
企業が成長や競争力強化を目指すうえで、他社との「事業提携」は非常に有効な手段のひとつです。
本記事では、業務提携やM&Aとの違いを明確にしながら、事業提携の具体的なメリット・デメリットを丁寧に解説します。
経営資源の共有や市場拡大、コスト削減などのメリットがある一方で、提携によるリスクも無視できません。本記事を読むことで、事業提携の全体像を正しく理解し、自社にとって最適な選択肢を見極めるヒントを得ることができるでしょう。
目次
事業提携とは

事業提携とは、企業同士が互いの強みや資源を活かして、協力関係を築くことでシナジー効果を生み出し、事業の成長や経営の安定を目指す戦略のひとつです。提携により他社の技術やノウハウを取り入れ、自社の事業を効率的に拡大できる点が大きな特長です。
この提携は、資本を伴わずに実現できるケースが多く、数ある経営手法の中でも比較的リスクが低い方法といえます。
事業提携にはさまざまな形態があり、代表的なものとして「販売提携」「技術提携」「共同開発提携」「生産提携」の4つが挙げられます。販売提携では、販売網の共有により販路拡大を目指し、技術提携では互いの技術力を融合して製品力を高めます。共同開発提携は新商品・サービスの共同開発を目的とし、生産提携は製造コストの削減や品質向上に寄与します。
そのほかにも、原材料の調達力を強化する「調達提携」や、物流や販売チャネルの統合を図る「流通提携」、民間企業と自治体が連携する「包括提携」などもあり、企業の課題や戦略に応じて多様な提携が活用されています。
業務提携の違い
事業提携とよく似た言葉に「業務提携」がありますが、この二つは提携の範囲や関係性の深さにおいて明確な違いがあります。
事業提携は、企業同士が特定の分野や事業全体において戦略的に協力し、長期的な関係を築くことを目的とした包括的な枠組みです。
業務提携は、あくまで特定の業務やサービスに限定して協力するものであり、より限定的かつ短期的な性質を持っています。そのため、両社の関係性も比較的浅いものとなりがちです。
たとえば、新商品の共同開発や新市場への進出を含む広範な取り組みは事業提携に分類されます。そして、物流業務の一部を外部企業に委託するようなケースは業務提携に該当するのです。
どちらの形態が自社にとって適しているかは、提携の目的や相手企業との関係性に応じて見極める必要があります。
M&Aとの違い
事業提携とM&A(Mergers and Acquisitions)は、いずれも企業同士が協力する手段ですが、こちらもまったく同じものというわけではありません。
M&Aは、経営課題の解決や後継者不足の対策として用いられる経営手法のひとつであり、買い手企業が売り手企業の株式を取得することで、経営権や事業資源を包括的に手に入れます。これにより、買収後の売り手企業は買い手企業の傘下に入り、実質的にひとつの組織として再編されることになるのです。
一方で、事業提携はあくまで各企業が独立性を保ったまま、特定の分野で戦略的に協力し合うものになります。そのため、必要に応じて関係を見直すことが可能であり、後戻りがしやすいという点では、M&Aより優れているといえるでしょう。
ただしそれは、企業間の関係性が流動的になりやすいことも示しており、M&Aと違って協力体制が不安定になるリスクが存在するということにもなります。
事業提携のメリット

ここまで、事業提携の概要について解説しました。
ここからは、その具体的なメリットについて紹介します。
経営資源をお互いに活用できる
事業提携の大きなメリットのひとつは、提携先企業が保有する経営資源、たとえば技術、人材、販売ネットワークなどを相互に活用できることです。
自社単独では到達が難しい市場や開発領域にも、提携を通じてスムーズにアプローチでき、事業の成長を大きく加速させることができるようになります。
また、両社の設備や物流インフラを共有すれば、重複する投資を避けられ、コスト削減にもつながります。業務の効率化や最適化も実現しやすくなり、資源の有効活用によって競争力の向上も期待できるようになるでしょう。
ただし、提携による効果を最大限に引き出すには、契約時に経営資源の活用範囲や責任分担を明確にしておく必要があります。それがないと、意図した成果を得られないどころか、逆に混乱を招くおそれもあるため、慎重な準備が重要です。
新規市場や顧客層へのアクセスがスムーズに行える
事業提携で提携先企業の持つ販売網やブランド力を活用することで、新たな市場や顧客層へ迅速にアクセスできるようになります。
とくに海外進出や異業種との連携を検討している企業にとっては、現地での信頼や知名度を活かしながら、リスクを抑えて参入できるのが大きな魅力です。すでに市場基盤を持つ企業と提携することで、ゼロから構築する手間や時間を省くことができ、自社単独では到達が難しいターゲット層にも効果的にアプローチできるようになります。これにより、売上拡大やブランド認知の向上が期待できるようになるのです。
ただし、こうした効果を確実に得るためには、提携前に市場調査を綿密に行い、相手企業との役割分担や進出後の戦略を明確にしておく必要があります。
コスト削減・業務効率化になる
前述の内容にもあるとおり、コスト削減や業務の効率化といったメリットが期待できます。
たとえば生産提携を結べば、製造ラインを共有することにより設備投資の負担を軽減できます。
また、物流提携によって配送ルートや倉庫を共同で活用することで、輸送コストの削減や供給体制の効率化が図れます。こうした連携は、スピードと正確性を求められる業務においてとくに有効です。
さらに、原材料などの共同購買を行えばスケールメリットが働き、仕入れコストの低下にもつながります。加えて、業務プロセスの一部を統合すれば、管理業務の省力化や作業の重複回避もでき、全体的な業務効率が向上するでしょう。
市場での優位性が高くなる
事業提携によってそれぞれの強みを組み合わせ、競争力のある製品やサービスを共同で生み出すことができれば、他社との差別化につながります。
とくに技術力やブランド力において補完関係にある企業同士であれば、革新的な価値を市場に提供することができ、顧客からの信頼も得やすくなるでしょう。
また、協力関係を通じて情報やノウハウを共有し合うことで、市場ニーズに素早く対応できる体制を築けます。そうした柔軟性は、変化の激しい業界においてはとくにメリットとなるでしょう。
さらに、提携によって新たな顧客層へのアプローチもできるようになるため、既存市場だけでなく成長市場でも有利な立場を築くことができるようになります。
事業提携のデメリット
事業提携にはメリットが多い分、デメリットも少なくないため注意が必要です。
意思決定・判断に時間がかかりやすい
事業提携では複数の企業が関与するため、意思決定や重要な判断に時間がかかりやすいという課題があります。
新規事業への投資や方針転換など、戦略的な決断を行う際には、それぞれの企業の承認を得る必要があり、迅速な対応が難しくなってしまうのです。
このような状況では、市場の変化に機敏に反応できず、チャンスを逃してしまうリスクも高まります。また、各社の経営方針や判断基準に差がある場合は、意思のすり合わせに時間がかかり、最終的な合意までに長い期間を要することもあるでしょう。
こうしたデメリットを軽減するために、提携の初期段階から意思決定プロセスを明確にし、効率的な判断フローを整備しておくことが重要です。たとえば、合同の経営会議を設ける、承認権限を一部委譲するなど、迅速な対応を可能にする体制づくりを行うといいでしょう。
戦略や価値観の違いが生まれる
関与する企業が複数あると、戦略や価値観の違いによる摩擦が生じやすくなります。
とくに異業種や海外企業との提携では、経営スタイルや文化的背景が大きく異なるため、認識のズレが表面化しやすいでしょう。意思決定のスピードや重視する指標、組織運営の方針などがかみ合わない場合、業務に支障をきたす可能性は高いです。
そうなると、互いの信頼関係も崩れていくことになります。
そうならないためには、提携に先立って両社のビジョンや経営戦略をすり合わせ、共通の目標やゴールを明確にすることが不可欠です。
機密情報が漏洩するリスクが高くなる
事業提携では、技術情報や経営戦略といった重要な情報を相手企業と共有することが多くあります。とくに技術提携や共同開発を行う場合、自社独自のノウハウや研究成果を開示することが避けられず、それが外部に漏洩するリスクへとつながってしまうのです。
万が一、共有した情報が第三者に流出した場合、競争力の低下や市場での信頼失墜といった深刻な事態を招くことになります。
加えて、提携が終了したあとに情報が悪用される可能性も残り続けてしまうのです。
このようなリスクに対処するためには、機密保持契約(NDA)を締結するのが基本です。さらに、情報の共有範囲や使用目的を明確に定め、必要最小限にとどめるなどの工夫もするといいでしょう。
まとめ
事業提携は、企業が互いの強みを活かしながら協力関係を築き、成長や経営の安定を図るのに有効な戦略です。
経営資源の相互活用や新規市場への展開、コスト削減など多くのメリットがありますが、一方で判断の遅れや情報管理の課題が発生するため注意が必要です。
最適な提携を実現するためには、相手企業と、その目的を明確に知ることが重要です。事業提携をご検討の際は、まずそれが本当に最善の判断なのか、豊富な支援実績を持つM&Aベストパートナーズへ、ぜひ一度ご相談ください。