
法人売却は、単に会社を手放すというだけではなく、経営者や株主に多くの選択肢と可能性をもたらす手段です。
この記事では、法人売却の基本的な仕組みから、その具体的な手法である株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割のそれぞれの違い、さらに売却によるメリット・デメリットまで、わかりやすく整理して解説しています。
読了後には、法人売却に対する理解が深まり、自社の将来を見据えた戦略的な判断ができるようになるでしょう。
目次
法人売却とは
法人売却とは、企業がその所有する株式や事業を、他の個人や法人に譲渡することです。
売却の目的は企業ごとに異なり、たとえば経営者の引退や後継者不足による事業承継、企業の成長戦略の一環としての再編、あるいは不採算事業からの撤退といったケースが挙げられるでしょう。
法人売却には大きく分けて「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」「会社分割」の4種類があります。
株式譲渡は会社の全体、つまり法人格そのものを売却する方法で、売却先は経営権を含む会社全体を引き継ぎます。一方、事業譲渡や会社分割は特定の部門や事業のみを切り出して売却する手法で、売却対象を限定できるため柔軟な運用が可能です。
そして、これらは2つの企業の間で行われるものですが、2つあるいは3つ以上の企業が統合される合併といった手法もあります。
近年では、中小企業においてもこうした法人売却を積極的に活用する動きが見られます。経営資源の集中や業界再編に対応するため、今や重要な経営戦略のひとつとなっているのです。
法人売却のM&A手法・種類

それでは、法人売却の具体的な手法である「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」「会社分割」の4種類について、より詳しく紹介します。
株式譲渡
株式譲渡とは、経営者などのオーナーが保有している自社株式を、第三者に譲り渡すことで会社を売却するM&A手法です。中小企業では経営者が株式の大半、もしくは100%を保有しているケースが多く、比較的手続きが簡素であることから、法人売却の中で最も使われる手法でもあります。
この手法の大きな特長は、法人格がそのまま引き継がれる点でしょう。会社の契約関係や資産、従業員、取引先との関係などが一体で移転するため、個別の移管手続きを行う必要がないことから、事業の移行がスムーズに進みやすい点が特徴です。
このことから、買い手にとってもさまざまなリスクを抑えやすいというメリットにつながります。
事業譲渡
事業譲渡とは、法人が保有する事業の一部またはすべてを、第三者に譲渡するM&Aの手法です。譲渡の対象は赤字事業や不採算部門に限らず、成長性の高い事業や将来的に戦略の方向性と合わない事業など、企業の判断によって柔軟に選ぶことができます。
この事業譲渡をさらに細かく分けると、事業をすべて引き渡す「全部譲渡」と、特定の部門や資産のみを対象とする「一部譲渡」の2種類が存在します。
対象となる資産・契約・人材などを個別に明示して取引を行うため、買い手と売り手の間で詳細な調整が必要になるのが難点です。一方、不要な資産や負債を細かく切り離せるため、売り手側にとっては経営資源の最適化を図れるなどのメリットがあります。
合併
合併とは、複数の企業が一体となり、1つの新しい企業として再編されるM&A手法です。
これは主に「吸収合併」と「新設合併」の2つに分類されます。
吸収合併は、既存の会社が他の会社の権利義務をすべて引き継ぐ形式で、合併される側の法人格は消滅します。手続きが比較的簡易であり、迅速な統合が可能な点が特徴です。
新設合併は、複数の企業がすべて解散し、新たな会社を設立して事業を統合する方式です。各社が対等な立場で合併する場合に選ばれることが多く、公平な事業再編を目指す際に用いられます。ただし、設立登記などの手続きが必要で、時間やコストがかかる傾向がある点には注意が必要です。
これらは、規模拡大や経営資源の補完、新市場の開拓などを目的とした企業再編に有効な手法となります。
会社分割
会社分割とは、企業が保有する事業の一部または全体を、別の企業に承継させるM&Aの手法です。
分割の形式は大きく分けて「吸収分割」と「新設分割」の2つに分類されます。
「吸収分割」は、既存の他社に対して事業を引き継がせる形式であり、分割を行う企業はそのまま存続して、承継先の企業が事業を受け取る形になります。この方式は、売却対象が明確であり、手続きも比較的効率的に進められる点が特徴です。
「新設分割」は、新たに設立される会社に対して事業を承継させる方法です。こちらは、特定の事業を独立させて新会社としてスタートさせたい場合や、分社化による事業再編を目的とするときに選ばれます。
事業の切り出しや再編に柔軟に対応できる点がメリットであり、近年では経営戦略の多様化に伴い、選択肢のひとつとして重要視されています。また、特定部門の売却や資本提携にも有効な手法といえるでしょう。
法人売却をするメリット

ここまで、法人売却の概要や、その種類について解説してきました。
ここからは、その具体的なメリットを紹介します。
売却利益を獲得できる
法人売却を行う最大のメリットは、売却利益を得られることでしょう。
たとえば株式譲渡の場合、売却した対価は、株式を保有していたオーナーに直接支払われます。これにより、経営者個人がまとまった資金を手にすることが可能となります。
売却によって得られる利益は、採用する売却手法によって異なります。たとえば、株式譲渡では株主に、事業譲渡では会社に利益が帰属するなどです。
とくに将来性のある事業や市場での評価が高い企業であれば、より高い価格での売却も期待できるでしょう。
会社を存続させることができる
法人売却をすれば、会社を存続させることができます。
とくに中小企業では、経営者の高齢化や後継者不在が深刻な問題となっており、誰に事業を託すか悩む経営者が全国に数多く存在します。法人売却を通じて、適切な買い手に会社を引き継げば、積み上げてきた事業を廃業せずに継続することが可能となります。
また、近年の中小企業の売却では、買い手との合意にもとづく友好的なM&Aが主流となっています。そのため、従業員の雇用や取引先との関係が維持されやすいのも特長です。これにより、経営者が引退しても、これまで築いてきた事業の価値や社会的信用が失われる可能性は少なく、関係者にとっても安心感のある選択肢となります。
こうした面から、法人売却は単なる資産の処分ではなく、企業の未来を託す手段としても有効で、会社を残したいという思いに応える選択肢です。
個人保証を解除できる
法人売却をすれば、経営者の個人保証を解除できる可能性があります。
中小企業では、経営者が金融機関からの融資に対して、個人資産を担保にして保証人となっているケースが多いです。こうした個人保証は、会社の経営が悪化した場合に経営者個人の財産にまで影響をおよぼすため、大きな精神的・経済的負担となります。
しかし、法人売却、とくに株式譲渡の形式をとる場合、法人に関するすべての権利義務が買い手に引き継がれるため、買い手が新たな債務者となります。
法人売却をするデメリット
法人売却にはメリットが多い分、デメリットも少なくないため、注意が必要です。
売却後に経営方針が変わってしまう可能性がある
法人売却を行った場合、経営権は第三者に移るため、売却後に会社の運営方針や経営方針が大きく変わる可能性があります。とくに株式譲渡のように経営権そのものを引き渡す形式では、元の経営者が会社の意思決定に関与できなくなるため、企業文化や理念が変化するリスクが伴います。
こうした変化は、従業員や取引先、顧客に不安を与えかねません。場合によっては、顧客や取引先の信頼関係の維持が難しくなる可能性もあります。円滑な事業承継を実現するためには、買い手との間で自社の理念や運営方針について十分に話し合っておくことが不可欠です。
売却の際には、単に条件面だけでなく、買い手の経営に対する姿勢や価値観も重視して相手を選ぶことが重要です。
一定期間競合となる事業ができない
法人売却の手法として事業譲渡を選択した場合、会社法により「競業避止義務」が課されることになります。
競業避止義務とは、事業を譲渡した側が一定期間、同じ地域で同種の事業を行うことを禁止するものです。
これは主に、買い手の利益を保護するために設けられています。とくに中小企業においては、経営者の人的ネットワークやノウハウが競争力の源泉となることが多く、これがそのまま新事業に活かされると、買い手にとっては大きな脅威となるからです。
会社法では、競業避止義務の期間は原則として譲渡日から20年以内と定められています。ただし、これは必ずしも固定ではなく、契約内容により期間を短縮することも可能です。なお、株式譲渡による法人売却の場合は、法律上の競業避止義務は発生しませんが、必要に応じて契約で取り決めるのが一般的です。
ロックアップがかかる可能性がある
法人売却において多くの場合、「ロックアップ」と呼ばれる条件が付されます。
ロックアップとは、売り手企業の経営者や役員など、事業の中核を担っていた人物が、買収後も一定期間その企業にとどまるよう求められる取り決めです。これは、事業の引き継ぎを円滑に行い、買い手側が安定した運営を行うための措置となります。
ロックアップ期間は事業規模や業種により異なりますが、一般的には1年から3年程度に設定されるケースが多いです。この期間中、売り手側の経営者は自由な事業展開や競合企業への関与が制限されることもあり、個人的な出資や独立にも制約が課される可能性があります。
そのため、売却後に自由な活動を望む経営者にとっては、この点が精神的な負担となる場合もあるでしょう。売却の際には、重視すべき条件のひとつとして、事前に十分確認しておくことが重要です。
まとめ
法人売却とは、自社の株式や事業を第三者に譲渡することで、経営資源の再編や事業承継を実現する手段です。
株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割といった手法にはそれぞれ特性があり、目的に応じた選択が求められます。
売却によって得られる利益や会社を存続させられるといったメリットがある一方で、経営権の喪失や活動制限などのデメリットもあるため注意が必要です。
そうしたデメリットをより詳しく理解し、法人売却を失敗に終わらせないためには、信頼できる専門家の支援が不可欠となります。M&Aベストパートナーズなら、貴社に最適な売却戦略をご提案することができます。ぜひ一度ご相談ください。