企業の持つ資産の流動化や資金調達を目的として、SPCを設立するケースは少なくありません。
そこで、本記事ではSPCに焦点を当てて、詳しく解説します。
併せて設立される目的や、設立される具体的なシーンについても解説します。
自社の資産を流動化させて資金調達を目指したい方、財務体質の改善を目指している経営層の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
SPC(特別目的会社)とは
SPCとは、「Special Purpose Company」の略称で、財務省の資産の流動化に関する法律に基づいて設立ができる法人を指します。
「資産を保有するためだけの法人」として、不動産や売掛金、住宅ローンなどさまざまな資産を保有できます。
しかし通常の株式会社とは異なり、SPCは財務省の管轄下に置かれ、利益を追求する行為は禁止されています。
SPC(特別目的会社)が設立される目的
SPCが設立される目的は、主に以下の6点が挙げられます。
- 資金調達の効率化
- 資産の流動化・証券化
- 経営リスクの切り離し・分散
- 財務体質の改善(オフバランス化)
- M&Aや特定の事業の遂行
- 投資家へのリスク配分
それぞれの目的について詳しく解説します。
資金調達の効率化
特定の事業や資産だけを切り離して保有するSPCは、親会社の信用状況に左右されにくいです。
そのため、投資家や金融機関がSPCの保有する資産を担保として融資や出資をする際に、親会社の経営状態に不安があってもSPCならば投資してもらえるケースがあります。
通常、業績が悪い状態の場合は融資が受けにくかったり、希望する金額が得られなかったりするケースが多いですが、SPCを設立することでスムーズな資金調達ができる場合があります。
資産の流動化・証券化
SPCが保有する非流動資産を流動化することができます。
例えば、保有している不動産を担保に証券化することで、小口資金を投資家から集めることが可能です。
担保となる不動産に対する収益を期待して投資家は出資するため、親会社は少ない自己資金で開発など大規模なプロジェクトを実施できます。
経営リスクの切り離し・分散
SPCは、法的に親会社から独立することが特徴です。
親会社の資産・負債から完全に独立し、プロジェクトに関するリスクをSPCに担わせることで、万が一のことがあっても他の事業への影響を最小限に抑えられます。
その結果、経営リスクの切り離しやリスク分散が可能になります。
財務体質の改善(オフバランス化)
財務体質の改善(オフバランス化)は、SPCの設立によって得られる大きなメリットといえるでしょう。
具体的には、不動産のような資産は債務を抱えることを選定として建設や取得が行われます。
そのため、不動産を多く保有すると負債比率は大きくなり、一方で自己資本比率は低下します。
しかし、SPCへ不動産などの資産を移すことで貸借対照表から資産を切り離し、オフバランス化の実現ができます。
M&Aや特定の事業の遂行
本来、M&Aを実施するためにSPCを設立する必要はありません。
しかし、買収資金が足りないなどの問題が生じた場合、SPCの設立によって資金調達をすることがあります。
買収資金をSPCに集中させることで、融資や社債の発行などのスキームが組みやすくなります。
この手法はLBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれ、M&Aでも使用されています。
関連記事:M&Aとは?M&Aの概要やメリット・デメリットなどを詳しく解説
投資家へのリスク配分
SPCが保有する資産は親会社とは別の扱いとなるため、親会社の信用状態が変化しても影響を受けにくいでしょう。
そのため投資家にとっては投資リスクを軽減できるといったメリットがあります。
また、SPCの設立によって倒産隔離という仕組みを構築できます。
万が一親会社が倒産してしまったとしても、特定の資産や関連企業へ影響が及ばないため、投資家への負担を最小限に抑えられるでしょう。
SPC(特別目的会社)を活用した資金調達スキーム
SPCを活用した資金調達のスキームには、以下のようなものが挙げられます。
GK-TK | 不動産証券化など | TK出資 金融機関借入 | 設立容易 コスト低 匿名性 有限責任 | 投資家保護の仕組みが限定的 |
TMK | 資産流動化 | 特定社債 優先出資 | 税制優遇 資産独立性 | 設立 管理が煩雑 コスト高 |
REIT | 不動産投資 | 公募による投資家出資 | 少額投資可 流動性高 分散投資 | 法的規制が多い |
LBO | M&A(買収) | 金融機関融資 自己資金 | 少資金で大規模買収可 リスク限定 | 金利高 返済不能リスク |
各スキームについて、詳しく解説します。
GK-TKスキーム
合同会社(GK)と匿名組合※1(TK)を組み合わせたGK-TKスキームは、投資家からの出資や金融機関からの融資によって現物不動産や信託受益権を持つ合同会社を設立し、資金調達を行う方法です。
匿名性を維持しながら利益を得ることや二重課税の回避・有限責任などによって出資額以上の損失リスクがないなど、投資側のメリットが大きいスキームです。
※1:特定組合員が出資し、営業で生じた利益の分配を受け取ることを約束された契約形態
TMKスキーム
TMKスキームは、SPCを設立し特定資産を取得した後、資産運用に必要な資金調達を目的とした特定社債や優先出資証券を発行します。
資産から得たキャッシュフローを元手として社債や出資証券の利息、配当金を投資家に支払うなど、資産の流動性向上とリスク分散のために使われるスキームです。
REITスキーム
REIT(Real Estate Investment Trust)は不動産投資を目的とした投資法人です。
投資家から出資された資金によって購入した不動産を運用し、収益の分配を行います。
REITは株式市場に上場されるケースが多いため流動性が高く、少額でも不動産投資ができるため、投資家は容易に資産運用をすることができます。
また、分散投資をすることでリスクの低減も期待できます。
LBOスキーム
企業買収の手法の一つであるLBO(Leveraged Buyout)は、SPCを買収主体企業とし、対象とする企業の資産を担保として資金調達を行い、企業買収を行います。
少ない自己資金でも大規模な企業買収が実現できるため、M&Aで多く使われています。
買収完了後のキャッシュフローを活かして借入金を返済するため、買収する企業の収益性や安定したキャッシュフローなどが求められます。
関連記事:M&Aとは?M&Aの概要やメリット・デメリットなどを詳しく解説
SPC(特別目的会社)が設立される具体的なシーン
資産の流動化や資金調達を目的としたSPCは、さまざまなシーンで設立、活用されています。
そこで、SPCが設立されるシーンの具体例をご紹介します。
不動産投資や不動産証券化プロジェクト
REITのように不動産投資を目的とする、または不動産の証券化を目指してSPCが設立されるケースは少なくありません。
過去に、宮崎県と宮崎市それぞれが所有しているJR宮崎駅西口に隣接する低未利用地※2について、公募によって選定された「宮崎商工会議所グループ」が設立したSPCに貸し出しました。
SPCは事業用定期借地権(20年)に設定された土地をTKMスキームを活用することでスムーズに資金調達を行い、公共施設※3や民間施設※4の開発・整備を実現しました。
※2:有効に活用されていない土地のなかでも特に活用の程度が低い土地
※3:バスターミナル・バス待合室・観光案内・市営駐車場・広場
※4:宮崎グリーンスフィア壱番館(ホテルフロア、オフィスフロア、サービスフロア)・立体駐車場・駐輪場
参考:国土交通省「動産証券化手法を用いたPRE 民間活用のガイドライン」
M&Aや事業再編
SPCの設立は、M&Aや事業再編の目的でも活用されています。
M&Aの場合、 LBOスキームを活用することで、少ない自己資本でも企業買収が可能になります。
また、自己資金や融資を受けても買収資金が足りないといった場合、SPCを設立し資金調達ができれば、大規模なM&Aの実施も実現が可能です。
その他に、設立したSPCを活用することでリスク分散を行い、事業再編をすることもできます。
このように、自社の事業拡大を目的としたM&Aや不安定になった事業の再編など、さまざまな場面でSPCが活用されています。
資産の証券化による資金調達
SPCを設立することで、不動産など非流動資産を証券化し、資金調達が可能です。
証券として資産を細分化・流通させることで、投資家や金融機関は特定資産に対する投資や融資が可能になり、SPCはスムーズに資金調達をすることができます。
親会社の財務状況改善やリスク隔離
多額の資金調達をする場合、バランスシートの負債比率は上昇し、反対に自己資本比率は低下します。
その結果、財務状況が悪化するリスクが生じます。
しかし、設立したSPCへ不動産などの資産を売却することで、資産の切り離しが可能です。
資産を切り離すことでオフバランス化が実現でき、財務状況の改善を図れるでしょう。
海外投資家などからの小口投資の受け入れ
GK-TKスキームを活用することで、日本国内の不動産や信託受益権への投資を目的としている海外投資家から小口投資を受けられるようになります。
国内外から資金調達ができるようになれば、財務状況の改善や事業拡大などに向けた資金調達がスムーズになるでしょう。
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実際に弊社がお手伝いをし、成功に導いた不動産業界のM&A事例をご紹介します。
インテリジェントシステムズ株式会社様

インテリジェントシステムズ株式会社は、業務アプリケーションの開発や運用支援を手がけるIT企業で、2024年12月25日に株式会社テンダのグループ会社としてM&Aにより譲渡されました。
この決断の背景には、創業者である大日方真会長(当時88歳)の事業承継への思いがありました。
社員の雇用や職場環境の維持を最優先とし、少なくとも1年間は既存の組織体制を変更しないことを条件としてM&Aを実行しています。
また、大日方会長は株式の2割を保有し続け、引き続き会社の未来に責任を持つ姿勢を示しています。
仲介を担当したM&Aベストパートナーズの松川は、社員の方々の将来を見据えた持続可能な事業承継のために提案力と責任感を持って交渉を進め、信頼関係を築くことに注力しました。
まとめ
SPCの設立は、企業の持つ資産の流動化や資金調達だけでなく、事業拡大に向けたM&Aでも広く用いられています。
SPCによって得られるメリットはさまざまですが、SPCは財務省の管理下に置かれ、設立には手続きや税務などに関する専門的知識が必要です。
SPCを活用したM&Aの場合、設立に必要な知識だけでなくM&Aに関する知識も求められます。
私たちM&AベストパートナーズはM&Aのプロフェッショナルとして、これまで多くのM&Aを成功に導いた実績がございます。
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