工場を売却する方法とは?必要書類や費用感、流れについて理解しよう

工場を売却する方法とは?必要書類や費用感、流れについて理解しよう

稼働率の悪い工場は、M&Aによる売却を実施することで、廃業や解体のコストを回避できます。

ただし、M&Aの手法によっては完了までに多くの手間が発生する可能性があり、円滑に進めるには専門家のサポートが必要です。

そのため、M&Aを成功に導くために、売却の流れや代表的なスキームを事前に理解しておきましょう。

今回は、工場の売却において発生する税金や必要書類、メリットなどを解説します。

 

工場を売却する方法は大まかに2種類

工場を売却する方法は大まかに2種類

工場を売却する方法を大きく分けると「不動産売却」と「不動産M&A」の2種類です。

以下では、不動産売却と不動産M&Aのそれぞれの特徴を解説します。

 

不動産物件として売却する

工場における不動産売却では、工場やその土地を不動産物件として他社へ売却します。

価格査定や契約書の作成など、未経験者には難しい手続きが多いため、専門家に依頼することが一般的です。なお、更地にした状態で売却するケースや、建物がある状態で売却するケースがあります。

更地にしておくと用途が広がるため、買い手が見つかりやすいでしょう。ただし、更地にするには解体工事が必要となるため、コストが発生してしまいます。

しかし、工場ごと売却するケースであれば、解体のための費用がかかりません。また、買い手が同業者の場合は従来の設備をそのまま譲れるため、売却益が高額になる可能性があります。

 

M&Aで売却する

M&Aを用いた不動産の売却は、工場を所有する企業自体を他社(他者)へ譲り渡す方法です。

一般的なM&Aは、事業の買収によるシナジー効果や後継者問題の解消などを目的に実施されます。一方で、不動産M&Aの目的の多くは、相手企業の不動産を獲得することです。

売り手側の経営者は、企業を経由せずに買い手側に株式を直接譲ります。不動産の運営権を譲渡することで、買い手側から売却対価を獲得できる点が特徴です。また、不動産物件の売却と比較すると、高い節税効果を得られる可能性があるでしょう。

不動産M&Aは、株式譲渡などのM&Aスキーム(手法)を用いて実施するケースで多く活用されます。

工場の売却で必要となる主な書類

工場の売却において必要となる書類は、以下の通りです。

・登記事項証明書(旧:登記簿謄本)
・登記識別情報通知書(旧:登記済権利証)
・敷地の確定測量図
・14条地図/公図
・建築確認済証・検査済証
・固定資産税の納税通知書

登記事項証明書とは、不動産所有者の氏名・住所・構造などの情報が記載されている証明書です。同書類は法務局へ申請することで、誰でも取得できます。

登記識別情報通知書は、登記完了後に交付される書面であり、従来の登記済権利証に代わるものです。登記名義人が権利者であることを証明するために、12桁の番号が通知されます。

敷地の確定測量図は、土地の境界について隣地所有者が同意した図面です。境界に関するトラブルを避けるために欠かせません。

14条地図は、その土地の位置や形状を証明するために作成される地図の通称です。14条地図が備えつけられるまでの間、法務局にて備えつけられる図面のことを公図と呼びます。

建築確認済証は、これから建築する建造物が適法であるかを証明する書類です。一方で検査済証は、建造物が完了審査に合格したことを証明する書類です。

不動産を所有している場合、固定資産税を毎年支払う必要があります。

固定資産税の納税通知書とは、毎年4~5月頃になると不動産所有者に届く書類のことです。 同書類には、不動産の納付額や支払い期限などが記載されています。

 

工場の売却で発生する主な費用

ここからは、工場の売却において発生する費用について解説します。

 

土壌の浄化費用

自社の工場で有害物質を扱っていた場合、使用を廃止する際は土壌汚染調査を行う必要があります。

調査を通じて汚染物質の量が基準値を超えていた場合は、土壌を浄化しなくてはなりません。これは、土壌に有害物質が混入していると、生態系に悪影響を及ぼす可能性があるためです。

なお、土壌の浄化をする場合には、中和したり土を入れ替えたりする費用が発生します。処理する土の量が多いとその分費用がかさむため、会社の負担が大きくなるでしょう。

 

建物の解体費用

建物の解体費用は高額であるケースが多いため、建物を残した状態で売却するのが理想と考える人が多いでしょう。

しかし、建物を残したまま売却する場合は、買収後の用途が限られるため、買い手が見つかりにくいといえます。

多くの人に買収したいと思わせるには、建物を解体した状態で売却するのが得策でしょう。一般的に、解体作業は専門の業者に依頼します。解体費用を抑えるためにも、複数の業者に現地調査や見積もりを依頼することをおすすめします。

 

手数料・依頼料

不動産仲介業者やM&A支援機関へ依頼した場合、手数料・依頼料が発生する点に注意しましょう。

手数料のなかにもさまざまな項目があり、支払うタイミングや料金が発生する仕組みも業者ごとに異なります。そのため、依頼する前に複数の業者をピックアップしたうえで、各業者の料金や特徴を比較・検討しましょう

可能な限りコストを抑えたい場合、M&Aが成立するまで費用がかからない「完全成功報酬型」がおすすめです。完全成功報酬型であれば、成功報酬以外の手数料が発生しないため、料金の仕組みがわかりやすいといえます。

M&Aで工場を売却した場合に得られるメリット

先述した通り、稼働率が悪い工場がある場合には、M&Aによる売却が有力です。

以下では、M&Aで工場を売却した場合に得られる4つのメリットを解説します。

 

廃業や解体のコスト発生を回避しやすい

廃業する場合には、設備や在庫の処分などのコストが発生します。

M&Aであれば幅広い買い手を探せるため、建物ごと売却できる可能性があるでしょう。そのため、建物の解体や事業自体の廃業で発生するコストを回避しやすい点がメリットです。

同業者の買い手が見つかれば、更地の状態で売却するよりも、高額の売却益が手に入る可能性もあります。稼働率が悪い工場の売却により、維持管理費の削減にもつながり、経営の安定化を図れるでしょう。

なお、獲得した売却益は、負債の返済や新規事業の立ち上げなどに充てられます。

 

工場の稼働や従業員の雇用を維持できる

M&Aを用いた工場売却であれば、所有権を維持したまま運営権のみの譲渡が可能です。

廃業する場合、手続きに費用や時間がかかるうえに、従業員が職を失うことになります。また、自社の製品がなくなるため、顧客のサプライチェーンにも影響が及ぶ可能性があるでしょう。

しかし、大手企業の傘下に入ることで、従業員の雇用や工場の稼働を継続しつつ、事業の成長を図れます。なお、労働条件は、買い手側に合わせるケースが一般的です。場合によっては、M&Aを実施する前よりも従業員の待遇がよくなり、モチベーションの向上につながる可能性もあります。

 

節税効果が期待できる

不動産売買と比べて税金を抑えやすい点も、M&Aを実施するメリットです。

なお、所有権を移転しなければ、買い手側に登録免許税が発生することがありません

不動産として工場を売却すると、売り手側の企業には売却益に対して事業税と法人税が発生するうえに、建物の売却に対して消費税も課されます。一方で、M&Aで工場を売却する場合は、売り手側が支払う税金は所得税のみです。

 

経営課題の解決につながる

M&Aで工場を売却することで、売上が伸びない工場のみを事業や会社単位で経営から切り離せます

その結果、経営資源の最適化を実現できるため、経営レベルでの課題解決を図りやすいでしょう。

大手企業の傘下に入り、採用力の強化が実現されることで、優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。さらに、大手企業のネームバリューを活かすことで、受注が安定して事業規模の拡大につながる可能性もあるでしょう。

 

M&Aで工場を売却する際の代表的なスキーム(手法)

M&Aで工場を売却する際の代表的なスキーム(手法)

M&Aを用いた工場を売却する際の代表的なスキームは「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」の3種類です。

以下では、各スキームの特徴やメリットについて解説します。

 

株式譲渡

株式譲渡は、不動産を所有する企業の株式とともに運営権を承継する手法のことです。

ほかの手法と比較すると手続きが最もシンプルであり、スムーズに進められます。買い手側に自社の株式を直接譲渡するため、売却益を得られる可能性がある点が大きなメリットです。

不動産のみの売買よりも節税効果が大きくなりやすいことから、廃業を検討している企業が実施するケースが増えています。ただし、自社が多額の負債を抱えている場合、買い手企業が見つかりにくくなる点に注意が必要です。

 

事業譲渡

事業譲渡は、事業の一部またはすべてを他社へ承継する手法です。

自社の経営権を残したまま、工場を保有する事業の従業員や権利、資産などを選んで承継できます。多額の負債を抱えていたとしても、買い手企業を見つけやすい点がメリットです。

ただし、事業譲渡では、従業員や顧客から個別に移転に関する同意を得る必要があります。そのため、先述した株式譲渡と比べると手間がかかりやすいでしょう。

 

会社分割(新設/吸収)

会社分割は事業の一部を切り離して、新設もしくは既存の会社へ包括的に承継する手法です。

個別の手続きが不要であるため、個々に移転させる事業譲渡よりも手続きをシンプルに抑えられます。不採算事業の切り離しや経営のスリム化を図りたい場合に有効な手法といえるでしょう。

相手企業に自社の権利・義務を包括的に引き継ぐため、債権者の承諾は不要です。ただし、原則として債権者保護手続きを行う必要があります。

M&Aで工場を売却する際の大まかな流れ

M&Aの成功率を高めるには、どういったステップで進むのか流れを把握しておくことが必要です。

以下では、M&Aによる工場売却の大まかな流れについて解説します。

 

事前準備

M&Aを進める前に、計画の策定や不動産価値の算定などを行います。

不動産価値の算定では、自社の工場が大体いくらで売却可能かを把握することが目的です。なお、この作業を行うことで、他社へ売却したほうがよいのか、あるいは手放さないほうがよいのか、判断する材料を得られるでしょう。価値の算定は、緻密な情報収集が求められるため、専門家のサポートを受けることが一般的です。

また、自社の工場を売却するうえで戦略を明確にすることも大切です。戦略を明確にすれば、交渉を円滑に進めやすくなります。

 

買い手探し・交渉~基本契約

工場や土地を求めている買い手を探し、相手が見つかったら取引金額などの交渉を行いましょう。

なお、買い手を探す際は手続きを効率よく進めるために、実績のある不動産業者を選ぶことをおすすめします。

条件に折り合いがついたら、基本契約書を締結するケースが一般的です。

 

デューデリジェンス~最終契約

デューデリジェンスとは、買い手側が売り手側のリスクや課題などを契約前に調査することです。

なお、デューデリジェンスにおいて調査する項目は、事業財務情報システムなど多く存在します。すべての項目を調査しようとすると多大なコストがかかるため、自社にとって必要な情報のみをピックアップするケースが一般的です。

最終契約を結ぶと、後から変更がきかないため、デューデリジェンスの結果をふまえて条件を調整し、双方に認識の相違がないようにしましょう

 

クロージング

クロージングとは、経営や資産に関する権利の移転が完了することを指します。

工場の引き渡しや最終的な対価の支払いなどを行うことで、取引は終了です。クロージング後は、従業員に納得してもらうために、コミュニケーションが欠かせません。M&Aに関する理解を深めてもらうと同時に、社内環境の見直しも実施しましょう。

また、運営権を後継者へ引き継ぐ場合は、専門家によるアフターフォローが必要なケースもあります。アフターフォローに対応しているM&A仲介会社を選ぶことで、クロージング後のトラブルを回避できるでしょう。

 

M&Aで工場を売却する際の注意点

M&Aで工場を売却する際に手続きをスムーズに進めるには、いくつかの注意点・リスクを理解しておくことが大切です。

以下では、M&Aによる工場売却を実施する際の注意点について解説します。

 

発生し得る税金を確認する

M&Aで工場を売却する際は、スキームごとにさまざまな税金が発生します。

株式譲渡譲渡所得税
新設分割法人税、配当所得に対する所得税

なお、新設分割の場合、一定の要件を満たして組織再編税制の特例措置が適用されると、法人税と所得税がかかりません。コストを抑えるためにも、自社が選択するスキームにどのくらいの税金がかかるのか、事前に確認しておきましょう

 

強みを明確にする

自社に強みがあると、売却の条件がよくなる可能性があります。そのため、工場の設備や立地だけでなく、技術・人材などの強みを明確にすることが大切です。

自社が優れたノウハウや実績などを所有している場合には、積極的に発信しましょう。買い手企業が魅力だと感じれば、従業員数が少ない企業だとしても、好条件で買収してもらえる場合があります。

また、買い手側にとって、工場地帯に建っているかも重要な判断材料です。加えて、敷地の駐車スペースが広かったり、高速道路までのアクセスが良好だったりすると、売却が有利に働くでしょう。

 

好条件で売却したい場合はM&Aの専門家に依頼する

工場を解体した状態であれば買い手が見つかりやすいものの、コストがかかってしまいます。

手間をかけたくない場合、工場のまま売却するほうが好都合ですが、適切な買い手探しや交渉のハードルは高いでしょう。

工事の売却には、法や税務、業界の動向など、さまざまな知見が必要です。そのため、自社のみで手続きを進めると、多大なコストがかかってしまうでしょう。

そのため、好条件で売却したい場合は、M&Aの専門家に依頼するのがおすすめです。

まとめ

まとめ

工場を売却する場合、M&Aの手法を用いることで廃業・解体にかかるコストを回避できるうえに、高い節税効果が期待できます。

ただし、M&Aの手続きには、財務や法律にまつわる専門的な知識が必要です。そのため、M&Aで十分な成果を得るには、専門家のサポートが必要といえます。

工場売却を自社だけで進められるか不安であれば、M&A・事業継承の実績が豊富な「M&Aベストパートナーズ」へお気軽にご相談ください。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

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