昨今では、さまざまな業界で慢性的な人手不足が課題となっています。こういった課題を解消するために、派遣社員を導入している企業も多いでしょう。
人材派遣会社では大企業のM&Aが増加しており、業界再編が進行しています。
一方で、中小企業では激しい競争にさらされ、M&Aを通じた生き残り戦略が増えている恰好です。人手不足や市場における地位の強化に課題を感じている企業であれば、M&Aは有効な施策といえるでしょう。
本記事では、もし自社がM&Aを実施した場合に、どのようなメリットを得られるのか、人材派遣会社の概要や動向と併せて詳しく解説します。
目次
人材派遣会社の概要
人材派遣会社におけるM&Aについて正しく理解するためにも、まずは前提知識として、人材派遣業界の基本事項を紹介します。
人材派遣会社とは
人材派遣会社は、企業と求職者をつなぐ専門の会社です。
具体的には、企業が一時的な人材を必要とする際やプロジェクトごとの人員調整が必要な場合に、適切な人材を提供します。人材派遣会社は、求職者と企業のマッチングを仲介する役割を担っており、双方にとってメリットをもたらすでしょう。
人材派遣会社が企業、求職者に与えるメリットは以下の通りです。
・企業:柔軟な労働力を確保できる
・求職者:短期で働ける仕事を紹介してもらえる
このような役割を通じて、人材派遣会社は労働市場の流動性を高め、企業と求職者の双方にとって有益な関係を築きます。
人材派遣会社の現況
日本政府が公表している統計表をみると、2022年の人材派遣会社の就業者数は、前年の2021年から比べて2万人ほど増加しています。
(引用:日本政府統計表|労働力調査)
増加した背景には、多くの業界で「人材の確保」が課題となっている状況において、人材派遣会社が求職者にとって需要が高い存在であることが窺えます。
人材派遣会社におけるM&A動向
先述した通り、人材派遣会社の就業者数が増加している一方で、人手不足に悩む企業も存在します。また、経営者の高齢化による後継者不足が懸念点といえるでしょう。このような状況から、人材派遣会社業界において、M&Aを検討する企業が増加しています。
同業他社との統合や大手企業による中小企業の取り込みを進めることで、業界内での競争力を高めとともに、より幅広いサービスの提供を実現可能です。
M&Aを実施する企業が増加すれば、企業や求職者に対してより効果的なサービスを提供できるため、人材市場の変化にも柔軟に対応できるでしょう。
また、M&Aは新たな市場への進出や地域拡大の手段としても活用されており、戦略的な成長を促進可能です。
人材派遣会社の売却・買収で得られるメリット
次に、人材派遣会社のM&Aで得られるメリットについて、買い手側、売り手側に分けて、それぞれ詳しく解説します。
買い手側が得られるメリット
買い手側が得られるメリットは以下の通りです。
・優秀な人材を確保できる
・事業規模を拡大できる
・個人保証から解放される
買収によって、両社の強みを組み合わせることで、シナジー効果を最大限に引き出せます。
例えば、経営資源や技術、顧客ベースを活用することで、効率的な事業運営が可能です。
さらに、事業ポートフォリオが多様化されることで、リスクの分散が図れるでしょう。
売り手側が得られるメリット
売り手側が得られるメリットは以下の通りです。
・後継者問題を解消できる
・従業員の雇用を継続できる
・売却益を獲得できる
・採算がとれる事業にリソースを集中できる
売却後は、売却先が事業の法的・経済的な責任を引き継ぐので、売り手の負担が軽減されます。
これらのメリットは、売却が適切な条件で行われる場合に得られるため、注意深く検討することが重要です。
人材派遣会社におけるM&Aの流れ
ここからは、人材派遣会社がM&Aを検討する際の一般的な手順と、それぞれの段階にかかる期間について解説します。
相手企業の選定
人材派遣会社がM&Aを検討する際の最初のステップは、相手企業の選定です。
誤った相手企業を選んでしまうと、M&Aが失敗してしまう可能性があります。
適切な相手企業を見極めるためにも、業界動向や財務状況の分析、企業文化の適合性などを総合的に評価しましょう。この選定のプロセスは、完了までに数ヶ月から半年ほどの期間を要します。
相手企業との条件交渉
次に、相手企業との条件交渉が行われます。
この段階では、売却額や取引のスケジュール、従業員の待遇などの具体的な条件について話し合います。
交渉の過程で双方の要望や利害が調整され、合意に達するまで時間がかかるでしょう。条件交渉は完了まで数ヶ月から半年ほどかかるのが一般的です。相手企業との信頼関係を築きながら、持続可能な合意を形成するために、丁寧な交渉が求められます。
基本合意書の締結
条件交渉が合意に達した後は、証拠として基本合意書を締結します。
この合意書には、M&Aの基本的な条件や取引の主要なポイントが明記されます。
基本合意書の締結は、通常数週間から数ヶ月ほどの期間を要するでしょう。この期間には、法的な専門家やコンサルタントのアドバイスを得て、合意内容を具体的に定める作業が含まれます。
基本合意書の締結によって、双方の意思確認が行われ、正式な契約に向けた準備が進むことになります。
デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスは、M&Aの重要なプロセスの一環であり、相手企業の詳細な調査・分析を行うことです。
買い手側は、買収先企業の財務状況、法的な契約、事業運営などを精査します。
このプロセスを通じて、売却後の買い手側のリスクを減少できるでしょう。
デューデリジェンスにかかる期間は、一般的に数ヶ月から半年ほどです。買い手側は、財務報告書や契約書類、法的文書などを入念にチェックし、詳細な質問や照会を行います。
デューデリジェンスでは、専門家の協力を仰ぐことも効果的です。この段階での正確な情報収集と分析がM&Aの成功率に影響するでしょう。
関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?進め方や注意点、費用感について徹底解説
クロージングの実施
クロージングは、M&Aの最終段階であり、取引を正式に完了させる重要なプロセスです。
このプロセスでは、最終的な契約書が署名され、売却手続きが行われます。
クロージングには、資金の移転や株式の譲渡手続きなど、M&Aを実行するために必要な一連の作業が含まれます。
クロージングは、一般的に数週間から数ヶ月ほどかかるでしょう。この間に、法的な手続きや契約の最終確認が行われます。また、買い手側と売り手側の間で最終的な調整が行われ、取引の手続きが正式に完了します。
人材派遣会社のM&Aを成功に近づけるためのポイント
M&Aを成功させるには、押さえておきたいポイントがあります。
ここからは、M&Aを成功させるためのポイントについてみていきましょう。
自社の企業価値を高める
M&Aの成功率を高めるには、自社の企業価値を向上させる取り組みが必要です。
高値での売却を実現するために、企業価値を高める施策を行いましょう。市場での知名度や信頼度が高ければ、企業の魅力が向上し、高い評価を得られます。具体的には、マーケティング戦略の見直しや顧客満足度の向上などが効果的です。
また、収益性の向上も企業価値を高める重要なポイントといえるでしょう。効率的な経営や収益最大化の施策を行い、企業の収益性を向上させることが大切です。
ブランド力を向上させるために、最初に取り組むべきは、経営状況の精査です。自社の強みや弱みを正確に把握し、強みを活かす戦略を策定します。これらの施策を通じて、企業価値が向上できます。高い企業価値は、M&Aにおいて有利な交渉材料となるでしょう。
自社にしかないアピールポイントを洗い出す
M&Aの成功率を高めるには、自社にしかない魅力や強みを明確に把握することが必要です。
他企業にはない独自の魅力があれば、M&Aを行いたいと思う企業が増加します。例えば、専門的な知識やスキルを有する人材が在籍している場合、その専門性は市場での競争力を高める要因となるでしょう。このような強みは、他企業との差別化を図り、魅力的な買収候補として評価されます。
また、特定の産業や領域での強力なネットワークや顧客基盤も、自社にしかないアピールポイントです。
専門家へサポートを依頼する
M&Aは専門的な知識が必要であり、完了までに多くの時間と労力を要します。しかし、時間を惜しんで雑に決めてしまうと失敗するリスクがあるため、慎重に検討するようにしましょう。
専門家にサポートを依頼することは、M&Aの成功に向けて重要なステップです。専門家はM&Aに関する豊富な知識を持ち、状況に応じた的確なアドバイスや支援を提供します。専門家の介入により、リスクの最小化や成功の確率の向上が期待できるでしょう。
経験豊富な専門家の助言を得ることで、M&Aで発生し得るトラブルを未然に回避できます。知識がなければ時間などのコストが膨大になってしまうため、専門家の介入を検討しましょう。
人材派遣会社におけるM&Aの成功事例
最後に、人材派遣会社における成功したM&Aの事例を3つ紹介します。
A社とB社によるM&A
A社は、日本とベトナムのリソースを活用したシステム開発や労働者派遣事業を行っています。一方で、B社は、経験豊富なPMやコンサルティング人材が多数在籍し、PM人材育成のノウハウを保有しています。
このM&Aにより、A社は顧客に提供する「ハイブリッド型サービス」の安定性を確保し、品質も向上が期待されました。また、対象会社の顧客に対して、労働者派遣サービスだけでなく、「ハイブリッド型サービス」の提供が可能になっています。
この事例は、両社の強みを組み合わせることで、サービスの拡充と顧客満足度の向上を目指す成功例といえるでしょう。
C社とD社によるM&A
C社は、人材派遣や人材紹介、アウトソーシングなど、幅広い人材サービスを提供している企業です。特に、人材派遣事業では中国・四国エリアにて10万名以上の登録者を抱え、専門職の派遣にも強みを持っています。
D社もまた、人材派遣やアウトソーシングなどの総合人材サービスを提供しています。社会経験や業界経験がないスタッフに対して独自の研修制度を実施していました。
D社は、近畿圏における事務案件を拡充する目的で、C社の大阪支店における人材派遣事業を買収しています。このM&Aにより、求職者とのマッチングを強化することに成功しました。
E社とF社によるM&A
E社は、人材紹介および求人広告を中心に幅広い事業を展開しています。一方で、F社は2002年に創業し、システム開発と教育を主力事業としながら、AI関連のシステム開発と導入支援、エンジニアの育成に注力していました。
このM&Aにより、E社はF社のIT・AI分野のテクノロジーとノウハウを活かし、顧客企業の人手不足の解消やIT化推進を支援していく計画です。
まとめ
昨今では、多くの業界で「人材の確保」が課題となっています。この状況下で求職者と企業をマッチングさせる人材派遣会社は、重要な存在といえるでしょう。
人材派遣会社の就業者数は増加していますが、企業側でも人手不足が深刻化している状況です。また、経営者の高齢化による後継者不足も業界全体の懸念事項といえるでしょう。
このような背景から、人材派遣会社業界では経営安定や事業承継を目的としたM&Aが盛んに行われています。しかし、M&Aは知識がないまま進めようとすると、十分な効果は得られないでしょう。
大きな成果を得るためにも、専門家へ依頼するのがおすすめです。
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