「M&A=大企業が実施するもの」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。
しかし、昨今では「小規模M&A」も広く実施されています。小規模M&Aは、中小企業や個人事業主でも実施できる経営戦略ですが、正しい知識を身につけたうえで実行に移さなければ失敗する可能性があるでしょう。
そこで本記事では、小規模M&Aとは何か、基本事項について初心者向けに紹介します。
小規模M&Aの案件例やスキーム、進め方、ポイントまで紹介するため、自社でM&Aを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
小規模M&Aとは
まずは、小規模M&Aとは何を指すのか、基本事項を整理しましょう。
以下では、小規模M&Aの定義や、昨今の日本における小規模M&Aの実施傾向について解説します。
小規模M&Aの定義
小規模M&Aとは、案件規模が小さいM&Aのことを指します。
大企業同士のM&Aでは、100億円を超える規模の取引が一般的です。しかし、小規模M&Aではそれほど大きな金額が動かない分、実施ハードルが低いといえます。個人事業主・会社員でも買い手になれることが小規模M&Aの特徴です。
ただし、小規模M&Aに明確な定義はありません。一般的には、「年間売上高が1億円以下の企業同士」または「取引金額が1億円以下」のケースが小規模M&Aと呼ばれます。
小規模M&Aは増えつつある
大企業による案件規模の大きなM&Aと比べると、小規模M&Aはそれほど注目を集めることはありません。しかし、実際には小規模M&Aを実施するケースは増えています。
小規模M&Aが増えている背景には、後継者へ経営を引き継ぐ「事業承継」の重要性が高まっていることが挙げられるでしょう。特に、日本企業の99%以上を占める中小企業では、経営者の高齢化が進行しています。しかし、労働人口が減少している日本社会において、自社に適合する後継者を見つけることは容易ではありません。
後継者問題に悩む中小企業にとって、有力な解決策となるものが小規模M&Aです。M&Aの支援機関が増えたことで、経験のない経営者でもM&Aを実施しやすくなりました。昨今では、取引金額が1,000万以下の小規模M&Aも多く存在します。
また、小規模M&Aは成長戦略の一環としても期待されています。大企業が複数の中小企業を買収し、さらなる発展を図るうえでも小規模M&Aは有力な選択肢です。実施ハードルが低く、後継者問題の解消や成長戦略の実現にもつながる小規模M&Aは、今後も増えるでしょう。
小規模M&A案件によくあるケース
小規模M&Aの概要は把握できても、具体的な案件内容をイメージできていない人は多いでしょう。
以下では、小規模M&Aを具体的にイメージしやすくするために、よくある3つのケースを紹介します。
個人経営の店舗
個人経営の場合は従業員が少なく、後継者探しに苦戦しているケースが多いです。そのため、飲食店や美容室などの個人経営の店舗で、M&Aが増えています。
個人経営の店舗が小規模M&Aを実施すれば、第三者の買い手に経営を委ねることが可能です。取引金額1,000万円以下の少額な案件が多いため、個人でビジネスを始めたい買い手にとっても魅力的な選択肢といえます。
後継者探しや起業の実現手段として、個人経営の店舗における小規模M&Aはこれからも増えていくでしょう。
経営不振の会社・事業
経営不振にあえぐ中小企業にとっても、小規模M&Aは有力な選択肢です。採算の取れない会社や事業は、そのまま保有していても、経営を圧迫し続けるでしょう。
こうした状況を打開する手段として、小規模M&Aが採用されることがあります。なお、中小企業同士や、買い手が個人となるケースもあります。
経営手腕のある外部の経営者に会社・事業を委ねれば、黒字転換できる可能性もあるでしょう。赤字や負債のケースでは取引金額が下がりやすいものの、打開策としては有力といえます。
また、後述する「事業譲渡」であれば、会社の一部事業だけを切り離して後継者に引き継ぐことも可能です。有望な事業だけに経営資源を集中するために、経営のスリム化を目的として小規模M&Aを実施するケースも多々あります。
フランチャイズ(FC)加盟店
飲食店やコンビニエンスストアでは、本部から加盟店へブランドの看板を分け与える「フランチャイズ(FC)」で経営していることが一般的です。
しかし、フランチャイズ加盟店のなかには、後継者問題や経営悪化に頭を抱えるオーナーも多く存在します。
こうしたフランチャイズ加盟店でも、昨今では小規模M&Aを行うケースが増えています。本部の許可さえあれば、フランチャイズ加盟店のオーナーでも外部の後継者へ経営を委ねることが可能です。
なお、多くの大手コンビニエンスストアでもオーナーの事業承継を後押ししています。フランチャイズ加盟店の小規模M&Aも、これから増えていく可能性があるでしょう。
小規模M&Aでよく採用されるスキーム(手法)
M&Aには多様なスキーム(手法)があり、会社や事業の承継方法が異なります。
小規模M&Aでよく採用されるスキームは、以下で紹介する「株式譲渡」「事業譲渡」の2種類です。
株式譲渡
株式譲渡は、売り手の株式を譲ることで、買い手に経営権を承継するM&Aスキームです。
買い手は、現経営者の株式とともに経営権を獲得し、売り手の経営者は対価として金銭や資産などを受け取ります。
株式の所有権を移転するだけで済む株式譲渡は、手続きがシンプルなことがメリットです。ただし、買い手は資産だけでなく負債も引き継ぐため、売り手の調査には慎重さが求められます。
また、そもそも自社の株式を持たない個人経営の店舗だと、株式譲渡は実行できません。
事業譲渡
事業譲渡は、売り手が事業の一部または全部を買い手に承継するM&Aスキームです。
買い手は、対象事業に関する資産や権利を獲得し、売り手は対価として金銭を受け取ります。取引に株式が不要なため、個人経営の店舗や個人事業主でも採用できることが特徴です。
それぞれの資産や権利を個別に移転させる事業譲渡では、買い手が負債や不要資産の引き継ぎを回避できるメリットがあります。一方で、個別の移転手続きが必要になる分、株式譲渡と比べて手続きが煩雑になりやすいことがデメリットといえるでしょう。
小規模M&Aの大まかな進め方
取引の規模に関わらず、M&Aの実施には多くのプロセスが必要となるため、専門家に依頼することが一般的です。
しかし、どのような流れで進むのか、M&Aを実施することで得られる成果を最大化するためにも大まかな流れを把握しておきましょう。
小規模M&Aの大まかな進め方は、次の8ステップです。
目的の明確化
まずは、後継者問題の解消や経営のスリム化など、小規模M&Aの目的を明確化します。
これは、目的によって選択すべきM&Aの戦略やスキームが異なるためです。
目的が不明確なままプロセスを進めると、その後の戦略が煩雑になってしまいます。
小規模M&Aの成否を大きく左右するため、正確に目的を設定することが大切です。
M&A戦略の策定
M&Aを実施する目的を設定したあとは、適切なM&A戦略を策定します。
このステップでは、M&Aスキームの選定だけでなく、ターゲットにする相手企業の方向性、自社が交渉材料にする強みなども検討すべきです。
また、小規模M&Aのプロセスを進めるうえで、具体的なスケジュールも決めておく必要があります。
相手選び・交渉
M&A戦略に沿って相手を探し、お互いの意向が合えば交渉を行います。
適切な相手選びは、買い手・売り手に関わらず、小規模M&Aの成功には欠かせません。
小規模M&Aの目的達成につながる企業を選び、取引金額や日程などの条件を交渉しましょう。
自社だけが一方的にメリットを得られるのではなく、相手にもメリットを提供できる関係の企業・個人を選ぶことが大切です。
基本合意書の締結
相手との交渉で大筋の合意が取れた場合は、「基本合意書」を締結します。
基本合意書は、M&Aスキームや取引金額といった基本的な取引条件を、お互いで認識するための書面です。
また、「これから本格的にM&Aのプロセスを進めていく」という意思確認の目的もあります。
ただし、このステップで小規模M&Aの実施が最終確定するわけではないため、認識に注意しましょう。
DD(デューデリジェンス)の実施
基本合意書を締結したうえで、買い手は「DD(デューデリジェンス)」を実施します。
DDとは、買い手が売り手の実態調査を行い、リスクの有無を把握するプロセスのことです。
財務・法務・税務といった複数の観点から売り手の実態を把握し、小規模M&Aの取引の妥当性を判断します。
買い手から情報提供を求められた場合、売り手はできる限り協力しましょう。
最終契約書の締結
DDの結果を考慮して取引条件を調整し、双方に異論がなければ「最終契約書」を締結します。
最終契約書で取り決めた内容は、基本的に確定事項です。
売り手に特別なリスクがない、または許容範囲のリスクである場合は、基本合意書と大きく変更する点はないでしょう。一方で、許容できないリスクが判明した場合は減額交渉、あるいは取引キャンセルとなるケースもあります。
クロージングの実施
最終契約書の内容に従って「クロージング」を実施します。
クロージングとは、資産や権利の移転、対価の支払いを実際に行い、M&Aの取引を完了させることです。
このステップでは、書類の押印や確認、金銭の振込み、資産の引き渡しなど、M&Aに関する具体的な作業を行います。M&Aスキームや取引内容にもよりますが、最終契約書の締結からクロージング完了までに1ヶ月以上かかるケースもあります。
PMI(経営統合プロセス)の実施
クロージングが完了すれば終わりではなく、「PMI(経営統合プロセス)」の実施も必要です。
PMIとは、自社と相手の経営を1つに統合するための取り組みを指します。
チームや組織の統合だけでなく、基幹システムや社内制度の統合も必要です。小規模M&Aであっても、さまざまな要素を統合する作業は決して容易ではありません。M&Aの実施前にPMIの計画も立てておくとよいでしょう。
小規模M&Aで失敗しないためのポイント
小規模M&Aは、さまざまな課題の解決につながる可能性を秘めた戦略です。
買い手・売り手にとって重要な決断であり、判断を誤ると失敗する可能性もあります。
小規模M&Aで失敗しないためにも、以下で紹介する3つのポイントを押さえておきましょう。
買い手は適切な税務・財務を心がける
小規模M&Aで買い手となる企業や個人は、適切な税務・財務を心がけましょう。
小規模M&Aは買い手になるハードルが低いものの、買収後の資金繰りには注意が必要です。買収後の経営に想像以上のコストがかかり、立ち行かなくなるケースもあります。
買収前のDDでも、負債を引き継がないよう徹底した財務調査を行いましょう。また、事業譲渡によるM&Aの場合、取引内容によっては買収時に税金が発生します。例えば、事業譲渡で不動産を取得する場合は「不動産取得税」の支払いが必要です。
小規模M&Aを成功させるうえでは、税金の対応や財務管理に正確性が求められます。
売り手は企業価値の向上を図る
小規模M&Aで売り手となる企業や個人は、企業価値の向上を図りましょう。
M&Aで会社や事業を承継する場合、取引金額は企業価値に大きく依存します。企業価値が低いと判断された場合、買い手に低い取引金額を提示されてしまうでしょう。
より高い金額で売却するには、企業価値を向上させることが大切です。例えば、「大きな負債を減らしておく」「ブランディングを強化してブランド力を高める」などが挙げられます。企業価値を少しでも向上させることで、好条件での取引を実現しやすくなるでしょう。
不安があればM&Aの専門家に相談する
M&Aの実施は、経験がない経営者が成功させることは容易ではありません。不安があれば、専門家に相談することを検討しましょう。
前述の通り、小規模M&Aには多くの専門的なプロセスがあります。税務や財務などの専門知識がなければ、適切にプロセスを進めることは困難です。しかし、M&Aの専門家であれば、小規模M&Aを成功させるための的確なアドバイスを提供できます。
そのため、少しでも不安があれば相談するようにしましょう。
まとめ
小規模M&Aとは、案件規模の小さなM&Aのことです。
取引金額が比較的低いため、実施ハードルの低いM&Aの形態といえます。昨今では、個人事業主・会社員が小規模M&Aの買い手になるケースも多くあります。
後継者問題の解消や経営のスリム化など、小規模M&Aによってさまざまな課題を解消可能です。ただし、小規模M&Aの手続きには専門的なプロセスが多数あるため、経験がない経営者・個人事業主が適切に進めることは難しいでしょう。
小規模M&Aの成功率を高めるうえでは、M&Aを熟知した専門家の力を借りることが確実です。
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