経営者の高齢化や酒類の需要低下により、廃業を検討する酒蔵が増えています。
M&Aは、廃業を避けるために有効的な手段です。M&Aを実施することで、後継者問題を解決できるうえに事業の成長を図れるでしょう。
そこで今回は、酒蔵の経営者がM&Aを実施するメリットから、他業種の経営者・個人が酒蔵を買収するメリットまで詳しく解説します。
酒蔵M&Aの大まかな流れについても紹介するため、酒蔵のM&Aを検討している人はぜひ最後まで確認してみてください。
M&Aが注目されている酒蔵の厳しい現状
酒蔵は経営難に陥るケースが増えており、廃業を検討する経営者も多くいます。
その解決策として注目されているのがM&Aです。
以下では、廃業が迫られる酒蔵の厳しい現状について解説します。
酒類消費量の減少に伴い需要が低迷している
国税庁の調査によると、成人の酒類消費量は減少の一途を辿っています。
その背景にある事柄が、嗜好の多様化やライフスタイルの変化などによる、国内市場の縮小です。
また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、外飲みを控える人が増加したことが追い打ちとなっています。
また、酒類の需要が低迷していることから、酒蔵が売上を確保すること自体が難しくなっているのが現状です。売上が伸びないことで事業の継続が困難になり、廃業を余儀なくされる酒蔵も多いでしょう。
廃業すると従業員の雇用を維持できなくなると同時に、多大なコストが発生するため、廃業を阻止するための解決策を講じる必要があります。
酒類の卸売業者・小売業者は減少傾向にある
近年では、日本ワインをはじめとする果実酒が注目を集めていることから、酒類製造免許場数が増加傾向です。長期的に見ると減少傾向にありましたが、令和2年時点での酒類製造免許場は3,574場で、一時期よりは回復しつつあります 。
しかし、先述した酒レポートによると、酒類の卸売業者・小売業者は減少傾向です。酒類小売業免許場の業態別構成比を見ると、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどへの参入が進み、一般酒販店の比率が減少しています。 販売ルートが限定されている点も、酒蔵の不安要素になっているといえるでしょう。
高齢化により廃業を迫られる酒蔵経営者も増えている
酒蔵の大半は中小企業であり、経営者の高齢化が進んでいるのが現状です。
また、ライフスタイルの多様化により、経営者の子どもに後を継ぐ意思がないことで後継者が見つからないケースも増えています。
後継者問題を解決できないと、事業承継を円滑に進めることは困難です。また、後継者がいないことを理由に、廃業を選択せざるを得ない酒蔵が増えています。廃業は手続きにコストがかかるうえに、従業員や取引先にも悪影響が及ぶでしょう。
廃業によるデメリットを免れるために、近年では酒蔵のM&Aが注目を集めています。
酒蔵のM&Aは後継者問題を解消できるだけでなく、事業拡大を図れたりシナジー効果を得られたりなど、さまざまなメリットを得られるでしょう。
酒蔵経営者がM&Aを実施するメリット
酒蔵M&Aは、優秀な人材の確保や事業の成長につながります。
また、廃業を避けられるため、従業員の雇用を守れる有効的な手段といえるでしょう。
以下では、酒蔵経営者がM&Aを実施するメリットについて具体的に解説します。
後継者を幅広く探せる
酒蔵経営者の高齢化に伴い、後継者不在の問題が深刻化しています。
M&Aであれば、社外から候補者を選ぶことも可能です。
候補者の選択肢の幅が広がれば、短期間で適した相手企業を見つけやすくなり、後継者問題の解消につながるでしょう。即戦力となる優れた人材を獲得できれば、後継者の育成・教育に費やす時間を削減可能です。
また、後継者不在による廃業の危機を免れることで、多大な廃業コストの発生を回避できる点も大きなメリットといえます。
従業員の雇用を守れる
M&Aには、従業員の雇用を維持できるというメリットがあります。
後継者を見つけられないまま廃業する場合、従業員は新たな就職先を探さなくてはなりません。しかし、M&Aによって後継者に経営を委ねることで、従業員が職を失わずに済みます。
また、M&A実行前の労働環境が悪かった場合は、給料や勤務時間などの待遇がよくなる可能性もあるでしょう。労働環境が変わることで従業員の活躍の場が広がり、新たなチャンスを獲得できる点もメリットといえます。
事業の成長を図れる
適切な相手企業を選定することで、事業の成長につながります。
同じ業種のM&Aで拠点を広げたり、他業種とのM&Aで新たな事業を開始したりなど、事業の拡大を図るには、目的に合った相手企業を探すことが大切です。
相手企業の事業やノウハウを自社に取り入れれば、事業立ち上げに要するコストを削減できます。その結果、短期間で事業の成長を実現できるでしょう。
経営者が利益を得られる可能性がある
経営者が取引の主体となるM&Aスキームの場合、株式売却によって利益を得られる点がメリットです。
自社の事業を求める相手企業を見つけて売却益を獲得できれば、負債を返済できる可能性もあります。
また、会社の規模によっては巨額の売却益が手に入るため、事業拡大や経営へのモチベーション向上につながるケースもあるでしょう。
他業種の経営者がM&Aを実施するメリット
他業種にとっても酒蔵M&Aのメリットは大きく、初期コストの削減や売上増加が期待できます。
以下では、他業種の経営者がM&Aを実施する、2つのメリットを解説します。
事業立ち上げのコストをかけずに済む
酒蔵の経営を1からスタートする場合、設備や施設の建設、優れた人材の確保など、多くの手間がかかります。また、新規事業を拡大させるには、ノウハウを蓄積させるまでに時間がかかるうえに、従業員の教育が必要です。
しかし、既存の酒蔵を買収することで、業界の知識やスキルを持った人材が手に入り、事業立ち上げに要するコストを削減できます。
M&Aによる酒蔵の買収は、新規事業を開始するよりもコストを抑えられる可能性が高いといえるでしょう。事業立ち上げのコストを抑えられた分は、自社が提供する商品やサービスの質を向上させるための資金に充てられます。
シナジー効果が期待できる
相手企業と統合することで「シナジー効果」と呼ばれる、M&Aの相乗効果が期待できます。
物流ネットワークが強化されれば、物流にかかるコストを削減できるでしょう。相手企業のノウハウや技術を獲得したり、金銭的な手助けをしてもらえたりするケースもあり、事業拡大の助けになる点がメリットです。
双方で重複している事業がある場合は、統合することによって維持管理費を削減できます。
また、自社と酒蔵のビジネスを組み合わせることで、新たな事業を創出するのも可能です。単独の企業では実現できなかった革新的なサービスを展開できれば、売上向上につながるでしょう。シナジー効果を高めるには、M&Aを実施する前に具体的な戦略を策定することが大切です。
M&Aにおけるシナジー効果について、以下記事で詳しく紹介しています。気になる人はぜひ確認してみてください。
M&Aにおけるシナジー効果とは?種類や成功事例、フレームワークを紹介
M&Aの大まかな流れ
M&Aは工程が多く、未経験の人が自力で進めるのは難しいでしょう。成功率を高めるには、専門家のサポートを受けながら進めるのがおすすめです。
以下では、M&Aの大まかな流れを紹介します。
M&A戦略・計画の策定
M&Aの実行前に、必要となるステップが戦略・計画の策定です。M&Aをスムーズに進めるには、戦略を明確にする必要があります。
自社が抱える問題を解決するために何をすべきか、市場の動向を把握しながら方向性を具体的に考えましょう。この段階で戦略や計画を曖昧にすると、M&A実行後の効果を十分に得られない可能性があります。
相手探し・交渉
買い手側は、売り手側が作成した「ノンネームシート」と呼ばれる資料を参考にしながら、M&Aの相手先を絞ります。ノンネームシートとは、企業名が特定されない範囲で企業の概要やM&Aの条件などを記載した資料です。
買い手側はノンネームシートの内容をもとに、M&Aによって期待できるシナジー効果を予想します。自社の希望条件にマッチした企業が見つかったら、取引金額の交渉を行いましょう。
基本契約書の締結
売り手側と買い手側の交渉によって大まかな意向が固まれば、基本契約書を締結します。基本契約で確認する主な内容は、デューデリジェンスについての事項や独占交渉権の有無などです。
基本契約書に記載されている事項の大半は、法的拘束力がありません。仮契約ではあるものの、基本契約者の締結後は原則として最終契約書の締結まで進みます。そのため、基本契約書の締結前に、双方でしっかり話し合うことが大切です。
デューデリジェンス(DD)の実施
デューデリジェンスとは、買い手側が売り手側に対して行う事前調査のことです。企業の価値や抱えている問題を分析・評価し、M&Aを実行できるかを検討します。
デューデリジェンスをスムーズに進めるには、売り手側が買い手側に対し、可能な限り自社の情報を提供することが大切です。
また、デューデリジェンスを行う際は、税金や法律、ITといった専門知識を要します。自力で進めるのは困難であるケースが多いため、M&Aの専門家へ相談するのがおすすめです。
関連記事:M&Aのデューデリジェンスとは?進め方や注意点、費用感について徹底解説
最終契約書の締結
デューデリジェンスでの調査が終われば、M&Aの取引条件を調整しましょう。双方が取引条件に納得できれば、最終契約書を締結します。
最終契約書は基本契約書の内容をもとに作成されるケースが多いため、基本契約書を締結する際に条件を的確に確認することが大切です。
また、最終契約書は法的な拘束力があるので、締結後に契約内容を変更できません。そのため、締結前の条件交渉は慎重に進めることが求められます。
クロージング
最終契約書の締結後はクロージングを実行します。
クロージングとは、企業の権利や資産の移転、対価の支払いなどを完了させる手続きのことです。
クロージングの手続きは複雑であるため、多くの場合は完了までに数ヶ月~1年ほどかかります。そのため、スケジュールには十分な余裕を持たせることが大切です。
また、クロージングでは専門的に知識を必要とする手続きが多く、専門家のサポートを受けながら進めることをおすすめします。クロージングが終われば、M&Aの手続きはすべて完了です。
PMI(経営統合プロセス)の実施
PMIとは、企業の組織体制やシステムなどを統合する取り組みのことです。
M&A実行後は、社内の環境が大きく変わるため、人材の流出やミスの多発といったさまざまなトラブルが発生する可能性があります。
PMIを正しく実行することで、統合後に起こりうるリスクを未然に防止できるでしょう。M&Aによるシナジー効果を最大限に発揮させるためにも、重要なプロセスといえます。
まとめ
近年では、廃業を選択する酒蔵が増えつつありますが、M&Aを実施することで「従業員の雇用維持」や「経営の安定化」につながります。
M&Aを成功させるには、戦略の策定から企業選びまで慎重に進めることが大切です。
シナジー効果を最大限に発揮させるためにも、自社の希望条件に合う適切な相手企業を見つけましょう。
酒蔵M&Aを自社のみで進められるか不安であれば、M&Aや事業継承の実績が豊富なM&Aベストパートナーズへお気軽にご相談ください。