事業継承における株式譲渡とは?メリットや成功に近づけるポイントを解説

事業継承における株式譲渡とは?メリットや成功に近づけるポイントを解説

これからの時代に企業が存続していくうえで、後継者に企業の経営を託す「事業継承」が欠かせません。事業継承の手段はさまざまですが、なかでも「株式譲渡」は特に有力な選択肢です。

本記事では、事業継承における株式譲渡とは何か、経営者向けにわかりやすく解説します。

株式譲渡のメリットや成功に近づけるポイントもお伝えするため、ぜひ参考にしてください。

事業継承における株式譲渡とは

合併・買収の違い

株式譲渡について何となくイメージはできても、具体的な意味は把握していない人は多いのではないでしょうか。

まずは、事業継承における株式譲渡の基本事項について紹介します。

 

中小企業のM&Aでは一般的な手法

株式譲渡とは、自分が保有している株式を他人に譲渡することです。特に、経営者が株式譲渡によって事業継承を図るケースでは、自社株を後継者に譲渡することで経営権の移転を行います。

一般的な株式会社において、自社株の保有数は議決権、さらには経営権にまで直結する大切な要素です。経営者の多くは、自社株をかなりの割合で保有しているでしょう。こうした自社株を後継者に譲渡することで、企業の経営権も併せて託すことが可能です。

昨今では事業継承の手段として、企業間の合併(Merger)や買収(Acquisition)を伴う「M&A」が注目されています。

M&Aによって自社を売却すれば、相手企業の経営者に事業の継承が可能です。中小企業がM&Aにより事業継承するうえで、株式譲渡は特に一般的な手法となっています。

ただし、経営権の移転には一定割合以上の株式を譲渡する必要があるため、必ずしも株式譲渡=事業継承でないことを理解しておきましょう

関連記事:M&Aにおける注意点とは?買い手・売り手の両視点から解説【中小企業向け】

 

事業継承を行う主な目的

事業継承の手段を模索する前に、そもそも事業継承を行う目的を整理しておきましょう。企業が事業継承を行う目的はさまざまですが、主なものとして次の3つが挙げられます。

  • 廃業の回避
    未来を託せる後継者がいない場合、企業は廃業せざるを得ません。廃業には、在庫の処分といった多くのコストがかかるうえに、債務を返済しきれず借金が残るケースもあります。事業継承の大きな目的は、こうしたリスクを回避し、自社の存続を実現することです。
  • 従業員の保護
    経営者が廃業を選択すれば、従業員は職を失うことになります。自社の従業員に対する最後のメッセージが「失業」では、経営者としては不本意でしょう。事業継承を行うことは従業員の雇用を維持し、生活を守ることにもつながります。
  • 成長戦略の実現
    事業継承は、自社の成長戦略を実現する目的で行われることもあります。例えば、M&Aにより自社を大企業に売却し、傘下に入ることで資金力やブランド力を高めるケースもあります。この場合、前経営者は統合後の企業で経営の一端を担うことも可能です。事業継承は、必ずしも経営者のリタイアを伴うとは限りません。

関連記事:事業継承(事業承継)とは?種類やメリット、進め方について解説

株式譲渡の主な種類

株式譲渡の主な種類

株式譲渡にはいくつかの種類があり、手段や譲渡先が異なります。ここで紹介する、株式譲渡の主な種類を押さえておきましょう。

 

株式を譲渡する手段

株式を譲渡する手段としては、大まかに「売買」「贈与」「相続」の3種類が存在します。

それぞれの概要や主なメリット・デメリットは下表の通りです。

手段概要主なメリット主なデメリット
売買対価を受け取る代わりに株式を渡す経営者が資金を回収できる後継者が買収資金を調達する必要がある
贈与後継者に無償で株式を渡す額な資金調達が不要贈与税が生じる
相続亡くなった経営者の株式を後継者が引継ぐ高額な資金調達が不要相続税が生じる

後継者が近しい間柄の場合には、贈与や相続が行われるケースも多々あります。そうでない場合には、株式の売買により譲渡することが一般的です。それぞれにメリット・デメリットがあるため、しっかり確認しておきましょう。

 

株式を譲渡する相手

株式を譲渡する相手は「親族」「従業員(社内人材)」「第三者(社外人材)」の3種類となります。

それぞれの主なメリット・デメリットは下表の通りです。

譲渡先主なメリット主なデメリット
親族関係者の理解を得やすい親族間でトラブルが生じやすい
従業員
(社内人材)
事業継承をスムーズに進めやすい適任者でないと経営悪化につながる
第三者
(社外人材)
適した後継者を選びやすい関係者の理解を得にくい

M&Aにより事業継承を行う場合は、基本的に譲渡先は社外人材となります(第三者継承)。

こちらもメリット・デメリットを確認しておきましょう。

中小企業が事業継承で株式譲渡を選択するメリット

前述の通り、中小企業の事業継承では株式譲渡を選択することが一般的です。

中小企業が株式譲渡を行うメリットとして、主に次の3つが挙げられます。

 

自社への影響が少ない

株式譲渡は、自社への影響が少ない事業継承手段といえます。

株式の所有者が変更されても、社名や従業員の雇用、取引先との関係などは基本的に変わりません。そのため、自社を取り巻く状況に悪い意味での変化が生じにくいといえます。

反対に、雇用や取引に大きな変化が生じる事業継承手段だと、従業員や取引先が離れていくリスクもあります。余計な影響をもたらさないことは、株式譲渡の大きなメリットです。

 

手続きが容易に行える

株式譲渡を行うための手続きは、ほかの事業継承手段と比べて容易です。

例えば、事業自体を後継者へ譲渡する「事業譲渡」の場合、事業に関わるさまざまな資産や許認可などを移転する手続きが必要となります。

一方、株式譲渡における手続きの大部分は、株式の所有権変更に伴うプロセスです。事業の資産や許認可は基本的に引継げるため、手続きは少なく済むことが多いといえます。

また、中小企業間でM&Aによる事業継承を行う場合は、基本的に売り手・買い手間の合意だけで株式譲渡を実施可能です。

 

経営者が売却益を得られる

株式の売買によって株式譲渡を行う場合、前経営者は売却益を得られる場合があります。

例えば、経営者が1,000万円で自社株を取得し、売却時には1,500万円に価値が上がったケースを考えましょう。このとき後継者へ全ての自社株を売却すれば、差し引き500万円プラスの計算になります。

ただし、実際には株式譲渡に伴う課税や諸経費によって、取り分は少し減るでしょう。 売却益が発生しない場合でも、資金回収の手段として株式譲渡を行うケースは多くあります。

 

中小企業が株式譲渡による事業継承を行う際の注意点

事業継承における、株式譲渡のメリットは大きいものの注意点もあります。

中小企業が株式譲渡による事業継承を行う際の注意点は、主に次の2つです。

 

株式総会や取締役会での承認が必要

経営者の一存で、安易に自社株を譲渡できません。多くの株式会社は、自社株に譲渡制限を設けているためです。

譲渡制限がかかっている場合、株式譲渡の決行には株式総会(普通決議または特別決議)や、取締役会での承認が必要となります。

株主総会の議決権に直結する株式は、自社の意思決定を左右する重要なファクターです。そのため株式の譲渡先や条件によっては、株主や役員から反対されることも考えられます。

経営者といえども、自社株の譲渡はステークホルダーの意向を汲みながら、慎重に行わなければなりません。

 

さまざまな税金が発生する

株式譲渡に伴い、さまざまな税金が発生することにも注意が必要です。

売買による株式譲渡で売却益が生じた場合、前経営者は「譲渡所得税」を支払わなければなりません。法人であれば、加えて「法人税」も発生します。

また、相続や贈与による株式譲渡では、「相続税」や「贈与税」がかかります。こうした税金は決して安くありません。

例えば、株式の譲渡における譲渡所得税の税率は20.315%(2023年6月時点)です。仮に100万円の譲渡所得が生じたとすれば、約20万円もの譲渡所得税がかかることになります。

手続きの途中で税金に頭を抱えることがないように、専門家のサポートを受けつつ早期に見積もることが大切です。

関連記事:中小企業における事業継承問題とは?解決策と併せて紹介します

株式譲渡を成功させるためのポイント

株式譲渡を成功させるためのポイント

得られるメリットが大きい株式譲渡ですが、安易に手続きを進めると失敗してしまう可能性があります。

株式譲渡を成功させるためのポイントとして、次の3つを必ず押さえておきましょう。

 

企業価値を高めておく

株式譲渡を行うにあたって、できる限り企業価値を高めておきましょう。

M&Aによる株式譲渡は、売り手企業と買い手企業の合意があって初めて成立します。言い換えれば、売り手の提示条件に対して買い手が納得しない限り、M&Aの株式譲渡は成立しません。

売り手企業の価値があまり高くない場合、合意を得られる買い手が一向に見つからないケースもあります。こうした事態を防ぐためにも、企業価値を高めることは大切です。

債務の削減や不採算事業の見直しなど、企業価値を高めるための努力を行いましょう。

 

必要性や継承先の検討は慎重に行う

株式譲渡により事業継承を考える場合、その必要性や継承先は慎重に検討すべきです。

法的な面での影響は少ないとはいえ、株式のバランスが変わることは自社の意思決定に大きく関わってきます。相手に経営権を与えるのであれば、企業の未来を託すことに変わりはありません。

現段階で事業継承が本当に必要なのか、継承先はこの人で問題ないか、など冷静に考えましょう。

事業継承を急ぐあまり、適任者でない人を後継者にしたり、育成が不十分なまま事業継承したりすることはNGです。自社の将来をよくするためにも、株式譲渡には最適な選択が求められます。

 

M&Aの専門家の力を借りる

親族や社内に適任者が見つからず、M&Aにより社外に後継者を求めるケースもあります。

しかし、M&Aには継承先選びや事前調査、法的な手続きなど多くのプロセスが必要となるため、専門知識が欠かせません。

専門知識を要するこれらの作業を、未経験の経営者が適切に進めることは現実的には難しいでしょう。

M&Aの専門家に依頼すれば、M&Aの各プロセスに関して適切なアドバイスを受けられるため、未経験の経営者でもスムーズに事業継承を進められるでしょう。

また、自社の業界に関するM&Aの動向を熟知した専門家であれば、より適した継承先を見つけられる可能性が高まります。

まとめ

株式譲渡とは、自分が保有している株式を他人に譲渡することです。

特に、経営者が株式譲渡によって事業継承を図るケースでは、自社株を後継者に譲渡することで経営権の移転を行います。自社への影響が少ない、手続きが容易に行えるなど、株式譲渡は得られるメリットが大きい事業継承の手段です。

ただし、株式譲渡においては承認プロセスや税金など、さまざまな専門知識が求められます。

不十分な知識のまま、安易に株式譲渡を行うと失敗する可能性があります。株式譲渡により事業継承の目的を達成するのであれば、M&Aの専門家に依頼することをおすすめします。

株式譲渡を行いたいものの不安がある方は、M&A・事業継承の実績が豊富な「M&Aベストパートナーズ」へお気軽にご相談ください。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

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