
近年、M&Aを活用して会社を売却する経営者が増えています。成功させるには、正しい知識と戦略が不可欠です。
本記事では、会社を売るメリット・デメリットを整理し、高く売るための重要なポイントを解説します。
売却によって得られる資金や経営負担の軽減、さらには会社存続の可能性を知れば、より前向きに検討できるようになるでしょう。また、事業制限や資金調達の不確実性といったデメリットも把握することで、より良い判断ができるようになります。
会社を売るにあたって、無事に成功させたいと思っている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
会社を売りたいと考える経営者は増えている

近年、日本国内におけるM&Aの件数は着実に増えてきています。
とくに中小企業においては、経営者の高齢化や後継者不足が深刻な課題となっており、事業承継の手段として会社売却を選ぶケースが多くなっているのです。
実際に中小企業庁が出した2022年6月21日の「中小M&A推進計画」の主な取組状況の補足資料によると、たとえば、中小企業庁が発表した『中小M&A推進計画』(2022年6月)によると
- 2021年度に事業承継・引継ぎ支援センターで1,514件
- M&A仲介大手5社で899件
のM&Aが成立し、年々増加傾向にあります。
こうした背景には、少子化による市場規模の縮小が影響しているといえるでしょう。
中小企業の多くは地域密着型の事業を展開しており、人口減少による需要の低下が経営に大きな影響をおよぼしているのです。
そのため、競争が激化するなかで迅速な事業展開を決断しなければならない場面が増え、経営者たちはM&Aによる会社売却を選択肢のひとつとして考えるようになってきました。
また、かつては「会社を売ること」に対してネガティブなイメージを持つ経営者が多かったものの、M&Aの普及によりその抵抗感は薄れつつあります。
むしろ、企業価値を高めたうえで売却することで、より良い条件で取引が成立し、従業員の雇用も維持しやすくなると考える経営者が増えてきているのです。
今後も、後継者不足や市場環境の変化を背景に、会社売却を検討する経営者の数は増え続けると予想されるため、会社売却はより良い手段となっていくでしょう。
会社を売るメリット
それでは、まず会社を売ることで得られるメリットをみていきましょう。
多くの資金を得ることができる
会社を売る最大のメリットは、まとまった資金を手にできることです。
M&Aによる会社売却では、企業の資産や利益、将来性などが総合的に評価され、売却価格が決まります。
そのため、事前に適切な準備を行えば、状況が良いとはいえない会社であっても、高い価格での売却も夢ではありません。
会社の売却価格は、以下の計算式で求められることが多いです。
- EBITDA(税引前当期純利益 + 特別損益 + 支払利息 + 減価償却費) × 業種ごとのEV/EBITDA倍率
- 中小企業の売却価格の相場:EBITDAの3〜5倍
これに加えて、成長性が高かったり、安定した顧客基盤を持っていたりなど、何かしらの強みがある企業であれば、さらに高い評価を受け、売却価格が上がる可能性は高いでしょう。
会社存続が可能になる
会社を売ることで、築き上げてきた事業を存続させられる点も、大きなメリットのひとつです。
とくに、後継者不足や経営者の高齢化が進むなかで、M&Aは企業の存続手段として注目されています。
売却先が決まれば、事業の継続が保証されるため、従業員の雇用を守り、ともに頑張ってきた仲間の将来を守ることにもつながるのです。
さらに、長年培ってきた技術やノウハウ、企業文化が次世代へ引き継がれる点も魅力といえるでしょう。
新たな経営者がこれらを活かしながら事業を成長させれば、取引先との関係も維持しやすくなり、各方面にとってメリットとなります。
経営者の負担が軽くなる
会社を売るということは、経営者としての責任や負担を、かなり軽くできるということになります。
もし経営を続ければ、会社の議決権や銀行からの借入の責任は引き続き負うことになり、経営環境が厳しくなると個人保証によって、個人資産に対するリスクが現実となってくるでしょう。
しかし、会社を売れば、事業の方向性や財務管理などの決定権、さらには個人保証も新しい経営者に引き継がれるため、元の経営者の負担は大幅に軽くなるのです。
さらに売却後は、一定の期間が過ぎれば、事業から完全に退くこともできるため、安心して次の人生をスタートさせることもできます。
廃業にかかるコストを減らせる
会社つまり事業を廃業にする場合、単に事業を終了するだけでは終わりません。
たとえば、工場やオフィスの原状回復工事、廃材や設備の処分費用など、多額の費用が必要になります。
さらに、法人を正式に廃業するためには、2度の登記手続きと最低2回の確定申告を行わなければならず、これに伴う司法書士などの専門家への報酬や、税金の支払いも避けられません。時間もかなりかかってしまいます。
しかし、会社を売れば、そういった廃業手続きをしなくて済むようになり、費用や時間面での負担を大幅に軽減できるどころか、費用面ではむしろプラスになるのです。
会社を売るデメリット
次に、会社を売る際に発生する、主なデメリットを紹介します。
事業が制限される
会社を売る際には、「競業避止義務」が課されます。
競業避止義務とは、売却後に元経営者や主要従業員が競合企業へ転職したり、新たに同業の会社を設立したりすることを禁じる規定です。
その主な目的は、得意先を奪い取ることを防いだり、営業秘密の漏洩を防止したりといった、買い手企業の利益を守ることにあります。
M&Aでは、最終契約書に競業避止義務条項が盛り込まれるのが一般的です。
売却後の一定期間は、同じ業界で新たに事業を行えないといった制約が発生するため、売却後に別のビジネスを考えている場合は注意する必要があります。
また、会社売却ではなく事業譲渡を利用した場合は、契約書に競業避止義務の明記がなくても、一定の制限を受けることになります。
予想した額の資金を得られない場合がある
売り手と買い手の交渉によって価格が決まる以上、必ずしも売り手の希望額で取引が成立するとは限りません。
市場環境や自社の収益、買い手から評価によって、想定していた価格よりも低い金額になるケースは多くあります。
このリスクを回避するためには、売却前にバリュエーション(企業価値評価)を行うのがおすすめです。
これにより、先に自社の適正な売却額を把握することができます。
そうすれば、自社に見合わない価格設定を買い手に提示し、交渉を難航させたり、肩を落とすような結果になったりする事態を招かずに済むようになるでしょう。
ロックアップが入る場合がある
会社を売る際には、多くの場合「ロックアップ(キーマン条項)」が設けられます。
これは、一定期間、売却した企業の主要株主や経営陣が株式を売却できないようにする契約です。
この契約の主な目的としては、株価の急激な変動をおさえ、市場からの信頼を確保するなどになります。
とくに、中小企業は属人性が高く、経営者や重役の影響力が大きいため、売却後も一定期間、そういった人たちに残っていてもらわないと、現場が回らなくなる可能性はかなり高いです。
そのリスクを避けるためにも、買い手側の希望によってロックアップが設けられ、しばらくの間は現場で指導してもらうようにする目的もあります。
その具体的な期間は、一般的に90日から180日程度とされていますが、企業の規模や引継ぎの状況によって変わってきます。
会社を高く売るためのポイント

それでは最後に、会社を高く売るためのポイント・注意点を詳しくみていきましょう。
優先順位を明確にする
まず、事前に希望条件の優先順位を明確にしておくことが重要です。
基本的に、すべての希望条件が叶う買い手は、ほぼほぼ見つかることはありません。
だからこそ、何をどこまで妥協できるようにするか、整理しておく必要があるのです。
もっとも考えるべき条件としては、売却額、社長や役員の処遇、従業員の処遇あたりでしょう。
逆に、譲れない条件を決めておくことも大切です。
そうすれば、買い手を探す段階で、的を絞ることができるようになります。
たとえば「高い売却額」を絶対に譲らないとするのであれば、高額なオファーを出す買い手を優先的に探し、「従業員の雇用継続」を重視するなら、企業文化や経営方針にマッチする相手を優先的に選ぶのです。
自社の価値を正確に把握しておく
自社の価値を正確に把握しておくことが大切です。
そのためにも、客観的な企業評価を行いましょう。
そうすれば、適正な売却価格を算出できるだけでなく、決算書などの必要書類を自然と準備することにもなります。さらにこれは、M&Aにあたってのリスクを洗い出すことにもつながるのです。
買い手側にとっても、正確な情報が提示されることで信頼性が高まり、スムーズな取引が実現できるようになるでしょう。
株式収集をする
市場に出回っている株式を、集めておくこともポイントのひとつです。
もし、株式が多くの人に分散して保有されている場合、売却時に他の株主が反対すると、スムーズに手続きを進められなくなる可能性があります。
これは買い手側にとっても無視できないリスクです。
せっかく企業を買収しても、議決権が取得できず、経営権を掌握できないなんてことになる可能性があるなら、取引を中止にしてしまうこともあるでしょう。
そのため、事前に主要株主と協議し、合意を得ながら株式の保有割合を調整しておくことが大切なのです。
属人性を排除する
ロックアップという制度があるとはいえ、やはり買い手側にとって属人性の高い企業は、リスクが高くみえます。
これは買収後に、人事異動や新たな人材の投入を行った際に、現場で衝突や混乱が発生する可能性が高いからです。
そのため、この属人性を排除し、システム的に事業が運営されていることを示すことがポイントになります。
早い段階で業務フローを作成・整備し、特定の個人に依存しない体制を作り上げておきましょう。
仲介業者に協力をしてもらう
M&A仲介業者の協力は、会社の値段を引き上げる重要な要素になります。
M&Aの専門家は、市場動向を把握して最適な買い手を見つけるだけでなく、価格交渉を有利に進める役割も担うからです。
とくに、企業価値の評価や契約内容の精査は慎重に行うべきポイントであり、ここでM&A仲介業者の支援があることで、より良い条件での売却が期待できるようになります。
また、M&Aの交渉は、法律や税務など、専門的な知識が多く求められるため、そういった面でもM&A仲介業者は役立ちます。
さらに、選ぶM&A仲介業者によって、売却の選択肢が大きく変わるため、実績や得意とする業界を確認し、自社に合った仲介業者を見つけましょう。
まとめ
近年、中小企業を中心にM&Aの件数が増えており、後継者不足や市場環境の変化を理由に、会社売却が選ばれています。
会社を売れば、多くの資金が手元に入ってくる、事業を存続させられるなどのメリットがある反面、競業避止義務やロックアップといった制度もあるため注意が必要です。
そして、より高く売るためには、経験豊富なM&A仲介業者のサポートが必要不可欠です。
M&Aベストパートナーズでは、専門的な知識と豊富な実績を踏まえ、最適な売却プランをご提案いたします。会社売却を検討している方は、ぜひご相談ください。