「のれん」償却が不要に!M&Aにおけるメリットと注意点

著者
M&Aベストパートナーズ MABPマガジン編集部

先日、「のれん償却を不要にする」という報道がされ、M&Aに関係する企業の間で大きな話題をよんでいます。

そこで、本記事では「のれん」償却が不要になることでどの様な影響が出るのか、M&Aの専門家が詳しく解説します。

「のれん」償却が不要という動きが活発化

M&Aの際に売り手企業側の純資産額を上回って支払った代金を指す「のれん」について、会計を定期的に処理をしないように制度変更を行う動きが活発化しています。

政府の規制改革推進会議が、2025年5月中の答申に盛り込む方向で議論が進められています。

関連記事:M&Aの「のれん」とは?基礎知識から計算方法、仕訳、会計処理、注意点について

のれん償却が不要になる背景

「のれん」の償却を不要とする背景には、以下のようなことが挙げられます。

  • 国際会計基準(IFRS)との整合性をとるため
  • のれんの価値を定量化が困難なため
  • 企業の会計上の負担を軽減するため
  • 期ごとに減損テストを実施する方向にシフトしているため

それぞれの背景について詳しく解説します。

国際会計基準(IFRS)との整合性をとるため

日本における企業の会計では、古くから「費用収益対応の法則」が重視されてきました。

一方で、国際会計基準(IFRS)ではのれん償却を廃止することで企業価値が増加する可能性があると考えられています。

実際に、アメリカは2001年に、IFRSも2004年に「のれん」の定期償却を廃止しています。

このような国際的な変化に対応し、IFRSとの整合性を取る目的として、日本企業でものれん償却を不要とする動きが始まりました。

のれんの価値を定量化が困難なため

海外における大規模なのれん減損の事例として、以下のM&Aが挙げられます。

  • AOLとタイム・ワーナーのM&A:990億ドル(2002年)
  • マイクロソフトとノキアのM&A:76億ドル(2015年)

上記のような大規模な減損は珍しいケースですが、のれんの価値を定量化することが難しいという具体的な事例です。

そのため、「定量化を図ることが難しい」という声が多くの企業から上がり、政府も償却不要の指針を検討したとされています。

企業の会計上の負担を軽減するため

M&A時に発生したのれんを償却する場合、償却費が「販売費及び一般管理費(販管費)」として計上されるため、営業利益を引き下げることになります。

その結果として、買い手側企業の決算時に大きな影響を及ぼします

このような買い手側企業における会計上の負担を軽減することも、のれんの償却を不要とする考えにつながっています。

期ごとに減損テストを実施する方向にシフトしているため

海外では毎年減損テストを実施し、減損した年度のみ計上をすればよいという仕組みにシフトしています。

企業のグローバル化が進むなかで、国際競争に置いていかれないようにする目的も、今回の「のれん償却不要」の動きに拍車をかけています。

のれん償却が不要になることで得られるメリット

今回報道された「のれん償却不要」が実行されることで、M&Aを行っている企業はさまざまなメリットを得ることができます。

営業利益が圧迫されない

従来通りにのれん償却を行った場合、償却をした分だけ営業利益も減少します。

しかし、のれんの償却が不要になることで、これまで少なくなっていた営業利益を維持することができるようになります。

M&Aを積極的に行いやすくなる

のれんの償却が不要になれば、買い手側企業はのれん代による営業利益の減少を気にすることなくM&Aを行えるようになります。

また、すでに償却を不要としている海外企業も、日本企業に対するM&Aを行いやすくなるでしょう。

会計処理がシンプルになる

支払ったのれん代は、販管費として計上する必要があります。

また、営業利益に関する処理も必要です。

しかし、償却不要になれば騎乗は減損時のみとなるため、会計処理の負担が減り、シンプルになるでしょう。

利益の見通しや経営計画が立ちやすくなる

のれんの償却が不要になることで営業利益の減少を防げるようになり、会計上のブレが少なくなります

また、年度予算や経営計画を検討する際に償却金額を盛り込む必要もなくなるため、シンプルに予測ができるようになります。

利益の見通しがしやすく中期的な経営計画が立てやすくなることは、企業の経営者にとって大きなメリットといえるでしょう。

のれん償却が不要になることによる注意点

のれん償却が不要になることで、M&Aを行う企業はさまざまなメリットを得ることができます。

しかし、メリットがあるだけでなく、償却不要になることでデメリットも生じるため、事前に把握をしておく必要があります。

減損処理発生時の損失が急激かつ大規模化する恐れ

毎年ののれん償却が不要になると、買い手側企業は売り手側企業の価値が減損したときのみ計上を行います。

会計上の負担が減るメリットがある一方で、売り手側企業の企業価値が大幅に低下した場合、一括で処理をするため処理年度の利益が急激に悪化し、大規模化することで企業の経営に大きな影響を与えるリスクが生じます。

関連記事:のれん減損について解説!判断基準は株価への影響まで

のれんが過大評価されるリスクがある

のれんは、売り手側企業の業績や市場動向、将来見込まれる収益など、M&A時のデューデリジェンスによる評価によって検討します。

また、一度決められた「のれん」は帳簿にそのまま残ります。

しかし、M&A時の評価が甘かった場合、減損テストで過大評価され、投資家や債権者といったステークホルダーからの信用を損ねるリスクがあります。

関連記事:M&Aにおけるデューデリジェンスとは?費用や期間についてわかりやすく解説

自社創出の無形資産との区別が困難

「のれん」はM&Aによって発生した無形資産として、償却が行われなくても帳簿上は資産として残ります。

その結果、自社が創出した資産と区別が困難になり、資産が多く見える可能性があります。

本来の資産が区別できなくなった場合、経営判断にも影響を及ぼす可能性があるため、徹底した管理が必要です。

まとめ

国際会計基準との整合性を図り、会計上による会計上の負担軽減やM&Aがしやすくなるなどのメリットが期待できる「のれん償却の不要」という報道は、M&Aによる買収を検討している企業にとって嬉しい話題といえます。

しかし、さまざまなメリットがある一方で注意すべきデメリットも存在し、対策をするためにはM&Aに関する専門的な知識とノウハウが必要です。

今回の報道を受け、「M&Aを検討しているけどどのような処理をすればよいかわからない」「デメリットを回避するための対策がわからない」とお悩みの経営者の方は、ぜひM&Aベストパートナーズにご相談ください

M&Aに精通した専任スタッフが丁寧にヒアリングを行い、最適なアドバイスをさせていただきます。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

石橋 秀紀

ADVISOR

各業界に精通したアドバイザーが
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