2025年1月から株式譲渡の税率が最大27.5%まで上昇!

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M&Aベストパートナーズ MABPマガジン編集部

株式譲渡は資産運用やM&Aの手段として多く用いられており、売却益に対しては一定の税率が課されています。

しかし、累進課税が適用されていないため、富裕層になると実質的な税負担の割合が減少していく逆転現象も問題視されてきました。

そこで、2025年1月から株式譲渡益に対する税率が最大27.5%まで引き上げられるミニマムタックスという制度がスタートしました。

本記事では、株式譲渡税率引き上げの詳細と有効な対策について詳しく解説します。

株式譲渡税率の基本情報

株式譲渡税とは、株式の売却益に対して課税される税金です。

まずは株式の売却益の定義や現行の株式譲渡税率など基本的な内容をおさらいしましょう。

株式の売却益の定義

株式の売却益は正式には「株式譲渡益」とよばれ、その名の通り株式を売却した際に発生する利益のことです。

  • 株式譲渡益=株式の売却額−株式の取得費−売買にかかった経費(手数料など)

たとえば、100万円で取得した株式を150万円で売却した場合、差額の50万円が株式譲渡益にあたります。

仮に株式の売却額が取得費・経費を下回った場合、利益は得られていないため株式譲渡益は0となります。

なお、証券取引所に上場されている公開株(上場株式)はもちろんのこと、非上場の一般株式も同様の計算式によって株式譲渡益を算出します。

これまでの株式譲渡税率の内訳

株式譲渡益に課される税金を株式譲渡税とよび、2024年までは20%の税率(復興特別所得税を含めると20.315%)となっていました。

これは所得税と住民税を合わせた税率であり、内訳は以下のようになっています。

  • 所得税:15%
  • 住民税:5%

なお、給与や事業所得などに対する所得税率は累進課税となっているため、年収が高くなるほど税率も高くなっていきますが、株式譲渡税率は一律のため売却益が大きくなっても税率が変わることはありません。

関連記事:株式譲渡とは?概要から税金まわり、契約書、確定申告などについて分かりやすく解説

2025年からの最大27.5%への株式譲渡税率引き上げについて

これまで一律であった株式譲渡税率ですが、2025年1月から最大27.5%へ引き上げられることが2023年度の税制改正において決定しました。

通称「ミニマムタックス」ともよばれるこの制度は、どのような理由によって決定したのでしょうか。税率の詳しい内訳と変化についても解説します。

税率が引き上げられる理由

株式譲渡税率が最大7.5%も引き上げられることになったのは、高所得者ほど税負担の割合が小さくなる「1億円の壁」という問題が大きな要因として挙げられます。

一般的に高所得者は給与所得や事業所得よりも株式などの譲渡所得の割合が高い傾向があります。給与所得や事業所得にかかる所得税は累進制である一方で、譲渡所得は一律となっているため、結果として高所得者の所得税の負担割合は低下する傾向があるのです。

実際に国税庁の調べによると、所得が5,000万円〜1億円の富裕層は27%の負担率であるのに対し、50億円〜100億円の超富裕層では17%台にまで低下しています。

所得金額1億円を境に所得税の負担割合が低下するという逆転現象が見られることから、これを是正し公平な税制を実現するために株式譲渡税の引き上げが決定しました。

内訳の変化とシミュレーション

ミニマムタックスによって引き上げられるのは所得税のみで、住民税はこれまで通り一律5%のまま変更はありません。

したがって、2025年1月以降は以下のような内訳に変更されます。

税金の種類引き上げ前引き上げ後
所得税一律15%最大22.5%
住民税一律5%一律5%

ただし、すべてのケースにおいて所得税が22.5%へ引き上げられるのではなく、以下の式に当てはめて計算し該当する場合のみ、通常の所得税額との差額分を追加で納付することになります。

  • (年間所得−3.3億円)×22.5%=最低所得税額
  • 通常の所得税の納税額が「最低所得税額」を下回る場合、差額分を通常の所得税額に追加して納付

今回は、年間所得が株式譲渡益のみ5億円と仮定したうえでシミュレーションをしてみましょう。

【最低所得税額】

(5億円−3億3,000万円)×22.5%=3,825万円

【通常の所得税額】

5億円×15%=7,500万円

【追加納税額】

0円

【納税額】

所得税:7,500万円+0円=7,500万円

住民税:2,500万円

通常の所得税額>最低所得税額となるため、差額分の追加納付は不要ということになります。

しかし、年間所得が株式譲渡益のみ10億円と仮定して計算すると、

【最低所得税額】

(10億円−3億3,000万円)×22.5%=1億5,075万円

【通常の所得税額】

10億円×15%=1億5,000万円

【追加納税額】

75万円

【納税額】

所得税:1億5,000万円+75万円=1億5,075万円

住民税:5,000万円

となり、最低所得税額が75万円上回るため、この分を通常の所得税額に追加で納付しなければなりません。

株式譲渡税率の引き上げに伴いM&Aに及ぼす影響

株式譲渡税率の引き上げは投資家だけが影響を受けるものではなく、M&Aを検討している企業および経営者にとっても大きな問題となります。

売り手・買い手のそれぞれの立場から、具体的にどのような影響が考えられるのかを見ていきましょう。

売り手への影響

会社の売却を検討している売り手の企業においては、以下のような影響が考えられます。

税負担の増加

M&Aにおいて売り手は自社の株式を譲渡し売却益を得ますが、確定申告を行い翌年に所得税および住民税を支払わなくてはなりません。

株式譲渡税率の引き上げについて認識しないままM&Aを行ってしまうと、翌年に想定外の所得税が課税されることを知り税金の支払いが困難になる可能性もあります。

M&A後の資金計画に狂いが生じるおそれ

M&Aで株式譲渡を行った場合、売却益から税金を差し引いた金額が実質の手取り額と考えることもできます。

株式譲渡によって多額の売却益を得た場合、従来に比べて支払う税金の額も増えることで手取り額が減少する可能性があるでしょう。

想定していた手取り額よりも大幅に少なくなり、その後の資金計画に狂いが生じることも考えられます。

売却タイミングの再検討

ミニマムタックスを回避するために、たとえば一度に株式を譲渡するのではなく複数年度に分けて実施するといった方法も考えられます。

しかし、あらかじめ売却のタイミングについて合意がなされていた場合には再検討する必要があるほか、単なる分割払いと見なされてしまうとミニマムタックスの適用を逃れられることが難しくなる可能性もあるため注意が必要です。

買い手への影響

買収を検討している買い手企業にとっても、以下のようなさまざまな影響が考えられます。

買取コストの見直し

ミニマムタックスによって売り手の税負担が大きくなると、それに応じて買収コストも上昇する可能性もあります。

特に数十億円単位のM&Aとなると売り手が負担する所得税額も大きくなることから、その分が上乗せされ価格交渉が難航することも考えられるでしょう。

買収意欲への影響

ミニマムタックスを回避するために、売り手が複数年度にわたる株式譲渡を持ちかけてきた場合、買収の完了まで長い時間を要することになります。

すぐにでも企業を買収し事業を軌道に乗せたいと考える買い手企業も多いため、時間の経過とともに買収のメリットが失われたり買収意欲そのものが低下していくことも考えられるでしょう。

交渉戦略の調整

M&Aは売り手と買い手の双方が交渉し合意することで初めて成立します。

たとえば、税率が上がった分の負担を売り手企業に一方的に強いてしまうと交渉が決裂する可能性もあるでしょう。

そのため、お互いに現実的な落とし所を探りながら交渉を進めるためには高度な戦略が求められます。

関連記事:M&Aとは?基本的な意味や流れ、メリットなどを事例付きで解説

株式譲渡税率引き上げへの対策

株式譲渡税率は税負担の公平性を担保するために有効な対策といえますが、その一方で資産形成のハードルがますます高まるという見方もできます。

厳しい状況の中でも税負担をできるだけ軽減するためには、どういった対策が効果的なのでしょうか。

NISA(少額投資非課税制度)の活用

政府は国民の資産形成を促すためにさまざまな非課税制度を整備しています。

たとえば、「NISA(少額投資非課税制度)」が代表的であり、これらを有効に活用することで一定額までの投資枠に対する株式譲渡益は非課税となります。

 つみたて投資枠成長投資枠
保有期間無制限無制限
年間投資枠120万円240万円
非課税保有限度額1,800万円

※成長投資枠は1,200万円まで対象商品長期積立・分散投資に適した投資信託

※金融庁の基準を満たした投資信託に限定上場株式

投資信託等対象年齢18歳以上18歳以上

NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があり、どちらも併用が可能です。

ただし、保有限度額は合計1,800万円までと定められており、このうち成長投資枠は1,200万円が上限となります。

エンジェル税制の活用

上場企業ではなくベンチャー企業の株式譲渡においてはエンジェル税制の活用も選択肢となります。

エンジェル税制とはベンチャー企業の成長促進を目的とした個人投資家向けの税制優遇措置であり、創業3〜10年未満の企業が対象となります。

優遇措置は以下の2パターンから選択可能です。

【優遇措置A】

対象企業:創業3年未満の中小企業

控除額:(対象企業への投資額−2,000円)を、その年の総所得金額から控除

※控除対象となる投資額の上限は、総所得金額の40%または1,000万円のいずれか低いほう

【優遇措置B】

対象企業:創業10年未満の中小企業

控除額:対象企業への投資額全額を、その年の他の株式譲渡益から控除

損益通算の活用

株式や不動産などの所得は損益通算が認められており、損失が生じた場合には利益と合算して計算することで課税額を抑えられる可能性があります。

たとえば、証券会社Aの口座で1億円の譲渡益を得た一方で、証券会社Bの口座で2,000万円の損失が生じた場合には、それぞれの口座間で損益通算を行うことで還付を受けられます。

また、譲渡損失は3年間にわたって繰越控除も受けられるため、損失額が大きい場合でも翌年以降の利益と相殺し税負担を軽減できるメリットもあるのです。

売却価格の引き上げ

M&Aにおけるミニマムタックスの対策としては、企業価値を上げたり戦略的な交渉を行ったりして売却価額を引き上げるという方法もあります。

たとえば、赤字経営が続いている場合には経営改善に取り組み黒字化させたり、自社が保有する独自の技術やノウハウ、強みを買い手企業にアピールし交渉を行うことなどが挙げられます。

売却価格の引き上げに成功すれば税率上昇分の実質的な補填となり、売り手の手取り分も増えます。

長期投資の検討

株式にかかわらず、投資のリスクを抑えるためには「長期・分散」が基本となります。

先述したNISAの活用はもちろんのこと、複数の投資先に資産を分散させ長期的な運用を目指しましょう。

専門家への相談

一口に株式譲渡といっても資産運用を目的とするケースもあれば、M&Aや事業承継を目的に行われるケースもあります。

特にM&Aや事業承継に伴う株式譲渡は、売買にかかる金額も大きいほか法的な手続きも必要です。

そのため、税理士やM&Aコンサルタントといった専門家へ相談することで、節税や法的手続きに関する有益なアドバイスが受けられる可能性があります。

関連記事:「承継」と「継承」の違いとは?M&Aにおける違いを解説

【Q&A】株式譲渡税率引き上げに関する疑問

株式譲渡税率の引き上げにあたって、よくある疑問とそれに対する回答をご紹介します。

Q.既に保有している株には新税率はどう適用される?

A.今回の株式譲渡税率の引き上げは、2025年1月以降に生じた株式譲渡益が対象となります。

そのため、2024年12月以前に購入した株式であっても、2025年1月以降に売却し利益が得られた場合には新税率が適用されることとなります。

ただし、すでにご紹介した通り新税率が適用されるのは特別控除の3.3億円を超えた部分に対してのみのため、株式譲渡益が3.3億円以下であれば従来と税率は変わりません。

Q.NISA口座は非課税のまま?

A.NISA(少額投資非課税制度)は保有期間無制限の恒久的な非課税制度のため、株式譲渡税率引き上げの対象とはならず従来通り非課税のままとなります。

Q.配当金にも同様の税率が適用される?

A.配当所得および利子所得は確定申告しなかったもの(源泉徴収済み)が対象となり、株式譲渡益と合わせて年間所得に含まれます。

まとめ

株式譲渡税率の引き上げは2025年1月からスタートしており、主に超富裕層が対象となります。

実際に税率引き上げの影響を受けるのは全国で数百人程度といわれており、大半の投資家や経営者にとっては影響は少ないといえるでしょう。

ただし、今後M&Aによって会社を売却する際には、所得税の負担額が増え想定よりも手取り額が減少する可能性も否定できません。

M&Aに関する税金のルールを正確に理解し、確実に手続きを進めるためにも税理士やコンサルタントといった専門家へ相談してみましょう。

著者

MABPマガジン編集部

M&Aベストパートナーズ

石橋 秀紀

ADVISOR

各業界に精通したアドバイザーが
多数在籍しております。

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