企業同士が出資することで設立される合弁会社は、会社法に「合弁会社」という名称に対する明確な定義がなく、詳細がわからないという方も少なくありません。
そこで本記事では、合弁会社の定義・設立される目的や背景について詳しく解説します。
併せて、設立時の注意点や手続きの流れについても解説するため、合弁会社を設立して新たな価値を生み出したいと検討されている方はぜひ参考にしてください。
目次
合弁会社とは
合弁会社は、2社以上の企業が共通の利益を生み出すことを目的とし、共同出資をして設立、もしくは取得をする会社を指します。
一般的に「合同会社」と称されることが多いですが、公正取引委員会の企業結合ガイドラインによると「共同出資会社」という名称で定義されています。
また、プロジェクト単位の一時的な提携をする際は「ジョイントベンチャー(JV)」と呼ばれることもあります。
参考:公正取引委員会ガイドライン|企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針
合弁会社が設立される目的・背景
合弁会社が設立される目的や背景は多岐に渡ります。
設立される主な目的、背景を解説します。
合弁会社が設立される主な目的
合弁会社を設立する主な目的は、以下のとおりです。
- コストやリスクの分散:
複数の企業が出資することで、事業にかかるコストやリスクを分担でき、単独での参入よりも負担を軽減できる。 - 互いの強みやリソースの活用:
企業同士が持つ技術、ノウハウ、ブランド、インフラ、人材などを組み合わせることで、単独では難しい新規事業の展開や開発スピードの向上が期待できる。 - 新市場や海外への進出:
法規制や現地事情により単独での進出が難しい場合、現地企業と合弁会社を設立することで市場参入が容易になる。日本では外資規制を背景に、海外企業が日本市場に進出する際に合弁会社が多く設立された。 - 大型プロジェクトへの対応:
単独企業では請け負えない規模のプロジェクトや新規事業にも、複数社が協力することで対応可能となる。
合弁会社が設立される主な背景
さまざまな目的の達成が期待できる合弁会社ですが、設立される背景には以下のような理由が挙げられます。
- 規制や法律への対応:
国によっては外国企業の単独進出が制限されている場合があり、現地企業との合弁会社設立が必要となることがある。 - 経営資源の補完:
資金や人材、技術など自社だけでは不足するリソースを補うために、他社と協力して合弁会社を設立するケースが多く見られる。 - 競争力の強化:
競合他社と協力し、シェア拡大や新技術開発などで単独では得られないシナジー効果を狙う場合もある。
合弁会社はもともと海外資本の企業が日本へ進出する目的で設立されたのが始まりです。
現在は廃止されている「外資に関する法律(外資法)」(1950年施行)では、外資企業が100%出資して新会社を設立し日本市場へ参入することが認められていませんでした。
そこで外資企業は日本企業と共同出資した合弁会社を設立し、日本市場への新規参入を果たすようになりました。
その結果、現在では外国企業の単独進出が法律や規制によって制限されている国へ参入するための手段として、一般的になっています。
参考:衆議院|法律第百六十三号(昭二五・五・一〇)「外資に関する法律」
合弁会社を設立するリスクと注意点
海外市場への新規参入やコスト・リスクの分散など多くのメリットがある合弁会社ですが、設立によってリスクが生じることがあります。
合弁会社を設立することで生じるリスク、設立時の注意点を詳しく解説します。
技術・ノウハウが流出するリスク
合弁会社は、出資した企業同士の強みやリソースを活用し、新たな事業への展開や開発のスピードを向上させることが可能です。
しかし、各企業の持つ技術やノウハウを共有することで、外部へ漏洩するリスクを伴います。
情報漏洩を防ぐためには、合弁会社設立時に機密保持契約(NDA)を締結し、リスクマネジメントを徹底することが重要です。
関連記事:【専門家監修】NDA(秘密保持契約)がM&Aにおいて果たす役割
意思決定の遅延・対立
複数の企業によって設立される合弁会社は、異なる経営方針が集まった集合体ともいえます。
本来であれば各社の意見や方針を精査しながら意思決定を行いますが、話し合いが進まず、意思決定に遅延が生じる可能性があります。
また、出資比率の差が原因で利害関係が複雑化し、企業間で対立が起きるケースも少なくありません。
パートナー企業の信用リスク
共同出資を行うパートナー企業の選定を誤った場合、信用リスクを伴うことも注意点として挙げられます。
合弁会社として新たな事業展開をするとき、パートナー企業の社会的信用に問題があった場合、自社の信用も損なわれる可能性があります。
リスクを回避する手段として、設立に関する最終合意の締結前に入念なデューデリジェンスを行うことが重要です。
関連記事:M&Aにおけるデューデリジェンスとは?費用や期間についてわかりやすく解説
業務負担や利益分配の偏り
合弁会社設立にあたって出資比率の検討をするとき、偏りがあると業務負担や利益分配に影響を及ぼすリスクがあります。
また、出資比率の多い企業が主導権を握り、納得の行かない意思決定がされる可能性も考えられます。
合弁会社の出資比率を検討するときは、各企業が求める効果や将来のビジョンを考慮し、合理的に決定することが長期的な経営戦略には必要です。
事業失敗・撤退時のリスク
合弁会社として事業を展開していく場合、全てのプロセスがうまくいくとは限りません。
目標の未達成や経営上のトラブル、いずれかの企業が合意した要件を履行しなかったなど、さまざまなリスクが考えられます。
このようなトラブルが生じた場合、事業からの撤退や失敗といったリスクがあり、タイミングの判断を誤ると、合弁会社に関わる全ての企業が損失を被る可能性があるので注意が必要です。
上記のようなトラブルによる混乱を防ぐために、合弁会社設立時の基本合意書(LOI)には撤退や停止に関する条件をしっかり明記することが重要です。
関連記事:LOI(基本合意書)とは?法的効力やMOU(基本合意契約書)との違いについてわかりやすく解説
合弁会社設立の手続きと流れ
合弁会社を設立するためのプロセスと必要な手続きは以下のとおりです。
- パートナー企業の選定
- 基本合意の締結
- 条件の詳細調整・確認
- 合弁契約の締結
- 合弁会社の設立・登記
手順 | 概要 |
---|---|
パートナー企業の選定 | 共同事業に最適な企業を調査・選定 |
基本合意の締結 | 事業目的・方針などのすり合わせと基本合意書の締結 |
条件の詳細調整・確認 | 出資比率や役員構成、撤退条件などの具体的な協議 |
合弁契約の締結 | 合意内容を明記した正式な契約書の作成・締結 |
合弁会社の設立・登記 | 会社法に基づく設立手続き、登記、事業開始 |
利益を共有できる企業とのマッチング・情報漏洩リスクの回避や経営権に影響のある出資比率など、いずれも専門的な知識やノウハウを要する事項です。
合弁会社の設立時は、知識や豊富な経験のあるアドバイザーと契約し、協力体制を構築するとスムーズに設立をすることができます。
関連記事:M&Aアドバイザリーの業務とは?企業の成長をサポートする重要なポジション
合弁会社と他の協業形態の違い
合弁会社は、M&Aでも一般的に用いられる「子会社化」「合併」「資本提携」「業務提携」とは定義が全く異なります。
具体的には、下表のとおりです。
合弁会社 | 子会社化 | 合併 | 資本提携 | 業務提携 | |
---|---|---|---|---|---|
定義 | 複数企業が共同出資し、対等な立場で共同経営する会社 | 一社が他社の株式を過半数取得し、支配下に置く | 複数企業が統合し、1つの会社になる | 一方が他社に出資し資本関係を持つが経営権は持たない | 資本関係を伴わず業務面で協力する |
支配関係 | 出資者間に支配関係は原則なし(合弁契約で調整) | 親会社が子会社を支配 | 統合後は1つの会社が存続または新設 | 経営権や意思決定には直接関与しない | 経営権や資本関係なし |
資本の移動 | 複数社が共同で出資 | 親会社が子会社の株式を取得 | 企業の資本が統合される | 一方が他方に出資するのみ | 資本の移動なし |
経営への関与 | 共同で経営し、意思決定も合弁契約で調整 | 親会社が経営方針を決定 | 統合後は新会社または存続会社が経営 | 出資比率が低い場合は経営に関与しないことが多い | 業務範囲内で協力 |
会社の存続 | 元の会社は存続 | 子会社は親会社の傘下で存続 | 片方または両方の会社が消滅する | 両社とも存続 | 両社とも存続 |
法的形態 | 会社法上は「株式会社」「合同会社」など既存の法人形態を選択 | 子会社も同様に会社法上の法人形態を持つ | 統合後は会社法上の法人形態となる | 既存会社のまま | 既存会社のまま |
合弁会社と各スキームの違いについて解説します。
合弁会社と子会社化の違い
複数の企業が共同で新会社を設立するのとは異なり、子会社化は一社が相手企業の過半数以上の株式を取得し、自社の支配下に置くといったことが特徴です。
親会社が子会社の経営方針などを支配するため、意思決定権も弱くなります。
合弁会社と合併の違い
合併は、複数の企業が統合し、一つの新しい企業となります。
合併の手法によっても異なりますが、吸収合併の場合は存続する企業が消滅する企業の権利義務を承継するといった特徴があります。
一方で、合弁会社は新たに会社を設立するため、出資する企業の独立性を維持しながら新たな事業に取り組めることが大きな違いです。
合弁会社と資本提携の違い
共同出資によって新しい会社を設立する合弁会社とは異なり、資本提携は相手企業に株式を取得してもらい、資本基盤の強化を図る目的で行われる手法です。
資本提携の主な特徴として、あくまでも株式の取得による資本強化のため、買い手企業が経営や意思決定に直接関与しないといったことが挙げられます。
合弁会社と業務提携の違い
資本提携とは異なり、資本関係を構築せずに特定分野での協業体制を取る手法が業務提携です。
新会社設立のために出資を共同で行う合弁会社は、資本だけでなく技術やノウハウにも関与するため、業務提携と比較してより密接な関係を構築することができます。
まとめ
海外進出や新たな研究開発に向けたシナジー効果の創出・大型プロジェクトの達成など、合弁会社はさまざまな目的で設立することができます。
しかし、パートナー企業の選定を誤った場合、求めていた効果が得られなかったり、失敗したりするリスクが生じます。
また、事前調査が足りていなかったり、明確な要件が記載されていない合意書を取り交わしたりした場合、事業の失敗時や撤退時にトラブルに発展する可能性もあり、注意が必要です。
「さまざまなリスクを回避しながら合弁会社の設立がしたい」「合弁外資を設立して新規市場へ参入がしたい」と考えている経営者の方は、まずはM&Aベストパートナーズへご相談ください。
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