
M&Aを実施するうえで、売り手側企業の企業価値の評価は欠かすことができないプロセスです。
その企業価値を判断する際に、「EBITDA」と呼ばれる指標があることをご存じない方が少なくありません。
そこで本記事では、EBITDAに焦点を当てて、M&Aの専門家が詳しく解説します。
合わせて、事例とともにEBITDAの計算方法もご紹介するので、M&Aにおける企業価値の算出を検討されている方はぜひ参考にしてください。
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EBITDAとは
EBITDAは「イービットディーエー」と読み、「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization」の略称で、国際的な企業価値の比較や評価をする際に用いられます。
純利益に対する税率や借入金利、減価償却益に関する取り扱いは国ごとに異なります。
そのため、「営業利益に減価償却費を加える計算方法」を国際化することで異国間のM&Aにおける企業価値の指標がしやすくなります。
【事例付き】EBITDAの計算方法
EBITDAは、目的に応じて計算方法が異なります。
主な計算式とその計算例をご紹介します。
【主な計算式】
- EBITDA=営業利益+減価償却費
- EBITDA=経常利益+支払利息+減価償却費
- EBITDA=税引前当期純利益+特別損益+支払利息+減価償却費
- EBITDA=当期純利益+法人税等+特別損益+支払利息+減価償却費
上記の計算式のなかでも、「営業利益+減価償却費」の計算方法が最も多く使われています。
【具体的な計算例 】
例1)営業利益ベースによる計算の場合
- 営業利益:1,000万円
- 減価償却費:500万円
計算式:EBITDA=1,000万円+500万円=1,500万円
この場合、EBITDAは1,500万円となります。
例2)税引前当期純利益ベースによる計算の場合
- 税引前当期純利益:500万円
- 支払利息:100万円
- 減価償却費:300万円
計算式:EBITDA=500万円+100万円+300万円=900万円
この場合、EBITDAは900万円となります。
例3)損益計算書から計算をする場合
項目 | 金額 |
---|---|
営業利益 | 1,800万 |
減価償却費 | 700万 |
計算式:EBITDA=1,800万+700万=2,500万円
この場合のEBITDAは2,500万円となります。
EBITDAとその他の会計指標の違い
EBITDAには複数の計算方法がありますが、いずれも営業利益に減価償却費を加算することがベースとなります。
では、EBITDAを用いる場合とその他の会計指標とはどのような違いがあるのでしょうか。
EBITDAの特徴を踏まえたうえで、その他の会計指標との違いを解説します。
EBITDAの特徴
EBITDAの特徴は、主に以下の4点が挙げられます。
- 利息(Interest)、税金(Taxes)、減価償却費(Depreciation and Amortization)を
控除する前の利益 - 企業の本業によるキャッシュ創出力を示す
- 設備投資や資金調達、税制の違い、会計基準の違いなど、企業ごとの外部要因を排除できる
- 国際比較や業種間比較、M&Aの企業価値評価で重視される
上記のような特徴によって、EBITDAは事業そのものの収益性評価や、海外企業とのM&Aにおいて評価や比較がしやすいといった利点があります。
その他の会計指標の違い
EBITDAでは、一般的な営業利益や経常利益・税引前当期純利益といった会計指標とは考え方が異なります。
EBIDAとその他の会計指標を比較したときの相違点は以下のとおりです。
指標銘 | 主な内容・計算式 | EBITDAとの違い |
---|---|---|
営業利益 | 売上高 − 売上原価 − 販売費及び一般管理費 | 営業利益には減価償却費が 含まれるが、EBITDAは これを加え戻す |
経常利益 | 営業利益+営業外収益−営業外費用 | 経常利益は本業外の収益・費用 (例:利息)も含む |
税引前当期純利益 | 経常利益+特別利益−特別損失 | 特別損益も含むが、 EBITDAはこれらを除外し 本業の収益力に注目 |
EBIT※1 | 利払前・税引前利益 (例:経常利益+利息) | EBITは減価償却費を加え戻さないが、 EBITDAは加え戻す |
※1:「Earnings Before Interest and Taxes」の略。
減価償却費を含まないため、企業のキャッシュフローよりも収益力をより反映した指標が得られる。
他の会計指標と比較してEBITDAが重視される理由
M&Aでは他の会計指標よりもEBITDAが重視される傾向にあり、その理由は以下のとおりです。
- 設備投資や減価償却方法の違い、税率や金利といった国や企業ごとの差異を排除できるため、
国際比較や業種間比較に適している - 企業の本業によるキャッシュ創出力を把握しやすく、M&Aや企業価値評価で多用される
上記の理由から、「異なる国の企業によるM&A時に公平な判断がしやすくなる」「本業でのキャッシュ創出力の把握によってM&Aの実施判断がしやすくなる」ため、EBITDAは重要な役割をになっているといえます。
EBITDAを採用することによるリスクや注意点
国際的に用いられているEBITDAですが、デメリットを理解したうえで活用しなければ売り手企業の評価を誤り、M&Aによって不利益が生じるリスクがあるため注意が必要です。
EBITDAを採用することで起こりうるリスク、そして注意点について解説します。
過剰な設備投資やM&Aによる損失を回避できない
EBITDAは減価償却費を加え戻すため、企業価値の評価において減価償却費の影響を受けにくいといったメリットがあります。
しかし、減価償却費の影響がないということは、過剰な設備投資やM&Aによる多額の損失が生じた際に、EBITDAに反映することができません。
そのため、状況によってはEBITDAによって算出された指標が適切でない場合があります。
実際のキャッシュフローや資金繰りを把握できない
EBITDAでは、減価償却費や支払利息、税金を控除ではなく加算して算出されます。
そのため、「EBITDAの指標=実際のキャッシュフロー」とはならず、どれほどの財務状況なのかといった正確な判断がしにくいです。
会計基準に基づく指標ではない
EBITDAは法的な会計基準に基づいた正式な指標ではありません。
企業ごとに計算方法が異なり、特に海外企業の場合は税率や金利・減価償却に対する取り扱いも違いがあります。
EBITDAで算出された指標はあくまでも参考値とし、他の会計指標も参考にするなど総合的な判断が必要です。
正常利益ベースに算出する必要がある
EBITDAの算出をする場合、企業や該当事業の平常時における継続して得ている利益(正常利益)をベースにすることが大切です。
具体的には、役員報酬や保険料など決算時に差し引かれる費用は利益を小さく見せます。
しかし、EBITDAは営業利益をベースにすることが一般的なため、指標が低く評価される可能性があります。
企業価値の評価を正当に判断するためにも、EBITDAでは正常利益をベースに算出するようにしましょう。
国や業種による比較が難しい
すでにご紹介したとおり、税率や金利・減価償却費の取り扱いなどは国ごとに異なり、同じ国同士でも違いがあります。
例えば、製薬会社の場合、R&D税率(研究開発税制)によって税率が低くなる傾向があります。
金利で見た場合、不動業は借入による不動産取得の影響で金利負担が大きくなりやすいことに対して、自己資本を中心としている業種の場合は金利負担が少ないです。
上記のような国ごと、業種ごとの違いが原因となり、EBITDAのみでの判断が難しいケースがあります。
まとめ
M&Aの実施において、売り手企業の企業価値評価は欠かすことのできない重要なプロセスです。
企業価値の指標を算出する方法の一つとしてEBTDAという方法がありますが、リスクや注意点もあるため、判断をする際はその他の会計指標も参考にするなどリスク回避に向けた対策が求められます。
しかし、このような指標の算出やその他の指標との比較による判断は知識がないと難しく、M&Aの相手企業を検討する際は専門家によるサポートを受けることがおすすめです。
M&Aベストパートナーズには各業界に特化した専任アドバイザーが在籍しており、業種ごとに異なる特徴に合わせた検討方法をご提案いたします。
「相手企業の企業価値を正当に評価した指標が欲しい」「事業の売却を検討しているけど、どれくらいの価値になるかわからなくて不安」といった悩みを抱える経営陣の方は、ぜひ一度M&Aベストパートナーズへご相談ください。