個人事業主の事業承継においては、適切な減価償却の実施が重要です。
減価償却が適切に行われないと、引き継ぐ固定資産の評価額が高くなり、相続税や贈与税の負担も増加する可能性があります。
そのため、事業承継を検討する個人事業主は、引き継ぐ固定資産や適切な減価償却方法について、正しく理解する必要があります。
そこで本記事では、事業承継(事業継承)の減価償却に関する基礎知識、減価償却の基本的なルール、個人事業の事業承継における減価償却のポイントなどについて、詳しく解説します。
目次
事業承継(事業継承)の減価償却に関する基礎知識
まずは減価償却とは一般的にどのようなものなのか、概要を理解しましょう。
また、ここでは減価償却に関連する用語についても併せて紹介します。
減価償却とは
減価償却とは、企業が業務に使用する固定資産を、その使用期間に応じて費用として計上する会計処理のことです。
固定資産には、建物、機械装置、車両、コンピュータなどが該当します。
これらの資産は、企業商品の生産や営業活動などに長期間にわたって利用されるため、使用期間の経過とともに価値が減少することを理解しておきましょう。
減価償却に関する用語
減価償却に関連する用語には、以下のようなものがあります。
減価償却と合わせて覚えておくと理解度が深まるでしょう。
用語 | 説明 |
減価償却資産 | ・減価償却が適用される対象の固定資産 ・建物や設備などの長期的な資産がこれに該当する |
減価償却費 | ・一定期間にわたって減価償却資産の価値を減少させるために費用として計上される金額 ・会計上の費用として扱われる |
取得価額 | ・減価償却資産を取得する際に支払った費用額 ・購入価格や関連する諸費用、取得に関する手数料や改良費用などが含まれる |
耐用年数 | ・減価償却資産が使用に耐えられる期間 ・企業は資産ごとに耐用年数を設定し、減価償却の計算を行う |
減価償却累計額 | ・減価償却費の累積額 ・複数の期間にわたって行われた減価償却費を積み上げた金額が累計額となる |
未償却残高 | ・減価償却資産の取得価額から減価償却累計額を差し引いた金額 ・現時点でまだ減価償却されていない残存価値 |
これらの用語は減価償却の理解と会計処理において役立ちます。正確な減価償却計算と適切な費用計上は、企業の財務状況や税務上の義務を正確に反映するために必要となるので覚えておきましょう。
承継した事業の資産にも減価償却は適用される
事業承継によって引き継いだ資産にも減価償却は適用されます。
固定資産の価値は時間の経過とともに減少するため、適切な会計処理として減価償却を行います。減価償却は税金や収益に直接関わる要素であり、正確な計算と処理が重要です。
事業承継後も適切な減価償却を行うことで、資産の価値の減少を適切に反映し、企業の財務状況や収益の正確な評価が可能となります。
減価償却に関する理解と適切な会計管理は、事業承継後の成功に向けて欠かせない要素となるでしょう。
事業承継(事業継承)における減価償却の基本的なルール【法人/個人】
次に、法人・個人を問わず理解しておくべき、減価償却の方法について紹介します。
承継した資産の取得価額
事業承継における資産の取得価額は、後継者が引き継ぐ際の取得価額として、「前任者の取得価額から減価償却累計額を差し引いた金額」となります。
減価償却累計額は、前任者が所有していた資産の減価償却費の累積額を示します。この取得価額は、後継者にとって資産の実際の価値を反映したものです。
事業承継においては、正確な取得価額の把握が重要となります。この計算方法によって、後継者は適切な減価償却処理を行い、資産の経済的価値が適切に管理できるでしょう。
承継した資産の耐用年数
事業承継においては、引き継いだ資産の耐用年数はそのまま引き継がれます。つまり、前任者が設定した耐用年数が後継者によって引き継がれ、引き続き使用されます。
例えば、先代が建設機械に対して10年の耐用年数を設定していた場合、後継は先代が使用していた期間から10年引いた年数を引き継ぐことになるでしょう。
耐用年数は、資産の経済的な寿命や価値減少の見積もりに基づいて設定されるため、引き継ぐ側もそれに従い適切な減価償却を行う必要があります。
承継した資産の償却方法
事業承継においては、引き継いだ資産の償却方法は、前任者から後継者へは引き継がれません。
後継者は自身の判断に基づいて償却方法を選択する必要があります。この選択には税務署への届け出が必要です。
主な償却方法には、定額法と定率法があります。定額法では、毎年一定額を償却費として計上します。これに対して定率法では、資産の取得価額に対して一定の割合を償却費として計上します。
承継した資産にかかる税金
事業承継においては、相続税や贈与税が関係します。
これらの税金は、承継時の資産の未償却残高(残りの価値)を基準にして計算されます。未償却残高は、資産の取得価額からこれまでの減価償却累計額を差し引いた金額です。
相続税や贈与税は、この未償却残高に対して課税される場合があります。未償却残高が高いほど、税金の負担も大きくなる可能性が高いため、事業承継においては未償却残高の正確な評価と税務申告が重要です。
個人事業の事業承継における減価償却のポイント
近年では後継者不足が社会問題となっており、個人事業の承継が増えています。
なかには事業承継を検討している人もいるのではないでしょうか。
ここからは、個人事業の事業承継における減価償却のポイントについて紹介します。
相続よりも生前贈与のほうが手続きしやすい
事業承継において、生前贈与は相続に比べて手続きがしやすいといえます。
相続では前任者が死亡後に手続きを行うため、不動産や土地などの扱いが煩雑になりやすいでしょう。
一方、生前贈与では前任者がまだ存命であるため、資産の移転手続きが容易に行えます。そのため、生前贈与を準備しておくと、承継時の手続きがスムーズに進められるでしょう。
前任者が十分な減価償却を行っていないケースもある
事業承継において、前任者が十分な減価償却を行っていないケースもあります。
減価償却が適切に行われないと、資産の取得価額が高いまま引き継がれるため、相続税や贈与税の負担が増える可能性があります。
ただし、この場合でも前任者の資産取得時のタイミングや耐用年数を考慮すれば、後継者はその情報を基に適切な減価償却が計上可能です。そのため、慌てずに対応することを心がけましょう。
固定資産を引き継がない選択肢もある
事業承継において、固定資産を引き継がない選択肢もあります。
特に個人事業主の場合、前任者が固定資産を引き続き所有したいケースが多く見られます。
これは、個人事業主が前任者から固定資産を借り受ける形で扱うことを意味します。
同一生計者であれば、通常の償却方法に基づいて経費として計上可能です。この場合、所有権は移転しないため、贈与税や相続税は発生しません。
固定資産を引き継がない手法は、個人事業承継において用いられる方法であるため、必ず覚えておきましょう。
事業承継における減価償却の注意点
ここからは、事業承継における減価償却時の2つの注意点について解説します。
計算方法の変更には税務署への届け出が必要
事業承継において、資産の取得時期や取得価額は引き継がれますが、計算方法は引き継がれないため、後継者は税務署に計算方法の変更を届け出る必要があります。
届け出を怠ると、引き継いだ資産について定額法が適用され、申告時に却下される可能性があるため注意が必要です。
不安があれば事業承継の専門家に相談を
事業承継には会計や法務の専門知識が必要であり、減価償却に関して損失を被ったりコンプライアンス違反に該当したり、といったリスクも存在します。
不安がある場合は、事業承継の専門家に相談するようにしましょう。
専門家は事業継承の経験が豊富で、減価償却や税務に関する正確なアドバイスや手続きのサポートを行います。適切なアドバイスを受けることで、事業承継の成功と円滑な運営が実現できるでしょう。
まとめ
個人事業の事業承継では、事業用資産の評価額を引き継ぎますが、償却方法は引き継がれません。
そのため、相続人は新しい償却方法を選択し、税務署への届け出を行う必要があります。
特に資産の数が多い場合、減価償却の会計手続きは煩雑です。
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