製薬業界におけるM&Aの動向とは?医薬品業界の概要をふまえて基本を解説

医薬品の開発や製造、販売などに携わる製薬業界は、少子高齢化の一途をたどる日本で重要性を増しています。

しかし、昨今の製薬業界には不安要素も多く、楽観視できる状況ではありません。

製薬業界の苦しい状況の打開策として、注目されているのが「M&A」です。

本記事では、製薬業界におけるM&Aの動向について、製薬業界の概要をふまえて解説します。

これから製薬業界で成功を目指すのであれば、M&Aに関して理解を深めておきましょう。

製薬業界の概要

製薬業界とは、医薬品が患者のもとへ届くまでの開発や製造、販売といった幅広いプロセスに携わるビジネス全般のことです。

ただし、医薬品といっても2種類存在し、必ずしも製薬会社が価格を決められるわけではありません。

ここからは、製薬業界が主に扱う医薬品に関する基本事項について解説します。

 

医薬品は「一般医薬品」と「医療用医薬品」に分かれる

医薬品には「一般医薬品」と「医療用医薬品」の2種類が存在し、それぞれ扱われ方が異なります。

一般医薬品とは、医療機関を経由することなく購入できる市販薬のことです。

ドラッグストアや薬局のようなお店で処方箋がなくても購入できますが、基本的に保険は適用されません。一般医薬品の価格は、製薬会社が設定できます。

医療用医薬品とは、医師の処方箋を受けて購入する薬のことです。

ドラッグストアや薬局でも販売はされていますが、処方箋がなければ購入できません。医療用医薬品の価格は、国が「薬価基準」として定めており、製薬会社はそれに従う必要があります。

 

医薬品の価格は国に申請を行い決まる

前述の薬価基準では、医薬品の基準価格(薬価)が品目ごとに定められています。まだ実用化されていない薬の場合、薬価は決まっていません。そのため、新薬を開発した場合は国に申請を行い、薬価基準へ収載(追加)してもらう必要があります。

新薬の薬価を決めるのは、「薬価算定組織」と呼ばれる有識者で構成される機関です。

薬価算定組織は、申請を受けた新薬の薬価を一定のプロセスに従って決定し、その結果を製薬会社へ通知します。薬価に不服がなければ、「中央社会保険医療協議会」が内容を確認し、承認されれば薬価基準へ収載されます。

なお、既存の医薬品にならって開発されるジェネリック医薬品(後発医薬品)の場合、薬価は先発医薬品の50%程度となることが一般的です。

製薬業界における市場動向について

製薬業界の現状を把握するうえで、医薬品の市場動向について理解することが重要です。ここでは、製薬業界における市場動向に関して、厚生労働省のデータをもとにお伝えします。

 

国内における製薬業界の市場動向

厚生労働省による「医薬品業界の概況について」の調査によると、医療用医薬品の国内市場推移は、以下のように発表されています。

(出典:厚生労働省「医薬品業界の概況について」)

国内市場は2003年ごろから拡大傾向にあり、2015年以降は常に10兆円を超える高水準となっています。

また、医薬品の種類別のシェアは次の通りです。

(出典:厚生労働省「医薬品業界の概況について」)

後発医薬品(ジェネリック医薬品)のシェアが徐々に拡大している一方で、先発医薬品のシェアは縮小しています。

一方で未承認薬の種類が増加していることが懸念されています。未承認薬とは、国によって安全性や有効性が認められていない薬のことです。国内未承認薬は2016年には117品目でしたが、2020年には176品目と大幅に増加しています。

(出典:厚生労働省「医薬品業界の概況について」)

国内で承認されていない海外製の新薬を購入するケースも増えており、健康被害のリスク増大が懸念されます。

 

国内における製薬企業数の動向

国内における製薬企業数の推移は次の通りです。

(出典:厚生労働省「医薬品業界の概況について」)

国内の製薬企業数は、2006年ごろから減少傾向にあることがわかります。

ただし、医療用医薬品を扱う製薬企業数は横ばいとなっており、大きな減少は見られません。減少傾向が見られるのは、主に一般医薬品を扱う製薬企業です。

一般医薬品を扱う製薬企業が減少している要因としては、市場競争で生き残ることの難しさが考えられます。医療用医薬品の場合、新薬を開発後に特許を取得することで、一定の期間にわたり独占販売が可能です。そのため多くの開発費はかかるものの、実用化できれば利益率を上げやすいといえます。

しかし、一般医薬品は一般的に特許が切れており、こうした独占販売が行えません

そのため他社と価格競争が起こりやすく、企業の経営を安定させることは容易ではないでしょう。

 

製薬業界における海外市場への動向

製薬業界の傾向として、海外市場へ進出するケースが増えています。1965年に海外進出する製薬関連企業は10社でしたが、2008年以降は毎年300社以上が海外進出しています。

(出典:厚生労働省「医薬品業界の概況について」)

また「医薬品産業ビジョン2021」によれば、日本企業の海外売上高は右肩上がりとなっています。

(出典:厚生労働省「医薬品産業ビジョン2021」)

製薬業界においては、海外市場へ活路を見いだす企業が今後も増えていくでしょう。

製薬業界にM&Aが必要とされる理由

昨今の製薬業界において、「M&A」を行う企業が増えています。なぜ製薬業界にM&Aが必要とされているのでしょうか。ここでは、考えられる3つの理由について解説します。

 

薬価改定による市場規模予測の確実性の低下

製薬業界では「薬価改定」の影響が大きく、市場規模が予測よりも縮小する懸念があります。

薬価改定とは、薬価基準で定められた薬価を定期的に見直すことです。

薬局や医療機関では、薬価よりも安い値段で医薬品が取引されるケースが多くあります。薬価改定では、こうした実際に取引される相場をもとに計算されるため、薬価が下がりやすいといえるでしょう。薬価が下がれば、主に医療用医薬品を扱う製薬会社の利益率低下にもつながります。

実際、2018年までの医薬品市場は1年あたり5.0%ほどの成長が見込まれていたものの、薬価改定により1年あたり1.2%の増加に抑制されました。また、以前の薬価改定は2年に1度でしたが、2018年以降は毎年の実施となっています。こうした状況であるため、製薬業界の市場は安泰とはいえないでしょう。

「医薬品業界の概況について」の調査によると、薬価制度の見直しによって「予測の確実性が下がった」と回答した企業は69社中56社にものぼります。製薬会社には、市場の縮小によるダメージに備えた経営体制の見直しが求められるでしょう。そのため、製薬業界ではM&Aが増えている傾向にあると考えられます。

薬価制度の見直しによる日本市場への投資優先度の低下

薬価改定をはじめとする薬価制度の見直しは、日本市場への投資優先度を低下させる要因となっています。

「医薬品業界の概況について」の調査によると、86社のうち10社が「投資優先度が下がった」、28社が「将来的に投資優先度が下がる可能性がある」と回答しました。

製薬業界に限らず、投資はビジネスの重要な資金源となります。製薬業界への投資を見送る企業が増えれば、新薬の開発に必要な資金調達が難しくなるでしょう。結果として製薬業界の発展が阻害されてしまうため、投資の優先度が下がることは楽観視できない問題といえます。

この問題を解決するにあたって、M&Aは有力な解決策となります。M&Aにより企業規模を大きくすれば、投資家や企業にとっての魅力が増し、投資優先度が上がりやすくなるでしょう。

医薬品卸業の経営状況の悪化

製薬会社が製造した医薬品を、薬局や医療機関に届けるうえで欠かせないのが医薬品卸業者です。

製薬会社と密接に関わっている医薬品卸業の経営状況は、製薬会社の経営にも大きく影響を及ぼします。

しかし昨今では、医薬品卸業の経営状況が思わしくありません。

「医薬品業界の概況について」によると、医薬品卸業の売上総利益率・営業利益率は年々減少傾向にあります。前述した薬価改定だけでなく、新型コロナウイルス感染症により医療機関の受診が抑制されたことも影響しているでしょう。

医薬品卸業の経営状況が悪化すれば、製薬会社の経営も立ち行かなくなるリスクがあります。

この問題の解決策として期待されているのが、経営基盤の強化につながるM&Aです。

製薬業界のM&Aによる事例

ここからは、製薬業界におけるM&Aの事例を3つ紹介します。

 

A社による米国グループ会社の再編

医薬品の製造・販売を行うA社では、米国で販売していた主力製品の独占販売期間が終了することによる成長の停滞が懸念されていました。

そこで、米国で複数持っていた子会社・孫会社をM&Aにより合併し、1つのグループ会社として再編することを決定しています。企業を合併することにより、北米での事業基盤が強化され、収益力の向上も見込めるでしょう。

 

B社による株式会社C社の子会社化

創薬支援や投資、コンサルティングなどを行うB社は、C社をM&Aにより買収し、子会社化しました。C社は治験コーディネータや臨床薬理試験、治験審査委員会などを行っている会社です。M&Aにより、創薬支援や臨床試験を1社で統括できるようになり、相乗効果が期待できます。

 

D社によるE社の子会社化

運送や不動産、倉庫といった総合物流サービスを提供するD社は、E社をM&Aにより買収し、子会社化しました。E社は、親会社の医薬品にまつわる物流関連の業務を行う企業です。M&Aによって、医薬品の物流ネットワークを拡大でき、事業基盤の強化につながるでしょう。

まとめ

製薬業界では、海外市場への進出が活発となっている一方で、薬価改定や新型コロナウイルスといった不安要素もあります。

実際のところ、製薬会社数は減少傾向にあり、苦境に立たされている企業も少なくありません。日本の医療を支えるうえで欠かせない製薬業界を守るには、M&Aによる経営基盤の強化や事業拡大が重要となります。

製薬業界のM&Aに関して不明点や悩みがある人は、M&A・事業承継のエキスパートであるM&Aベストパートナーズまで、お気軽にご相談ください。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

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