人手不足が続く昨今、より良い待遇や働きがいを求め転職に踏み切る求職者が増えています。
転職において人気の業界はさまざまですが、中でも注目度の高いのがM&A業界です。
本記事では、M&A業界が求職者から注目を集める理由を解説するとともに、転職を成功させるために覚えておきたいポイントもご紹介します。
目次
M&A業界における中途採用の現状
現在の日本ではさまざまな業種・企業において人手不足が深刻化しており、従来の新卒一括採用だけでは新たな人材を確保することが困難になってきました。
そこで、新卒採用中心の人事戦略から中途採用の割合を増やす方向へシフトする企業も現れています。
M&A業界においても積極的に中途採用を行っている企業はありますが、高い専門性が求められる業務であるがゆえに、即戦力となる経験者を対象とした中途採用が中心となっています。
M&A業界では、企業の合併や買収を仲介する業務を担っていますが、これは当事者である経営者にとって文字通り自社の将来を大きく左右するものになります。
大切に育ててきた会社を売却するとき、本当に信頼できる仲介担当者のもとでM&Aを進めていきたいと考えるのは経営者として当然のことといえるでしょう。
そのため、M&A業界への転職にあたっては、基本的なビジネスマナーはもちろんのこと、財務・会計に関する専門的な資格や営業経験、大きなプロジェクトに参画した経験などが求められます。
M&A業界への転職が注目される背景
求職者にとって有利な売り手市場が続く昨今、特にM&A業界は給与などの面で高待遇の求人案件が多いこともあり注目されています。
しかし、これ以外にもさまざまな理由からM&A業界は将来性が見込まれていることも事実です。
中小企業の後継者問題
大企業に比べて中小企業の人手不足はより深刻であり、従業員はもちろんのこと後継者の不足に悩む企業も少なくありません。
従業員の雇用を守るためにも会社の廃業は避けたいと考える経営者は多く、そのための選択肢のひとつとしてM&Aが候補に挙がることもあります。
M&Aにおいては法律的な専門知識はもちろんのこと、相手企業との交渉も慎重に行わなければならないため、M&Aを仲介する専門事業者のニーズはさらに高まっていくと予想されます。
グローバル化の影響
グローバル化が進んだ昨今の日本では、企業間の競争が激しくなり従来のビジネスモデルのまま事業を継続していくことが困難になるケースも珍しくありません。
たとえば、地元を基盤に事業を展開していた企業が、首都圏や海外から進出してきた企業に市場を奪われ淘汰されることもあるでしょう。
グローバル化の中で企業が生き残っていくためには、競争に打ち勝つための新たなビジネスモデルや事業戦略が必要であり、そのための策としてM&Aによる大手企業との合併も選択肢として考えられます。
短期間での事業拡大の可能性
長年にわたって経営を続けてきた歴史のある企業でも、売上や利益が低下しいつ廃業してもおかしくないというケースは珍しくありません。
経営を立て直すためには短期間で事業を拡大する必要があり、そのためにはM&Aが有効な手段のひとつとして考えられます。
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M&A業界で求められるスキルと経験
M&A業界への就職や転職を目指す候補者は多く、ライバルとの差別化を図るためにはさまざまな武器を持っていなければなりません。
どういったスキルや経験が役立つのか、代表的なものをいくつかご紹介しましょう。
財務・会計の知識
M&Aにあたっては企業の財務状況を細かく分析する必要があることから、財務・会計の専門的な知識は大きな武器となります。
具体的には、簿記の資格や公認会計士などが代表的です。
これらの資格は、財務諸表を正確に理解し、評価するための基礎的なスキルを身につける上で非常に重要です。簿記の資格を持つことにより、企業の取引や財務状況を正確に記録・管理する能力が求められ、これはM&Aの過程で必要となる企業評価や財務分析において役立ちます。
公認会計士は、より高度な専門知識を持つプロフェッショナルであり、企業の財務諸表を監査する能力や、税務、内部統制、財務リスク管理の知識を有しています。
特にM&Aでは、対象企業の財務状況を透明性のある形で示すことが求められますので、公認会計士の資格を持つことで信頼性が高まります。
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また、上記の資格を持っていなくても、金融機関や会計事務所などでの実務経験があれば大きな武器となるでしょう。
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法務知識
企業の合併や買収においては会社法などの法律を遵守しながら進めていく必要があるため、法務に関する知識も欠かせません。
M&Aを支援している法律事務所での勤務経験や、公認会計士、税理士などの資格は大いに役立つでしょう。
交渉スキル
M&Aを円滑に進めていくためには、売り手と買い手の間に立ち、双方の経営者と慎重に交渉を進めていかなくてはなりません。
経営者の本音を引き出し、双方にとってメリットを最大化できるM&Aを行うにあたって仲介や支援を行う担当者には交渉スキルが欠かせない要素といえるでしょう。
戦略的思考能力
経営者にとってはM&Aを行ったからといって安泰ではなく、むしろその後どういった戦略で会社を運営していくかが重要となります。
M&Aの仲介を行う担当者は、そのような経営戦略のアドバイスも行わなくてはならず、戦略的な思考・判断ができるスキルも欠かせない要素です。
プロジェクト管理能力
M&Aでは複数人の担当者や関係者によるチームが編成され、プロジェクトとして進められるケースが少なくありません。
M&Aの規模が大きくなるほどチームの人数も増える傾向があり、役割やプロセスも複雑化していきます。
そのような中でもM&Aを円滑に進めていくためには、プロジェクトを適切に管理できる能力が求められます。
リーダーシップとチームワーク
複数の担当者で編成されるチームでは、それぞれの役割に応じて業務を進めていくのが基本ですが、チームとしての足並みを揃えることも重要です。
また、キャリアを積み重ねていくとリーダーとしてチームを引っ張っていくこともあるでしょう。
個人の仕事として割り切るのではなく、プロジェクトの遂行を第一に考え、チームワークを重視したりリーダーシップを発揮できる人材は重宝されます。
関連記事:M&Aの目的を買い手・売り手の両視点から解説!課題やポイントも紹介
M&A業界における中途採用の面接対策
M&A業界への就職・転職では、面接においてさまざまな質問をされることが多いため事前の対策は必須といえます。
特に注意しておきたい5つのポイントと、面接の回答例をご紹介しましょう。
なぜM&A業界に興味を持ったのか
数ある業界・業種の中で、M&A業界を選んだ理由について明確に答えられるよう対策をしておきましょう。
この質問に対する回答例としては、以下のようなものが考えられます。
「ニュースで中小企業の後継者不足が深刻化していることを知り、M&A業界で働くことで社会課題を解決できるのではないかと思ったから」
「経済のグローバル化によって苦境に立たされる企業が多い中で、M&Aを通して経営の立て直しを図れることに大きなやりがいを見いだせると感じたから」
過去の職務経験で誇りに思う成果は何か
中途採用者の場合、前職でどういった業務を担ってきたのか、そこでの成果も採用可否に大きく影響することがあります。
業種や前職での役割などによっても回答は異なりますが、例としては以下のようなものが挙げられます。
「前職では◯◯のプロジェクトを担当していました。
社内で前例のないプロジェクトであり、当初は上層部や取引先との調整に苦労しましたが、最後まで完遂したことが自分の中では大きな自信につながりました。
クライアントからも信頼を得ることができ、その後も継続的に取引いただけるようになりました。」
困難なプロジェクトや交渉の経験はあるか・その際どのように対処したか
M&Aの仲介業務では経営者との交渉が難航することも珍しくなく、すぐに良い結果が得られるとは限りません。
業務への適性があるかを見極めるために、上記のような質問をされることもあります。
また、過去の職務経験をもとに、困難な状況がなかったか、その際どういった対処をしたのかを聞かれることもあるでしょう。
「◯◯のプロジェクトでは、当初クライアントが提示してきた予算と、協力会社が求める条件とで折り合いがつかず難航していました。
しかし、協力会社の作業品質や信頼性の高さをクライアントに丁寧に説明するとともに、協力会社に対しても今後継続的な依頼を前提に交渉を進めました。
その結果、互いが歩み寄り妥協点を見いだすことに成功し、プロジェクトを完遂することができました。」
M&Aの取引においてどのような専門知識が必要だと考えるか
「M&A業界で求められるスキルと経験」の章でもご紹介した内容をもとに、なぜその知識が必要なのかも合わせて説明できると良いでしょう。
また、M&A業界を志望するにあたって、自分なりにどういった勉強をしてきたのか、取得した資格などもあれば回答できるように準備しておきましょう。
「M&Aの仲介においては、財務・会計や法律に関する専門的知識が不可欠であると考えています。
これらの知識が身についていれば、クライアントである経営者の悩みや相談に的確に答え信頼を得られると感じるため、私自身も簿記◯級を取得し、現在は公認会計士の資格取得に向けて勉強しています。」
最近のM&A市場のトレンドについてどう思うか
M&Aの仲介業務においては、ビジネス業界のトレンドや最新のニュースも把握しておく必要があります。
「2020年頃を境にM&Aの件数が4,000件を突破したというニュースを耳にしました。
M&Aと聞くと従来は『会社を乗っ取られる』、『会社を売り払う』といったネガティブがイメージが先行していたように思いますが、会社と従業員の雇用を守るための有効な手段のひとつであるという認識が経営者の間で徐々に広まったことも一因として考えられるのではないかと思います。」
関連記事:M&Aにおけるシナジー効果とは?種類や成功事例、フレームワークを紹介
M&Aコンサルタントのキャリアパス
M&Aの仲介や支援を担うM&Aコンサルタントは、コンサルティング会社に在籍し続け昇進するという道以外にも、さまざまなキャリアパスが考えられます。
投資銀行やファンドへのキャリアアップ
投資銀行やファンドとは、株式の投資や資金調達、投資家から預かった資産を運用する企業および団体を指します。
M&Aのコンサルティング業務を通じて財務や会計に関する専門的な知識を身につけた後、その専門性を活かして投資銀行やファンドに転職する方も少なくありません。
企業のM&A責任者
自社の規模を拡大するためにM&Aを積極的に行っている企業もあり、M&Aコンサルタントとして経験を積むことで企業のM&A責任者として転職できる可能性もあるでしょう。
M&Aコンサルタントとして独立
会社員として雇用されるだけでなく、自身の会社を立ち上げ独立するというキャリアプランも考えられます。
M&Aコンサルタントの経験や実績が豊富にあれば、独立後もクライアントの紹介を受けたり相談されたりすることも多いため、早期に事業を軌道に乗せやすくなるでしょう。
まとめ
M&A業界は財務や会計、法律など幅広い専門知識が求められるほか、経営者とさまざまな交渉する機会も多いことから、実務経験のある中途採用者のニーズは高いといえます。
また、仮にM&A業界での実務経験がなくても、前職で財務や会計の責任者を務めていたり、大きなプロジェクトのリーダーとして活躍していた方などは採用のニーズも高い傾向があります。
中途採用でM&A業界への転職を目指す場合には、今回ご紹介した面接対策も参考にしながら、転職後のキャリアプランなども十分に検討してみましょう。