企業再編に欠かせないDES(デットエクイティスワップ)をわかりやすく解説メリット企業再編に欠かせないDES(デットエクイティスワップ)をわかりやすく解説

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M&Aベストパートナーズ MABPマガジン編集部

企業を経営するなかで、財務状況の強化に悩む経営者の方は少なくありません。

そのような悩みを解決する手段として、債務を株式化するDES(デットエクイティスワップ)が注目されています。

そこで本記事では、DESの詳細や仕組みについて詳しく解説します。

加えて、メリット・デメリットや会計処理のポイント、成功事例なども併せてチェックしていきましょう。

財務体質の改善や株式の価値の向上を検討されている経営陣の方は、ぜひ参考にしてください。

DES(デットエクイティスワップ)とは

DESは「Debt Equity Swap」の略で、債務の株式化や債務資本化を意味します。

具体的には、過剰債務や財政破綻状態となっている企業の債務について、債権者に対して債務相当額の株式を発行することで企業再生を目指す手段の一つです。

その他にも、債権者が株式を取得し生じた出資金を使い、有利子負債を削減するといった方法があります。

貸借対照表(バランスシート)を持続可能な状態に戻し、財務体質の改善や株式価値の向上による経営基盤の強化を目指します。

関連記事:債務超過とは|貸借対照表(バランスシート)のどこを見る?

DESの仕組みと目的

DESは債務を株式という資本にすることで純資産を増やすとともに、元金や利息の返済負担を減らし、経営の立て直しを目指すために行われます。

具体的な方法には以下の2つが挙げられます。

  • 現物出資型
  • 金銭出資型

それぞれの方法について詳しく解説しましょう。

現物出資型

現物出資型はDESの一般的な方法であり、借入金を債権者から債務者(企業)に対する出資金とすることで、出資額に相当する株式の発行をするものです。

負債を出資と看做すため現金の移動はなく、第三者割当増資※1によって実施されます。

なお、第三者割当増資は、以下の手順で行われます。

  1. 募集要項の決定
  2. 株主や債権者への通知・申し込み
  3. 株式割当先の選定・決定
  4. 現物引渡し
  5. 登記の変更手続き

※1:特定の第三者に対して新たに株式を発行すること

金銭出資型

金銭出資型のDESは、債権者が債務者(企業)に対して現金を支払う方法です。

増資に合意した債権者は現金を支払い、債務者は支払われた現金を借入金の返済に充てます。

このとき、支払われた現金は借入金の返済のみに限られるため、資金の使い方には注意が必要です。

また、債権者から現金が支払われるときに、相当額の株式を発行するため、現物出資型と同じような状態になります。

両者の異なる点は、現金の移動の有無にあるでしょう。

金銭出資型のDESの場合、第三者割当増資と借入金の返済手続きの両方を行います。

DESのメリット・デメリット

DESにおける企業側、債権者側それぞれのメリット・デメリットは以下のとおりです。

企業側
メリットデメリット
有利子負債が削減され、財務体質が大幅に改善される債権者(新株主)が経営に干渉してくる可能性がある
借入金の返済や利息の支払い義務がなくなり、キャッシュフローが改善する発行株式数の増加による株価の希薄化(既存株主の持株比率低下)
倒産リスクが低下し、事業継続性が高まる資本金増加により法人税負担が増加する可能性
債務超過の解消や自己資本比率の向上債務消滅益の発生による課税リスク
事業承継時に後継者の負担を軽減できる税制特例が受けられなくなる場合がある
債権者側
メリットデメリット
将来のキャピタルゲイン(株式売却益)やインカムゲイン(配当)を得られる可能性債権よりも株式の回収順位が後回しになり、倒産時の回収リスクが高まる
経営への関与や指導力の発揮が可能貸付金減少により利息収入が減少する
企業再建後の企業価値上昇による利益享受が期待できる非公開株式の場合、株式の換金化が難しい(流動性リスク)
相続対策や事業承継対策として活用できる株価下落や経営責任の増加リスク

借入金や利息の支払い義務がなくなり、財務体質やキャッシュフローが改善できることは、企業側にとって大きなメリットといえるでしょう。

一方で、債権者(株主)が経営に干渉してきたり、課税などのリスクが生じたりする可能性があります。

債権者側は、資金を出すことで経営への関与ができるようになることや、キャピタルゲインやインカムゲインを得られる可能性がある点がメリットといえるでしょう。

しかし、貸付金がなくなることによる利息収入の減少といったデメリットもあります。

また、入手した株式が非公開だった場合、現金化することが難しいなどのリスクもあります。

関連記事:DESのメリット・デメリットは?税務上考慮すべき点や会計処理の手続き・事例について

DESの会計処理と税務のポイント

DESを実施する上での会計処理と税務は、以下の3つのポイントを抑えることが必要です。

  • 「時価」に基づいて行う必要がある
  • 安易な実施を防ぐための法的規制が設けられている
  • 会計・税務・法務の専門家の対応が必要となる


DESによって発行する株式の価格が時価と比較して著しく低い、または高い場合、税務署から債権者が得をしている(利益を受け取った)とみなされたり、債務者が得をしている(寄附金を受けた)と認識されたりする可能性があります。

そのため、DESによる資金と株式の交換は時価に基づいて行うことが必要です。

また、DESでは新たに株式が発行されるため、会社法が適用されます。

さらに、上場企業がDESを実施する場合は金融商品取引法に定められた情報開示義務を守る必要があったり、債権者がDESに合意し明確な取り決めをするために民法が適用されたりする点にも注意しなければなりません。

上記のように、DESにはさまざまな法律が関連し、会計・税務に関する専門的な知識も必要となるため、専門家によるサポートが必要です

DESの実際の成功事例

債務からの解放による経営体質の立て直しなどさまざまなメリットがあるDESは、多くの企業で実施されています。

実際にDESを行い、成功した事例をご紹介します。

長谷工コーポレーション

1937年に「長谷川工務店」として始まった長谷工コーポレーションは事業拡大を続け、1965年には東京、及び大阪・名古屋の証券取引所で一部上場を果たし、現在はプライム市場に上場をしています。

バブル期には積極的に事業の多角化を行い事業規模は急速に拡大しましたが、背景には負債による資金調達がありました。

そのため、バブル崩壊後は業績が悪化し、1995年には「長谷工グループ資産圧縮計画」を計画・実施することで事業再編を試みるなどさまざまなリストラクチャリング※2を実施しましたが、十分な効果を得ることができませんでした。

そこで、2002年にDESを実施。

1,500億円に及ぶ債務を株式化を行い、翌年には債務超過が解消されました。

2004年には金融機関との財務支援協定も解消され、業績回復することで倒産のリスクを回避しました。

※2:経営効率改善や収益性向上を目的とし、事業や組織構造を再構築すること

シャープ

エレクトロニクス業界大手のシャープも、DESによって経営難から脱出しました。

2015年に、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行から借入れていた負債のうち、2,000億円を株式に振り替え、財務状況の改善を行っています。

ランド

不動産開発を行っているランドも、シャープと同じく2015年にDESを実施し、財務状況を改善した企業です。

2008年、アメリカのリーマン・ブラザーズの倒産経営破綻をきっかけに起こったリーマンショックは、不動産業界に大きな打撃を与えました。

ランドもその影響を受け業績が悪化しましたが、DESを実施。

DESの影響で一時的に株価が下落したものの、その後しばらくして業績を持ち直すことに成功しています。

TIS株式会社

DESは、負債を抱える企業の財務状況を改善するだけでなく、他社の株式を取得する手段としても用いられ、その代表例がIT企業のTIS株式会社です。

TISは、2017年にアメリカのSequent Software Inc.と資本・業務提携を締結しました。

その後、TISの中長期成長戦略の一環として同社をDESによって連結子会社化しています。

佐渡汽船

新潟県新潟市と佐渡市をフェリーで結んでいる佐渡汽船も、DESによって経営難を乗り越えました。

佐渡汽船は、佐渡島へ向かう観光客や物資の輸送など、重要な交通インフラの役目を1951年から担ってきました。

しかし、佐渡島の人口減少や大型船舶への投資による経営難に陥り、新型コロナウイルスによってさらに大きな打撃を受けました。

そこで、金融機関や新たなスポンサーからの金融支援を受け、DESを実施。

その後も経営改善を進め、現在も佐渡島の環境問題に取り組むなど地域の発展に尽力しています。

DESに関するよくある質問(FAQ)

DESは、企業の倒産リスクを回避するための有効な手段といえます。

DESについて、企業の経営層の方からよくいただく質問について、回答も交えてご紹介します。

DES実施にどのくらいの期間がかかるか?

DESにかかる期間は、3〜4ヶ月が一般的とされています。

しかし、DESの実施には債権者との交渉や法的手続きなど、さまざまな準備や手続きが伴います。

そのため、準備期間や手続きの状況などによって変動します。

中小企業でもDESは可能か?

中小企業でも、DESの実施は十分可能です。

例えば、経営者が自身の会社へ資金供給している場合にDESによって借入金を株式化し、財務負担を削減できます。

また、金融機関からの債務を株式化し、経営の立て直しを図ることも可能です。

DESとDDS(デット・デット・スワップ)の違いは?

DESとDDS(Debt Debt Swap)の大きな違いは、債務の処理方法にあります。

DESは債務を株式に転換することで経営の立て直しを目指す一方、DDSは既存債務を別条件の債務に置き換えます。

どちらが有利かは企業の置かれている状況によっても異なるため、検討する際は専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

財務状況の悪化が原因で経営が厳しくなった場合、DESを行うことで債務を株式化し、有利子負債を削減して財務状況を大幅に改善できる可能性があります。

また、DESの実施によって倒産リスクが回避できることは、事業の継続だけでなく従業員の雇用も守れるなど、大きなメリットといえるでしょう。

しかし、DESは債権者との交渉や複雑な手続きなど、専門的な知識や経験を必要とします。

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現在の経営状況から脱却し、財務状況の改善を目指す企業の系人の方は、ぜひ一度当社へご連絡ください。

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M&Aベストパートナーズ

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