには、公平な評価基準と適切な調整方法の策定が必要です。
不安があれば吸収合併のプロに相談する
給与格差解消に不安がある場合、吸収合併の専門家に相談することがおすすめです。
専門家は合併に関する手続きだけでなく、給与制度の統合などのプロセスもサポートしてくれます。
専門家に相談することで、法律を遵守した方法で給与格差の解消をすることができるでしょう。
まとめ
合併後の給与格差が起きるケースは少なくありません。
放置することで従業員の不満が高まり、離職につながるなど企業の組織運営に支障が生じます。
しかし、給与が減額する場合は法的手続きが必要になり、専門的知識と経験が必要です。
そのため、吸収合併を行うときは、検討の段階から専門家に相談することがおすすめです。
「吸収合併を検討しているけど給与格差が起きないか不安」といったお悩みのある方は、吸収合併のサポート実績が豊富な「M&Aベストパートナーズ」へお気軽にご相談ください。
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